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268話 天使の争奪戦

錬金青年×女子高生×狡猾少年


それぞれの視点です。




 白銀の天使と呼ばれるタロという傭兵(プレイヤー)

 あれは危険すぎる。

 あの可憐なお耳と、ちょっと小悪魔的な牙は危険すぎたのだ。


 まさか人狼(ライカン)の最上位種までも手懐け、新種の細菌(ウィルス)で人狼たちの種族進化を行っていたのだ。

 彼女の脅威はそれだけに終わらない。


 人狼(ライカン)たちを統率できる存在と認められ、あの吸血鬼(ヴァンパイア)ども自ら(あるじ)の元へと招く運びとなってしまったのだ。『感染都市サナトリウム』の支配者NPC、ヴラド伯爵の元へ嬉々として向かうタロの横顔は――

 それはそれは天上の女神のように美しく、純真な心で心底ゲームを楽しんでいそうな……いかん、私が毒されてどうする。


 とにかく、あんな簡単に都市の支配者と接触できるなんて前代未聞だ。

 このままでは我々の計画に大きな支障をきたす恐れが出てきている。

 私は中層での一部始終を見届けたあと、早急に『秘密結社(セクレト)化学式遺産帝国(リーベレガリア)』のアジトへと向かった。



「おぉー! ゴッホ君! おかえりおかえり!」


 最初に私の帰還を出迎えてくれたのは秘密結社の団長、ゲンナイ・ヒラガだ。

 チリチリ頭の眼鏡男で、イケメンでもブサイクでもない微妙な容姿の持ち主が、私の肩をぽんぽんと叩いてくる。


「どうだったかね、どうだったかね。我らの細菌感染は!」


 本人は慰労を込めてるつもりの動作なのだろうけど……ちょっと鬱陶(うっとう)しい。

 妙になれなれしく、そしてこのコミュニケーション能力の高さで一癖も二癖もある結社メンバーをまとめあげるこの男は、通称『錬金術以外は何でもできる男』と影で言われている。



「それが少々、問題があります」

「ほ、っほう。それはエレキテル! エレキテルであるな!」


 全身に電流が走ったかのように妙な動きを見せるこの男に、やはり私は眉根(まゆね)を寄せるしかない。

 失敗から成功が生まれると信じてやまないこの人の元に集ったのは自分の意思だ。しかし、反りが合わないと感じる時もある。


 特にこういった切羽詰まった状況であるとき、この男は悠長に構え過ぎてる節がある。

 そこが(ふところ)が深い、と判断するメンバーもいるが私はそうは思わない。こういう時こそ早急に解決策をうちたて、少しでも成功率を上げるための行動を取るべきだ。



「あーん? 第二班のゴッホが戻って来たって?」

「おーん? どうせ、卑屈ぜんぶっぱの報告でしょー?」


 ヒラガの声を聞いて、研究室から顔を出してきたのは髪を肩口まで無造作に流している姉妹だ。

 手には冶金(やきん)の研究でもしていたのか、武骨なトングを握っていた。金属ときたら目のない彼女らだが、逐一私につっかかってくるのは非常にマイナスポイントだ。


 しかし、この第三班のアイ()アン()はなぜか私以外の男受けが悪くないのだから納得ができない。

 通称『ちょいブスだけど逆にそれがそそる』程度の容姿を持つ。

 大方、胸についているご立派な双丘が一役買っているのだろうな。


「『どうせ私達じゃ、あいつらに勝てないー』って」

「『錬金術と私を馬鹿にした全ての奴に報復だ~!』」


「おい、それは誰のものまねだ?」


 おどける姉妹を睨んでやる。



「あーん? あんたのよ、ゴッホ」

「おーん? 通称『錬金術はそつなくこなし、人望もそつなく失う』の第二班、班長さん?」


「っち、自らの力で何の成果を上げられない現状に満足している低能に用はない」


 姉妹を無視する勢いで団長のヒラガへと向き直る。こんなのを相手にする時間がもったいない、事のあらましを説明しなければ。



「あーん? ま、例の『狂化彩菌(ウィルス)』は確かにうちらの【秘密結社(セクレト)】が作ったわけじゃないからね。そーう言われても仕方ない?」


「おーん? ヒラガ団長が、妙なNPCからもらったんだっけ? 用途がわからないからって『水門回廊アクアリウム街』の水路にボチャンしたら、今の細菌感染(パンデミック)って流れだもんね?」


