270話 吸血姫の微笑み
メッセ―ジや感想、ありがとうございます。
モチべがとっても上がったので明日も更新します!
称号【血盟の聖少女】装着!
「クックックック……我が名はタロ伯爵……」
深紅の瞳に、口から覗く鋭い八重歯。
天井から逆さまにぶら下がる今の俺を見れば、誰もが『吸血鬼』だと判断するに違いない。
「月の狂気を支配し、夜の眷族を統べる王……」
見習い探求者のローブをバサリと広げれば、俺の背後には闇が広がる。
そして天井から離れ、空中でくるりと一回転を決めては床へと着地。
「闇に生ける全ての者は我に忠誠を誓うのだッッ!」
なんて――
ヴラド伯爵に教わった吸血鬼風の挨拶で現実逃避をしてみるものの、不安は一向に消えない。
「むむ……」
これからは【タロ伯爵領】だけでなく【感染都市サナトリウム】も防衛力にも注視しなければならない。それに加えて、食人魔や人狼となってしまったNPCにワクチンをばらまく慈善活動もしないといけない。
「タロ伯爵さま、どうかされましたか?」
「なんか領主さまに俺らの声届いてなくないっすかー?」
「お悩み中~」
おっと。
熟考するあまり、我が愛しのラボメンNPCたちの声を聞き逃していたようだ。
メガネお姉さんのコロンは心配そうに、好青年のスラッシュは呆れた様子で、羊毛娘のピリオドはぼんやりと俺を見つめている。
「あぁ、すまなかった。ちょっと今後の領地経営について考えていてね」
俺は一旦、自分の領地へと戻り、【錬金術の研究所】に引きこもっていた。というのもワクチンを生成するのに必要な、素材集め部隊の編成を行うためだ。
ワクチンには【歯車の古巣】にいる『甲殻大狼』から採血できる【錆びぬ賢狼の血】が必須。これをちまちま倒しては採取、倒しては採取をしていたら細菌被害が広がりつつある感染都市を救うには間に合わない。
そこで新戦力、人狼たちの出番というわけだ。
人狼たちに素早く討伐させ、俺は【血濡れた永久瓶】で採血に集中するといった手法を取る予定だ。
この実働部隊を作るためには、【無名の工房】から【錬金術の研究所Lv1】を作った時に使わせてもらった【無名シリーズ】を利用することにした。
自分の好きにカスタマイズできる【無名の軍閥】から【聖痕の人狼部隊】という施設を増設したのだけど……かなりの費用がかかってしまった。というのも【錬金術の研究所Lv1】の時は12畳前後の施設で10万エソかかった。
今回は50匹以上の人狼を抱え込むわけで、その分施設のLvも上げなければいけなく……【聖痕の人狼部隊Lv3】には70万エソもの大出費だ。
これによって、我が領の収益をほとんど使いはたしてしまった。
残してあった領地経営用の資産50万エソに加え、短期税収を合わせて合計100万エソ。そして俺の個人資産用が20万と、計120万エソ。ここから【聖痕の人狼部隊】施設を作るために他領より木材を取引したり、執事NPCセバスを最高鍛冶集団の傭兵団『武打ち人』に行かせ、鉄鋼資材を大量に購入したことによって、領地経営用は30万エソにまで減った。
前回、食糧生産面の施設はちょこっと増やしていたので領民の生活は安定している。この辺で『衛兵の詰め所』や練兵所、『タロ伯爵領の騎士団』の強化を図りたかったが……予想以上に人狼たちは金喰い虫だ。
商業施設を増やして、他領より富を吸い取りたいところだけど残念ながらお金が心もとないので作れない。
俺はこう言う時こそ領主らしく冷静に振舞うべきだと判断し、吸血鬼ごっこに興じていたというわけだ。
「それで3人は俺に何か用かな?」
金欠で不安になる気持ちを静めてから、改めて愛するラボメンたちへと話を戻す。
「タロ伯爵様のご期待に添えられるよう、私達は邁進して参りました」
「そーっすよ。俺らのことをよく見てくださいって」
「つよくなった~」
三者三様に己をアピールするラボメンたち。彼ら彼女らをよくよく注視すれば……。
【種族】人間 ♀ 【名】コロン
【年齢】23歳
【Lv】4 → 9
【知力】80
【スキルLv】錬金術Lv5 → Lv10
【種族】人間 ♂ 【名】スラッシュ
【年齢】25歳
【Lv】4 → 9
【知力】78
【スキルLv】錬金術Lv5 → Lv10
【種族】羊毛娘 ♀【名】ピリオド
【年齢】13歳
【Lv】4 → 10
【知力】70
【スキルLv】錬金術Lv7 → Lv19
みんなすごいレベルが上がっている!?
