243話 こつこつ研究員 (ラボメン)
基本的に領主システムの要素は大きく分けて2つ。
1つ目は、いくつかの領主のみが達成できるクエストの受注。
クエスト失敗や成功の結果次第で、領地内に様々な変化が生まれる。
これは義妹であるミィのレベル上げついでに、姉達とこなした『角豚』討伐で達成してたりする。まだ1つだけだが、治安維持と領民の忠誠度をわずかに上昇させたようだ。
2つ目は施設を拡充するミニゲームだ。
資金や資材を投入し、物資や施設を充実させ、人材の増員と育成をする。
そして最終的には生産性を上昇させ、大規模なお金儲けをする。
どれも結果が出るのに時間を要するので、できる事からコツコツと優先度の高いものから着手するのが常道だろう。
そんな領主システムだが、一つの例外がある。
それが『無名シリーズ』だ。
これは雇うNPCを自分で選び、手ずから育てることができるのだ。
しかも労力を費やせば費やした分だけ、結果が出るのが早い。
『無名の修行場』とは簡単に言うと、自分の強化に繋がる訓練所みたいなところだ。実力のあるNPCを雇って模擬戦をしたりできるらしい。もちろん、師範代となるNPCの育成も可能で、武術の【流派】なんかも編み出せたりするらしい。うまくいけば、新しいスキルなんかも習得できるだとか。しかもその恩恵は、傭兵だけに限らず自領の衛兵や騎士などを鍛える場としても活用できるらしく、規模を大きくすれば国防を担うNPC全体の強化に繋がる。
続いて『無名の軍閥』とは文字通り、好きなNPC部隊が作れるというもの。現在、軍関係の項目から創り出せるNPCは、ベースの能力値から標準装備などが決まったものばかりだ。しかし、この『無名の軍閥』を作れば、自分好みに細かくカスタマイズした部隊を編成できるらしい。
PvP推奨なゲームなだけあって、『無名シリーズ』には戦闘関連が二つもある。
が、そこに興味はない。
俺の一番のお目当ては『無名の工房』だ。
これはNPCを自分で雇い、育成し、細かく施設を整えてゆくシステムだ。集めた素材で、何かを創り出すのに特化したNPC集団を作りあげることができる。
「セバス、研究員候補者のリストはこれだけなの?」
必要な買い物を全て済ました俺は、自領へと戻って『無名の工房Lv1』にいる。
「はい。現状ではこのリストに載っている者だけでございます」
『無名の工房』改め、『錬金術の研究所Lv1』に雇い入れることが可能なNPCを選んでいるわけなのだけど、どれもパッとしない人物ばかりだった。
やはり錬金術に求められるのは知力ステータスが高い者。しかし、これがなかなか……いない。
「候補者はもっと増えないの?」
「将来的には、領地が栄えれば人材もより豊富なるかと」
「なるほど」
今は我慢するしかない。
それにNPCのLvを上げていけば、優れた研究員になる可能性だってあるはず。そう信じて、俺は三人のNPCを雇い入れた。
こうして俺はさっそく人材育成に取りかかるべく、工房に雇ったNPCを集めて挨拶をする。
「諸君! 今日からキミ達は神をも超越しうる叡智を手に入れんがために、ここで研究の徒になってもらう!」
ちなみに『無名の工房Lv1』の建築費は10万エソと割安だ。その分、12畳もあるかないかの狭さで、シンプルな石作りの建物となっている。
家具や器具もないので、これから順次整えていく予定。家具などはジョージ経由で買い取ればいいし、錬金術キットは道具屋のNPCから調達してある。
「はい。タロ伯爵さま」
「おっす! 領主さま!」
「ふぁーい」
俺の掛け声に三者三様な返事が工房にこだまする。
品行方正そうなシニヨンメガネのお姉さんがコロンという。
彼女のステータスボードを見れば、
【種族】人間 ♀ 【名】コロン
【年齢】23歳
【Lv】2
【知力】20
【HP】7
【MP】5
【力】6
【魔力】10
【防御】2
【魔防】10
となっている。
そして熱血角刈りマッチョ兄さんの名はスラッシュ。
【種族】人間 ♂ 【名】スラッシュ
【年齢】25歳
【Lv】2
【知力】18
【HP】15
【MP】2
【力】13
【魔力】2
【防御】8
【魔防】2
最後は常時眠そうで、小柄なゆるふわロン毛女子のピリオドだ。
【種族】羊毛娘 ♀ 【名】ピリオド
【年齢】13歳
【Lv】1
【知力】10
【HP】4
【MP】7
【力】1
【魔力】5
【防御】4
【魔防】4
これからこの三人を育てるべく、俺は指導しなければならない。
実は知力ステータスが60もある、おじいちゃんNPCなども研究員候補者リストにはいた。しかしLvがすでに7を超えていたのだ。
Lvが高いと何が問題なのか。
まずは単純にLvを上げにくい。Lvが高ければ高いほど必要な経験値が多くなる。それと一般人NPC枠で、レベルアップ時にもらえるステータスポイントは30なのだ。つまりステータスポイントを知力ぶっぱにすれば、おじいちゃんNPCの知力なんて2Lv上げればすぐに追いつくって寸法だ。