 そうなのだ。

 なぜ、もっとその彩菌に関して研究しなかったのか……少しでも何かが解明できていれば、あの白銀の天使が使っていた未知のウィルス作成法にも追いつけたかもしれないのに。


 悔やんでも悔やみきれない。

 そんな大惨事と大損失を起こした張本人(ヒラガ)は、呆気らかんと清々しく笑っているし。


「はっはー! その妙なNPCは【創世の錬金術士ノア】と名乗っていたぞ! やはり錬金術とは偶然と失敗が絡み合い、数奇なる運命を紡ぐからやめられんなぁ!」


 あんた、(ろく)に錬金術やってないでしょう。



「ふぅっふぅーッ……み、見てくれ、こ、この……」


 私が団長に内心でツッコミを入れてれば、不意に視界を大きく塞ぐ人物が現れる。

 そいつがいるとわかっただけで、室内の密度と温度が増した錯覚に陥るのは無理もない。


「み、見てくれ、ゴッホ。お、俺のゴーレム(よめ)を!」


 横にも縦にもでかい太っちょのこいつは、第四班の照山(てるやま)

 通称『嫁作りにご執心の(アブラ)ッシュ』と言われている彼は、自身のテカッたおでこをひとなでしながら、私に自作の土塊を見せてくる。

 全長30センチほどの精巧に創られた小さな女の子の土人形だ。


「…………い、いいんじゃないか?」


 照山は土人形(ゴーレム)の研究……ゲーム内でフィギュア作りに精を出している馬鹿だ。

 しかし、こいつの研究は馬鹿にはできない。このフィギュアを動かしてイチャイチャするのがこいつの最終目標らしいのだから。使用目的はともかく、土人形を自在に操る研究は非常に興味深い。


「あーん? キモい」

「おーん? キモッ」


 アイアン姉妹は二歩ほど下がって、照山を虫けらのような目で眺めている。

 そんな四人から私は更に四歩ほど距離を空ける。そろそろ苛立ちを浴びせてくる、やかましい輩が現れるパターンを察知しての行動だ。


「うるさいぞ! (ちん)が研究に没頭している時は! (ちん)の研究室前では静かにするようにと、(ちん)が厳命しておいたろうに!」


 第五班の研究室のドアが勢いよく開く。

 そこから出て来た、頭に剃り込みの入ったイカつい男が声を荒げながら照山をどついた。しかし、照山はそこから一歩も動かず、照山のぜい肉がぶるんっと揺れたのみで終わる。


「この(ちん)の心穏やかな研究空間を邪魔するつもりか! この愚民共め! 黒き天啓が(ちん)の呼び声に舞い降りたというのに! このッ(ちん)が……ブツブツ……」


 ゆったりとした中華風の長衣に身を包んだこいつは、第5班のリュウホウ・ザ・エンペラー。

 通称『ちんちん』。




 私は(おも)だったメンバーが集ったところで、白銀の天使に関する情報を余すことなく語る。

 そうして全員が彼女の話を聞き終えた後は、歓喜に打ち震えているようだった。

 やっぱり、こうなるか。



「ハッハッハー! 最高じゃないか! 最高の錬金術師じゃないか!」


 ヒラガはべた褒め。


「あーん? 見た事無い刀を持っていたって、すごい逸材じゃない?」

「おーん? オリジナルの冶金(やきん)術をやってるんじゃない?」


 アイアン姉妹は彼女が持つ刀と、それに使われた素材にご執心。

 


「ふぅー……お、お、俺の、人形より、遥かに精巧な人形を操っていた? ふぅぅぅぅー!」


 照山は、白青(はくせい)ドールに興味深々だ。



「身体の一部を獣身化させていた? (ちん)の、(ちん)の、黒魔術と! キメラ合成に通ずる研究を成功させし人物だと?」


 リュウホウ・ザ・エンペラーは一度も達成できたことのない、自分の研究分野の先を行く彼女に驚愕していた。


「決まりだぞ! ゴッホくん!」


 満面の笑みで、我らが団長ヒラガは全員を順に見渡していく。


「他の傭兵(プレイヤー)たちから使えないと弾圧され、(さげす)まれた、我ら錬金術師の力を証明するために……【水門回廊アクアリウム街】を【感染都市サナトリウム】へと変化させた」


