269話 血盟の聖少女
「ウォォォッォォオオオオオオオン!」
夜の廃墟を揺るがすほどの遠吠えが響き渡る。
その獲物を残忍に喰い殺すことが容易に想像できる声は、俺のすぐ傍から発せられた。
「驚嘆……人狼が進化とな」
「疑心、人狼が臣下となる……?」
「刮目、人狼を支配下に……?」
涼しい顔で、ヴラド伯爵の元まで同行するようにと俺に言ってきた吸血鬼たちも、【王喰らいの人狼】が発した覇気には焦燥の帯びた顔で凝視していた。
「グゥルウアアアア! お前の力が……俺に流れてくるぞッ!」
【王喰らいの人狼】は爆発するエネルギーを放出するようにして、天へと豪気な遠吠えを何度も吐きだす。
それをいくらか繰り返すと、黒毛だった体毛も全てが白銀へと様変わりしてゆく。
:【王喰らいの人狼】は【月姫の王狼】に進化しました:
そんなログが流れ、【月姫の王狼】が快活に俺へと笑いかける。
「グルァアァッアッアッ! これでお前に従う証をもらえたぞ! ウォオン!」
吸血鬼たちにヴラド伯爵の所まで案内すると言われてから移動中、そわそわと着き従う【王喰らいの人狼】が気になって何事かと尋ねてみた。
すると『グルゥゥ……お前に従う、何か、証が欲しい』というものだから、【菌種:新月色】を浴びせてやるという流れになったのだ。
「真、白若の稚児は支配者なり。その力、如何様にして手にした?」
「グルゥウウウ! 吸血鬼どもが、気軽に俺の姫に話しかけるなッ!」
うーん。
血走った目でそんな吸血鬼たちを睨まないで欲しい。
これから話し合いに行く相手でもあるのだから、余計な諍いはなるべく生んで欲しくない。
「【月姫の王狼】……君は身体も大きく、おそらくどの人狼よりも強いのだから、易々と威圧しないの。怖がっちゃうでしょ?」
「グルッ……お前が、褒めるのなら……グルッ、大人しくしておく」
褒めた覚えはないけれど……。
「うん、いい子だ」
気性がかなり荒いのが難点だけど、化石との融合を解いても【月姫の王狼】は大人しく言う事を聞いてくれるので、そこはポイントが高い。
【月華の人狼】の肩に乗せてもらいながら、よしよしと巨躯なる【月姫の王狼】をなでておく。
「グルッ、グルルウゥウウ……クゥン……」
嬉しそうな声を上げちゃってまぁ、情けない奴だな。
でも、実はこっちもふわぁぁぁあああーってなりそうなんだよな……こいつ、すごい毛並みがサラサラのサラでブランド猫みたいな手触りなんだ。
「……あんなちっこい娘に、あんなおっかねぇ人狼が縮こまって懐いてやがる」
「俺達は一体、何を見せられてるんだろうなぁー」
「癒しであることは間違いないねぇわな」
姉の傭兵団員であるトムさん達が、ゆるけた顔で俺達を見ながらそんな事を言った。
「エルのお兄ちゃん、すごい、さすが」
「ふふふ、さすが私の弟だ」
それに対し、妹と姉がよくわからない自慢をしていた。
◇
ずらり、と左右に美男美女が並ぶ景色は優美さと、ある種の威圧感を覚えるものだ。
相手に非の打ちどころがない、一分の隙もない。そんな息苦しさは全て自分に返って来る。つまりは相手が完璧なのだから、相対するこちらも完璧であらねばならない。
そんな風にプレッシャーを感じてしまうもの。
「歓喜、タロ伯爵領の御当主自ら我が領に足を運んでくださるとは――」
美形たちが左右に並ぶ列の最奥、そこにはこの感染都市サナトリウムの当主、ヴラド伯爵が立っていた。
腰まで伸びた長い艶やかな金髪を後ろ一本にまとめ、氷のような彫刻じみた顔立ち。
年齢は20代後半といったところで、その美しい深紅の眼を俺に向けている。
「このヴラド、百年物の【血聖ワイン】をお出しするべきですかな」
通常であれば、ヴラド伯爵がいる屋敷、というか街上層部にあるこの城に傭兵は入れない。なぜなら吸血鬼とそれに従う兵たちがそれを阻むNPCなのだ。
先駆都市ミケランジェロでいう神兵が、ここでは吸血鬼と兵である。
