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264話 最強の教えを継承せし錬金術士

書籍版2巻の執筆作業ががががが


だいぶ、だいぶウェブ版とは変わっちゃいました~!

お楽しみに!

そして更新お待たせしました……!





「え、大したことない……? 精霊獣の召喚が……?」


 先程のやり取りで何故か腑に落ちないといった様子を見せる赤帽子ちゃん。わざとらしく身体をよろめかし、まるで何かに酔っているような仕草だ。

 こちらこそ納得がいかない。

 どうしてそんな余裕をかませるのかが不思議でならない。


「……最強と言われた、この自分が? 大したことない……?」


 俺という敵を前にして、それほどの自信があるという事なのだろうか。

 ならば、敵の準備が整うのを待ってやる義理はない。その慢心が致命的なミスを犯すのだと、身を以って教えてやろうではないか。


 まずは手っとり早く本体を潰そう。

 そう算段をつければ、攻撃の合図を口ずさむ。


「ブルーホワイトたん、やって」


 ちょうど赤帽子ちゃんの真上、建物の屋根に潜ませておいた相棒に号令を送る。

 あのジョージを一撃でのした拳を持つブルーホワイトたんなら、召喚術がメインの後衛職である赤帽子ちゃんを砕くのは容易いだろう。


 華麗に赤帽子ちゃんの頭上より飛来した青と白の隕石は、地面に激しい亀裂を生む。

 疾風となったブルーホワイトたんが振りかざした拳は地面に衝突したのだ。それが意味するのは、赤帽子ちゃんが攻撃をかわしたという事。

 そこは伊達に自分を最強などと呼称し、最強という名にひたっているわけではないと。



「2連、『スーパーボール』!」


 地面をズササーッと転がりながらも彼女は何かを二つ投擲(とうてき)したようだ。

 あちらの狙いも俺と同じだったようで、本体となる俺を最初からターゲットとして定めている。明後日の方角、周囲の建物へと投げられた弾丸は直角にバウンドし、二つともが俺めがけて接近していた。


「なめるなよ」


 こちらも伊達に素早さ特化でステータスを上げてない。瞬歩の勢いで前進し、難なく投擲物を避けるのに成功――

 そう確信し切っていた俺に、相棒(フゥ)の鋭い声が響く。



「たろん! 危ない!」

「ん!?」


 俺の背後で瓦礫と瓦礫、つまりは赤帽子ちゃんが投げた物同士がぶつかり、それすらもグニュンと反発し合って片方が俺の背中へと迫っていたのだ。

 ビュンッと風切り音が頬を掠める。

 ギリギリのところで【緑と風の絶姫(ジン・レギナ)】であるフゥの風力によって軌道を逸らし、回避できたが冷や汗ものだ。


「『ハイパーボール』!」


 続いて赤帽子ちゃんは50センチ前後の瓦礫を真正面から投げつけて来た。これは横に避ければ良いと判断した瞬間、投擲物が一気に肥大した。まるでこちらに避ける場所なんて与えない、そういった意思が窺えるほどの圧迫感が迫る。

 大きさは岩を超え、二階建てくらいの家そのものだ。


「フゥ、俺を飛ばして!」

 

 横に避けきる事はもはや不可能、ならば上か下がある。そして俺にはそのうちの一つが選択肢の中にあるのだ。


 上空へと猛スピードで飛翔し、空中で一回転を決めて地上を見下ろす。

 巨大化した瓦礫を難なく(かわ)し切った俺の目に映ったのは、白獅子とブルーホワイトたんが激しい攻防を繰り広げ、そのすぐ傍で赤帽子ちゃんがこちらを隙なく観察している姿だった。



「どうした? 届いてないぞ、最強とやら」


 お前の攻撃なんて、俺を捉えることはできない。そんな意を含む安い挑発を飛ばせば、赤帽子ちゃんは足元にあった瓦礫を掴み、さらなる投擲の準備動作へと入った。


 だが、それこそが俺の真の狙い。

 彼女の意識をブルーホワイトたんに向かせることなく、俺に集中させれば良い。


 導き糸を両の手に張り巡らせ、ブルーホワイトたんへと瞬時に繋ぐ。そうして赤帽子ちゃんのちょうど背後で白獅子と奮戦する相棒へ、ギミックの発動を促す。


 俺が選んだのは魔法式ギミック『魔氷の吐息』だ。



 導き糸がブルーホワイトたんの顎を下に傾ければ、形の整った口がパカリと開く。そこから極寒の風が吹き荒れ、瞬く間にしてブルーホワイトたんの周囲を氷漬けにする。『氷花』のような優雅さなんて1ミリもなく、ただ純粋に寒さによって命を奪おうとする氷の猛威が白獅子と赤帽子ちゃんを襲う。

 広範囲に渡る氷結化は、さっきみたいに赤帽子ちゃんを容易く逃すはずはない。

 そしてこのギミックに物理防御は意味を成さない。魔法防御力のみがそのダメージを和らげることができるのだ。つまり姉の双剣による猛攻を受け切った白獅子の体毛でも、さすがに魔法防御力まで高くないだろうと見込んでのギミック。

