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234話 現実改変の錬金術師


「いいオトコたちねぇん……」


 隣でジョージが感嘆の吐息をもらし、うっとりと俺の【兵士(ポーン)】や【騎士(ナイト)】たちが暴れているのを見つめている。


「もうこの際だから、あちき好みのオトコを天使ちゅわんに作ってもらおうかしらぁん? 人造人間とかねぇん、高く買うわよぉ」


 ジョージの冗談はともかく……おい、冗談だよな?

 目が真剣(ガチ)めな気がする……商売仲間の戯言は聞かないふりで、そっと視線を逸らし【駒】の働きを観察する。なにせ、貴重な経験値を消費しているのだから、どれほどの力を発揮するのか見定めなくては。

兵士(ポーン)】たちの太い腕が振るう槍や斧は、敵NPCたちを圧倒していた。鎧の上からでもわかる筋骨隆々な【騎士(ナイト)】は、その巨躯を利用し、体重の乗った一撃を繰り出して対象を紙きれの如く両断していく。



「なかなかにいい働きをしてるな」


「いいオトコたちに任せっきりもよくないわよねぇん?」

「うん、アビリティ持続時間はあと3分が限界だから」


「あらぁん。何かデメリットでもあるのぉん?」

「俺の経験値がなくなってくんだ」


「「「え!?」」」


「そんな……天使ちゅわん、今すぐやめなさぃん……」


盤上を踊る戦場遊戯ルーディ・アテナス・ボード』の代償を言うと、みんなが顔を青くして発動の中止を促してきた。


「いや、コレもアビリティのデータを取るいい機会だからさ」


 なんてことはない。必要経費ってやつだ。

 しかしジョージたちはそうは思ってくれなかったようだ。感涙を堪えるように鼻息を荒くした。



「こうしちゃいられないわぁん! 天使ちゅわんばっかりに負担はかけられないわよぉぉおん! みんな攻撃開始ぃぃん!」


 そう野太い雄叫びを上げたジョージは、ノトロ子爵一派が苦戦する戦場へダイブしてゆく。4メートルという高所をものともしない柔軟さで、すばやく着地を決める。さらにジョージのアフロが増大し、頭からロケットのごとき勢いで敵NPCへと突撃する。

 やっぱりあのマリモってあーやって使うのか、なんて放心していると、


「私も行くね!」


 と、気合い満タンの掛け声でジャンプしちゃうトワさん。


 制止をかける間もなく、鞭を片手に乱戦地へと突貫してしまう。彼女の周囲には黒い霧を放つ蝙蝠(こうもり)が数匹飛び交っていて、まるでトワさん自身が幾筋もの闇をまとってるみたいでカッコイイ。あれがテイムした『闇夜の眷族(ダークルバット)』ってやつか。


 鞭をしならせ、闇を従える……夜の女王さま…………。

 ハッ、えちえちな妄想をしてる場合じゃない!



「ボクだって、戦えるんです!」


 続いてインベントリから、やけにごっつくて禍々しいオーラを放つ石を取り出したジュンヤくん。敵へと投げつけ、わりとスピードが乗っているのか、その軌道は直線を描いてる。そのまま立派なちょびヒゲNPC、ノトロ子爵の顔面へと直撃させた。


「天士さまのお荷物だけはなりたくありません!」

「ほんと、それですわよね。タロさんに頼りっぱなしはわたくしのプライドが許しませんわ」


 ミナが攻撃魔法の詠唱に入り、リリィさんが次々と弓矢を射かけてゆく。


 みんなが攻勢に転じたことで、もともと不意を突かれて苦戦気味だったノトロ子爵一派は総崩れとなった。

 しかし、一方的な蹂躙劇にもわずかに残された抵抗の一矢があった。それは一人の敵騎士NPCが、【駒】の【兵士(ポーン)】の攻撃をかいくぐったことで起きた。捨て身の覚悟で猛進、その狙いが他の敵NPCを相手取っていたトワさんだと気付く。


 盤上の敵駒の動きで一早く察知できたのは幸いだったけど、周囲の味方の駒、【兵士(ポーン)】や【騎士(ナイト)】では対処に間に合わない。

 トワさんも敵の狙いが自分だと気付き、顔を相手に向けるのだけど……その手に持った鞭が他の敵の腕に絡みついて外れない。

 そのまま身動きできない状態に陥ってしまった。


 俺はすぐさま『盤上で踊る戦場遊戯ルーディ・アテナス・ボード』を閉じる。すると【兵士(ポーン)】と【騎士(ナイト)】たちは瞬時に消え失せたが、そろそろ頃合いだったので丁度いい。


