3話 傭兵たちの世界へ
眩い光に包まれて――――
気付けば、石畳で舗装された巨大な広場に俺は突っ立っていた。
建築様式を見るに、中世ヨーロッパ風の街と言っていい。
タイムスリップしたと錯覚してしまうほど、街は息づきリアルだった。
「クラン・クランすげえ」
「これがゲームか……?」
「風がきもちいい」
「うまそうな匂いがする!」
他にもログインしたばかりのプレイヤーがいたようで、周囲を改めて観察するとザッと数十人は見受けられた。
誰もがこの新しい世界に驚嘆し、感動を胸に興奮を抑え切れていない様子だった。
もちろん、俺もそのうちの一人だ。
五感全てを感じ取ることが可能なゲームなんて前代未聞だ。
特に匂いに関してはVRMMO界、初の快挙だそうで。
これから始まる冒険を祝福してくれているように、空は晴々していて蒼い。
そよぐ風は、そっと背中を押してくれるように、優しく俺をなでてくれる。
活気あふれる街の喧騒や匂いは、否応なくこれからの冒険に期待をふくらませてくれる。
「本当にすごい……」
広場は街全体から見て、やや小高い位置にあるらしい。広場の端に行けば、街下が見渡せそうだと判断した俺は人混みを縫って駆ける。
何人かがこちらを凝視していた気がするが、かまわず進む。
そして広場に端まで辿りついた俺は、レンガ? で積まれた手すりに、両手をつき。
「すうぅーー」
思いっきり息を吸って。
「はぁぁーー」
吐いてみた。
うーん。
自分の可愛らしい声が少し気になったが、気持ち良い。
見晴らしも最高だ。
ここからでは街の全貌は見ることは叶わなかったが、それでも色とりどりの屋根、積み石や木材、素材不明の多種多様な建築物が見える。
物理法則を無視した、明らかに階が上がるにつれて太さと大きさが増していく、バビロンの塔みたいな不可思議建造物もチラホラ見受けられる。
世界観はよくある中世ヨーロッパを題材にしてそうな、典型的なファンタジーなアレだ。
そういった建物の周りを、ひっきりなしに動き回る人々の一端が一望できた。
「……にぎやか」
俺の呟きを拾ったのか、周囲の男性プレイヤー数人が、ねばっこい視線を集中させてきた。一番近くにいた緑毛の少年などは、俺に話しかけようか迷っている素振りすら見せてくる。
歳の頃は16~18前後で、俺と大して変わらない。
身なりは、初心者用っぽい皮鎧に身を包んだ傭兵。
俺は警戒心を引き上げる。今の自分の外見は10歳そこらの少女だ。
そんな俺に話しかけてこようとする者は……。
ロリコン……もしくは、弱者と判断して戦闘を仕掛けてくるつもりか?
普通のゲームだったら、そんな思考に至らないのだろうが、この『クラン・クラン』というオンラインゲームはPK、つまりプレイヤーキルを推奨している節がある。
傭兵同士での装備やお金、アイテムの奪い合い、戦利品の奪取、欲望のままに生きろ、なんでもござれが謳い文句のVRMMO。
つまりPvP、プレイヤー同士の戦闘が多発するシステムを導入している。
年齢別によって、その辺のPvPには制約があるらしいのだが、詳しくは調べていない。
俺はオンラインゲーム初心者であることもあり、ゲームに不慣れであることが他人に気取られでもしたら、身ぐるみをはがされるのではないかと懸念した。
緑髪の少年は、ロリコンor戦闘狂。
そこまで結論を出したら、あとの行動は決まっている。
ウン告白での失敗経験は決して無駄にしない。
冷静に迅速に判断を下す。
無言でダッシュ!
初心者が集まっていた広場から離れた俺は、具合のいい白木製のベンチがあったのでそこに腰かけた。そして、いったん自分のステータスを確認してみることにした。
メニューと念じると、視界の左下にメニューウィンドウが生じる。
キャラクター名 なし。
レベル1
HP30 MP20 力1 魔力14 防御2 魔防8 素早さ18 知力27
所持金 1000エソ。
装備品
頭:なし
胴:すすけた外套
腕:すすけた皮手袋
足:すすけた革靴
右手:ローヌの木刀
左手:なし
アクセサリ:なし
:なし
:なし
:なし
:なし
スキル:なし
称号:老練たる少女
こんな感じだ。
まずはキャラ名だが、まだ決めてなかった。
こういうのはサクッと決めるのが良いだろうと判断した俺は、本名が訊太郎ということで、安直にタロという名前に決定した。
次にステータスだ。
ステータスで気になる点は、やけに力や防御が低く、それに引き換え素早さと知力が高い。
防具はまぁ、納得。武器に関してはローヌの木刀?
