285話 女嫌いの王室だけど・・・?
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俺が客人をもてなすホストであるわけで、正装した後はひたすら老執事のセバスからこれから来る人物についての説明があった。要は詰め込むべき事前知識を叩き込まれたのだ。
ちなみに俺が着ているのは上品な燕尾服だ。
一応は紳士服であるけれど、所々に華があるといいますか。ちょっとしたアレンジなどがくわえられており、中性的なデザインを醸し出している。髪もアップに結い上げて、ポニーテールのような髪型になっている。
「――ですから訊太郎様、これからお見えになられる方、リリアーヌ様はイギリスの王位継承権第3位にあたる人物です。くれぐれも粗相のないようにお願いいたします」
セバス爺は神妙かつ緊張感のある表情で説明を続けているが、俺は誰が来るのかわかってから肩の力が抜けていた。
「うーん……リリィ、リリアーヌさん、ねぇ」
「さん、などと! 気軽に呼んではいけませんぞ。また、呼び捨てなどもってのほかでございます。『様』と敬称をおつけください」
「いや、でも……」
「ここだけのお話ですが……」
セバス爺は顔色を曇らせながら俺に耳打ちをしてくる。
「リリアーヌ様は非常に気性が荒いとのお噂も耳にしております。また、気難しい方で、同年代のご令嬢に対して、辛く当たるといった場面も多くの方々が目にしています」
コホン、と咳払いをするセバス爺を見ながらぼんやりと思い出す。
そういえばリリィさんって、クラン・クランの方じゃ『賊魔リリィ』とか言われて、男性を騙しては背後から襲うって尖った傭兵だっけ。それに『女性傭兵への対抗意識が異常に高い』、なんてゆらちやシズクちゃんは言ってたけど、単にプライドの高さがこじれて素直になれないだけの女の子だった気がする。
まだ女子中学生なのだから、多感な時期なんだと思う。
年下の女子を相手にするような接し方でありつつ、ちゃんと礼節と距離感のある付き合いは出来ていたと思うし、そんなに不安要素はなかった。
しかし、隣にいるセバス爺を含め、メイドさんや、礼節指導員の祥子さんなどは気をもむようにソワソワしていた。
そしてセバス爺はさらに声をひそめて説明をつけ足す。
「訊太郎様。正確に申しますと、リリアーヌ様はご令嬢や……その、女性の見た目をする者と親しくする気が毛頭ないと囁かれているほどです……しかし、そのような好ましくない評判があったとしても、リリアーヌ様はあの魔法大国にして魔法の祖でもある、イギリス王家直系の息女であらせられます。リリアーヌ様が持つ権威は、国際的に巨大な影響力があります」
セバス爺はぐっと目力を強めて言う。
その様子から、すごく俺を心配してくれているとわかる。
「そのような歴史ある血筋の、高貴な御身分であるリリアーヌ様が……訊太郎様を指名し、あまつさえ御自ら足を運ぶなどと前代未聞でございます」
確かに、地位の低い者が高い者の方へと足を運ぶのが通常。仏神宮家が日本の名家だとしても、イギリス王室であるリリィさんが赴く側になる理由にならない。
「すでに社交界では噂の種となっております」
暗にこの会合での結果が、大きく俺の評価に響くってセバス爺は言いたいようだ。
心配顔でこちらを真剣に見つめてくる面々のせいで、俺までちょっと緊張が移ってしまいそうだ。
「何かの陰謀をその胸に隠しているかもしれません。訊太郎様。どうかどうか、この爺や祥子さんが連日レッスンをしている作法の数々を、お忘れなきようにお願いいたします」
「は、はい……」
陰謀なんてないだろう、そうわかってはいても頷くしかない空気だった。
正直、俺がリリィさんに思う事は、同類に抱く親近感だ。
彼女もリアルモジュール勢であり、世界の変革を認識できている側だ。以前にも『魔法的な儀式や儀礼がどうのって急に言われても、困りますわ』と愚痴をこぼしていた気がする。
そう、つまりは俺とリリィさんは、変化してしまった環境にどうにか順応しなければいけない立場を迫られている、という意味では互いの苦労を理解できる同士でもある。