 傭兵(プレイヤー)である赤帽子ちゃんなら、なおさらだろう。俺の相棒による死の吐息を防ぎきる耐久力は持ち合せていないはずだ。



「……白鷲(かぁくん)、ありがとう」


 しかし、俺の予想はまたもや裏切られた。

 白氷に煌めく霧から抜け出した赤帽子ちゃんは空を飛んでいたのだ。否、右腕を白い大鷲(おおわし)に掴まれ、飛翔していたのだ。


 獅子の次は鷲か。と感心しつつも、戦果は上々だと判断する。

 白獅子は半ば身体が氷に埋まっているので当分は身動きが取れないだろうし、相手は完全に後手後手に回っている。



「…………空を飛べるのは君だけじゃない……」


 俺が地面に着地し、今度は赤帽子ちゃんが見下ろす状況へ。先程とは逆の位置になったことをふまえ、戦略を立て直す。空中にいるというのは、上から攻撃を一方的に浴びせるにはとても有利な位置だ。しかしその反面、遮蔽物がないわけで、速度によってこちらの攻撃を躱す手段しか残されていない。

 点での攻撃はもちろん命中させ辛い。しかし面制圧での攻撃なら話は違う。

 さほどの高度を有していない赤帽子ちゃんに対し、俺はフゥへと語りかける。


「思いっきり、やっちゃって」

「あいあいさ~! タロんのぱわーいっぱい吸っちゃうよ~!」

「いいよ」


 急激なMP減少に備え、『森のおクスリ』を使用しておく。


「……来て、白犀(らいちゃん)……」


 相手もただ防戦で終わるつもりはないようだ。何かをさらに召喚する腹積もりなのだろう。

 ならば俺は次の一手に備え、『失落世代の懐中時計』をジャラリと下げる。


 選ぶべき、古代神獣の化石は――

『地殻の巨獣アースガルド【一本角】』だ。


 赤帽子ちゃんの召喚、俺の融合化、どちらが先に発動するか。

 結果はどちらでもなく、先手を取ったのは『緑と風の絶姫(ジン・レギナ)』だ。



「『蒼穹の愚者よ、汝の自由は我が傘下にあると知れ。螺旋の迷宮にて、自らの傲慢さによってその双翼を手折(たお)るがよい』」


 フゥの真面目な詠唱が鳴り止むと同時に、赤帽子ちゃんの真下から風の螺旋が生じる。それは周囲の瓦礫や建造物を絡め取るほどの威力で、すぐさま巨大な竜巻へと変化した。

 街の中に突如としてそびえ立つ風の柱、その脅威は他の傭兵(プレイヤー)たちをも巻き込み、瞬く間に悲鳴の渦が蔓延する。


 赤帽子ちゃんも他人事ではない。白鷲が宙を飛んでいる限り、風の流れに抵抗するには限界がある。

 白鷲は必死になって竜巻に引き寄せられないように翼をはためかせているが、徐々に徐々に渦へと近付いている。この風力、不思議な事に俺やブルーホワイトたんには効力がないようで、味方を認識した大範囲技らしい。


「……白犀(らいちゃん)、やっちゃって!」


 苦し紛れに呟いた彼女の言に呼応するかのように、俺の近くの空間が怪しく歪む。光がうねり出したかと思えば、高さ4メートルはくだらない白(サイ)が姿を現したのだ。

 巨大すぎるその体躯に、得体の知れぬ圧力を感じる。

 ぶっとい角をこちらに向けて、重量感たっぷりのサイがこちらへ突進を敢行したのは言うまでもない。


「おもしろい」


 竜巻に飲み込まれるか、サイの餌食となるか。

 赤帽子ちゃんと俺、どちらが先にやられるかという勝負に持ち込んだというわけか。


 しかし、これは勝負にすらなっていない。

 俺が選んだ神獣化石の効力を思えば当然の帰結である。



『地殻の巨獣アースガルド【一本角】』

【大地に眠る巨獣の頭部に生えた角。直径2メートルの長さから、その巨体は推し量れる。その角は土壌を自由に操る魔力が備わっていたと判明している。アースガルドの生息数は多かったものの、性格が非常に温厚だったので滅多に地中から出てくることはなかった】



 今や、神獣と融合を果たした俺の頭部には2メートルまではいかなくとも1メートル近い角が生えている。この角には土を操るための莫大な魔力、MPが内包されている。そして先程から流れているログを見れば、迫りくる白(さい)のいなし方などいくつもあったのだ。



:【時計の記憶】に『地殻の巨獣アースガルド【一本角】』が記録されました:

:ステータス物理防御+2400 魔法防御+1000 MP+700 素早さ-1500 (知力ボーナスE):


:エクストラスキル【寝ぼける地殻獣】が使用可能になりました:

:『地割れ(クラック)』『大地の小山作り(アース・ウォール)』『体重多重層(ヘビィ・ヘビィ)』:



:融合可能時間は40秒です:

:再度『地殻の巨獣アースガルド【一本角】』の生物データによる融合化をするには3時間が必要となります:



 この通り『地割れ(クラック)』で地面を変革させ、白(サイ)を転倒させる手もある。『大地の小山作り(アース・ウォール)』で土壁を作り、突進を防ぐことも可能だろう。

 だが俺は敢えて、二つの選択肢を取ることはなかった。

 最も単純で、最も簡潔かつ完結的手法を選ぶ。


「『体重多重層(ヘビィ・ヘビィ)』」



 角に込められた魔力の消費量によって、俺の体重を変化させるというアビリティを発動させる。

 目前に迫る白(サイ)の体重はおそらくだが5トン以上はあるはず。

 対抗するべく自身の体重を1トン、2トン、3トンとあげていけば、足元がミシリと嫌な音を響かせ始める。だが、俺は構わずに4トン、6トン、8トンと体重を上昇させる。


 そしていよいよ、12トンになった頃になって白(サイ)の、傍目から見れば破壊力抜群の突進が俺へと激突する。小さな少女と巨大なサイの衝突は、誰がどう見ても少女が粉々になるという未来図しか見せなかったはず。

 しかし、結果は別だ。



 俺は片手で白(サイ)の角を受けとめ、何事もなかったかのように立ち続けていた。


 もちろん角による直接攻撃は避けられても、サイの全身の勢いを止められないので巨体が俺にぶつかるのは自然。それでも今の俺の重さではビクともしない。ちょっと足に力を込める程度で、猛進すらも止める事が可能なのだ。


「こんなもんか」


 実験結果(・・・・)がわかれば、無味な感想が口からこぼれる。

 ステータスの変化である【防御力+2400】がどれほどのものかと、 白(サイ)の突進を敢えて受け切ってみたものの、俺へのダメージはたったの30前後だった。

 とても固いな、うん。



「あり、えないだろ?」

「タンクでもない、あんなちびっ子が……あんな馬鹿デカイのをどうやって……」

「最強かよ」


 周囲の傭兵(プレイヤー)たちが愕然としたくなる気持ちもわかる。

 しかし、実はタネを明かすと素早さが下がりすぎてこの場から動けないのだ。亀のようにゆったりと移動する他なく、つまりは土を操る以外に攻撃方法がないのが『地殻の巨獣アースガルド【一本角】』の正体である。

 それを相手に言ってやる義理はないので、おもいっきり余裕たっぷりな笑みを顔面に張り付けておく。

 そうして竜巻へと吸い込まれる赤帽子ちゃんをゆったり眺める。



「……そんな馬鹿な……自分の最強である三体同時召喚までも……?」


 驚愕一色に染まりきった赤帽子ちゃんに、俺は呆れる他ない。

 さっきからちょこちょこ『最強』なんて言葉を軽々しく語る彼女の在り方に思うところがあった俺は、冥土の土産にと言葉を送ることにした。



「最強? この程度の戦いで最強うんぬんを語るって、どんな勘違いをしてるんだ?」

 


 俺は見たのだ。

 (いただ)きに近い戦いを、あの暗い地下都市で。


 巨躯でありながら素早い身のこなし、巨大な武器を達人の業でさばく『高貴なる巨人ノブレス・ジャイアント』の戦士たちの勇壮を。


 圧倒的な力で全てを壊し尽くす、『大樹の巨人(ピュア・ギガント)』壊滅王ヨトゥンによる天からの一撃を。

 

 それらに一歩も引けを取らず、狂おしき闇を従えながら縦横無尽に宙空を駆けるアンデッドの王。自身の領域に未知なる現象を次々と生み出し、絶望的な膂力の差を埋めようと華麗なる錬金術の数々を披露した至高の姿を。



「こんな戦いは、およそ児戯(じぎ)に等しい――赤子のお遊び同然だ」



 リッチー師匠の別次元の駆け引きを、残してくれた言葉を――

 俺はあの時、自分の目に、胸に、しっかりと焼き付けたのだ。


 あれと比べて、俺達の戦いなんてなんたるものか。



「上には上がいるって事だ。自称、最強ちゃん」


 俺は笑みを深め、真っすぐ射ぬくように赤帽子ちゃんを見据える。


「君は……いったい、何者……?」


 竜巻に敗れ、キルエフェクトをまき散らす寸前に彼女は問うた。

 それに俺はゆっくりと答えてやる。



「ただの錬金術士だ」



 最後の手向けとして、涼しい笑みを送る。

 もう勘違い少女に用はない。





 実験結果パターンB


 自分の体重が10トンになった頃――

 地面が抜けて、俺は無様にも路地の底にすっぽり埋もれるという事態に陥ってしまった。

 もちろん頭から足にかけてすっぽりいってるわけで。


 サイからしたら突如として俺が消えたように映ったろう。

 サイが頭上を通りすぎ、結果的には難なく突進を回避することができたが……。


 かっこつけた割にこのダサい回避方法は非常に恥ずかしい。

 穴があったら入りたいレベルだ……。うん、今すっぽり全身が入ってますね。


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[良い点] 起きうることをきちんと描写! あと打ち落としぱんち(ゲンコツ)とかふみふみでも相手はしぬ。 [気になる点] 体当たりやバンチ類はダメージアップしているのだろうか……。 (あれだけ防御アッ…
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