「ステータスポイントはタロ伯爵さま御自ら振ってくださると仰っていましたので……」
「俺らLv上がったのに待ってたんすよー」
「いっぱい、いっぱい上げて~」
そういえば俺には常に効果を発揮する自然称号【全知なる伝道師】がある。俺がステータスポイントを知力にふる際、上昇率が2倍になるという効能だ。これはもちろん、俺がステータスをいじれるラボメンNPCにも適用されるはずと思い至り、レベルが上昇してもステータスポイントは俺に振らせるようにと指示していた。
なにせ人間NPCは30ポイント、羊毛娘に至っては20ポイントしか上昇しないのだから。その分ピリオドだけスキルポイントが2ずつ増えるのは強みではある。
「きっ、君たち……」
俺はラボメンの立派な姿を目にし、歓喜のあまりむせび泣きそうになってしまう。
吸血鬼ごっこなんかすぐにやめて【全知なる伝道師】の恩恵を発揮せねば!
「よくやった~……うぅ、これでタロ伯爵領の財政難を脱却できるかもしれないぞぉお」
錬金術スキルがLv10に至ったという事は、アビリティ『合成』が可能となる。そして今までポーションや【翡翠の涙】の素材をたくさん作ってもらっていたのだ。
つまり大量のポーションを生成し、売り出すことができる!
さらに俺は3人のNPCたちにステータスを振ってゆく。
【種族】人間 ♀【名】コロン
【Lv】9
【知力】80 → 380
【スキル】錬金術Lv10
【種族】人間 ♂【名】スラッシュ
【Lv】9
【知力】78 → 378
【スキル】錬金術Lv10
【種族】羊毛娘 ♀【名】ピリオド
【Lv】10
【知力】70 → 310
【スキル】錬金術Lv19
これで念願の知力300超え!
これは……まさか……!
「キミ達に装備させておいた【小太刀・諌めの宵】の愛用度はどんな感じ?」
「もちろん愛用度は100です」
「とっくに100っすよ!」
「まんぱーい」
きた!
きたぞおおお!
以前、傭兵団『武打ち人』は俺との取引に難色を示していた。俺が錬金術で生み出した金属は確かに特殊。でも作れる武器が刀であり、それを扱える傭兵がいないのでは一向に売れないと。
そういった理由から俺が作る金属の単価は下げられ、取引量もかなり減ってしまった。
しかし!
刀術スキルの輝剣を作る条件は主に三つ。
・刀系統の武器の愛用度が100以上
・使用者の知力が300以上
・武器破壊によって装備が消滅すると、輝剣になる
これらが判明してから、どれほどのこの時を待ったことか!
