287話 ネコの街『ニャルンテ』
一日ぶりにクラン・クランへとログインできた俺は、晃夜や夕輝、それにゆらちやシズクちゃんと会っていた。
「なんだかタロちゃん、大変そうだよねぇ……皇太子殿下と婚約って、ゲーム内でやんちゃすれば、現実でも突っぱねられないかなぁ?」
「何かあったら私達に遠慮なく相談してね? いつでもタロちゃん専用のロリィタ服も準備してあるから、また前みたいに遊んだり、とか」
石椅子に座っている女性陣は俺を優しく心配しては頭をなでてくる。
どうでもいいのだけど、なぜ俺はゆらちの股の間にすっぽりとおさめられ、抱きとめられているのだろうか。
「ゲームの中じゃ、こんなにのどかな田園風景が広がってるのにな」
「現実では多忙極まりない、ね。少しでもここの景色がタロの癒しになってくれればいいな」
親友たちの言う通り、非常にゆったりとできる景観だった。土が踏み固められてできた道。石が積まれて立てられた家屋や、道に沿って流れる石塀。そこにちらほらと行き交うNPCたち。
緑豊かに木々が所々に生い茂り、果ては田畑が広がっている。
「あっ、猫だ」
そして多くの猫が生息している。
今も一匹の猫が石の塀にトココココッと素早く移動しては、急にうずくまり、尻尾を垂らしてこっちをポヤっと見つめている。
ここは最近発見された『ネコの街ニャルンテ』と呼ばれたのどかの町だ。
この街で新しく発見されたスキル『寝子飼い』が今、ちょっとした話題になってるそうだ。
なんでも猫と友達になれるらしく、スキルのLvが上がれば猫を使役して探索や情報収集をしてくれるそうだ。更には猫もレベルアップをするらしく、『猫又』や『化け猫』などと色々な種類が存在して、戦闘を手助けしてくれるケースもあるだとか。
もちろんメリットだけではなく、エサ代なども馬鹿にならないのだとか。釣りスキルや採取スキルのLvが高い傭兵がこぞって猫エサを『賞金首と競売』で売りさばいてると聞く。
飼い主傭兵はネコのためならばと、多少は高いエサも購入してしまうのだとか。
特にカツオやマタタビといった物が人気らしく、ネコはエサとして与えた素材やアイテムによって違った成長をするらしい。
俺もぜひ『寝子飼い』スキルを習得したいのだけれど、やるべき事が山積みなので後回しだ。
「今後の方針は、タロ伯爵領の影響力と地位の向上に努めるか」
「ゲーム内で権力と財力を増やせば、現実での仏神宮家の意見も通りやすくなるだろうしね。とはいっても、残り一週間じゃ……間に合うかな?」
「やれるだけのことはやっておこうぜ?」
「あたしらも協力するよ!」
「いつでも頼ってね? タロちゃん」
こうして傭兵団『百騎夜行』の協力を得て、『翡翠の涙』を鬼のように生産しまくって、傭兵団『サディ☆スティック』へと売りさばく。同時に刀術スキルの生産や傭兵団『武打ち人』に鉱石を取引きしまくって、ログイン中はとことん財を蓄えるのに集中した。
俺は現実で、名家の勉強やら作法の訓練やらで大半の時間を費やしていたので、一日にログインできる時間は1~2時間程度に激減してしまった。
そして6日が過ぎた頃、つまりは『日本皇立学園』に入学予定の前日。
今日は晃夜や夕輝がインしてないな、と思いつつもクラン・クラン内で日課の金策を終える。そうしてログアウトした俺は父さんに呼ばれた。
「いよいよ、か……」
少しでもゲーム内の富=仏神宮家の立場向上に繋がればと思って積み重ねて来た行いの結果が出る瞬間だ。
どうか、父さんが『転入の件はどうにか回避できたぞ』と口に出すのを願って、書斎へと赴く。
そうして扉をセバス爺が開いて、いざ室内へと入ってみれば――――
「晃夜と、夕輝……?」
「よう、訊太郎」
「やぁ、訊太郎」
親友たちがなぜか父さんの書斎にいたのだ。
後ろには皮椅子に腰を落ち着けた父さんがいる。
「どうして、お前らがここに……?」
って、今の俺のこんな部屋着をこいつらに見られたッ!?
羞恥心が鎌首をもたげるのも構わず、俺の質問に父さんが答える。
「……父さんが呼んだのだ、訊太郎」
父さんはいつになく厳めしい表情だった。




