297話 髪の毛フェチ美少女
まったり回です。
本日は2話更新します!
やさしい風になびく緑の草々をぼんやりと眺め、鼻へと運ばれる花のさわやかな匂いを楽しむ。
小さくさざめく人々の生活音に時々添えられる、『ニャア』と響く和やかな音。
ぽかぽかと陽光が降り注ぎ、牧歌的な風景が広がる『ネコの街ニャルンテ』。そんな平和な空間に
似合わない、一筋の叫び声が唐突にこだまする。
「ええええええん!? 天使ちゅわんがまたやってくれたわぁん!?」
ジョージのお口がドカーンとおっぴろげられ、久々に喉ちんことコンニチワ……。
現実の方は優男細マッチョだったジョージだが、ゲームはガチマッチョ色黒パンチパーマだ。
「え……? この人が軍閥科の筆頭教師、薫拳沢先生……?」
そのギャップに近衛くんは泡を吹き、直立不動の姿勢で後ろへ転倒してしまう。
ちなみに倒れた彼の傭兵名はコノエだ。
「ちょっ!? コノエくん!?」
「ジョージさん! コノエくんが大変です!」
俺とミナヅキが叫ぶも、ジョージは俺がさっき渡して見せたアイテムを凝視するばかりだ。
そしてそのアイテムを俺に突きつける。
「こっちの方が大変よぉん! 天使ちゅわんが作った『宝石猫の白銀しっぽ』って何なのよォん!? 素敵すぎるじゃないぃぃん……」
完全に近衛くんをスルーして声をひそめる中学教師。
周囲をチラチラと警戒し、コソコソと耳打ちしてくる。
「猫に変身できて、猫と会話できるなんてアイテム……時間制だとしても、高額商品として売り出せるわよん」
「ほう……」
「天使ちゅわん。これ、傭兵団『サディ☆スティック』の流通網を利用すれば流行らすのだって夢じゃないわん」
「ほうほう、それは面白くなりそ……って、おい。コノエくんどうするの」
いや、俺もつい乗っちゃったけどね?
本当にすぐ隣で近衛くんが卒倒しっぱなしだよ?
別にジョージがゲームに夢中になってるのはいいし、クラン・クランでは友達ってスタンスのままでいてくれるのは嬉しいけどさ。
ジョージが教師で、近衛くんは生徒だからとか、リアルの立場は全く関係なくても!
普通に、目の前で少年が失神したのにスルーはダメじゃないか!?
「あらぁん。肝っ玉のちっちゃい男は放っておきましょォん♪」
「……さいですか」
「それより、このアイテムは極秘裏に取り扱った方がいいと思うわぁん」
チラリと倒れたままの近衛くんを見るジョージ。
俺もその考えには賛成する。
きっとジョージは商品的価値という意味で、近衛くんはまだ信用に値しない傭兵だから秘密にしようって言いたかったんだと思う。俺としては『宝石猫の白銀しっぽ』の効果が、近衛くんに露見した場合……先日、彼の悩みを俺が無断で聞いてしまったとバラすに等しいからだ。
「そこは、概ね同意かな」
「ウフフフン……やっぱり天使ちゅわんは話がわかるわねぇん」
「ふふふ……ジョージこそ、生粋の商売人ですなあ。ついでに試したい実験があるから、ちょっと協力してもらってもいいか?」
「もちのロンよん!」
それならと、俺は右目だけ魔眼を発動する。
『禁断を捧げし人体練成の魔眼』によりジョージの『欠損:切断』パラメータを有効にする。
「じゃあ、遠慮なく」
「あら、天使ちゅわんの目が……光って、ほわっつん!?」
俺は一切の躊躇なく、ジョージのワサモフアフロから毛髪をブチンッと頂戴する。
そんな光景を目撃したミナも、なぜかモジモジと顔を俯かせながら無言で頭を差し出してくるものだから……なんとなくプチンと拝借。
「ふむ。ジョージの髪は【雄猛を砕く黒毛】、ミナの髪は【純心少女の金糸】ね」
それら素材化した肉体の一部を合成すれば、心躍る結果となった。
俺の毛から作れたアイテムは『宝石猫の白銀しっぽ』、つまり銀色の宝石猫にしかなれなかった。
だが、2人の毛髪から作れたアイテムは『宝石猫の黒死っぽ』と『宝石猫の純金しっぽ』で、猫化のカラーバリエーションが増えたのだ!
「あちきの身体の一部で作られたのねん……なんだかゾクゾクしちゃうわぁん」
「わあああ! わたしの髪を天士さまが使ってくれるなんて……もっと取ってもいいですよ?」
「うんうん! この調子でどんどん傭兵の髪の毛をコレクションだ!」
2人が俺の錬金術に感動してしばらくすると、ようやく近衛くんの意識は戻った。
そういえば彼の艶やかな髪の毛も興味深い。
一体どのような素材になるのか楽しみだ。
「フフフフ……いずれはキミの毛髪も……」
「え、仏さ……タロさん、なに……?」
おっと、背後霊のようにひそむ俺の気配に気付くとは。
さすがは天才少年。なかなかやりおるな近衛くん。
「あ、いや何でもないよ」
「ふぅん」
焦りは禁物だ。
せっかく近衛くんと仲良くなれるチャンスなのだから、ここは慎重にいかないとな……。
フフフフフ。




