275話 聖女の光に集いし者たち
〈クラン・クラン〉
【公式サイト 傭兵たちの宴会 掲示板】
スレッド名
【感染都市】攻略状況【サナトリウム】(2)
1:吸血鬼のNPC、強くね?
2:神兵ほどではないにしろ、確かに強い
3:そうか? 取り巻きの兵士NPCがいなければ、5人で囲んでボッコボコだったぞ
4:その取り巻きの兵士はどうするの
5:それはうちの傭兵団に入れば教えてやるぜ
6:4>>>【人狼】とぶつけた後に、弱った吸血鬼を狙い討ちだろ
7:うまくいくのかねぇ。人狼の誘導難しそうだし、そもそも【食人魔】とかもうろついてるフィールドで、結構ラッキーじゃないか?
8:遭遇した人狼も【冷血なる人狼】だったら、全滅必至だしな……
9:俺この間見たんだけど、全員が吸血鬼で動いている部隊もあったぜ……
10:そこにケンカふっかけたら傭兵40人ぐらいはいないと勝てなそう
11:大規模攻略か……それだけの数を集められる傭兵団ってなかなかいないよな
12:他の傭兵団と協力して、ヴラド伯爵が住む上層へ乗り込むしかないのか?
13:仮に連合を組んでも、最終的にはどこの傭兵団がその都市を治めるかで、もめるだろうなぁ
14:大規模な戦闘と言えば、先日『獄戦錬磨の獣王国』がかなりの人数を招集してたよな
15:あー、他の傭兵団も集めて『首狩る酔狂共』を潰すってやつだよな
16:『首狩り』共はやけに『感染都市』にいる攻略組の傭兵を狩ってたもんな
17:人数を150ぐらい集めて、最強の傭兵【危険地帯】もいたのに『首狩り』が勝ったらしいぞ
18:それ、やばいな……
19:俺、現場にいたけど『白銀の天使』って呼ばれてる美少女NPC? よくわからないけど、その子が現れてから状況が一変してよ……恐ろしかったぜ……
20:その子は傭兵でござるな
21:【狩人の神】がめっぽう可愛がっておってのぉ
22:ガチで手出ししたら殺す、なんてマジで吹聴しちゃってる
23:へぇ
24:あぁ、俺もその『白銀の天使』知ってる。テレビのニュースやらで報道されてたよな
25:あーどっかのスレでちょっと騒がれてたよね。皇太子殿下の婚約者がクラン・クランにいるって。実際に遭遇してみると、美少女オーラに気圧されてお近づきになれない~とかぼやいてたっけ
26:皇太子殿下にプロポーズされてた、麗しの美少女って話題になってた子かぁ
27:ぐッ! 貴様ら、よくもその禁句を口にしたな! そんな周知の事実を、敢えて言葉にするとは許せん!
28:メルヘン卿、おちつくぽー
29:結婚なんてまだ早いでごわす! しないでごわす!
30:そう信じたいでござるなぁ
31:何なのお前ら。あの子のファンクラブとかなの?
32:でも庶民の俺らの手に届く存在じゃないよな。家柄もかなりいいらしいぜ?
33:しかし現実でもあの見た目って、皇太子殿下じゃなくてもプロポーズしたくなる気持ちはわかるわ
34:おい! さっき撮ったスクショを見てくれ! 『白銀の天使』が感染都市サナトリウムに来た!
噂の銀髪美少女が幾人もの傭兵を引き連れるようにして、街の入り口から入って来ている様子の画像がアップされる。その少女がふりまく青い星屑に導かれるように、ゾロゾロと大量の傭兵が続き、その表情全てが厳めしいものだった。
35:おい、この人数はなんだ?
36:まるで姫が率いる軍隊の入城を彷彿とさせるのぉ
37:『獄戦練磨の獣王国』を警戒してるぽ?
38:まさか【感染都市サナトリウム】の攻略に乗り切るつもりでござるか?
39:いや! 聞いた話によると【感染都市サナトリウム】を救う活動をしてるらしいな。
40:救う?
41:ウィルスに感染したNPCへワクチンを接種させるだとか
42:あー食人魔とか人狼って元はあの街のNPCらしいな
43:病魔に冒されたNPCの救済活動って……
44:生まれも高貴なら、行動も高貴かよ
45:攻略そっちのけで……聖女でごわすな
46:まさに『天使』ちゃんだっぽ
47:俺もあの小さな手で優しくなでられ、純真な心を向けられたい……
48:尊いでござるな……
49:救いとはまさに彼女を体現する言葉、か……
50:みなの衆、出陣でござる! 天使殿の救済活動に微力ながら助太刀するでござるよ!
