274話 女子高生すらも・・・
「ごっ、ごめんなさい……」
敵勢力の分布図をセバスに出してもらい、各々が攻勢に出ると意志表明を出してくれたところで、怯えたような声が会議室に響いた。
「あっ、あの……」
声の主は晃夜と夕輝の紹介で今回から円卓会議に参加した、子龍さんだった。
彼女は申し訳なさそうに、そしてビクビクと内心を吐露し始めた。
「その、タロさんの街にいるのはうちらの傭兵団メンバーなの……」
「……へっ? 300人、全員……?」
「は、はい……」
おずおずと告白する彼女に、俺は不信感の前に驚愕した。
一傭兵団のみで300人もの傭兵を集結させるって、この子、何者?
呆ける俺に代わり、晃夜が彼女へと問い詰めるように質問を浴びせた。
「子龍、どういう事だ?」
「そ、その……」
子龍さんを囲む殺気が半端ない。
姉やRF4youはさることながら、珍しい事にゆらちやシズクちゃんも険しい表情だった。しかし、子龍さんや継子さんを紹介した張本人である晃夜は冷静で、夕輝も敵視するというよりは困ったような顔をしていた。
「実は『白銀の天使』こと、タロさんとお近づきになりたくて……」
「それはタロをキルしようと、あぁそうか……」
晃夜は何かを言いかけて止めた。
それから数瞬の間、考え込むような素振りを見せて親友なりの結論を出した。
「早い話、タロを傭兵団『大団縁』に勧誘するために俺とユウに近付いた?」
「あー、そういう事ね。タロ、この子龍さんはね大規模傭兵団の団長なんだよね」
夕輝の説明にこの状況が納得いった。
だから300人もの傭兵を即座に動員できるほどの影響力を持っていると。
警戒すべき相手……だよな?
「うん……コウ君の言う通り。うちらは現実改変に関係してそうな『白銀の天使』、タロさんと接触するためにユウ君たちに近付いたの……」
それから子龍さんは素直に暴露を続けていく。
あわよくば戦力増強のためにタロさんに傭兵団へ加入して欲しいこと、これだけの戦力を待機させたのは現実改変に関わっている俺がどういった人物か警戒しての事らしい。万が一にも俺と揉めた場合、子龍さん達にはこれだけの戦力があると誇示し、抑止力として連れて来たとも。
また、PvPに発展しそうな場合は、力押しも構わない心境でこの場に臨んだと正直に話してくれた。
「現実改変に……俺が深く関わっている……」
リアル・モジュールでクラン・クランをプレイしている傭兵には子龍さんのように、俺は疑念を持たれる対象として見られるのも不思議じゃない。
たしかにここまで大きな現実改変は、俺が携わった事象が多い。全てではないにしろ、疑いの目や警戒心を抱かれるのは自然な流れだろう。
「子龍さんの言う通り、俺は……」
ふと、彼女が放った言葉を肯定しようとすれば親友たちと目が合う。
1人じゃないだろ。
わかってるよね?
2人の視線がそう語っていることに、俺は寸でのところで気付く。
「子龍さんの言う通り、俺達は現実改変に関わっている」
その明言に子龍さんと継子さんはハッと息を呑む。
「だけど、2人が想像しているような関わり方ではないんだ。それを今から見せようと思う」
仮にも晃夜と夕輝が紹介してきた人物なんだ。
しかも貴重なリアル・モジュール勢であるなら、仲間に取り込まない手はない。
「どうか、俺達の円卓会議を聞いていってくれ」
◇
「天士さまが仰る通り、当分は【感染都市サナトリウム】の救済活動に専念するのにわたしは賛成です」
「私もミナヅキさんに賛成ですわ。タロさんのワクチンで治して回れば、現実での感染パニックが沈静化するかもしれませんわね」
神官系と盗賊系の装備で身を包む2人の金髪美少女が、『白銀の天使』に賛同の意を示す。
「これでぇん、関東圏に広がりつつあるぅん、ゾンビ病と狂犬病がおさまる可能性があるならぁん、あちきも賛成ねんッ☆」
続いてサディ☆スティックの副団長『鉄血ジョージ』も。
うちらの後に遅れてやってきたメンバーが、これからの方針に賛成すれば次に目を向けられるのは当然……うちらと継子、『大団縁』だった。
「子龍さんと継子さん。これでわかってくれたと思うんだけど……ゲームが現実に浸食するたびに、俺達はこうやって対策を話し合っているんだ」
『白銀の天使』は、その幼き容貌にあるまじき毅然とした顔でうちらを見つめ続ける。
「俺が……現実改変のきっかけを作ってしまった時も、確かにあった。でも、本当の原因はまるで解明されてないんだ。だから知りうる限りの可能性を模索して、自分たちの全力で……この理不尽で恐ろしい現象に対抗しようとしてて……」
『白銀の天使』はこちらに理解を求め、必死になって説明をしてくれる。
300人の傭兵を潜ませて近づこうとしたうちらに、本気で。
彼女は、現実改変を良い方向に持って行こうとして四苦八苦して、あがいて、もがいているのかもしれない。
「正直、こっちでの行動がどう現実に出るかは、行き当たりばったりで上手くいかない事もあると思う……俺なんか皇家の皇太子さまに求婚されちゃってるし……?」
ハハッと乾いた声で残念そうに笑う『白銀の天使』を見て、うちは彼女が現実で権力を握るためにゲームをしているのではないと理解した。
「俺達の行動が裏目にでるかもしれない。それでも、現実が変わっていくのをタダ眺めるだけなのは、怖すぎて。だから、子龍さんや継子さんも『円卓会議』に加わってくれると嬉しい」
私達はただ変わり行く世界に恐怖して、震えて息をひそめ……傍観しているだけだった。そして逃避に明け暮れ、呑気にゲームを楽しんでいるだけだった。
でもこの白銀の天使は違った……。
こんな小さな娘が……この子が中心となって、世界の変革に抗おうとしている。
尊敬の念以外に何があるんだろう。
すごすぎて言葉も出て来ない。
「……」
隣の継子も同じで、『白銀の天使』を見る目が崇敬の眼差しになってるし。
だから、うちらの返事なんて決まってる。
「どうか、うちらにも協力させてください」
『白銀の天使』を手中に収めるどころか、うちらが彼女の仲間になっちゃったけど。
でもこれって、彼女と仲良くできるわけだし、コウ君やユウ君とも遊べるわけで。
これこそ結末はみんなハッピー、大団円ってやつ?




