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271話 伯爵邸へのお客人


「おじゃましまーす」


 相変わらず客足が途絶え切った俺達の聖域、輝剣屋スキル☆ジョージに到着。


「あらぁん♪ いらっしゃいんッ☆」


 出会った頃と変わらぬ色黒パンチパーマな相棒が俺を快く出迎えてくれる。

 事前にフレンドメッセージでこちらに来ると伝えてあったので、どうやらジョージは俺を待っていてくれたようだ。


「ジョージ、ついにできたぞ」

「ふふふん♪ 天使ちゃんがわざわざそう言うってことわぁん、またとんでもない物を持ってきたのねぇん」


 期待の眼差しを向けられたら、やはり悪い気はしない。

 錬金術を至高の生産職として扱ってくれるジョージに、俺はばばーんと持ってきた輝剣(アーツ)をお披露目だ。

 静かな光を宿す水晶、その煌びやかさを真っ二つに裂くは突き立てられた小太刀。

 

「刀術スキルの輝剣(アーツ)だ」


「……ッガッッ!?」


 ふぅ。

 これは毎度お決まりのパターンが来るか。

 目を見開き、ジョージの喉ちんこ限界まで露出という悪夢の日常が(ルーティーン)


「……ッキョッ!?」


 しかし、俺の予想に反してジョージは新しい反応を見せてくれた。

 一心に俺が持ってきた輝剣(アーツ)を見つめ、時々奇声を上げながらも顔だけを細かく震わしている。まるで壊れた機械みたいに奇怪な動きを数度しては、また同じ動作を繰り返す。

 


「……ウッ……」


「う?」


 いい加減その変な動きはやめて欲しかったので疑問をぶつけてみれば――

 

「美しいわぁん……」


 ほぅっと溜息をつき、まるで恋する乙女のように頬を薔薇色に染めるジョージ。

瞳は完全にハートマークと化している。

 どうやら最初の『ガッ』はガチで? と言ったニュアンスが含まれており、次の『キョッ』は今日一、いや年一で驚愕しちゃってたらしい。そして最後の『ウッ』は美しいという、三段法で有り余る気持ちを伝えたかったようだが、感動しすぎて言葉がうまく出て来なかったそうだ。


「これ、ジョージのお店に卸すからさ。お願いね」


「はぁああああん! 天使ちゃんったらさいこぉおぉおん!」


「適正価格はわからないのだけど、どれぐらいがいいの?」


「そ、そうねぇん……ざっと50万エソぐらいかしらぁん?」


「ごじゅっ!?」


「刀術スキルは必ず人気なスキルになるはずよぉん。なにせ日本男児の魂みたいなものだしねぇん」

 

 そう言われれば確かに、男子として刀という武器には妙に惹かれる。

 あの薄くて上品な曲線を描く美しさが魅力的に映るのだろうか。しかも切れ味は世界最高峰の武器であり、西洋剣みたく敵を叩いて潰すといった野蛮な物ではない。あくまで、優美に滑らせては骨の髄まで断ち斬るのが刀だ。


 その分、刃こぼれや耐久性は著しく低い、などといったデメリットはあるものの……そこにこそロマンを感じずにはいられないってところか。



「だけど50万はさすがに買える傭兵(プレイヤー)がとてつもなく少ないんじゃ?」


「50万エソはかなーり高額だけどぉん、これぐらい高値にして希少性をアピールゥン、付加価値を上げた方がいいわぁん。そもそも簡単に量産できるタイプの物じゃないんでしょぉん?」


 ジョージの両目が鋭く光る。

 完全に商売人の目だ。


「確かに生産するにはそれなりに時間を要する。数も今はこれぐらいが限度だ……」


「ならバッチリと特別感を、ダ・サ・ナ・ク・チャ♪」


 ナニを出せというのだろうか……?

 と、とにかく、なるほど。ロマンスキル兼実用性もあり、買った時点で他の傭兵(プレイヤー)に自慢できるようなブランド性を確立するのか。


「もちろぉん、あの(・・)天使ちゃんも使ってるぅんってなれば、お(そろ)いにしたがる傭兵(プレイヤー)は出てくるわねぇン♪」


 遠回しに宣伝よろしく! と言われてしまった。


 こうしてジョージの取り分は2万エソで俺の取り分は48万エソとなった。

 俺がもらう額がかなり多いと感じたが、ジョージはこの刀術スキルの輝剣(アーツ)はすごい話題になると予想しているらしい。なので店頭に置くだけでも、店にとってかなりの宣伝効果になるとの事で、この金額で交渉は成立した。


「俺としては……ジョージはこれから、この高額の輝剣(アーツ)の製造法やらなんやらと詮索されるわけだから……狙われる可能性もあるでしょ? 危険の見返りとして5万エソとかでもいいよ?」


 せめて10%は取ってもいいと思う。

 俺からすれば販売の場所代、安全を買うと言う意味での投資だ。

 ジョージに倒れられたら嫌だし……お金があればそれだけ、強力な対抗策だって準備できるかもしれないんだ。


「大丈夫よぉん。あちきに任せてぇン。変な輩や、中途半端な(オトコ)にはぜぇーったい売らないからねぇん!」


「いや、そこはじゃんじゃん売ってください、お願いします」



 


