31話 正体不明
更新、遅れました(TωT)))
わたしはアンノウン。
アンノウンっていうのは、『不明』とか『未知』って意味があるのだけれど、私の場合は『不明』が該当するのかな。
本名の方は安野曇っていうの。
親に捨てられた私のことを拾ってくれた孤児院の責任者でもあり、みんなの親でもあり、私の名付け親でもある石上さんに感謝しているけれど、この名前はどうなのかなーって未だに引っ掛かりを感じていたりする。
ま、そんな話はどうでもいっか。
今年で高校一年生になった私は、絶賛話題沸騰中のVRゲーム。
クラン・クランにハマっている。
このゲームでは服を自由に彩色できる。
私は元々、『他の誰とも被りたくない』という拘りがあって、中学生の頃から周りからいうと『奇抜』なファッションをするようになった。
当初は持ち合わせもなくて、中途半端な恰好になってしまい、休日たまたま遭遇したクラスメイトはすぐに私だって気付いてたけど、今では学校と休日の私を見抜ける人がいないほどにまで、そのファッションセンスを高めたと自負している。
なんとなく、将来はデザイナーになって世界で活躍したいなって考えているから、様々な色の組み合わせを実費なしで試せるクラン・クランは私にとって神ツールと化していた。
もちろん、染色要素以外でもこのゲームは楽しさが満点に詰まっているけれど、なるべく脇道に逸れず、効率良く彩色屋としての道を突き進んでいると思う。
オンラインゲームなんてプレイする理由は人それぞれだけど、私は色に魅せられた。
そして、なによりクラン・クランでは誰もが平等に、誰でもないってこと。
出自が不明な私にとって、それが一番落ち着く理由なのかもしれない。
◇
なんの巡りあわせか。
浅き夢見しこの場所で、年端もゆかないお嬢ちゃん二人のお守りをすることになっちゃった。
もちろん、事の成り行きは自分の興味本位な提案が発端であることは言うまでもないのだけれど。
「条件とは、その色を作るうえでの素材採取に同行してもらうこと」
私が演じる妖艶なアンノウンは、普段はこんな条件を顧客に言いだしたりはしない。
だけど、私は敢えてそんな突拍子もない事を言ってみた。
クラン・クランという人殺しが日常茶飯事に行なわれているツキノテアでは、装備の色にこだわる傭兵は少ない。
見栄えよりも、実質的な強さ。それが優先される世界だ。
そんな灰色の世界で、見た目を気にして装備の染色依頼をしてくれる顧客は貴重だったから。
「どこへ?」
今回の依頼主がキョトンと首をかしげていた。
そう、今回の依頼主はあの鉄血ジョージの知り合いとは到底信じられないほどの可憐な少女だった。
仮に彼女が鉄血ジョージの知人ではなくとも、誰だって興味が湧いてしまうだろう。
おとぎの国からそのまま抜け出してきたかのような、銀髪のお姫様。
キャラクリの数多あるパーツには存在しない、一目でリアルモジュールだとわかる顔の造り。
絶世の美幼女だ。
そして、そんな美姫に寄り添うように、粛々とその動向を見守る神官姿の金髪少女。こちらもなかなかの器量を持っていて、同じ女としては将来が有望そうだと期待せずにはいられない。おおむねリアルモジュールで自キャラを造り上げたのだろう。
現実も仮想も造り物である私とは大違い。
そんな二人組から依頼がきたのであれば。普段は色彩屋なんて常道から外れた商売を営んでいる我が身としては、寄り道をしている余裕もなく、効率的に事を進めるのが常である私でも、一緒に行動をとってみたくなるというものだ。
「こわーいこわい、巨人の墓場と噂されている場所へ」
わざとおどけるように、幽霊やその類を怖がる年頃でもある少女たちにからかいも含めて、目的地を伝えてみる。
無理強いはしたくないから、あえてしっかりと子供にとっては怖い場所であるかもしれないと、ニュアンスを含めておく。