ローヌって何だ?
初期装備が木刀ってどうなの。プレイヤーって一応、傭兵って設定じゃなかったっけ?
どこの世界に木刀をメイン武器にする傭兵がいるんだろ……。
試しにローヌの木刀をメニュー画面からタップしてみると簡素な説明文と、装備するのに必要なステータス、攻撃力などが出てきた。
『ローヌの木刀』レア度0
・そこらへんに生えている雑木ローヌから創り上げた木刀。
・必要ステータス 力1 HP20
・攻撃力+2
装備するのに必要なステータスが力が1とHPが20以上。
まさに俺のことだが、すごく弱い武器だということがわかった。
他の初期装備も同じようなゴミレベルだ。
薄汚れた外套姿で、腰に木刀さしてる少女ってどこからどう見ても、傭兵じゃないチンチクリンだ。
だからなのか、さっきから街中を歩いている傭兵らしき人々が、俺の方にチラチラと視線を向けてくるのが鬱陶しい。
でも、装備に関しては残念無双だったが、これも初めということでみんな同じようなものだろうと納得する。
だが、そんな俺でも一つ納得できない部分があった。
称号だ。
ローヌの木刀と同じようにメニューをタップして説明を読んでみると。
『老練たる少女』
見た目と中身がそぐわない魔法少女。その幼い器には老練の魂が宿っているため、他の者より遥かに効率の良い行動が取れる。
若さ、美貌を保ち続けられるほどの膨大な魔力が、髪の毛から溢れ出す姿はまさに魔女そのもの。
取得条件:若返り。
効力:レベルアップ時のスキルポイント取得量が3倍。
と書いてあった。
よくわからんが、クラン・クランは女体化や若返りにも対応している優れたゲームであることが理解できた。
……。
…………。
んなわけあるか。
なんだ、この称号は。
「バグか? これこそバグなのか?」
しかも、称号の効力が半端なくチートな気がする。レベルアップ時のもらえるスキルポイントが3倍? クラン・クランでのスキルという位置づけを未だ把握していない俺だが、スキルって技とかを習得する際にスキルポイントを振って、スキルレベルを上昇させていくとかそういう感じじゃなかったっけ?
そう考えると物凄い称号なんじゃないのか……?
そもそもスキルが何だかよくわからない。
「スキル、スキル……」
スキルに関する施設が近くにないかと思いついた俺は、さっそくマップを確認して、街全体を確認……できなかった。
どうやらこのクラン・クランは一度、踏破した場所でないとマップに詳細が表示されないらしい。
が、幸いにも俺が今腰かけているベンチの向かい側に『輝剣屋スキル☆ジョージ』という店がちょうどあった。
ネーミングセンスはともかく、スキルに関して称号『老練たる少女』がどれほどのモノなのか、手がかりを得られるかもしれない。
それに外観もなかなか凝っていて、雰囲気も良さそうだった。
質素な木製造りの店であり、ガラス張りにしている部分が多い。屋根からは、金属の細い棒を曲げたり絡めたりして作ったのか、紋章のような瀟洒な飾りが吊るされている。
端的に言うと、お洒落な喫茶店の風貌を醸し出していた。
試しに店内をのぞいてみよう。
四角い色ガラスが縦2列にはめ込まれた、木製のドアをそっと開ける。
「おじゃましま~す」
「はぁい、いらっしゃいませぇ~~~ん、んんん?」
俺を出迎えてくれたのは、マスカラとかアイチークが紫とピンクでどぎつく、両目をパチクリ瞬かせた、色黒でパンチパーマの利いた、化粧がむちゃくちゃ濃いオカマだった。
「あらあららぁぁん。これまた、かわいこちゃんがきたわねぇええん♪」
「失礼しました~」
ウン告白で学んだ俺は、冷静に迅速に。
回れ右だ。
「だらっしゃあああああああいい♪ あ・わ・て・ちゃ・めっ」
神速の速さで、扉を閉めようとしてた俺の腕を掴む店主。
正直、ウィンクを飛ばされた時は死を覚悟したほどの寒気が走った。
「んんぅ、もぉっ。せっかちさんはいい傭兵に、な・れ・な・い・わ・よ・ん」
おれはオカマ店主にひっぱられるようにして、店内に引きずり込まれた。
「あ、はぁ……」
「なぁに、うかない顔をしてぇ。今日はクラン・クラン実装初日じゃない、たっくさぁん冒険しなさいな」
まさにアンタとの対面が冒険だよ。
すごい個性的なNPCもいたもんだ。
NPCとは、キャラクターを操作しているのがプレイヤーではなく、プログラム、つまりロボットみたいなものだ。
「でぇ、うちを覗きにきたってことわぁ、輝剣を買いに来たってことかしらぁ?」
おう。
やはりスキルに関係する店らしい。
だが、輝剣って何だろう。
「んんー? あなたもしかてぇ、輝剣に関して全く何も知らない感じなのぉ?」
「あ、はい」
NPCの質問に肯と答えておく。丁度いい機会なので、できるだけこのオカマから情報を引き出しておこう。
「あらぁ、そうなのぉ。パパやママは一緒じゃないのかしらぁ?」
それにしてもよくできた人工知能だな。俺が少女という外見から、こんな心配までしてくれるとは。PvPが推奨されているクラン・クランでは、児童保護プログラムという機能が運用されていると晃夜は言っていたが、これもその一端なのか?