「では、みな……俺に向けて武器を掲げて」
3人が【小太刀・諌めの宵】を取り出す。
俺はまずコロンが持つ刀身に向けて、アビリティ【戯れたる塵化】を施してゆく。
本来であればこのアビリティは素材の細分化、新たな素材の発見に使うのが常道。
しかし、時にMPを大量に消費さえすれば武器破壊すら可能とするのが【戯れたる塵化】の真骨頂でもある。
「くっ……さすが、武器を塵と化すにはそれ相応のMPが必要か……」
全MPを持っていかれた。
知力ステータスが高ければ高いほど分解力は上がるから、もっと俺の知力が多ければ……容易に破壊できるのか。
MPが回復するまでゆったりと待ちつつ、俺はそれから3個のスキル刀術の輝剣を手にした。
「ふふふ……これで大金持ちだ!」
もちろん、ラボメンには新たな【小太刀・諌めの宵】をあてがっておく。
刀術スキルが流通すれば、『賞金首と競売』にて捨て値で売られているこの武器も多少の値が張ると予測し、大量に購入しておくのも忘れない。
「そろそろ研究員の人数も増やすべきか……セバスッ!」
「ここに」
紳士然とした老執事NPCはピシリと背筋を伸ばし、綺麗な姿勢で傅いていた。
「俺の個人資産を投入してもいい。新たなラボメンを2人程増やすぞ」
「かしこまりました。では、今の領地状況ですと……こちらが候補者となります」
そういえば領地が栄えれば人材も豊富になる仕様だったな。
発展初期の我が領では、逸材はまだまだ望めない、か。
それでもめぼしいNPCをリストアップして選ぶ。
「彼が良さそうだ」
1人目は人狼にした。
【種族】人狼 ♂ 【名】ガル
【年齢】33歳
【Lv】5
【知力】160
【HP】400
【MP】10
【力】200
【魔力】10
【防御】150
【魔防】80
人狼の中でも特にレベルが低く、一際知力の高い者を選んだ。
人狼はレベルアップ時のステータスポイントの伸び率がかなり期待できそうな種族だから、一人ぐらい入れても良さそうだ。いざとなったら、この【錬金術の工房】の護衛にもなるしな。
「ガルルゥ……主よ、俺、がんばるぞ」
「うむ。期待しているぞ、ガル」
さてさてもう一人は――――
彷徨う俺の視線は究極の宝をしっかりと捉えた。
この子しかいない! 誰が言おうとこの子だ!
興奮が最高潮に達しかねない状態だが、グッと堪える。老執事セバスの手前なので、俺は領主らしく至極平然とした声音で決定する。
「2人目は彼女にしよう」
【種族】犬耳人族 ♀ 【名】ルーシー
【年齢】15歳
【Lv】1
【知力】10
【HP】20
【MP】2
【力】6
【魔力】2
【防御】10
【魔防】5
理由は可愛いから。
以上。
だって犬耳だよ!? 犬耳娘!
「領主さま、よろしくだワンッ!」
わんっ、わんって、お前ぇぇぇええ……あざとすぎるけど、逆にそこがいい!
「たッッ、頼むぞルーシー」
元気に尻尾なんかも振っちゃって、あー……触ってみたいけど、ここは我慢だ。
それよりも最優先事項を確認しておかないといけないだろう。もちろん領主として!
「ところでルーシーはどこ出身なのだ?」
それとなくセバスに聞けば、彼は即座に返答してくれる。
「ここから遥か西方にある【百獣王レオーネ】が治める都市、【獣人の古都レオルグ】からの移民だそうです」
【獣人の古都レオルグ】だって!?
行ってみたいなぁ……。
ちなみに候補者リストの中に猫耳人族とかもいないかなって探してみたけれど、このルーシー以外にそれらしい獣人族は見当たらなかった。しかし、今後は領地がもっと栄えて人口が増えれば、このようなモフモフ系種族が流入してくるはず。
「モチベーション、上がるなぁ」
「何でしょうか?」
「コホンッ、なっ、何でもないぞ、セバス」
この老執事は色々と鋭い。
俺が領地経営を私利私欲のために行いそうな匂いを敏感にかぎ取ったのか、厳つい表情で俺を見てくる。
そんな老執事の視線から逃れるように、俺は新しく雇った研究員の指導を先輩研究員3人に託す。
「さ、さて、刀術スキルの【輝剣】を持って行くとしますか」
どこで取引きするかといえば、もちろん馴染みの商売仲間だ。
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『古代帝国【日本】を知る最強の錬星術士~ペテン師と馬鹿にされ竜の巣に捨てられるも、究極カードスキル《デュエリスト》に目覚めたので神罰少女を錬成します。ん? 星遺物が暴走して国が滅ぶから戻れ? だが断る~』
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