ちなみに衛兵などのNPCはLvアップ時にもらえるステータスポイントが60ポイントだと判明している。傭兵の60%でしかなく、これではステータスに差がつくのは当たり前だ。ちなみに騎士は130ポイントだった。傭兵より強いので、しっかりと育成していけば、理不尽な暴力も跳ねのける事ができる。
この原理でゆくと……神兵って1Lv上がる毎にどれだけのステータスポイントをもらっているのだろうか。気になる。
「そんな事はさておき、まず諸君にこのスキルを習得してもらう」
そう言って一人一人に手渡したのは『錬金術』スキル習得のための『輝剣』だ。先駆都市ミケランジェロにある『輝剣屋』を回った結果、どこも2000エソと、俺が初めてジョージの店で買った値段より高めだった。できればジョージから仕入れたかったが、あれから新しい在庫は補充してないらしい。800エソで売ってたジョージとの出会いに感謝せねば。
まぁ生産系スキルは一律3000エソするので、2000エソでも安いと判断できなくもないが……評判の悪い錬金術スキルに、初心者傭兵が大金をはたいて購入するわけがない。
「習得しました」
「うっす! おっす!」
「れんきんじゅつ~」
よしよし。
各研究員のステータスを吟味し、もともと所持していたスキルポイントを全て錬金術スキルに投入。コロンとスラッシュは錬金術Lv2に、ピリオドはLv1のままだ。ステータスボードを熟読していくと……どうやら人間はLvが1上昇する毎にスキルポイントが1、羊毛娘の方は2ポイントもらえるので、今後に期待だ。
「みんな錬金術アビリティ『変換』を習得しているはずだ。まずはひたすら『水』を『上位変換』し続けておくこと」
そうして街で購入しておいた錬金術キット『銅の天秤』をそれぞれに渡し、ついでに『賞金首と競売』で大量購入しておいた『水』をどんどん工房に置いていく。
これで研究員たちの錬金術スキルのLv上げと、素材の確保も行う。
上位変換の成功品である『上質な水』と、失敗作である『汚水』。これらはどちらもポーションの原材料になるので、いくら作っても損はない。
Lvが上がってスキルポイントが増えたなら、わざと『上位変換』を失敗できる『失敗は成功の王道』を習得させ、『汚水』生成に励んでもらう。
さすれば『翡翠の涙』の材料を大量生産できるというもの。
「わかりました。必ずやご期待に添えてみせます」
「うっしゃあ! 絶対にいいとこ見せてやりますとも!」
「がんばりーまーすー」
それぞれの意気込みを聞いて俺は大満足。
「うんうん。精進したまえよ」
ゆくゆくはこじんまりとした、自分個人の工房を持ちたいと思っている。素敵なお店の名前を考えたり、自作のアイテムや素材などを売って……高鳴る!
その先駆けとして研究所だ。こちらで研究し、完成した物をおろすのもいいし、なかなかに楽しそうだ!
ちなみに『無名シリーズ』の4つ目である、『無名のギルド館』は汎用性が高い。
戦闘や生産以外の人員を育成し、編成するための組織だ。
素材採集するための探索隊を作るでもいいし、他国や他領地の内情を知るために諜報員を作るでもいい。
鉱石採集だったら発掘ギルドなど、情報収集ならスパイギルドなどになる。
ゆくゆくは『無名のギルド館』でお抱えの商人部隊を作り、ひそかにポーションを市場に拡散するのだ。
普通の商人NPCにポーションを売り出してしまえば、どこに商品を拡散するかわかったものじゃない。その点、『無名のギルド館』で育てた特殊な商人NPCならば、流通ルートをこちらが完全にコントロールすることもできる。さらにはタロ伯爵領の商人であるという正体を隠してもらいながら、裏で商品を売りさばけば足がつきにくい。これによりうちの領地から『翡翠の涙』が製造しているのを秘匿でき、狙われるリスクも減る。
売る相手と数を絞り、品物自体は大量に売りだすこともできる。
「ふふふ、夢が広がるな」
◇
【種族】高位魔人 ♂ セバス
【年齢】53歳
【Lv】24
【知力】150
【HP】550
【MP】700
【力】280
【魔力】1100
【防御】220
【魔防】600
【スキル】
・魔眼【呪玉の紫紺】
・炎獄魔法
・精神汚染魔法
・欲式魔法
・魔人戦脚
・魔人拳術
・稀有な老執事
・崇高なる整理整頓術
・完璧なる清掃員
・優雅なる紅茶御膳
・華麗なるお茶くみ師
・品位ある調度品配置者
・迅速なる計算学者
・堅実なる財務長
高位魔人はLvアップ時のステータスポイント増加量は150。
傭兵の1.5倍ですね。
スキルポイントは5で傭兵と同じです。
ちなみにタロは、まだセバスの強さに気付いていません。
ブックマーク、評価よろしくお願いします。