 ヒラガは特に何もやっていないけれど、それでも自信たっぷりに演説を続ける。


「後々は我らがまいた彩菌(ウィルス)が、あの街を浸食し! 果ては支配者NPCであるヴラド伯爵の喉元まで迫ると確信している! そうなればヴラド伯爵を殺したのは我らも同然、さらに支配権は我らのもの! そう、あのひ弱な錬金術師と蔑視(べっし)された我々の力が、支配者を仕留めるに至ると証明できるのだ!」


 だが、とヒラガは一拍置いた。


「だが、この悲願を確実なものとするためにも!」


 後に続く言葉は容易に予測できる。


「その白銀の天使くんを、我らが『秘密結社(セクレト)化学式遺産帝国(リーベレガリア)』に引き入れようぞ!」


 もちろん、誰も反対しなかった。

 私としては憎いだけの相手である。しかし、彼女を利用できるのであれば、それは都合が良い。


 決して! あの天使の美しさに惚れこんでしまったから、メンバーに彼女の凄さを誇張して語り、仲間に入れようとする流れを誘導したわけではない。

 あんな幼い少女の戦う姿に、私がそんな恋慕など、心を奪われるなんてことはない!


 脳裏にチラつくは、銀光の両耳(もふもふ)を揺らしながら、可憐に美しく戦う…………彼女に苛立ちを覚える。

 くっ、しっかりするのだ、私!





「さぁみんな! 帰るよ!」

 

 恐竜みたいな二本足で立つトカゲが力なく、その巨体を地面に沈めるのを見届けて号令をかける。

 現時点で最高ランクのモンスター、肉食獣アロダイナソアを3匹討伐した団員たちはホクホク顔ね。


「「「了解です! 子龍(しりゅう)さん!」」」


 最初は右も左もわからなかった子達だけど、うちの団員たちはいい具合に成長してきてる。

 今回の討伐遠征は総勢80人で出張って来た甲斐あって、まだ戦闘に不慣れな団員たち込みでも、エネミーを危なげなくキルできた。

 もはやうちらの事を『烏合の衆』なんて呼べる傭兵(プレイヤー)はいないはず。


 クラン・クラン内でも有数の大規模傭兵団(クラン)に膨れつつある『大団縁(だいだんえん)』のみんなを見つめ、私は少しだけ誇らしく思う。

 最初は現実(リアル)の友達数人だけで作った傭兵団(クラン)が、今では『首狩る酔狂共』や『獄戦練磨の獣王国』を差し置いて、【軍格】に最も近いと言われるようになったんだから。



「ほんと、わからないものだよねー……」


 1100人以上の団員を持つ『大団縁(だいだんえん)』の団長を、私なんかがやってるって思うと、たまに現実味がなかったりする。

 そんな軽い物思いに浸っていれば、聞き慣れた声が隣で不意に響く。


子龍(しりゅう)ちゃーん! すごい情報を仕入れちゃったよ!」


 友達、クラン・クラン(ここ)では団員の継子(ままこ)が私に興奮気味で語りかけてくる。

諜報スキル、盗賊系統のスキルに特化してるこの友人は、うちの団にとっていつも有用な情報を仕入れてきてくれる。彼女の後ろには5人の傭兵(プレイヤー)たちが影のように付き従っては、発言を控えている様子。

 よく見る顔だったから、諜報部門の傭兵(プレイヤー)の中でも選りすぐりを集めて行動していたようね。そうなれば必然的に危険な場所からの情報収集、そしてそれだけ継子(ままこ)の関心を引くものだったと判断できるわね。

 

「どうしたの継子(ままこ)。あなたがそんなに楽しそうに報告してくるのって久々じゃない」


 今回、彼女は狩りに参加せずにどこかに行っていた。わざわざここまで来てうちに情報を話したいって事はそれなりに大きな案件なのかもしれない。



「白銀の天使ちゃん、やっぱりすごいわよ」

 

 あー、あの面白いって噂の子。

 実は私も前々から気になってはいた。


「それって、例の現実改変に関わってそうな、あの子よね」


 少しずつ世界が変になっていて、天皇さまがいなくなって、代わりに炎皇家なんてのが台頭してきて……偶然にもテレビで見かけたのは、皇太子さまにプロポーズされてた銀髪の美少女。

 その容姿と一寸の違いもない傭兵(プレイヤー)がいると、一部の傭兵(プレイヤー)たちの間で噂にはなっていたっけ。


「うんうん。その白銀の天使ちゃんが、『獄戦練磨の獣王国』率いる連合パーティー約150人を1人で圧倒しちゃってさ! もう、ほんとにすごかったよー!」


「1人で150人!? それってチートじゃない!」


「んん~正確には『首狩る酔狂共』の数人と、所属不明の傭兵(プレイヤー)数人と、人狼(ライカン)数十匹と一緒にって感じ?」


 白銀の天使が『首狩る酔狂共』の団長シンの庇護下にあることは知ってたけど……。

 