「一人でやってます」
俺のことを心底気遣う表情で見つめてきたので、とりあえず返事だけはしておく。
「こんな可愛い子が、一人でクラン・クランを遊ぶだなんて危険すぎ「心配はいいので、輝剣? について教えてください」
俺はオカマのセリフをさえぎり、質問を始める。
このNPCがどこまでの質問に対応できるAIを積んでいるかは不明だが、変なオカマNPCに捕まっているより、もっとこの街「先駆都市ミケランジェロ」を探索したいという気持ちがある。
なのでやり取りは簡潔に済まそうと決める。
「んんん~そうねぇ。まずスキルって何なのか知ってるかしら?」
「いいえ」
俺が言葉を遮ったことに関して一切の不快感を出さずに応じるオカマ。
NPCなのだから当然なのだが、こうも会話を成立させ、あまつさえこちらの状況や様子を考慮して、逆に質問を浴びせてくるとは……クラン・クランのNPCすげえ。
「じゃあ、輝剣の前にスキルについて説明していくわねぇ」
「はい」
「スキルっていうのは、手に入れたスキルポイントを使って、スキルレベルを上げていき、アビリティを習得していくのよ」
「アビリティ?」
「そうね、アビリティっていうのは簡単に言うと『技』よぉ」
なるほど。
スキルポイントを特定のスキルにつぎ込み、スキルLvを上げていけばアビリティ、技を習得できると。
「スキルポイントを手に入れてもぉ、つぎ込むスキルがなければ意味がないわよねぇ?」
「はい」
「そこで、うちの出番よぉ」
オカマはわりと分厚い自身の胸板を、ドンっと叩く。
「ほら、見て御覧なさい♪」
オカマNPCは店内の窓際を身振りで指し示す。
釣られて、俺は首をそちらに巡らせる。
そこには窓から差し込む光に反射して、キラキラと輝く水晶っぽいものが綺麗に陳列されていた。よくよく水晶っぽいものを見つめると、上部に短剣が突き刺さっていた。
「あれは……」
「そう、あれがスキルを習得するための輝剣よ。あれを使って、スキルを習得するのよぉ? さぁ可愛い天使ちゃん。どんなスキルをお買い求めかしら?」
「なるほど。輝剣をこういった店で買ってスキルを習得するのか」
「まぁ、輝剣店で買わなくても、モンスタードロップやダンジョンの宝箱、特定のイベントをクリアすると入手できる物もあるわねぇん♪」
俺は並べられた、大小様々な輝剣を眺め始める。短剣の突き刺さった水晶は、琥珀色から炎色、空色、翡翠色、紫苑色、金色、鈍色、透明なものと種類も豊富だった。
「そこらの店には売ってない、珍しい輝剣もうちには置いてあるわぁ♪ ゆっくり見ていってね」
一通り見て、気になったアーツが何個かあった。
火魔法・水魔法・風魔法・土魔法・雷魔法の五種類の魔法スキルは、特に目を奪われた。せっかくゲームの世界にきたのだから、派手な魔法を放ってみたいという気持ちは俺にもある。
だが、当然のことながら全て購入できるだけの所持金がなかった。
どの魔法スキルも800エソなのだ。
他にも、短剣、片手剣、両手剣、双剣、盾、大盾、槍、杖、短杖、斧、弓、短弓、フレイル、ハンマーなどの武器スキルもあった。
こちらは全額500エソ。
肝心の木刀スキルは……ない。
上段の方には生産職向けの武器鍛冶スキル、防具鍛冶スキル、木工スキル、装飾スキル、皮細工スキル、料理スキル、裁縫スキルなどがあった。
こちらは3000エソ。
更に最上段には……う、見えない。
背が低くて見えない。
「天使ちゃん、そこの踏み台をつかってもいいわよぉ」
店主のオカマは立方体の木材を指さしてくる。
俺は無言で踏み台を陳列棚の前に移動させ、バランスを崩さないように乗っかった。
これで視野が高くなり、最上段の輝剣も視野に捉えることができた。