この内心を誰かに伝えたとしても、信じてはくれなそうな面々だったので、そのまま広大な中庭でリリィさんを待つ。数分が経つ頃には黒塗りの、胴の長い車がゆったりと入って来た。高級感溢れるその車が止まれば、ガードマンらしき人物が助手席から出て来ては、後部のドアを丁寧に開けた。
そこから豪奢な金髪を惜しみなく陽光の下にさらす美少女が堂々と姿を現す。
ゲーム内ではツインテールだった髪型は、現実では令嬢にふさわしい上品なストレートロング。
彼女は俺に視線を止めると、薔薇が咲き誇るような華やかな笑みをこぼす。
「まぁタロさん! 現実で会うのは初めまして、ですわね」
「やっぱり、やっぱり、リリィ、様だ」
「様、なんて、やめてくださるかしら? わ、私たちは……お、お友達で、その、ライバルで、競い合った仲ですわよ?」
頬を朱に染めながら、ちょっとぶっきらぼうに言い放つリリィさん。
ゲーム内でのやり取りそのままだ。
「あはは。やっぱり、リリィさんだ」
「もちろんですわよ」
堅苦しい口上を述べず、互いの名を伝えず。
上流階級として、周囲にその気品さが欠けぬようにと最低限のカーテシーをしてくるリリィさん。
俺もそれに応じて、紳士の礼を簡易的にする。
つまりは親しい間柄であると示す挨拶だ。
これには周囲も目をギョッとさせ、あんぐりと口を――――
開けはしないものの、優秀な人達が隠せない程のヒビワレが表情に走っている。
「俺、現実でリリィさんに会えてうれしいです。わざわざ来てくれてありがとうございます」
「と、当然ですわよ! 本当はもっと早くに遊びに……お邪魔させていただきたかったのですが、お父様、陛下から外出のご許可がなかなかおりませんでしたの」
「そういえば、どうして俺がここにいるって知ってるのですか?」
「そ、それは、ほ、ほら。タロさんは有名ですもの。日本皇家の皇太子殿下にプロポーズされた映像を見て、そ、それでタロさんが仏神宮家の血筋の方だと知って……」
後半はごにょごにょとして聞こえなかった。
そんな可愛らしい姿のリリィさんを、周囲の人間たちは不躾にも『信じられないものを見る』ような目付きで眺めている。
「そういえば、私。『日本皇立学園』に『留学生』として通っていましてよ。タロさんが転入するとお聞きして、あの学園について教えて差し上げようかと存じましたの」
「え、本当ですか!?」
「ええ、もちろんですわ。それに……最近の仏神宮家の成長ぶりは目を見張るものがありますもの」
「あぁ……リリィさんの国の魔法もすごいものがありそうですね」
この会話で、双方のお付き人達の視線が鋭く光る。
あー。
俺はその理由を瞬時に悟った。
イギリス王室による『仏神宮家の急発展』発言は、『急成長したそのカラクリは何か? 名家如きが調子に乗らないように、こちらが上だ』といった、探りと威圧の意味が込められていると思っているのだろう。
そして、そんな刺のある言葉に対し、俺の『イギリスの魔法もすごいものがありそう』というのは、『そちらの国の魔法に匹敵する武器がこちらにあるぞ、と。そっちにはどんな魔法があるのか教えてくれよ?』と、同じく牽制と探りを入れたと捉える事も可能だ。
まぁ、権力者の傍にいる人間としては、当然の思考ではあるけれど。
どれもハズレなんだよなぁ。
ほんと、『互いに環境が変わり過ぎてて大変だよなー』って意味で言っただけなんだ。
その考えは、目の前のリリィさんも同じようで小さな溜息をついていた。
「ねぇ、リリィさん」
「なにかしら?」
「疲れますね……」
「ええ、仰るとおりですわ……本当に……」
そこで俺は気付く。
「これは失礼を。麗しのレディに立ち話をさせてしまうなんて、俺はなんて罪深いのでしょう。どうかこの咎人めに、贖罪と名誉挽回の時をお与えくださいませ」
「あらあら、タロさんほど高貴で美しい方はいませんのに」
「ご冗談を、マイ・レディ。どうか、俺にリリィさんをエスコートする栄誉をいただきたく。お互いに積もるお話もあるでしょうし」
ニッと笑って膝を突けば、リリィさんは満面の笑みで頷いた。
「では、お願いしますわ」
こうして俺は差し出されたリリィさんの手を取り、屋敷内へと案内したのだった。




