289話 男子用と女子用
書ききれなかったので、もう1話。
夜に更新できるかもです。
父さんの目もあって、晃夜と夕輝とはあまり長くは話せなかった。
これが2人と現実で会える最後の機会かもしれない。そんな風に悪い方向に不安を感じてしまった俺だけど、親友たちは『どうにかする』と豪語しては励ましてくれた。
というより、互いに鼓舞し合うといった気色が強かったと思う。
ゲームによってどんどん現実が変化していく恐ろしさ。
ちっぽけな俺達が世界の変革に抗う、なんて……何かの少年漫画の主人公になった気分だったけど。実際になってみれば、巨大すぎる何かに対峙して抵抗するというのは途方もない恐怖を感じる。
わからない事だらけだし、これからどうすればいいのかも判然としない。
それでも俺達は進み続けなければいけないし、生きている限り最善を尽くすのみ。
「そんな風にポジティブになれたら、どんなに簡単か」
現実は甘くない事だらけだ。
茜ちゃんへの恋心も今となっては、叶わぬ想いだと諦めつつあるし……。
だから思わず、逃げたいという気持ちが鎌首を上げる。『日本皇立学園』になんて行かず、クラン・クランの世界で自由を謳歌してればいいじゃないか。親友たちと遊んで、トワさんとお喋りなんかもして、ミナやジョージやリリィさんと冒険したり……とっても楽しそうだ。
そんな悪魔の囁きが心に巣食いそうになるけど、親友たちの顔が俺を踏み留めてくれる。
『俺らの縁が切れるわけないだろ』
『こんな風に終わるボクらじゃない』
2人は諦めてない。
なら、俺だって最善を尽くすのみなんだ。
しばらくはゲームにログインできる余裕も時間も、きっと前より減ってしまう。それでもゲームで晃夜や夕輝たちの地位向上を狙えば、どうにかできるはずなんだ。
「太郎、大丈夫?」
自室に戻った俺の顔を心配そうにのぞきこむのは姉だ。
わざわざ俺の部屋で待ってくれていたようだ。
そう。
俺には姉だっているから。
「そんなに泣き腫らしたら……明日、目が真っ赤よ? ちょっと待ってなさい」
そう言って、保冷剤を薄めのタオルにくるんで持ってきた姉は、ソレをそっと目元へ当ててくれる。
「ありがとう……姉」
「いいのよ」
それから姉は無言で俺を膝の上に乗せ、頭を撫で続けてくれた。
今だけは恥ずかしいとか、そういった感情は出てこない。
ただ、姉のぬくもりに感謝して――
暗い悲しみと共にまどろみへと落ちていく……。
◇
「おはよう、太郎」
「あ、姉……!?」
気付けば俺はベッドに寝かしつけられていたようだ。
そして隣には肌着の姉が、寄り添うようにして横になっている。
「どうして姉が、隣に!?」
近いぞ、姉。
あと……色々と柔らかい物が当たっている。
「太郎を寝かしつけて、太郎の寝顔を眺めて、色々と触ったからに決まってるじゃない」
「最初のは感謝してるけど! 後半は色々と問題発言だ!?」
触ったって、どこを!?
なんて詳しく聞くのは怖いのでツッコミだけにしておく。
「ふふふ。それだけ元気があれば、『日本皇立学園』には行ける?」
上手くはぐらかされた気分だけど、元気づけられたのも確かだ。
「姉には敵わないなぁ……今、何時?」
「朝方の4時ね」
「じゃあもうひと眠りでき――――」
「ダメよ。昨夜はお風呂に入らず寝ていたし。転校は初日が肝心なのだから、しっかりとお風呂に入って身だしなみを整えるの。太郎の素晴らしさを余すことなく証明してやるのよ」
「えぇ……」
こうして俺はメイドさんたちではなく、姉自らの手ほどきで湯あみからのドライヤー、スキンケアに続き服の着替えという、地獄のフルコースを味わった。
「姉……これは……」
『日本皇立学園』の制服を目の当たりにして、俺はピタリと止まる。
姉は腕を組みながら、二着の制服をじっくりと眺めていた。
「男子用と女子用の制服。太郎の好きな方を選びなさい」
一つは白いブレザーにチェック柄のズボン。もう一つは白のブレザーとチェック柄のスカートに、リボンなども鎮座しておられる。
以前、姉に女性向けの服を着せられたのは記憶に新しい。
少しでも目立つのが嫌なら、今の見た目にあった服装にした方がいいよ、という理由で。
でも今回、選択権を委ねてくれたのは俺の意志を尊重してくれたに違いない。
どこに行っても……『日本皇立学園』に行っても太郎は太郎だからと、言われているような気がした。
そんな無音の応援を肌で感じながら、おもむろに一着の制服を手にする。そして自らの手で袖を通していく。
それを姉はにこやかな表情で見守ってくれる。
「あの、姉……その、……」
着替えをじろじろ見ないでほしい、という本音よりも言わなければならない事があった。
「こ、このタイプのスカートって、締め方、これでいいの……?」
「シャツ、噛んじゃうわよ。一度、スカートをおろして。シャツをしっかり入れるわ」
俺が選んだのは女子用の制服だ。
何を着てようと、俺は俺だから。だったら、無駄に話題を呼ぶ恰好よりも、今は大人しく女子生徒を演じる方がメリットは多いはず。
「やっぱ、スースーし過ぎだね」
姉が綺麗に着せてくれたスカートの裾を摘まみ、ゲーム内と現実はやっぱり感覚が違うとの感想を述べる。
「すぐに慣れるわよ」
慣れたくないなぁ……。