下級召喚魔法50000エソ。魔剣技35000エソ。
雷撃魔法45000エソ。氷結魔法40000エソ。
すごい金額の輝剣ばかりが並べられていた。
どれも強力そうなスキル名ばかりだ。
いずれは俺も、こういったスキルを習得するんだと期待に胸を躍らせていると、とんでもないモノを発見してしまった。
高額商品ばかりが棚に並べられている場所に、ポツリと異彩を放つ輝剣があった。
そのスキル名は。
錬金術だ。
値段はなんと800エソ。
あの錬金術スキルがたったの800エソ。
鉄を金に変える錬金術。万物を変化させ、未知なる物体を生みだし、神の領域すらも侵す禁忌の術。
それが錬金術。
「店主さん、これください」
ウン告白の教訓が活き、冷静に迅速に。
即断即決。
「あらら~ん、どれかしらぁ」
店主のオカマNPCは、俺がどの輝剣を眺めていたのかチェックしていなかったようだ。
「錬金術の輝剣です」
「て、天使ちゃん……」
オカマは紫のアイシャドウをこれでもかと強調するように、何度も眼をパチクリパチクリさせた。
「このスキルはお勧めできないわぁん」
「いえ、このスキルがいいです」
どこか焦るように俺の説得を始めるオカマNPC。
「このスキルは一見、便利そうなスキルだけどねん。実際は役に立たない事が多いのん。それに専用の錬金キットも必要になってくるしねぇん?」
……。
これは、まさか。
高額商品のコーナーに置かれた、一つだけ安すぎる輝剣。
店のNPCが買わない方がいいと薦めてくる……。
序盤から圧倒的なスキルを所持させないように、運営からの急造的なバランス調整策のフラグ?
ここまで状況証拠がそろって、導きだされる答えは。
そう、サービス開始初日にあるあるバグで、表示金額を間違えちゃった感じだな!?
本当は錬金術も10000エソは超える、超レアなスキルに違いない。
もう、ウン告白の時みたいな失敗は二度としないと決めたのだ。
おれは迷わず攻めに出る。
「これ以外、買うつもりはありません。今すぐ、この錬金術の輝剣を買います」
微塵も引かない態度で言い放つ。
「本当にお勧めできないわよぉ……他の店にも売ってるのを見て、お得と勘違いしちゃったのかしらん?」
他の店にも売ってる……お得。
つまり、他の店だとこの金額の何倍もするということに他ならない。
「買います!」
「ゴミスキルだけども、本当にいいのかしらん?」
「買います!」
「……はぁ。わかったわぁん。売ってあげる」
「やった!」
思わず歓喜の声をあげてしまった。
そんな俺の様子を、どこか憂いの帯びた表情で眺める店主オカマNPC。
俺はそそくさと800エソを渡し、錬金術の輝剣を買い取った。
残り所持金は200エソ。
べっこう色の水晶を両手で抱えるように持つ。
アイテムストレージに『錬金術の輝剣』を手に入れたとログが流れる。
さっそく使用してみると、短剣が突き刺さっていた大きな水晶の塊が淡く発光しながら消えていき、その光はあとに残った短剣の刃へと集束していった。
「それを胸に突き刺すのよぉん」
「え!?」
オカマ店主のアドバイスに思わず、狼狽する俺。
輝く刃を見つめる。
「輝きが失われたら、スキルを習得できなくなって、ただの短剣になるわよん」
ま、まじか! 超レアスキルを、ビビって躊躇して習得できませんでしたとかいうオチだけは回避せねば。
最初の街のNPCだ。このオカマがウソなんか言うわけない。
俺は輝く刃を幼い少女の胸に、自身のちょっとふっくらした胸に突き立てた。
すると輝剣は、俺の胸に虹色の光を放ちながら吸い込まれていった。
ついで、ログアナウンスで
:スキル・錬金術を習得しました:
:アビリティ、『変換』を覚えました:
というメッセージが表示された。
キタキタキター!
