242話 鍛冶師たちのざわめき
前話の交渉内容を少しだけ修正しました。
素敵な感想を参考にさせていただきました。
ありがとうございます。
「おい、ゲンクロウ。さっきの腹芸はなんだっつぅんだ」
「やだな、ガンテツさん。傭兵団の帳簿や資金に関する交渉事は、第三席である俺の領分でしょう?」
クラン・クラン随一と言われた武器鍛冶専門の傭兵団、『武打ち人』。数多くの徒弟傭兵を抱えるその大きな工房の奥、そこには職人代表の地位につく二人が向き合っていた。
徒弟達はそんな二人の様子を珍しい光景とは思わない。なにせ、あの『白銀の天使』が来店してきた後なのだ。彼女が現れ去った後は、決まって工房の代表格は顔を突き合わせるのが常だった。
「徒弟たちの育成が第二席である俺の役目。そんでもって資金管理はゲンクロウに任せる。そういう取り決めンだから、口を挟まなかったがよぉ」
がっちりとした体躯で頑固そうに腕を組む禿頭の傭兵。彼は自身より細く、そして上背のある男を睨みつける。
「わざと落ち込む演技なんかしやがって。胸糞わりぃぞ。幼ねぇ女の同情を誘って、半額で取引だと?」
「ガンテツさん。コレも傭兵団のためですから」
ゲンクロウと呼ばれた男は悪びれもなく、禿頭男の意見を聞き流す。
「おい、本気で言ってんのか? 未知の金属だぞ。【斬り覚目】でさらっと見ただけでも、完成された強力なインゴットだとわかるぞ」
『1万エソで買い取っても安いぐらいだ』と不満げに呟くガンテツに対し、ゲンクロウは溜息で応じる。
「素材的な価値が高いのは認めます。ですが、今の俺達に使いこなせなければ……無価値なのですよ」
悔しそうに語るゲンクロウの顔を見たガンテツはハッとする。
できれば高額で買い取りたかったが、『今の自分達の腕前ではもらった素材を活かしきれないかも』というプライドを蹴った発言に、ゲンクロウの無念さを感じ取ったのだろう。
それはガンテツも同じく共感できるものであったためだ。
「それにですよ。武器にできない素材であれば、それこそ傭兵団の大事な資金の無駄遣いです。以前の時みたく、刀にできる可能性が見えた『尊き地平の黄金』とは異なるケースですから」
「まぁ、確かにな……うちで刀を作れたのは僥倖だったが、結局それが傭兵どもの間に流通しなけりゃ、クラン・クラン一の武器鍛冶集団と言われた『武打ち人』の名が廃るっちゅうもんだな……」
「刀をどこよりも早く作り出せたのは、うちの実力を示すのに良い宣伝効果になりました。しかし誰も扱えない武器を作ったのでは、鍛冶師として名折れです」
そうして二人は互いにいくばくの間見つめ合い、共に同じ結論へと結び付く。
「あの嬢ちゃんにゃぁ、慎重に対応しないとだな」
「えぇ、警戒はしていますとも。ですが、この貴金属がものすごく汎用性のあるものでしたら、彼女の厚意に応えるべく、次回からは高値で買いますとも」
「そうだな。にしても毎回、来るたびに脅かされっぱなしだ」
「後ろ盾も強豪ばかりですしね」
むむん、と二人の職人は唸る。
「PvP専門にして頂点を走る最強の傭兵団、『首狩る酔狂共』と深い縁ねぇ……あそこの団長、『風の狩人』シンだったっけか」
「たしか妹だとか何とか。プレイヤーキル最多を誇る集団が後ろについている……あの幼い容貌にはまるで似合わない関係性ですよね。しかもシンの方は、彼女に手を出した奴はぶち殺すと公言するまでに溺愛しているようです」
「んでもって、オールマイティーな大規模職人傭兵団『サディ☆スティック』の副団長、『鉄血ジョージ』の紹介でうちに来てるしな」
「個人的にかなりの仲だとか……『白銀の天使』がピンチの際はすぐに助太刀をし、鬼神の如き奮闘を見せつけたらしいです。素材関連の商売事でもパートナー的な立ち位置だそうですよ」
「ちぃ。ってなると『サディ☆スティック』への影響力もあるじゃねぇか。裏でどんな取引してるが知らねえが、あんな貴重なもんをポンポン出してくる嬢ちゃんを無碍にするはずもねぇ」
ガンテツは眉根を寄せて、眉間の皺を深く刻む。
「しまいにゃ、対立していた子供傭兵たちと一部の大人傭兵たちの仲を取り持ったんだろ?」
「イグニトール継承戦争時、いがみ合っていた傭兵団『一匹狼』と傭兵団『黄昏時の酒喰らい』すら共闘させてましたね。ヴォルフとベンテンスですかね」
「勘弁してくれ……わけわかんねぇ集団もうろついてるらしいしな」
「銀翼特殊部隊、自らを『銀の軍人』と名乗る輩ですね。彼らも『白銀の天使』の傘下にあるとか。一人一人の戦闘能力は高くはないですが、見事な連携と数で押し切る戦法が一定の評価を得ているらしいですよ」
「中堅レベルの傭兵ならまだ何とかなるかもしれんが……」
「上位傭兵たちとなると、いよいよ敵対は危険ですね。たしか『掲示板の集い』とか『影の守護者』とかよくわからない名称で『白銀の天使』を保護するべく、裏で暗躍しているグループもいるとか」
「……おまけにあれだろ、強力なNPCを味方につけてんだろ?」
「ジュンヤの話ですと、【巨人の王】と風の【妖精女王】を従えているだとか……」
「こちとら、『白銀の天使』のために賢者ミソラが雷をぶっぱなして、神兵を根こそぎ黒炭にしたって聞いたぞ」
「最近では、あのヤンデレ氷絶姫ブルーホワイトを傍に侍らしていますね」
「そして今日でぇい! 仕立ての良い服を着込んだお上品な老執事だぜ? しかもソイツを当然のように部下みたいに扱っていた、ねぇ……」
「何がどうなっているのやら。こうやって彼女についての情報を列挙していくと、世界を味方につけているみたいな傭兵ですね」
いかめしい二人の男達は肩をすくめてみせる。
話題の少女に対し、どうしようもねぇと諦めるような乾いた笑みすら浮かべている。
「規格外、とはあいつみたいな奴のことを指すんだなぁ」
「あの年頃できっぱりと値段交渉をしてくるあたり、かなり教養の高い育ちなのか……天賦の才か」
「そんで、おめぇさんは唯一の隙とも言える、幼さと優しさにつけ入ったってわけだぁ?」
「ガンテツさん。あんたはそのまま、気さくで面倒見のいい第二席でいてください。憎まれ役と警戒担当は第三席の俺に任せてください」
「ちぃっ、言われなくてもわーってらぁい! 余計なことを言っちまって悪かったってぇい」
「大丈夫ですよ……それに」
ゲンクロウは静かに目を閉じた。
いつも未知の何かを楽しそうな顔で持ちこんでくる、可憐な少女の姿を思い浮かべているのだろうか。
「あの賢いお嬢ちゃんなら、人情よりも実利を優先すべき立場や時があると……理解してくれそうですから」
「ワハハ、ちげえねぇ」
『白銀の天使』を思う二人の職人の口元には。
小さな笑みが浮かんでいた。
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