303話 熾天種の影
突発性難聴になったため・・・更新がだいぶ不定期になるかと存じます。
申し訳ありません。
がんばります。
「果報は寝て待て、ねぇ。クックック」
この俺様が、イグニトール王家に仕える身になるとは笑えるねぇ。
アップゲドロッシェン男爵邸、当主のみが入れる執務室で1人煙草をくゆらすのも悪くない。
「フゥー……」
息を深く吸い、吐き出す煙の形をぼーっと眺める。
現実のたばこよりも癖のある味わい、そしてやけに思考がスッキリする。
「悪くない」
豪華な調度品に囲まれ、皮椅子に深く腰かける。
普段は『支配者と殺戮者の耳』の団長として神経をとがらせてるが、この瞬間だけは至福の時だ。
だが、そんな俺様の満たされた気持ちにさざ波を立てる存在がいる。
「っち。あの『白銀の天使』……絶対に十氏と関わりがあるに違いない……」
通称『天滅の十氏』と呼ばれる、クラン・クランの世界を暗躍している最強のNPC。
『熾天種』に分類され、実在するか定かでない噂の強者たち。
現トップ傭兵たちの間で、判明しているのは全部で3人だったか。
『聖騎士』の称号を持つ【争乱の申し子 冥覇アレス】。貴色は白。
こいつは先のイベント、イグニトール継承戦争の引き金となった。
『竜宮使い』の称号を持つ【王剣ドゥウィンドリン・ジャガーノート】。貴色はまだ判明していない。こいつに関しては情報が少な過ぎて謎だ。
そして三人目は『錬禁術士』の称号を持つ【創世の錬金術士ノア・ワールド】。貴色は黒。
ヴラド伯爵が支配する『感染都市サナトリウム』に石生物を創造し、ウィルスパンデミックに加えてさらに状況を悪化させた張本人。今じゃ『復興都市アクアタロン』なんて名称に変わっちゃいるが、どうもきなくさい。
タロというネームを持つ銀髪の少女傭兵を後押しするために、一芝居打ったって可能性が濃厚か?
「ゴミスキルであるはずの錬金術。だが、創世の錬金術士から何らかの恩恵を得た。そして人狼どもを従えた、と……『白銀の天使』についてるのはノア・ワールドか?」
わざわざ都市を窮地に落とし、関わりのある傭兵に活躍の場を用意する。
『天滅の十氏』が如何にもやりそうだ。
「俺様だって紫の野郎を利用してこの地位に就けた。男爵位の次は子爵位、ゆくゆくは伯爵や侯爵になるのだって可能だろう。そうすれば現実の方でもっと――――」
このゲームは最高だ。
周りの連中はアホみたいに理解してない奴らばかりだが、一部の傭兵たちは気付き始めてる。
ゲーム内で起こしたアクション、結果などが現実に影響し、具現化する事を。
「あの『白銀の天使』も俺様側の人間だろうなあ」
あそこまで派手な活動を押し通せるからには、俺様と同じく現実介入してる傭兵に違いない。面倒な動きをされる前に、早めに潰しておく必要がある。
俺様のように地位や名声を手に入れて、力をつけさせる前にどうにかしておくのが得策だろう。
「ゲームで潰せば、現実でも潰れる事があるからなあ」
今まで何人かの傭兵を検証して得られた結論。
それを思い浮かべると嗜虐心が沸き起こり、つい口元が緩んでしまう。
「『天滅の十氏』が絡むイベントは、結果的にどれも現実世界に大きな影響を与えている。紫の野郎が手掛ける【百黒の肉球と隠れ城】もどう転ぶか見物だ」
そしてもちろん、俺様は利用させてもらう。
情報収集、潜在的な敵勢力の殲滅、そのどちらも実行できればいいが……一方でも成就できればいいだろう。焦る必要はない。
そんな風に物想いにふけりながら煙草を吹かしていると、さっそく団員から連絡がくる。
『団長……傭兵団【乙女会】のやつら、うまくやってるみたいです』
『そうか。で、一緒にいるのは傭兵団【一匹狼】に所属してるガキか?』
『はい。岩妖精を召喚するスキル持ちの子です』
『でかした。さっそく情報を吐かざるを得ない状況に追い込みますかあー。あぁ、乙女会の奴らにも一応つないでくれ』
ガキは現実でも金になるが、ゲームでも使い勝手のいい道具だぜ。
『了解です団長』
団員の連絡が切れた途端、別のメッセージログが目の前に浮かぶ。
:アビリティ【陰謀を繋ぐ地図】の共有チャンネルが設定されました:
:通話に応答しますか?:
こちらの位置、情報、傭兵名、その全てを秘匿したまま、事前に指定登録しておいた傭兵と傭兵が通話可能なアビリティ。
団員が持つ便利アビリティを活用し、取引き相手につなぐ。
『よう、【乙女会】』
『約束通り指定された子供傭兵を連れているわよ』
『よくやった。お前らも【一匹狼】を怨んでんなら、こんな周りくどい協力じゃなく俺らと共闘すりゃあいいのによ』
『バカ言わないで。【白銀の天使】絡みで【首狩る酔狂共】を敵に回したくないわ。他の子供傭兵にすればいいじゃない。どうしてよりによって【白銀の天使】と仲が良さそうな……』
『まあこっちも色々な目的があってなあ』
『私達はここまでよ。【一匹狼】の鼻っ面を叩きたいのは本音だけれど……【首狩る酔狂共】が出てくる相手なら、あくまで私達は偶然コノエって傭兵と遊んでいたってスタンスを貫くわ』
『誘導おつかれさん』
『……それにしても、子供1人に執着しすぎじゃないかしら?』
馬鹿な女どもだ。
おまえらが引き連れてるガキは、岩妖精を召喚できるって事実を微塵も知らねえんだろうなあ。
『色々あるっつったろ。そろそろ、そっちに向かうから猿芝居の準備でもしてろ』
『……わかったわよ』
『いい子ちゃんだ。順調に事が進んだら、隠しダンジョン【宝物殿:雷公夫人の忘れ形見】へのアクセス方法を開示しよう』
『まあ、嬉しいわ!』
女ってのはほんとに光りもんが好きだなあ。
ああ、くだらねえ。