俺の新アビリティ『変換』。
説明をさっそく読む。
『変換』
錬金術用キット、『天秤』を用いて素材・アイテムを変換できる。
上位変換・下位変換と両方できる。
ふむ。
錬金術用キット、『天秤』が必要なのか。
早くエソを貯めて、アビリティ『変換』を試したい。
「ふぅ。天使ちゃん、サービスよ。これも持っていきなさあい」
カウンターに肘を突き、悲しそうな瞳で俺を見つめるパンチパーマの色黒オカマNPCは天秤らしきモノを掴んでいた。
「え?」
「錬金スキルのアビリティ『変換』に、必要な錬金キット、天秤よぉん。あげるわ」
気色悪いウィンクが、不思議と美しく見えるのは錯覚だろうか。
「いいの、ですか?」
「えぇ、いいわぁん。サービスよぉん。こんなプリチーな天使ちゃんに、錬金術なんてゴミスキルを売っておきながら、アビリティもろくに発動できないなんて。クラン・クランやめてほしくないものん♪ それに天使ちゃん、クラン・クラン始めたばかりの初心者でしょ? 所持金も1000エソがせいぜいだろうし? 天秤の錬金キットはどんなに安くても500エソはするわぁん」
「お、おう……」
「だから、遠慮せずに受け取っておきなさいん☆」
そうウィンクを連発して、天秤を渡してくるオカマNPC。
今までキモくてよく見ていなかったのだが、オカマの双眸を観察すると、ウインクするたびに両目をつむっており、ウィンクできてない。
そんな不器用で優しいオカマから、天秤を受け取るとログが流れた。
:ジョージ Lv10 より、『銅の天秤』を取引きが持ち出されています:
:受託しますか?:
へー。このNPC、ジョージっていうのか。しかもLv10ってすごい高いじゃないか。道理で俊敏な身のこなしで、俺を店の中に引きずり込めた訳だ。
取引を受託すると選択したら、アイテムストレージに『銅の天秤』が入った。
『銅の天秤』レア度1
錬金術『変換』を使用する際に必要な錬金キット。
性能・変換の成功率を2%底上げする。
まぎれもなく、錬金術用のキットだった。
俺はNPCであるジョージを見つめる。
今思えば、こいつはかなりいいやつだ。
輝剣について一から説明してくれ、超絶レアな錬金術スキルを格安で売ってくれ、あまつさえ錬金キットまで譲ってくれた。
見た目が、褐色系細マッチョでパンチパーマなパーフェクト化粧オカマだとしても。
感謝はするべきだろう。
自然とオカマに笑みがこぼれた。
「ありがとう、おねえさん」
ちょっとしたリップサービスも込めて、お礼を言った俺は店を出ようとオカマに背を向ける。
「あらぁん♪ 少し、生意気かとおもったけどぉん。いい子だわぁん。それに、とろけるような天使の笑顔、か・わ・ゆ・す・ぎ・る」
オカマの声がすぐ背後から響き、ついで効果音が俺に届く。
『ポーン』
:ジョージ Lv10よりフレンド申請が届いてます:
:申請を許可しますか?:
そんなログが表示された。
フレンド。
初のイベントということで、システムの簡易的な説明文が表示された。
フレンドおよび、フレンド申請に関する説明を流し読みする。
要約すると、フレンドとは、プレイヤー間において、お互いがどんなに離れていてもチャット・通話でのコミュニケーションが取れる便利な機能である、そうだ。
プレイヤー間……。
「ジョージってプレイヤーなの!?」
「あらぁん? そうよ?」
オカマは両目をパチっと閉じて開けたのだった。
――――
――――
キャラクター名 タロ
レベル1
HP30 MP20 力1 魔力14 防御2 魔防8 素早さ18 知力27
所持金 200エソ。
装備品
頭:なし
胴:すすけた外套
腕:すすけた皮手袋
足:すすけた革靴
右手:ローヌの木刀
左手:なし
アクセサリ:なし
:なし
:なし
:なし
:なし
スキル:錬金術Lv1
称号:老練たる少女
レベルアップ時のスキルポイント取得量が3倍。
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