「行きます! 地の果てまでついていきます!」
予想に反して、銀髪のお姫様は頬を上気させて食いついてきたのだった。
◇
予想に反して、この二人はどこかおかしい。
あの鉄血ジョージの知り合いというからには、戦闘力もそこそこなのだろうと考えていた時期がわたしにもありました。
『浅き夢見し墓場』の攻略を開始して数分。
まず、件の銀髪ちゃんはLvの割に素早さはあるのだけれど、スケルトンといういわばモブモンスターにすら、与えるダメージが少なすぎる。動き自体は悪くないし、的確なポイントに攻撃を加えているにも拘わらず、与えるダメージソースが低い。
そして、お付きの金髪ちゃんは、明らかにステータスも身なりも後衛職なのに、魔法を使わず、メイスを振りまわしている。もちろん、打撃武器は骸骨系のモンスターに有効なのだけれども、それはやはり後衛職のステータス。奥に行けば行くほど、通用しなくなっていくだろう。
MPの温存をしているかとも思ったが、わりとこのクラン・クランはMPの自動回復が速い。ゆえに使える魔法は序盤から使って、効率良くダンジョンを攻略していきたいところなのだけど、銀髪ちゃんのピンチと見てやっと魔法を行使したとおもいきや、発動させたのは初級魔法だった。
「やった!」
「やったです、天使さま」
モブを斃して、大喜びする少女二人を見て私は思う。これまで別段手を抜いていたわけでもなく、本気で戦闘に取り組んでいるみたい。
いよいよ私は、この二人の戦闘能力に不安を覚え始めていた。
これでは、今回は目的の素材には辿りつけないかな。
むしろ素材採集よりも、無事にこの子たちと帰還することが目的になりそう?
「やはり、でないでありんすか……」
目的のスケルトン・ダークグレイという塗料は、スケルトンから出ないことを既に知っていたりもする。なにせモブ敵だから、ここのスケルトンはとっくに狩り尽くしちゃってる。
でも、初めての冒険に興奮の色を隠さない二人を目の前に、野暮な発言は控えておく。
スケルトン・ダークグレイがドロップするとしたら、もっと最奥の方だと予想をつけてはいるけど、今回のこのPTではそこまで辿りはつけなさそう。
「いや。でも栄養剤としての素材になることはわかったかな。あと、ここのスケルトンたちって巨人族? の奴隷だったらしいけど」
それにしても、妙に銀髪ちゃんの方は素材をよく調べている素振りをさっきから見せる。さらに導きだす答えが鋭い。ここが巨人の墓場だと噂されていることを事前に耳にでも入れていたのだろうか?
「ほぅ、それはそれは道理で……」
ここのスケルトンたちが巨人の奴隷だったということは初耳だが、納得のいく結論だ。なぜなら、この先は巨人の骸としか言いようがないほどの大きな骸骨共がうようよしているのだから。
そんな思考にふけっていると、またもや銀髪ちゃんは奇妙な行動を取る。
急に可愛らしいお弁当箱を取り出し、スケルトンから採取した『白い骨』をそのまま入れ始める。しかもフォークやナイフ、スプーンで刺したり、切ったり、叩いたりと怪しい事をしていた。
「ふむーん……素材を簡易的に強化してみましたが、特に変化もなさそうです」
「強化? 素材を強化だって?」
いま、とんでもない発言を聞いた気がする。
「はい。あ、スケルトンです」
どうやら、銀髪ちゃんは錬金術スキルを習得しているらしい。
あの、ゴミスキルを。
だけど私の中で、銀髪ちゃんの話を聞いていくうちに、錬金術のイメージは耳にしていたものとは違い、素材の強化などもできることから非常に興味深いものへと変わった。
もう少し、この不思議な美少女たちと行動を共にしたく、奥へと進むことにした私であった。
◇
「はんなり、綺麗な大輪どすぇ」
造り物の口調で。
造り物でない感想を漏らす。
非効率的な冒険であったにしろ、この光景の中でキルされるなら別にいいかな。そう思える程に素直に口から出た、わたしの本音。
