273話 幼女伯爵は気付かない
「みんな、仲良くね?」
俺が一応の静止をかければ、姉やRF4youたち、百鬼夜行のグレン君や、ジョージとピエロみたいな人? は動きを止めてくれた。
傭兵団『武打ち人』のガンテツさん達もいつもの厳めしい顔はどこへ行ったのか、巨人に乗る俺の姿を見てポカーンと口を開けていた。
「おい……タロ……何なんだこれは……!?」
俺が保有する大戦力を見て驚く晃夜が、その場の代表かのように質問を投げかけてくる。
しかし、しかしだよ晃夜に夕輝。
それはこっちの台詞だ!
「コウたちこそ、何なんだ!?」
同じ傭兵団にゆらちやシズちゃんという可愛い女子が2人もいるのに、今度は違う女性傭兵も一緒にいるだと!? しかもけっこう可愛い子たちだし!
「このモテメンが!」
くそぅ……あのイケメン共が羨まし過ぎる……。
「は?」
「タロ、何を言ってるの?」
しらをきるつもりか、イケメンめ!
彼女たちは親友2人の背中にピッチリと寄り添うように身を潜めているあたり、相当に親友たちを信用しているに違いない。いつの間にあんな子達に惚れられるようなフラグを立てたんだ!
それに何だか彼女たちが怯える様を見て、俺が悪役みたいに思えてしまう。ただ、フレンドたちが争わないよう仲裁に出て来ただけなのに……。
そもそも領内にいるNPCからの報告によれば、こんな事をしている場合ではない……。
「いや、タロ。このNPC? の戦力の山は何なんだ?」
「そうだよ、タロ……さすがにボクらもビックリさ」
むむ。
そういえば色々ありすぎて、晃夜や夕輝に細かい報告をするのを忘れていた。
ここでモテメンたちへの断罪を始めても、問題は解決しないし……何より、男としてのプライドがそんな態度では器が小さいと囁いてくる。親友たちが少しモテるぐらいで目くじらを立てている場合ではないのだ。
……それに2人がモテるのは今に始まった事じゃないしな。
ひとまず溜飲を下げた俺は、改めて巨人のドーンさんの肩から降りる。
周囲で『あの高さから落ちたら、落下ダメージがッ』と慌てる傭兵たちもいたけれど、俺の戦い方を知っている一部の傭兵は何故か溜息を吐いていた。
落ちるちょっと前から、『緑と風の絶姫』であるフゥを呼び出していたので、風の恩恵でふわっと地面に着地。若干のどよめきをスルーして、親友たちへと説明するべく近付く。
「いや、その色々あって……? 俺が領主になったってのは前に言ったよな? その関係で、ここにいるのは俺の臣下なんだ」
コソコソと囁く俺に、2人は絶句していた。
「おう……早い話、ありえねー規模だな……」
「あはは……やっぱりタロは、予想の斜め上を突っ走るねぇ……」
◇
「ここに……臣下……だ」
ユウ君の背中に隠れながら、途切れ途切れでも耳に入れられた事実は、『あれ全部が白銀の天使の臣下』だってこと。
コウくんの影に身を縮ませる継子も聞き取れたようで、うち同様に顔色が悪い。
「とりあえず、みんな中に入ってくれ。ええと、RF4youのお友達さんはここに待機でもいいかな? あぁ、グレン君ももちろんそこにいて。それと傭兵団『武打ち人』のみなさんは別館へ。あ、あとジョージの隣にいる……ピエロさん? えっ、サディ☆スティックの団長さん!?」
白銀の天使はテキパキと、自分が招待している者と招待してない客を分けて対応を始めた。
その間、人狼やら騎士やら巨人やらに、ジッと見張られながら待たされるうちと継子。ユウ君とコウ君の口添えで屋敷の中に入れてもらえる運びになったけれど、正直に言えば生きた心地がしなかった。
「その2人は……なに、信用できる? えッ、リアル・モジュールなんだ! やった!」
ユウ君コウ君から事情を聞きながら、前を進む『白銀の天使』。
彼女はキラキラとした瞳でうちらを見ては、『よろしくおねがいします!』と礼儀正しくペコリと頭まで下げてくれる。
その瞬間、周囲のNPCたちから異常な程の圧力を感じたので、うちらは固い笑顔で応じてしまった。
『白銀の天使』はのほほんと何の気負いもなく歩いて行くけれど、うちらの心情は恐れ多いものばっかり。まずこのエリアというか、屋敷が豪邸すぎる。
内装は落ち着いたモダン風でありながら、豪奢なシャンデリアとか家具とか一目で高級そうな物ばかり。あれらを木工職人や装飾職人に依頼したら、一体どれほどの金額になることやら。それに所々に並べられた調度品は、どれも上品かつ洗練されたデザインでオシャレ。
そして極めつけは彼女の周囲に侍るNPCたちよ。
なに、あの老練そうな灰髪のナイスミドルな執事さんは。眼光が鋭利すぎるし表情も厳めしい……隙のない機敏な動きで、まさに全神経を研ぎ澄ます職務に忠実な理想の執事像ね。
そこまでして『白銀の天使』に忠義を誓っているわけ……。
そしてさらに彼女の横に粛々と歩を進める、雪のように白い美少女よ。青と白のドレスを身に纏っていて、どこぞのお嬢様やお姫様かと思ってよく見たら、頭上の『白青の雪姫ブルーホワイト』なんて名前が表記されているんだから……あれって『剥製の雪姫ブルーホワイト』なんじゃないの?
なんでボスキャラが『白銀の天使』に仕えるような仕草で後をついてきてるの……。しかも彼女の頭や肩にちょこんと座ったり、飛び跳ねたりしてる妖精の女王みたいなアレはなに?
