284話 やんごとなき身分
『日本皇立学園』。
それは由緒正しき家柄の子供たちが通う名門学校。
規模は小等部から中等部、高等部、大学までに渡る。広大な敷地に加え、日本最高峰の教育環境と豪華な設備。日本の将来を担う若者を育成する機関と言っても過言ではない。
俺はそこの中等部に入学する運びとなった。
なぜ、中等部かと言えば……身体は確かに小学校中学年を過ぎた頃の見た目だが、俺は一応中学までの義務教育を終えた高校生だ。
しかし、一般の義務教育を受けただけで、国内最高水準の中学生をクリアしたわけではない。
だから高等部と小等部の間を取って、中等部というポジションに収まった。ちなみに『日本皇立学園』は飛び級制度もあるため、成績の優秀さを示せれば高等部にもいける。
「中等部には……普通科、軍閥科、医療信仰科、経営科、国際科、政経科の6つに分かれてるのか……」
自室で黙々と分厚いパンフレットを眺める。
俺は父さんに普通科か医療信仰科か国際科を勧められている。仏神宮家は医療と国際科に強いので、当然そっち系統の知り合いを作って盤石な基盤を整えたいのはわかるけど……。
「通いたくない……」
ちなみに錬金科はない……当たり前か。
「晃夜と夕輝と離れたくない……茜ちゃんとも……」
なんてワガママは許されないけれど、どうしても心はもやもやと曇るばかりだ。
「しかも夏休みがないとか、地獄かよ」
そう、この『日本皇立学園』。
世間一般の学校が夏休みという長期休暇でありながら、この学校は平常運転で授業を進めているだとか。なぜなら政界や財閥、やんごなき御身分の子息、息女たちは常日頃から多忙なのだ。
うちが特別自由すぎるらしい。
十代の少年少女でありながら、春夏秋冬と国内外を飛び回る事もあるとかで、1週間ほど学校を休むなんていうのはよくあるそうだ。社交界での付き合い、親が経営する施設の視察などなど、理由は様々だ。そうして遅れた分を取り戻すために、1年中授業が繰り広げられているだとか。
基本的に実家からの要請がなければ帰れない。
全寮制だし。
「はぁー……」
俺は通学までに一週間の準備期間を与えられたものの……その期間内でなるべく、多くの事を学ばなければいけない。
上流階級にふさわしい振舞いと各家の力関係、国内情勢などを頭に叩き込む必要があるのだ。
「クラン・クランにログインしたいなぁ……」
そして晃夜や夕輝にゆっくり相談して、対策を練りたい。
でも、今はそんな時間的猶予がない。
なぜなら午後から、俺に挨拶に来るお客様がいるらしい。その客人を迎えるための準備で、うちのお屋敷内はてんやわんやしている。
俺もそろそろ身支度をしないとなー、なんてぼんやりと思っていれば、部屋のドアが3回ノックされる。
しっかりとノックをしてくるあたり、姉やミシェルじゃないとわかる。
「どうぞ」
許可を出せば、老練の執事がピシリと姿勢を正しながら入室してくる。
「失礼致します。訊太郎さま。そろそろ、お約束していた時間が近づいてまいりましたので……ご準備の方を……」
「はい。お客様って確か、どこかの王族の方でしたっけ?」
「さようでございます。彼の国の王家の御仁が直接、ご本人様自ら赴くなどと……日本の名家とはいえ、我らが仏神宮家であったとしても、異例中の異例ですよ。失礼がないように、万端の準備を致しましょう」
「うはぁー……」
外国の王室が挨拶にくるとか、全く以ってめんどくさいの連続だ。
どうして、わざわざウチに……しかも、俺に挨拶をしたがるんだろう……。
◇
タロたちや『銀の軍人』が【感染都市サナトリウム】で救済活動をしていた頃。
場所は違えど大いに活躍していた傭兵集団がいた。
「天使殿はいずこにござるか!?」
「ごわぁぁっす! この石んこ、硬いでごわすぅぅ!」
「ぽっ、でかいやつがいるっぽ」
「こんな木偶の坊、この眠らずの魔導師グレンの前では塵芥に等しい矮小なそんざッッゴファッ」
「メルヘン卿が大ダメージを受けたッぽ」
「マジ使えね、ガチのクソじゃん」
「ふぉっふぉっふぉ、天使ちゃんを探すついでにこの街の惨状をどうにかしてやるかのぉ」
「白銀の天使ちゃんはどこだぁぁああ!? ウオッ!? なんだこいつら!?」
意気揚々と石生物を叩き潰していた強者へ、唐突な奇襲が行われた。
しかし、彼は腐っても高レベル傭兵。軽傷を患ったものの、すぐに臨戦態勢へと移行し、奇襲相手の追撃を許しはしなかった。
「童たち、何故某らを襲う!?」
彼らを襲ったのは、まだ歳若い少年。
灰色の髪は無造作に短く切り込まれており、少年の瞳の鋭さによく似合っていた。
まるで狼のような目付きをする少年だ、とその場の誰もが思っていた。
彼の隣には、横にも縦にも子供にしては大柄な傭兵がいる。
「ヴォルフ、こいつらやばい奴じゃん」
「わかっているヴァイキン。お前ら、さっき『白銀の天使』と叫んでいただろう?」
「おお! 天使殿の行方を知っているのか! 某らに教え――」
「フンッ。知ってたとして、誰がお前らみたいな変態共に教えるか。あいつに危害を加えようとする連中は……怪しげに近づこうとする奴らは、傭兵団『一匹狼』の牙が喉元に突き刺さる」
「あいや待たれよッ、某らはッ!」
「やれッ! 大人殺しの時間だ!」
こうして動乱の中、石生物を鎮静化しつつも戦いは各所で勃発していたのであった。




