256話 失落世代の懐中時計 ★
「あいつに、パンチ、いい?」
「ダメ! ダメだから、エル。巨人は味方だから」
【東の巨人王国】の成れの果て、地下に眠る都市ヨールンでゆらりと徘徊する【巨人の系譜の屍】を見た義妹のミシェルが血気盛んにも殴りかかろうとしたので、俺は必死になって止める。
「でっかい、戦いたい」
「今はやめて、ほんと!」
「むーん」
義妹をあやすのも一苦労だ。
俺よりも高い位置にあるエルの顔を見上げながら、続けて説得を試みる。
「ほら、お兄ちゃんが面白い所に連れてってあげるから、な?」
「そういう事なら、我慢。エル、いい子?」
「おうっ、エルはとってもいい子だぞ」
傍から見たら、薄暗い地下の巨人ゾンビ都市に銀髪っ子が二人。
外見上、妹っぽい俺が、姉っぽいエルを必死になだめているように見えるんだろうな。なんて、残念な気持ちを胸にしまい込み、兄としての威厳を最大限示すためにこの地について色々と説明をしておく。
「……お兄ちゃん、変なことばっかしてる」
「でも興味深いだろ? 竜族に滅ぼされた巨人の国だぞ?」
「お兄ちゃんには興味ある。あと戦い」
「俺と、戦いって……とにかく、こっちに来てごらん。白い神殿が見えるだろう?」
さて、何故ここに再び来たかといえば、それはもちろん賢者ミソラさんからもらった【愛憎の絆笛】を使うためだ。【秘密結社『創世』】に関する研究室への扉を開くことができるこのアイテム。おそらくはリッチー師匠の工房の奥にあった、開かずのドアに使うと踏んでここにいるのだ。
「あそこに何があるのか楽しみだろ?」
「ちょっと、わくわく」
東京タワーよりも大きな、【大樹の純巨人】破壊の王ヨトゥンにエルを会わせれば、さぞかし驚くだろうと予想して足を速める。
月光石で作られた神殿へと赴き、いざヨトゥンにエルを会わせてみると、俺の期待は裏切られてしまった。というのもエルがヨトゥンを見て発したのは、『でっかいね』という単調な感想だった。
「さすが、私の…………お兄ちゃん!」
一番エルの感情が動いた瞬間は、ヨトゥンが俺を【絶対主神】と崇めているというのがわかった時だった。満足そうにヨトゥンを眺め、うんうんと一人で納得しては『よきにはからえ』なんて偉そうに言ってるし。
家族とはいえ、女子中学生の気持ちは錬金術よりも理解しにくい深淵なのかもしれない。
そんな事を考えながらもリッチー師匠の工房へと赴き、俺は【愛憎の絆笛】を吹いてみる。すると今までビクともしなかった扉が霧のようにかすみ、塵のようにして消え去った。
「やはり、【愛憎の絆笛】はこういうところを開けるためのアイテム……か」
そして扉の向こうにあったのは……部屋ではなく壁に埋め込まれた棚だった。その中央段には鈍色のオルゴールがあり、フタを開けるとなんとも切ない曲が流れだす。そしてよくよくオルゴールの中を覗いてみると、鎖のついた丸い金時計が鎮座していた。
「こ、これは……」
【失落世代の懐中時計】
【アクセサリ】【レア度:40】
【魔導錬金によって、失われた古代の生物が秘めた力を復活させる。失落世代の神獣と、自身を一時的に融合させることが可能。まさに神の理を壊し、創る……神智を暴く懐中時計である。自分とモンスターとの融合を成功させた『滅びと再生の錬金術士リッチー・デイモンド』の集大成である。不老となった彼には、もはや時間の概念は不必要なものであった。しかし、この懐中時計で時折、時間を確認することもあった。それは亡き愛する人と過ごした時間を思いだす一種の儀式だったようだ】
【解明度:S】
【装備条件:知力600】
手が震えた。
今……自分の小さな手の内に、師匠の生涯がズシリと乗ったような感触を覚える。同時に師匠の強大な力の一端と、その意思を継いだ装備が手に入った興奮が全身に流れる。
「この装備の真価を発揮するには……スキル『魔導錬金』が関係している?」
そうとなれば、俺は残しておいたスキルポイントを『魔導錬金』へと振り込んでいく。
:魔導錬金Lv10 → Lv18 :
:アビリティ『古代遺物の解明者』を習得しました:
これは……?
すぐさま確認する。
『古代遺物の解明者』
【〈錬成・希少化〉に成功した〈化石〉の力を錬金キット『懐中時計』で取り込むことができる。〈戯れたる塵化〉で分解された〈化石〉は、その魔力によって一時的に遺伝子データを螺旋状へと具現化し、『懐中時計』へと流しこむ。太古の〈記憶〉に呑まれるか、神獣と同等の力を得られるかは、『懐中時計』の持ち主による】
なるほど……これで、用途不明だった『化石』を有効活用できるわけか。
『化石』を『遊界炉』に入れ、『錬成・希少化』で余分な鉱物部分を削り、より上位の素材へと昇華させる。単純な『変換』アビリティでは、貴重な『化石』を何百と消費するわけで、現実的にそれは無理だ。実質、素材を進化させるには『錬成・希少化』は必須。更に、そこから『戯れたる塵化』で遺伝子構造が具現化するまで細分化し、『失落世代の懐中時計』で融合を果たす……か。
「フフフッ」
これが笑わずにはいられようか。
神獣と自分との融合を一時的にでも実現できるとは、これこそ神々を凌駕しうる力だ。
俺の持っている化石は【歯車の古巣】で手に入れた、
『地殻の巨獣アースガルド』【一本角】
『太古の賢狼』【両手足】
『炎帝の鬼神スルト』【右腕・頭部】
の三つだ。
これらの力を引き出せると夢想し、俺はやるべきことをエルへと告げる。
「エル、レベル上げにいくぞ」
『失落世代の懐中時計』を装備するには知力が600必要で、俺は505。
これを使いこなすにはレベル上げしかない。
「いっしょ、戦う?」
「そうだ、戦いに行くぞ」
こうして俺とエルは、二人で『歯車の古巣』へとレベリングをしにいく事にする。
今度は『盤上で踊る戦場遊戯』の【戦車】『太陽神の騎馬車+1』を使うのも辞さない。
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