「いやはや、歓迎いたしますぞ。タロ伯爵殿」
案内されたのは人が100人は入るのではという大広間。
そこに俺が引き連れる人狼たちが40あまり、姉やミシェル、首狩る酔狂共の面々、行きずりの傭兵たち数人がいる。対するヴラド伯爵側は吸血鬼が30人ほど。
数ではこちらが勝っているものの、今まで見て来たどの吸血鬼たちよりも洗練されているように思える。おそらくかなり強い個体ばかりが集められたのだろう。
吸血鬼に対し、重い唸り声を上げる人狼たちがいつ飛びかからないか内心でビクビクしながらも、俺は領主としての威厳を全身に乗せる。
「こちらこそ若輩者のために、ヴラド伯爵御自らのお出迎えを感謝します」
「愉快、白若の稚児であっても礼節は存分に備わっているようですな」
俺とヴラド伯爵は、爵位は同じといえどあちらは古参。
しかし、俺はイグニトール王家のお気に入りであることから対等とまではいかなくとも、下手には扱えないだろう。
:突発クエストが発生しました:
:クエスト名『伯爵の友戯』:
:発生条件【伯爵位を持っていること】【20人以上の人狼を手懐けている事】:
:クエスト内容 ヴラド伯爵と会話をして上手く交渉しよう:
:報酬 【感染都市サナトリウム】の間接的な支配権:
:報酬の内容は会話の分岐ルートによってそれぞれ異なります:
なっ。
この会話で【感染都市サナトリウム】の間接的な支配権が手に入るだって!?
「確認、まさかタロ伯爵殿が、我が領地の問題に取り組んでくださっているとは……いやはや」
俺が突発クエストの発生に驚いていても、ヴラド伯爵は構わずに喋り続けてくる。
どうやら俺が食人魔を元の人間に戻したことや、人狼たちを従える手段を持っていることは把握しているようだ。
うーん、どう答えるべきなのか。とっさの事だったので、数秒の無言が過ぎると再びログが流れ出した。
:ヴラド伯爵の信頼度が0から-2になりました:
わずかな沈黙ですら心象を悪くするの!?
これはマズイ、考えろ!
まずは全項目が0を基準値にスタートってわけで、そこからマイナスに数値が増えていくもプラスへと数値を持っていくのも俺の交渉次第ってわけか……。
「先にヴラド伯爵を通してから行うべきでしたね……その点は同じ伯爵位を持つ者として申し訳なく思います」
素直に謝ってみたものの、ヴラド伯爵の顔色は何一つ変わらない。
ここでこのターンを終えたら、俺への信頼度は下がったままだ。伯爵としての器を試されている可能性もあるので、俺はやや強気で訴える。
「しかし、なにぶん火急のこと。ヴラド伯爵殿の大切な民草が細菌に感染し、それに対抗しうる手段をこちらが持っている身であれば、早急に治療と沈静化を行うべきだと判断しました」
:ヴラド伯爵の関心度が+5になりました:
:感謝度が+20になりました:
:信頼度が-2から-15になりました:
むむ……関心、感謝度は上昇したけど。
信頼度が13も下がった……?
「納得、我らが民を幾分か救ってくださった事には感謝いたす。しかし、笑止。まさか、純然たる施しの心のみで、この落ちぶれた【感染都市サナトリウム】に足を踏み入れたわけではなかろう?」
わぁー……本当に成り行きで偶然、他の傭兵を手助けするためにワクチンを使っただけなんだけどな……。
だけどなるほど、何が言いたいかはわかった。
俺に対する統治者としての信頼度が下がったというわけだ。
他所に無償で貴重なワクチンを提供するなど、統治者として言語道断。
しっかりと利益を絞り取る狡猾さがなければ、民は守れない。
都市運営を統治する者がミスれば、飢えるのはその街の住人たちだ。割に合わない取引や一方的な施しで被る損は自分だけに降りかかるものではなく、自分を慕うNPC、自分の領地に住むNPCたちにまで波及する。
「ええ、もちろんです。ヴラド伯爵殿」
これを機に、この都市の全部を掌握する勢いで強気で語るか?