ござる口調のコメントを皮きりに、その後のスレッドは異様な盛り上がりを見せた。
後日、その掲示板を眺めていた者はこう語った。
まるで本当に『ウォォォォォオオ!』と、掲示板から野太い雄叫びが上がったと錯覚するほどに、あの夜は熱かった……と。
◇
「おい、ヴォルフ。『大団縁』の奴らが『白銀の天使』と感染都市サナトリウムに入ったらしいぜ。厄介で頭の硬ぇ【銀の軍人】どもも一緒だ」
どうすんだ? と俺に目だけで問い掛けてくるのは『一匹狼』の副団長、ヴァイキンだ。
「フン……わかっている。あいつら、やっぱり絡め手を……いやむしろ正攻法で、手出しし辛いな……」
まさか『白銀の天使』と縁深い傭兵の信頼を勝ち取って紹介してもらうとは……。
こっちはこっちで『白銀の天使』が無名都市なんかにいると知って、仲良くなるためにうちの子供たちをけしかけてみたものの……不思議とあいつの居場所は特定できなかった。無名都市に入ったのを最後に、あいつの消息は絶たれたのだ。
それが気付けば『大団縁』の団長と副団長の2人が傍にいるなんて。
情報収集には力を入れていたつもりが……こうもアッサリと出しぬかれてしまったか。
「先を超されたな……まさか子龍や継子と共に行動するまでになるとは……」
「どうすんだよ。俺らも正面切って『仲良くしようぜ?』って頭下げにいくか?」
それができないのはヴァイキン本人が一番理解しているだろうに。
俺やヴァイキンは『白銀の天使』のお気に入り、ミナヅキの心象が悪い。『白銀の天使』自身が俺達をどう思ってるかは知らないが、少なくとも好意的ではないはずだ。
過去に何度もやり合っていて、約束ありきの付き合いなのだから。
それにあいつの後ろ盾でもある『首狩る酔狂共』とも折り合い悪く、ともなれば俺達の信用性は薄い。
簡単に懐に入れてもらえるはずがない。
だからこそうちの子供たちに頑張ってもらい、親睦を深めてあのお人よし自らうちに入る流れを作ろうとしていたのだが……。
「フン……【大人殺し】の連中だけを率いて、【感染都市サナトリウム】へ行くぞ」
「精鋭を総動員しても20人かそこらだぞ。どうするつもりだ?」
「傭兵団『大団縁』が妙な動きを見せた瞬間、そこに喰らいつく」
「つまりは『白銀の天使』がピンチに陥った時に、味方として大暴れするって事だな?」
「あぁ……」
今の俺達が取れる選択肢はそれしかない。
どうか『大団縁』の奴らよ、『白銀の天使』を裏切るような、そんな行いをしてくれ。
後ろ暗い情念を胸に、曇り空を見上げた俺は小さな溜息を吐いた。
◇
「おぉー! 我らが『秘密結社・化学式遺産帝国』の諸君、聞いてくれ!」
私達は団長のゲンナイ・ヒラガの招集に応え、今日という日を迎えていた。
「ゴッホ君、アイ・アン姉妹、照山班長、リュウホウ・ザ・エンペラー陛下!」
大仰に各班長、というか団員を見つめヒラガは爛々と目を輝かせた。
「『白銀の天使』がたった今、【感染都市サナトリウム】に乗り込んできたそうだ」
「あーん? これってチャンス?」
「おーん? もしかして接触する系?」
冶金研究班のアイアン姉妹がヒラガの心境を先読みするような発言をする。
それに伴い土人形研究班の『嫁作りにご執心の油ッシュ』も興奮した様子で後に続く。
「お、俺の嫁の、人形の進化の秘密をにぎ、握るッ白銀の天使、仲間に入れる! ふぅぅぅー!」
「……ついに……ブツブツ……朕の黒魔術が大成し……朕のキメラ合成を実現する時が来た……ブツブツ」
やはり合成班の『ちんちん』も『白銀の天使』をうちに引き込む事に賛同しているか。
たしかに私も『白銀の天使』に期待するうちの1人ではある。
だが、あんな幼い獣耳美少女が……我々より上だとは、簡単に認め難いものなのだ。
「では、ゴッホ君。例の物をこちらに」
呼ばれて私はヒラガの前に出る。
そして試験管に閉じ込められた液体をみんなに見せる。