尽きない疑問で内心ビクビクしながらうちらは後を付いていくしかない。それから大きな丸テーブルが中央に置かれた会議室じみた、一際贅を尽くされた広間に案内される。
ウチらを含め、ここに通されたのは『狩人のシン』、『鉄血ジョージ』、『RF4you』、『百騎夜行のメンバー』の計9人だけ。
「万感、おかえりなさいませ、タロ伯爵閣下」
その会議室に足を踏み入れた瞬間、私は『白銀の天使』に声をかけたそのNPC達に目を奪われてしまう。幸が薄そうで儚げな美男美女6人が頭を下げ、彼女を迎え入れたの。
その一人一人の美しさは、今まで見てきたどのNPCよりも極上。
夕日みたいな深紅の瞳は、一度視線が合ってしまえば吸い込まれるように魅力的でなかなか外せない。
彫刻じみて整った顔立ちに、黄金にも勝る輝きを放つ金髪を優雅になびかせるこの人達も……『白銀の天使』の臣下なの……?
「あぁ、うん。あれから異常はあったか? ルード卿」
「告知、潜在的な敵勢力に動きは見られません、閣下」
『白銀の天使』は美男美女へ軽く挨拶を済まし、そして最奥の立派なイスへと腰を落ち着けてしまった。
彼女がNPCらに軽く手を振れば、人狼や謎の美形集団は脇に逸れて壁に張り付くように待機する。彼女の傍に侍るのはブルーホワイトと妖精女王と、執事のみ、ね。
「まず、みんな集まってくれてありがとう」
うちら全員が着席すると白銀の天使が喋り出す。
「他にもまだ円卓会議のメンバーで到着してない面々がいるため、会議はまだ始めない。姉、それでいい?」
「そうね」
『白銀の天使』があの『狩人の神』に対し、『姉』と呼べば…………さっきまでの殺人鬼の形相が嘘みたいに消え、代わりにそれはそれは幸せそうにトロンとした笑みを浮かべていた。ウチはその事実に思わずビックリしてしまう。
あの全傭兵から恐れられている『狩人の神』が……あんな顔を……?
「ではメンバー全員が集まる前に、ちょっと対処しなくちゃいけない事があるんだ」
「その前にタロ、そこのやけに綺麗な顔のNPCは何だ?」
「あっ、ボクもそれは気になってた」
ユウ君とコウ君は『白銀の天使』と付き合いが長いからなのか、遠慮なく彼女の話の腰を折ってしまう。うちだったら、こんな状況下で絶対無理な事もやっぱり頼り甲斐のある2人なら平然とできちゃうのかぁ。
なんて2人に見惚れていたから、『白銀の天使』の口から出た言葉に吹き出しそうになってしまう。
「あぁ、彼らは吸血鬼。『感染都市サナトリウム』を俺が間接的に統治することになったから、あっちの支配者であるヴラド伯爵がその手助けと連絡手段にって、貴族位吸血鬼を6人預けてくれたんだ」
この子、吸血鬼も傘下に治めてるの!?
私の驚きはもちろん、この場の全員が共感……してはくれてないみたい。
みんなちょっと諦めの表情をした後に、『タロなら……そっか』みたいな空気で納得しちゃってる!?
「それで話を戻すのだけど、敵がこの都市に集まっている可能性がある」
白銀の天使はほんわかな表情から一変して、神妙な面持ちでうちらを見渡した。
彼女は気を引き締めるようにして一度息を吸い、そして重々しく言葉を吐きだす。
「およそ把握してない勢力が300人。全て傭兵だけど、この都市に入って来てる。衛兵NPCによる監視報告だから間違いない」
ブフゥッッ!? バレちゃってる!?
ご、ごめんなさい!
それは多分、うちの団員たちです……!
継子と目を合わせるも、彼女も震えながらうちを見つめるばかり。
ど、どうしよう!?
「この数は今までの、うちの都市に入って来る傭兵の傾向データから……明らかに多すぎる。300人の傭兵を相手にするとして……」
「ほう? まさか先日の『極戦練磨の獣王国』が懲りずに再戦を仕掛けてきたと? 私の可愛い太郎に……?」
「どうやらタロを狙って来たのか。早い話、ぶちのめすか」
「やっぱり支配権の事実が広まっているのかもね。タロ、質問なのだけど、この屋敷の名前は変えられないの?」
「ん? できるぞ」
「じゃあ、タロの所有物だってわからないような名称にした方がいいよ?」
「そうだな……今やっておく。よし、【タロ伯爵邸】から【無名伯爵邸】に変更っと」
「それで天使閣下! 我々はいつ出動すればよろしいのでありますか!」
「あたしらも暴れるよ~! いくよシズ!」
「久々にタロちゃんとパーティー組めてうれしいね、ゆらちゃん!」
うぅぅ……。
みんな戦う気満々だよぉ。
「みんなもRF4youもありがとう。でもまずは戦力の確認だ」
そうして『白銀の天使』がテーブルに手を指差し、『セバス』と老執事に向かって目配せをした。
すると木製のテーブルはニョキニョキと変形していき、卓上にはミニチュアの街並みが再現されてしまった。
これってもしかして、この【無名都市】の全体図?
赤い駒が置いてある地点は……あぁ、うちの団員の場所ね……。
なにこのチート索敵魔法……。
あのおじさまは何者なの……。
「こっちの戦力は巨人が1人、現在この都市にいる衛兵NPCが140人前後、騎士団が60人、人狼部隊が60……傭兵14Lvが500人いても劣らない戦力はあると思うけど……やっぱり不安だ。みんなの力を貸して欲しい」
うちの傭兵団の平均Lvは12です……。