いや、それは悪手すぎる。第一、自分の領地経営だって始まったばかりで、さらに二つ目の都市運営なんて……そんな重みには耐えられない。
じゃあ、どうする?
そんな風にほんの数瞬、悩んでいると不意に晃夜からフレンドメッセージが届く。
『おい、タロ。やばいことになってるぞ』
『ごめん、今は大事なクエストの攻略中で』
『おおう、忙しそうだな。でもな、こっちも大切な案件だし、一早くお前に聞かせたい。だからタロは喋らなくていいし、耳に入れるだけでいい』
そういう事ならと、俺はフレンドメッセージのチャンネルを開きっぱなしにしておく。
晃夜にしては珍しく引き下がらないな。
そんな風に感じながらヴラド伯爵にどう答えるべきか考える。
:ヴラド伯爵の信頼度-17になりました:
急かすようなログがまた流れるが、気にしないようにする。たったの-2ポイントを恐れる局面じゃない。おそらくここは肝心なターンであるから、じっくりと考えよう。
『早い話、現実で感染病が流行ってる地域がある』
う……ん?
衝撃的な晃夜の発言に思考が一気に乱れてしまう。
『一部の都市じゃ食人鬼、言い換えればゾンビみたいになった人間がうようよと発生しちまったり、狂犬病みたいのにかかって人狼じみた容貌に変化して暴れまわったりとかな』
なんだって!?
『早急に対処する必要があるだろ? このまま感染区域が広がっていったら、日本は大変なことになる。それこそよくドラマやアニメなんかにあるバイオハザードってやつだな』
それって間違いなく【感染都市サナトリウム】の現象が、現実で具現化しちゃってるじゃないか!
『多分だが、【感染都市サナトリウム】の騒動が関係していると思う。俺らも解決策を模索するから、そっちでも何とか探してみてくれ。じゃあ、また。後で合流しような』
……晃夜のフレンドチャットが終わる頃には、俺の結論は固まっていた。
これはもう早急にワクチンを大量生産して、この都市にばらまき、事態を鎮静化する必要がある!
そうすればきっと、現実の方でも事態が好転するのでは!?
しかし、それには目の前の吸血鬼たちが持つ権力が邪魔だ。彼らはこの街の支配者であるため、こちらの言い分を納得させない事には俺の好きにさせてもらえないだろう。
:ヴラド伯爵の信頼度-19になりました:
「疑念。いかがされたかな、タロ伯爵殿。如何な理由があって我らが都市に?」
「……交渉に伺いに参りました」
「予見。交渉とは如何なるものかな? 望むはこの都市の支配権であろうか?」
ヴラド伯爵の問いに、俺は慎重に言葉を選ぶ。
「いいえ、それは違います」
こちらの武器は言わずもがな、あちらも気付いているはず。
人狼をコントロール、管理できる。
細菌に対するワクチンの所持、食人魔を元に戻せる。
この二点。
この二点を持っている=この都市の惨状を救える。
じゃあこれらを交渉のカードとし、都市を救う見返りに支配権を要求するよりは……報酬がもらえる、金だけもらえるような立場を築ければいい。
二つの都市を運営するなんて無茶だ。
じゃあ、自分でやれないのなら他人に任せればいい。
そもそも領地経営に関してはヴラド伯爵の方が詳しいだろうし、俺みたいな伯爵の駆け出しが見習うべき点の方が多いだろう。なので支配権なんて最初から度外視する他ない。
考えをまとめた俺は勝負に出る。
「こちらには、ヴラド伯爵殿が治める都市を救える手立てがあります。同じイグニトール王家に爵位を賜った隣人として、手助けできる力がありながら、隣人が弱っていく姿を傍観するわけにはいかないでしょう」
「笑止、白若の稚児ごときがよく吠える。人狼どもに影響されてはおりますまいな」
:ヴラド伯爵の信頼度-11になりました:
:関心度+10になりました:
よしいいぞ。言ってることは辛辣だけど、心象は良いようだ。信頼度も8上昇してきてる!
