252話 吐息と掛け声だけのヒロインなどいない
「フッフッッフー、ハイッ、フフッフー!」
決して腹式呼吸や、ラマーズ法の練習をしているわけではない。
俺は熱い炎が踊る錬金キット『遊界炉』の内部を注意深く見据え、『錬成・希少化』を行っているのだ。
「フッッフッ、ハイハイッ!」
『フ』のタイミングで頬を全力で膨らまし、錬金キット『風千笛』という、長い筒状のストローじみた物に息を吹きかける。
すると俺の肺活量ではあるまじき風が、『炉』の中の狙った箇所に吹き荒れる。
『ハイ』のタイミングで右手に持った『万風吹子』というポンプ式の錬金キットを上から下へと押しこむ。
すると『風千笛』より強力な風の奔流が、『炉』内部の狙った箇所へ直撃する。
なぜ、わざわざ『ハイ』なんて掛け声を口に出しているかと言えば、タイミングが取りやすいからだ。
「フッハイッフッハイッ!」
素材のレア度を一気に三段階上昇させる『錬精・希少化』は、鉱石との相性が良いと説明文には書かれていた。その内容に見合うかどうか、いくつかの鉱物を元に『炉』で実験したのだが……このアビリティの真骨頂は不純物を削った刺激で、新たなる力を宿すと理解した。
今も『黒曜石』という素材で試している。これは傭兵団『武打ち人』が武器生成の主金属として使用する『黒耀鉄』の元となる素材で、それを本格的に『錬精・希少化』しているわけなのだが。
「フッフフフッ!」
『炉』の中に入れた素材が鉱石系なら、赤か青の炎が燃え上がる。今回は青色で、『黒曜石』の一部分が白く染まる。それからワンテンポ遅れて、元の黒色に戻るその瞬間に、狙いを定めッッ!
「ハイッ!」
クリティカルヒット時の証である虹色の光彩を放ち、『黒曜石』は黒色へと戻る。
「フッフッ」
変色の予兆を見せた白の範囲が小さい時は『風千笛』で、大きい時は『万風吹子』を使って素材を熱して不純物を溶かし取り除き、昇華させる。
「ハイッフフフッ、ハイハイハーイッフッフッ!」
これが滅茶苦茶、高難易度のタイミングゲーなのだ。
しかし、錬金術士である俺はめけずに猛特訓をし、ここまでの技量へと昇りつめたのだ。
「ワハハハッ、何度見てもおもしれえな」
「笑っちゃダメですよガンテツさん。炉を使う辺り、我々がインゴットを作る時の精錬と似てますよ」
後ろで俺の行動を観察しているガンテツとゲンクロウさんの会話は、聞かぬ存ぜぬ触れぬの態度で『希少化』に集中だ。
「いや、でもよ。あんな嬢ちゃんが一生懸命にほっぺた膨らましてよぉ」
「まぁ微笑ましい景色ではありますよね」
なぜ俺が傭兵団『武打ち人』の工房でわざわざ錬金術をしているかと言えば、それは錬金キット『遊界炉』を彼らに譲ってもらったからだ。
というのも錬金キット『遊界炉』はどこの街の道具屋NPCに行っても売られていなかったのだ。そこで『炉』なら鍛冶と関わりが深いと思い、彼らに連絡を取ったのだ。すると自分達じゃ使えない『炉』が一つあると教えてもらった。
それが『遊界炉』だったのだ。
さっそく譲ってもらうための交渉をしに行けば、『タダで譲るからソレで何をするのか見せて欲しい』と言われた。
それから色々と試している。
最初は『炉』なしで『黒曜石』の『錬成・希少化』をしたところ、ただの一度も成功しなかった。100%、失敗の連続だった。
やはりレア度が高い素材ほど、失敗はしやすい。もしくは俺の知力がまだまだ足りない。それなら錬金キット『遊界炉』を使っての場合はどうか。さっそく二人の前で試していったわけなのだが、『黒曜石』は質の良い素材なので、このタイミングゲーが非常に難しかった。
自分で声を出して調節しないと、訳がわからなくなりそうな程にだ。
「ハイッフフフッー! フッハイハイ、フフッッフー」
もちろん二人はそんな俺を滑稽そうな様子で見つめるばかり。
それもそのはずで、未だに『黒曜石』の『錬精・希少化』は一度も成功してないから、彼らにとっては意味不明な作業に見えるのだろう。
リズムを外せば素材の『耐久値』は下がり、時間制限も減少する。耐久値が不安になったら切り上げても良いが、希少化の成功率はいかに不純物を削り、そこを上質な物へと変化させた範囲の大小によって左右される。
つまりは耐久値と時間制限ギリギリまで削らなければ、成功は見込めない。
「フッ!」
この色……『黒曜石』が俺に風を生めと語りかけている。
否、混合旋風が俺の宿命!
「フャイッ!」
フとハイの同時技だ!
あの色はッ、遅い、遅いはずだ、そう、まだ吹いてはいけない!
まだ我慢だ、男は耐えてなんぼ! 早く吹いたら男がすたるというもの。
ここが踏ん張りどこだ!
そして――――今だッ!
「フフフフッハイッハイッ、フッフッフフー! フッハイアハイッ、フッフフッフハイッフッハイッフフフッフフィィィィイァァアッハイィ!」
風が炉の炎を巻き上げ、その情熱を天へと高めてゆく。火柱が立ち、それはまるで神々に挑んだイカロスの燃え尽きた翼のように羽ばたき、瞬時に鎮火する。
そしてあの淡さ! 余韻の含んだ光り方は!
母なる海のように全てを包み込む慈愛と静寂。
今、この瞬間、『黒曜石』に必要なのは海底より深く大きな愛!
「ふぅぅぅぅーー…………」
静かなる母愛と共に吐息を吹きかける。
そうして耐久値ギリギリ、時間制限間近に迫った『黒曜石』を『炉』から取りだせば――――
:『黒曜石』→『黒耀鉄』→『黒妖鈴』→『黒夢鋼』への上位変換に成功しました:
「おい、待て。嬢ちゃん、そりゃなんだ?」
「黒光り……いや、まるで宇宙に輝く星々、夜空のような鉱物だと?」
『黒夢鋼』
【黒い夢、まさに悪夢を具現化したかのような禍々しい魔力が込められた魔鉄鋼。夜辺の妖精によって精製された『黒妖鈴』に更なる強度を誇る進化を遂げた金属。その希少さから、実在するかわからない代物で、滅多に見つからない事から苦労夢とも言われている】
「おいおい……まじもんかよ」
「こんな、超希少な金属で武器を打ったら……」
「やべえことになるぞ」
「お嬢ちゃん、ちょっと……こっちの鉱石で先程の錬金術もできるか?」
次にゲンクロウさんから渡されたのは『黒曜石』ではなく、彼らが武器生成につかう『黒耀鉄』の方だった。これを三段階、一気に上位変換できれば、『黒夢鋼』よりさらに上のレア金属が造れるかもれないと思った俺は――――
「ふっ」
鼻で笑ってドヤ顔を放つ。
もちろん、成功するまでやってみせる。
これが錬金術の素晴らしさだと、鍛冶師である彼らにお披露目するために。
感想は全て読んで、参考にさせていただいております。
こっそり修正とか、、、したり。
ご声援とお祝いのお言葉も、ありがとうございます。
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