「アンノウンさん、今です!」
火花の嵐が私達に降り注ぐなか、銀髪ちゃんは呆けた私を叱咤するように指示を飛ばしてきた。
銀髪ちゃんが打ちあげた花火は巨躯なる追跡亡者の頭部に直撃し、それなりのダメージと動揺を引きだせたようだ。つまり、今が私達に残された巨躯なる追跡亡者を屠る千載一遇のチャンスというわけなのかな。
銀髪ちゃんの隣では、一生懸命に呪文の詠唱を開始している金髪神官ちゃんの姿があった。
効率を考えるなら、装備やアイテムの消耗を最小限にしてさっさとキルされるのが上策なのだけれど。
なにせ、このPTの火力じゃ巨躯なる追跡亡者のHPを削りきるなんて到底不可能に近い。
あまり気が進まないのだけれども、ちびっこちゃんたちが頑張っているのを横目に自分だけ諦めムードというのもダメなんだろうな。そんな、半ば義務感によって私は動く。
「残刀・十六夜」
私が持つ薙刀スキルの中で二番目に高火力なアビリティを放つ。
刀身が漆黒に染まり、十六回にわたり相手を切り刻む。
攻撃を奮っている間はこちらも動くことができないので、ひるまない相手に仕掛けては当然カウンター覚悟のアビリティだけど。一時的に頭部を失って行動のアルゴリズムが乱されている巨躯なる追跡亡者は、なんの抵抗もなく、全てを受けきった。
やっぱり、HPの2割ほどを削るだけに終わった。
銀髪ちゃんの花火で2割、私のアビリティが全部命中して2割。
薙刀は槍と比べて、スキルのダメージソースが全体的に低い。
刺突をメインに攻撃範囲が点の槍は一撃の火力が高い。薙刀は面の攻撃、いわゆる薙ぎ払い切るという、範囲は広いが槍にダメージ量は劣る。
一対多には優秀な武器だが、一対一の戦闘には最適とは言えない武器だ。
頭部を失ってもなお、こちらに臨戦態勢を向けてくる巨大な骸骨を見上げ、もう一度同じ技を繰り出すことは、確実に反撃を受けて私はキルされると悟る。
これまでかな。
◇
またまた、予想に反して。
なかなかどうして、私たちは巨躯なる追跡亡者を相手に未だに生存している。
「こっちだ、おっきいの!」
銀髪ちゃんが果敢に敵の懐に入って翻弄している。
相手のHPはたいして削れていない。こちらの攻撃力が、あちらの頑丈さに負けてほとんどダメージが通らない。頼みの綱の攻撃魔法が使えるであろう神官ちゃんも、未だに初級魔法をちまちまと撃ち続けている。
だけれども、小さなあの子たちを叩きつぶそうと手や足で地面に陥没を発生させている巨躯なる追跡亡者の攻撃を、彼女たちは必死に避け続けている。
巨躯なる追跡亡者はそもそも動きが鈍い。だからと言って、その追撃をたて続けにかわしきれるものでもない。
それはなんといっても面の広さ。圧倒的な巨躯が成せる、通常攻撃の範囲化だ。並みの傭兵ならば、三回に二回は身かわせるだろう。
だけれど、避け続けるなんて本来はとても難しいこと。
「はっはっ」
銀髪ちゃんには素早さがあるけれど。
自分より鈍い敵であるからと言って、あの動きを続ける銀髪ちゃんはすごい。
タロ氏の回避率は、圧倒的に相手よりスピードのイニシアチブがあるというわけじゃない。
むしろ、ギリギリで避けられている状況なのに。
「はっはぁっはっ。ミナ、次!」
「は、はい! 天使さまっ」
あの歳で、あのプレイヤースキル。
よく考えている。いや、必死なだけなのかもしれない。
純粋だからこそ、子供が大人よりも多大な集中力を発揮するってパターンなのかな。
「ミナッ、大丈夫?」
「は、はいっ」
モンスターのターゲットが金髪ちゃんに固定しないように、必ず、金髪ちゃんが魔法をヒットさせた直後は猛攻をしかけては離脱を繰り返している。
巨躯なる追跡亡者にとっては足元を転がりまわる鬱陶しい小動物ぐらいにしか思ってないのだろうけど、やはり目ざわりだといわんばかりに銀髪ちゃんに攻撃をしかけている。その隙に金髪ちゃんはやや後方にさがりつつ、敵の攻撃を躱す準備をしながら詠唱を始める。