「こちらが要求するのは二点のみ。この街の惨状を解決するにあたり、街である程度の自由が許されるぐらいの権力・地位を俺にください。二点目は、この街を救う代わりに、我が領地に定期的な支援金を送っていただきたい」
:ヴラド伯爵の信頼度が0になりました:
よしよしよし! 信頼度を基準値に戻せた!
「納得、それなりの地位と許可証をタロ伯爵殿に発行いたす。しかし笑止、我が領地の悲惨さを目の当たりにして、一番財が必要となる復興後では他領に送れるだけの金銭的余裕はあるまいに」
報酬はきっちりもらう。
その口実も用意してある。
「食人魔の一掃とワクチンによる人民の救済。それと同時に貴方がた吸血鬼と激しく対立している人狼勢力の全てを、俺の傘下に入れます。もちろん、人狼たちを焚きつけて、この上層を攻め立てようなんて気は毛頭ありません」
後半はあえて口にした。
「もちろん人狼たちは、大人しく我が領地に移す予定です。そうなれば非常に街も平和になるでしょう?」
暗に武力行使でこの街を乗っ取れるかもしれない、と示しておくのだ。
そちらの言い分ばかり押し通してくるのであれば、こちらも黙っていないと。
「無論、タロ伯爵殿の言うとおりよな」
:ヴラド伯爵の信頼度+7になりました:
「ヴラド伯爵領の問題を解決するために、大量の人狼を我が領に帰属する民として招き入れる他ありません。軍属となる者が多くなるとは思いますが」
敢えて軍属という単語を強調しておく。
もちろん我が領地に入れてから、個々の希望をなるべくは反映させるつもりだけど、人狼の強靭な戦闘力を軍として活かさないわけにはいかない。傭兵たちの攻略の目が、いつ俺の街に向くかわからないからだ。それまでになるべく準備はしておきたい。
「どちらにせよ難民の受け入れには、食費や寝床、施設の拡充など、様々な面で経費が必要となります」
人狼をどのように扱っているか、吸血鬼側から見ても状況がわかりやすいように、なるべく人狼は一つの組織にまとめておくつもりだと仄めかす。
もちろん軍でなくとも、これだけの人狼を養うのであれば初期費用は馬鹿にならない。
しかし仮に難民として受け入れるのであれば、初期費用はかかったとしても人狼たちの生産性はおそらく高い。最初の投資に見合う以上の利益が俺の領に転がる可能性もある。
だが敢えて生産性の低い、敵戦力に対する武力として人狼たちを限定的に活用するつもりだと意志表示をしておく。汎用性の低い軍は金がかかる。
そしてその軍事力の生殺与奪権は、ヴラド伯爵領次第である、と伝える。
「恥ずかしながら、まだまだ若輩の伯爵である身。領地経営的にも金銭的余裕はヴラド伯爵領よりありませんよ」
さてさて、少しは先輩風を吹かせないと面目が立たないのではないかな?