人狼(ライカン)?」

「うんうん! で、すーっごく可愛い獣耳っ娘に変身しちゃってさー、ぐぁーって敵をどんどん倒していったんだよ!」


「なにそれ、どんなスキルなのよ。うちのスキル『龍化(ドラゴラ)』とは違うの?」


「んん……なんとか術って言ってた。ごめん、その辺は上手く盗み聞きで(聞き取れ)なくて。なにせ、すっごい激しい戦いで、私達も逃げて生き残るのが大変だったんだもーん。【冷血なる人狼(リカント・ライカン)】怖すぎってね」


 わたわたと両手を動かし、戦場の悲惨さを表現する継子。

 うちはそんな彼女にそっと優しく手を乗せる。


「ふぅん……情報、ありがとうね。ねぇ、継子(ままこ)

「なに? 子龍(しりゅう)ちゃん」


 私は友達の目をジッと見つめて、姿勢を正す。


「現実改変、やばくない?」

「あー……関東の一部都市で起きてる、謎の細菌感染ウィルス・パンデミック?」


「うん……うちの親戚が住んでる近くなんだよね……普通の人間が食人鬼(グール)になってゾンビみたいに暴れ回ってるの……それに狂犬病? みたいのも流行(はや)り始めてるらしくて……」

「このまま全国でそんなのが発生したら、確実にやばいよねー……」



 白銀の天使。彼女が直接の原因というわけではないのだろうけど……少なからず関わっているのは間違いない。これまでの現実改変の流れを見ても、継子(ままこ)からの報告ではたまに彼女の影を目にすることがあった。


 彼女が妖精を召喚し、使役する姿を見た者がいる。

 世界に妖精なんてのが当たり前のように存在していたと伝わる夏祭り。


 彼女がボスキャラ『剥製(はくせい)の雪姫ブルーホワイト』を傘下に治めたあたりで、現実では介護人形なんていう驚きの機能満載な商品が発売されるようになった。


 ゲーム内でイグニトール女王と親しく、妹姫(まいひめ)などと呼ばれている彼女。

 現実では日本のトップ、炎皇家の皇太子さまにプロポーズされる間柄。


 そして今回、【感染都市サナトリウム】の食人魔(グール)人狼(ライカン)……謎の病原菌が猛威をふるい、罪のない人々が次々とゾンビみたいになっている……その現場で人狼(ライカン)を仲間にしては大暴れ……。


 今までは『首狩る酔狂共』に保護されている彼女に、余計なちょっかいをかけるのは(はばか)られていたけれど……私達『大団縁(だいだんえん)』もPvP最強と言われる傭兵団(クラン)と同じぐらいの影響力、いや、それ以上の力を持つに至ったと思う。


「その白銀の天使って、まだ傭兵団(クラン)は無所属なの?」

「うん、そうだよー」


 彼女の行動が何かしら、現実改変の鍵を握っているのかもしれない。

 だとしたら、手元に置いておきたい。

 それにゲーム的にも彼女1人で、大幅にうちの傭兵団(クラン)は戦力を増大させることができるし。



「……白銀の天使、欲しいなぁ」

「だよね! だよねだよねっ! 子龍ちゃんに賛成~! どうするの!? 戦争!?」


「んん……継子(ままこ)、落ち着いて」



 できれば一緒に、この狂った世界を……。

 私達以外、認識できないおかしな状況を……一緒に生きれる仲間が欲しい。


 所詮、学生の身で何ができるのかって。変わっていく世界を目の当たりにしながら私達はずっと縮こまってた。せめて仲間をいっぱい増やそうって団員を募っても、どうにもならなかった。