わたしも似たようなものだが、ああも完璧にかわすことはできず、すでにHPはレッドゾーン。たったの1撃でHPは7割が削られた。しかも、躱し損ねて間接的にかすったヒット判定でも3割は削られる。
だけど、瞬時にわたしのHPは全快へと回復する。こんな高性能な回復アイテムなんて聞いた事もない、なんて翡翠の光に包まれながら心の内で舌を巻く。
「大丈夫ですか!」
これも先ほどから続いている事だが、銀髪ちゃんが私に高価なポーション? を惜しげもなく湯水のように使用してくる。
たとえ巨躯なる追跡亡者をここで倒しても、ドロップするアイテムや素材は大したことがない。それよりも失ったポーションの数と額を差し引きすると、どう考えても赤字だ。
まっとうじゃない。
非効率的だ。
でも、銀髪ちゃんの敵を見据える笑みが雄弁に語っていた。
絶対にこのメンバーで巨大な敵を打ち倒すと。
「楽しいのかい」
思わず、月明かりに照らされて光輝く銀髪ちゃんに聞いてしまう。
「はいっ」
心底、このメンバーで冒険ができていることを嬉しそうに、元気な返事をしてくる銀の姫君。
「怖いですけど、天使さまが一緒なら」
ビクつきながらも確固たる意志で、銀髪ちゃんのお役に少しでも立とうと不器用な笑みを浮かべている金髪ちゃん。
愛されてるね。
私とは違ってさ。
「アンノウンさん、ほんの少しでいいのでアイツをひきつけられませんか!?」
でも、わたしも他人事ではないようだ。
何故か天を仰ぎみながら、必死にこちらに向けて声を飛ばすタロ氏を見て。
自然と口元がゆるんでしまうのを袖で隠す。
なぜだか、この子に頼られることに嬉しさを感じてしまっている。
「いつからか、効率に縛られて……わたしの心も凝り固まったもんだねぇ」
確かに、楽しいなぁ。
「アンノウンさん!?」
「はれはれ、任せておきんす」
自分のMPの大半を消費してしまうけれど、使うなら今しかない。
「『巴・祓阿弥』」
わたしの薙刀【祓阿弥】の固有アビリティ。
聖属性を宿すこの武器はアンデッド系統のモンスターに対して有用な固有アビリティを装備者のMPを消費して発動することができる。
刀身だけでなく、柄までもが淡い白のオーラに包まれる私の相方。
そして、わたしは巨大な骸骨に向けて振るい、祓う。
その白き刃は狙い違わず、巨躯なる追跡亡者の右腕に振り祓われた。
刃と腕が激突した瞬間、シャンっと乾いた音とともに眩い白光が発生する。
質量的にありえない現象が起きる。
それは巨大な敵が切られた腕を起点に弾かれるように仰け反る。
このアビリティは攻撃アビリティではなく、刀身に触れたアンデッド属性のモンスターをどんなに質量差があってもノックバックさせるという代物。
ダメージこそないにしろ、仲間のピンチを救う際に何度もこのアビリティには助かったものだ。
武器に宿る効果の時間はたったの10秒。
すでに5秒が経過している。
さらに、こちらに近づけぬよう、一回、二回と薙刀を閃かせ、敵を大きく弾く。
「タロ氏! 長くはもたぬでありんす!」
彼女に警告を発したとき、それは私の目に焼きついた。
タロ氏は透き通った桜色の横笛を口元に添え、音色を奏で始めていたのだった。
巨人たちの墓所で銀麗の姫君が月光の下、魔笛を吹く。
その音色は————
月と銀——
「ぴ~~~~~~ぴろぴっ~~~ぴろぉ~~ん♪」
ではなかったようだ。
タロ氏の名誉にかけて、ビジュアルだけは美麗なものだった。
だけど、彼女に音楽の才覚はないのかもしれない。
:戦慄の調べ【月夜の晩に】が発動しました:
そんなログが流れるのを横目で確認する。
またもや知らない事象、アイテムを使われ、私は苦笑いを押し隠す。
彼女らと共に戦う夜は、げに心良し。