「やぁ、コウ」


『コウ』と、ゲーム内のキャラ名で呼びかける腹黒の声に振り返る。

 そこには案の定、親友の夕輝(ゆうき)が立っていた。


「おう、ユウ」


 約束通り、俺達はタロが絶対安全と豪語する都市へと到着していた。


「ふぅん、ここが集合場所なんだ? なんだか辺境の都市って感じねー」

「あ、あの……」


 ゆらちとシズクの2人組も集まったようでなにより。

 だが、2人はいつものお気楽な雰囲気とは違い、どこか重々しい空気を纏っていた。

 彼女たちが警戒する理由、それはきっと俺の後ろにいる2人の女子にあるのだろうな。


「早い話、この2人を円卓会議の新メンバーに推薦しようと思ってな」

「あっ、ちなみにボクもコウに賛同してるよ」


 俺の発言に夕輝が調子を合わせる。


 ちなみに円卓会議とは、タロの姉シンさんが命名した会議だ。

 クラン・クランというゲームが現実に影響を及ぼすと知ってから、定期的にその対策案を協議し合っている。

 俺たちはこれから、タロが言う『絶対安全』と保証する場所でその円卓会議を行う予定だ。


「はぁー!? なにそれ」

「え、えっと……フレンドさん?」


 俺が連れて来た女子2人に対し、ゆらちとシズクは不信感を隠さずに警戒の色を濃くする。


「まぁ、そんな感じかな?」


 ゆらちとシズクの疑問に曖昧に答える夕輝。

 俺はそれに続いて事情を説明する。


「つい先日、ユウと【火蜥蜴(サラマンダー)】討伐クエストに挑戦してな。危ないところを助けてもらって、その時にフレンドになった」

 

 俺は件の女子2人を紹介する。



子龍(しりゅう)継子(ままこ)だ」


子龍(しりゅう)です」

継子(ままこ)だよー」


 俺の背後から一歩進み出る2人。


「それが何で、この会議に参加するって流れになったのよ」


 ゆらちが何故か不機嫌そうにぼやく。

 シズクもどこか不満気な顔で夕輝を見つめているので、ここからは腹黒に任せるとしようか。

 チラリと夕輝に視線を送れば親友はすぐに察した。


「彼女たちのキャラクリは、リアル・モジュールだそうだ」

「えっ、それって……」


 ゆらちは驚きで手を口に持っていく。

 シズクは不安そうに2人を見つめている、か。

 


「そう、彼女たちはボクらやタロと同じ、現実改変を認識できる傭兵(プレイヤー)だ」

「それに子龍(しりゅう)は、傭兵団『大団縁(だいだんえん)』の団長でもある」


 俺の言葉にゆらちとシズクは信じられない、といった表情で子龍を見つめる。

 

「『大団縁』っていったら、1000人規模の大勢力じゃないの!」

「その団長さんが……まさか私たちと同じ年齢ぐらいの子……?」


 最初は俺たちも疑ってしまったが、確かに『大団縁』の団長としてあの大人数を牽引している姿を何度か見させてもらった。最初に助けてもらった時にそれは理解していたのだが、何せ規模が規模なもんでなかなかに信じがたい。


「クラン・クラン有数の大規模傭兵団(クラン)の団長が円卓会議に加わるのは悪くない話だと思うよ」


「それにだ。やっぱ、心細いだろ。特に……タロは俺らより不安を抱えていると思うぜ」



 正直、信用できるかどうかはまだわからない。

 けれど敵対するよりかはいいと判断しての推薦だ。


 なにより、彼女たち2人と現実改変について話し合った時の目には本物の怯えが宿っていた。現実改変を目の当たりにして不安が燻る毎日……いつその火の粉が爆発し、この身を燃やし尽くさんと牙をむいてくるかわからない。その恐怖に押し潰されそうな姿だけは、俺達と共通していて……信じられる。


「わかったわよ……あたしは納得」

「わ、私も……ユウ君とコウ君がそこまで言うなら、わかったよ」


 どうにか2人を説得できた事に安堵した俺達は、内心でほっと息をつく。

 まだまだ本番はここからで、他にも納得してもらうメンバーはこの先にいるのだ。特にタロの姉さんは手強い気がする。


 ほんの少しだけ重くなった胃の痛み、それはきっと隣の腹黒も同じなのだろう。

 乾いた笑みで4人の女子を取りなしてはいるが、内心では疲れているのだろうに。そんな風に夕輝を他人事みたく達観していれば、チラリと『何やってんの』と咎めるような視線を飛ばしてくる。


 おっと。

大団縁(だいだんえん)』の2人には愛想良くする、だったな。


 少しでもタロや俺達の不安を取り除くためだ。なるべく現実改変を認識できる仲間は多い方が心強いだろうしな。

 さてと、接待するか。


「みんな、こっちだぞ」


 ニコリと慣れない笑顔を浮かべて4人の女子を案内する。

 と言っても、俺もここに来るのは初で夕輝もそのはずだ。


「しかしタロはどうして、こんな何にもないような都市を円卓会議の場所に選んだのか」

「うーん、たしかここってイグニトール王家に謀反を起こしたハーディ伯爵領だったよね?」


 夕輝の言う通りだ。

 ここはイグニトール王家に反乱した元【ハーディ伯爵領】だったはず。前から傭兵(プレイヤー)たちの間では、実入りの少ない都市という認識が強い。イベントやクエストが極端に少なく、特に平凡で見どころのない……しかも支配権を有していた存在は謀反の懲罰で殺されたので、攻略する要素もない、傭兵たちが集まり辛くひどくつまらない場所だと。


 もしかして、だからこその穴場だってことか?


 そんな今では【無名都市】と呼ばれた城門をくぐって、どんどん街中へと進んでいく。

 そして最深部に到着する頃、俺は信じられない物を目にした。


 立派な門構えの大きな屋敷。

 いや、小さな城と言っても過言ではないそれがタロの言ってた絶対安全の場所かと思い立ち、ポイントを合わせてみれば……。



「タロ伯爵邸……?」


「は?」


 夕輝の呟きに、俺は気の抜けた声を漏らしてしまう。



みなさま、感想や応援のメッセージありがとうございます!

モチべがすごい事になってしまったので、今日は2話更新です!

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