仮にも後輩伯爵が譲歩して、救いの手を差し伸べているのだから。
「いかがでしょうか、ヴラド伯爵。愚かな後輩を助けると思って、条件を呑んでくれはしませんか?」
見方を変えると、吸血鬼にとって危険な存在である人狼を、自らの手で養っているようにも思えるだろう。どうして自分達が敵対する勢力に金を払う必要があるのかと。
しかし、この軍事力はそちらの援助があって成り立つもの。であるならば今後、不条理な態度でタロ伯爵領とヴラド伯爵領が関係を結ぶのはありえない。また、こちらが力押しでそちらを攻め立てる利益がない。
なぜなら良好な関係を築けなければ、人狼という軍事力を懐に入れても維持できなくなるからだ。
お互いがウィンウィンな関係を保ててこその盟約だろう。
こちらは街の統治とか面倒なことは嫌だから、金だけくれと。
あちらはその見返りとして今の現状を俺に改善してもらう。
後に資金援助が打ち切られたなら、人狼たちを軍事力以外にも活用するつもりだ。そもそも打ち切られる頃には、完全に援助金など必要もないぐらい自領を豊かにしていればいいだけのこと。
「利益のためなら、手綱はしっかりと握りますよ。今は俺が人狼たちの支配者です」
俺がこの街の人狼たちを制すれば、人狼の牙や爪が吸血鬼に向かないように監督しますとも。でなければ、そもそもこんな交渉事はしない。
:ヴラド伯爵の信頼度+30になりました:
これまた一気に上昇したなぁ。
「感服。タロ伯爵殿にはこの街の簡易的な支配権と、定期的に金銭援助を実施いたす」
ほぅっと溜息をつき、次いでヴラド伯爵は清々しい笑みを浮かべてくれた。それから両脇に整列していた自身の配下に向けて、左右に手をかざす。
威厳と洗練さが研ぎ澄まされた動き、支配者たる態度で一歩前に出る。
俺もそれに合わせて右足、左足の順に一歩分を進む。
そうして彼は無言で自身の右手を噛み、血を垂らした。
ぽたりとこぼれた緋色の液体は空中に落ちる途中で霧散し、漆黒の霧となって俺の身体を吹き抜けた。
次に真っ赤に輝く魔法陣のようなものがヴラド伯爵を中心にいくつも浮かびあがり、それらが激しく明滅しだす。
「タロ伯爵に、我、ヴラド伯爵は恭順の意を示す」
「ん……?」
急に畏まって頭を垂れるヴラド伯爵につい戸惑ってしまう。
「敬服、さすがはイグニトール女王陛下の妹姫さまですな。これを機にヴラド伯爵領は、タロ伯爵殿の間接統治領になる。みなの者、タロ伯爵には我以上の敬意を払うように!」
んん……?
「これより! 妹姫タロ伯爵殿にこの街の命運を託す! みな、【血盟の聖少女】に惜しみない協力を頼むぞ」
:【感染都市サナトリウム】の間接支配権を手に入れました:
:都市内のNPC兵士と吸血鬼を好きに従えることができます:
:今後はNPCヴラド伯爵を通して【感染都市サナトリウム】の統治を行うことができます:
:ヴラド伯爵がキルされない限り、24時間毎に1万エソが支給されます:
:街の状態が良好になれば支給額が増えます:
:称号【血盟の聖少女】を獲得しました:
:称号【血盟の聖少女】:
【吸血鬼の王が、血の契りを結んだ相手に送る称号】
【取得条件:猛る人狼の理性を取り戻す、処女の清らかな血が流れる者にしか贈られることはない】
【効能『吸血鬼化』:瞳の色が深紅に染まり、鋭い八重歯が伸びる】
【効能『吸血』:与えたダメージの10%を、自身のHPへと還元する】
【効能『同胞輪廻』:種族 吸血鬼の全ステータスを1.2倍にする】
【効能『聖女』:回復アイテム、回復スキルを使用した際、回復値が1.2倍になる】
【これら四つが称号をセットすることで常時発動する】
この称号はかなり嬉しい。
それに結果も大大、大満足! のはずなのに……。
なんだか大きな流れに首を突っ込んでしまっているようで、溜息が出てしまう。
自分の手でこの巨大な勢力を制御しきれるのか、一抹の不安を感じる。
それでも現実が大変になっているのなら、俺にできる限りのことはしたい。
現実で人間がゾンビになるだとか、怖すぎるだろう。早くどうにかして、この事態を解決したいという気持ちは本心だ。
そのためにも、これは必要な交渉だったと思う。
「つ、つかれたなぁ……」
ほんの少しだけ、この小さな身体の双肩にかかる重みが増えたように感じた。