合計6本の、究極の彩菌。やつが言うには、【破滅の竜すら生み出す、終末の狼煙】といった代物。
ちょうど人数分あるそれを私は各自に配る。
「各班長は既に察していると思うが、これを【感染都市サナトリウム】の要所に落とす」
私が考案した計画にヒラガは補足を加える。
「さぁ、我らの『秘密結社・化学式遺産帝国』のすごさを披露してあげよう! そして我々は『白銀の天使』と同志なのだと示し、彼女をこの秘密結社に迎える!」
要は傭兵団のアピール戦術に、やつからもらった彩菌を利用するというもの。
これほどの彩菌を目にすれば、必ずや私達は『白銀の天使』の目を引くことができる。なれば、後は同じ錬金術を極めんとする者同士、仲良くなる――――ゴホンッ、利用してやるだけだ。
「これこそ完璧なエレキテル! 偉大な錬金術!」
ヒラガの叫びに、熱く賛同する各班員たち。
だが私は一歩引いた位置で、それらを冷ややかに眺める。
こんなのはテロ行為に近い。
が、力を示すのに一番手っとり早いのは恐怖だ。
今はまだ、自分達の力ではこの彩菌を創り出せないとしても、これが錬金術の力だと、私達の力だと見せつけてやる。
かつて私を馬鹿にした傭兵どもに、見せてやるのだ。
『おいゴッホ~、お前さぁ錬金術とかゴミスキルじゃ、全く戦闘の役に立たねぇな~』
『なーに必死になってコツコツコツコツコツと、Lvの上がりにくいスキル頑張ってんだか』
『正直、いい加減ウザい』
今でも覚えている、あいつらの嘲笑を。
俺だってお前らのためにポーションを作ったり、していたはずなのに……。
『ポーションとかアイテム屋で買った方が早いよね。いちいち恩着せがましいっつの』
『っていうかさ、今回のクエスト報酬を山分けっておかしいよな? お前、全く働いてないじゃん』
『PT解除っと』
『おっ、もしかしてこの場でゴッホをキルする感じ?』
『いいね! じゃあそういうわけだから、死んでくれ(笑)』
『うお、意外にこいつ金持ってるな! キルドロップで300エソ入ったぞ!』
『これがゴミの有効活用ってな、ギャハハハッ!』
あれ以来、彼らとは関わりを持ってはいない。
この秘密結社に入り、私は錬金術だけをやってきた。
やめればいいのに、意地になってしまったのかもしれない。
現実じゃいくらあがいても、頑張っても、失敗ばかりしてきた。
その鬱憤を晴らすように、このゲームにのめり込んだ。そして今度こそは見返してやると、それだけを一心に思いながら錬金術をしてきたのだ。
それでもやはり上手くはいかず、ゲームすらも私を否定するのかと……絶望と憎しみに駆られていた時、出会ったのが奴だ。
『憎悪の感情脳波指数が3000を超えた、錬金術スキル持ちの傭兵は……ふぅん、君か』
薄暗い路地裏でそいつは唐突に目の前に現れたのだ。
『その憎悪に濡れた瞳、感情、そそるね』
妙な傭兵が絡んできたと、最初は勘違いした。
少年とも少女とも取れる、その不思議な容姿で奴は自身を語った。
『かつては吾輩も【創憎の錬金術士】と呼ばれていたことがあったっけ』
それから奴の頭上にはNPCを示すネームプレートが表示されている事に気付き、困惑した。
『どうも、吾輩はノアという。キミに【憎しみ】を肯定する施しを与えようと思う』
そうしてノアと名乗るNPCから謎の彩菌をもらった。それが後に、ヒラガが【水門回廊アクアリウム街】にポチャッた事で食人魔や人狼を生みだすと理解したのは記憶に新しい。
『やぁ。ちょうど近くに寄る用事があったから、君の様子を見に来たんだ』
そして昨日、またもふらりと姿を現した奴は……新しい彩菌を譲渡しようとしてきた。
『吾輩ノアが、世界崩壊の手助けをしてあげようと言うんだ。さぁ、君もそれを望んでいるのだろう?』
私は肯定も否定もせずに無言で彩菌だけを受け取った。
世界がどうなろうと、知った事ではない。
だってどうせ、何をしようと……そのほとんどが私とは無関係なのだから。