 でも……彼女は違うかもしれない。

 あれだけ現実改変の内容に関わっている白銀の天使だからこそ、私は彼女が現実改変を認識できる人間なのかもしれないと希望を抱いてしまう。


 そんな相手に無理矢理、うちの傭兵団(クラン)に入って一緒に遊べ! なんて迫ったら、今後を考えれば良好な人間関係は築けないはず。


「……うちらさ、寂しいよね」

「あー……うん……それは、ね……」



「不安だらけで、周りの大人に何言っても相手にされなくてさ……」

「……うん……」


「逃げるようにゲームに没頭しちゃってさ」

「……子龍(しりゅう)ちゃん……うん、わかった」


 継子も私が何を言いたいのか理解してくれたようで何より何より。

 だから継子と二人でそっと抱き合った。



「なるべく、派手な戦闘は控える方針で――」


 うちらは、このクラン・クラン(せかい)で手に入れたい仲間は全員、手に入れて来た。


「白銀の天使を、うちに入るような流れを作るわよ」


「よしきたぁー! さっすが子龍ちゃん!」


「あんたも手伝うのよ、継子」

「もちろんですとも~!」


 大丈夫。

 うちと継子(ままこ)なら、きっと。

 とっても可愛くて、とっても強くて、たくさん仲良くできる新しい仲間を手に入れられる。





「おい、ヴォルフ。またあの白銀の天使が派手にやらかしたらしいぞ」

「ヴァイキンか……フン、あの女がやらかすのはいつもの事だろう」


 傭兵団(クラン)『一匹狼』の大人殺しを集めた会議で、副団長のヴァイキンがそんな事を言い出すものだから……フン、ガキ共が目をキラッキラッさせてやがる。


「タロさんが!?」

「今度はどれだけの大人をキルしたんだ!?」


 あいにくと15歳以下の子供傭兵(プレイヤー)ばかりの団内では、白銀の天使の人気は絶大だ。

 あいつと結んだ約束で、あいつはたまにうちの団員の面倒を見に来てくれている。その見てくれの良さもそうだが、何かと面倒見のいい優しい奴なのだ。

 それもまぁ俺の策略のうちなのだけどな。


 あいつにはいずれ、うちの傭兵団(クラン)に入ってもらう。だが、悔しいかな、あいつ相手に無理強いはできない。それなら、うちの可愛い可愛い最年少グループたちと交流を深めさせ、情を沸かせるって寸法だ。

 お人よしの白銀の天使なら、8歳グループが窮地に立たされれば駆けつけるだろう。まぁ俺が団長である限り、そんな事態に陥りはさせないが。汚い大人共の手から子供を守るのが、俺の役目だ。

それとは別に、うちの可愛いガキ共が甘えれば、奴は断わりきれなくなるはず。それほどまでに親密になれば、こっちのもんだ。



「ヴォルフ。余裕かましてる場合じゃないぞ。なにやら、きなくせえことになってんぜ」

「フン、言ってみろヴァイキン……」


傭兵団(クラン)大団縁(だいだんえん)』が、怪しい動きを見せてるっつう話だ」

「……それで?」


 ヴァイキンはドでかい図体を落ち着かなそうにしてゆすり始める。

 こいつのこの癖が出始めた時は本気で焦っている証拠だ。


「奴ら、どうやら白銀の天使を仲間に引き入れようとしているみたいだ」

「PvP最強様の『首狩る酔狂共』、上位生産職集団『サディ☆スティック』、至高の鍛冶師たち『武打ち人』たちの目はどうした」


「白銀の天使を保護してるっつぅそいつらも、結局は各傭兵団(クラン)のお偉いさん方が中心だ。クラン・クラン内で一、二のでかさを誇る『大団縁』を相手に末端までの総力戦となったら……わからねぇぜ……」


「フン……それに奴らは、数の優位さを利用した絡め手を使うのが得意だからな」


 白銀の天使、あいつに先に目をつけたのは俺達『一匹狼』だ。

 かっさらわれる前に、こちらも動き出すとするか……。


「ガキ共、1時間後に全員集合を呼びかけろ」


 俺は大人殺しを担う、団員内でも腕利きの奴らに慎重になって言う。


「いいか、どんなに挑発されようと先に手は出すなよ。俺達子供傭兵(プレイヤー)は、こちらから攻撃さえしなければダメージ無力化というルールで守られている。その武器を最大限に活用して、白銀の天使を守り抜くぞ」


「「「はい!」」」


 元気のいい返事だ。

 ったく、こいつらの純真無垢な表情を見てると、こっちまで調子が狂ってしまいそうだ。

 憧れの白銀の天使が『一匹狼』に入る、そう期待しては喜んでいるガキ共に……不安げな顔は見せられない。

 俺は一人、アジトから出て外の空気を吸いに行く。


 なんとなく上を見上げれば、分厚い雲が空の蒼を飲み込んでいくのが目に入った。

 もうすぐ嵐が訪れそうな空模様に舌打ちをする。



()れそうだな……」





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