初太刀(しょたち)――」


 腰に下げた【燈幻刀(とうげんとう)・鏡花】に軽く手を添え、腰を落として構える。



「――『(ゼロ)戦』――」


 ターゲットへ即座にゼロ距離で一太刀あびせ、元いた場所と敵の中間地点に瞬間移動ができるアビリティを発動。

 視界は流れ、瞬時にトワさんを狙った騎士の前に移動。鎧の隙間、膝とふとももの間に薄金色の刀を滑り込ませれば、片膝をつかせることに成功。さっきまでの勢いを失う敵騎士。


「トワさん、大丈夫!?」


「タロくん!? あ、ありがとう!」



 ふふふ、いい恰好ができたぞ。


【駒】の【兵士(ポーン)】や【騎士(ナイト)】がいなくなったとしても、既に敵の戦力は6人に激減している。乳母とメイドを入れれば8人だけど、ミナの魔法攻撃とリリィさんの援護射撃があれば、制圧は容易いと見た。


 念のためインベントリから【翡翠(エメラルド)の涙】を取り出し、その場でトワさんとジョージのために一個ずつ砕く。

 トワさんは生き生きとした表情でニカッと笑みを飛ばしてくれる。



「うぉぉぉん、たぎるわぁあん♪ あちきの白く輝くものを受け取りなさいぃん♪ その軟弱な腰と尻で耐えられるかしらぁぁん?」


 ジョージが目から光線(ビーム)を出し、筋肉アピールマッチョポーズで大暴れしているのは見ないフリをする。


 さて、俺は俺のやるべき事をするか。

 乳母NPCが大事そうに抱えている赤子、イグニトール王女の弟君にターゲットを絞り、脱兎の如く駆け出した。




「ニャーんて事をしでかすのかニャ? 淑女の風上にもおけないのニャ」

「それを言うニャら、レディファーストを心掛けるのが紳士なんじゃないのかニャ? 先に案内人を取った罰だニャ」

「ぐニャニャ……」



 ひとまず、一つ目の目的を達成した俺達は、小さな二人のネコ型ロボットのやり取りを微笑ましい気持ちで眺めていた。ポカポカと互いの頭を叩き合う姿がとっても可愛らしいのだ。


「さすがです、天士さま。女王さまの弟君奪還、おめでとうなのです」

「いやいや、ミナの魔法攻撃もすごかったよ。おかげでずいぶん、敵に痛手を与えることができた」


 ミナをねぎらえば、横からトワさんが微笑しながら話題に入ってくる。


「ミナヅキちゃんもすごかったし、タロ君もやっぱりすごい。あんな風に刀ですぱーんと切りつけちゃうなんて、かっこいいなぁ」


 えへへへ。

 えっへん、えっへん。


 内心では狂喜乱舞な俺だが、ここはクールを保て!

 イケメンな俺を演出すべく、大したことない風に振舞うのだ。


「ふふふ、それほどでもないよ」


「天士さま。お口元がゆるゆるですよ? やっぱり天士さまは可愛いのです」


 そんな指摘をミナにされたので、俺は慌てて自分の頬に触れると確かに口角が持ち上がっている。

 これでは恰好がつかない!


 くぅぅぅう……自分の顔面制御能力の低さが恨めしい。



「あらぁ~ん♪ 照れた顔も、か・わ・い・いぃん☆」


 きえええええい!

 ジョージのくねくねポーズを見た瞬間、俺の中での何かが急激に冷めた。おかげで表情筋は完璧に引き締まり、かっこつけたい時はジョージを見れば万事解決だと悟る。



「んん、でもタロ君はかっこよかったからね?」


 俺の内心を気遣うように言葉を重ねるトワさん。彼女の天使っぷりが半端ないです。なんてとろけそうになる表情を引き締めるべく、クールなイケメンアピールをするためにジョージを見る。

 

「いやいやトワさん。天士さまは可愛いのですよ?」

「んー、可愛いかもしれないけどね? かっこよくもあるよね?」


 くぅぅぅう、またかっこいい発言!

 嬉しさのあまり、再び表情筋のゼリー化が始まる予兆を察知し、すぐにジョージの方をチラリ。


「確かにそうなのですが……トワさんはかっこいいって言い過ぎなのです」

「あれれ、もしかしてミナヅキちゃんは嫉妬かな? タロくん、モテちゃってるねー」



 モテ、モテもて!?

 この俺がッ、16歳童貞のこの俺がモテ期!?

 そんなはずないとわかっていても、好きな子からそんな素敵ワードが飛び出てくれば動揺しちゃうし、天にも昇る気持ちで心が跳ねあがってしまう。


 あぁぁ、ここで鼻の下を伸ばすなんて表情は許されない。

 またもやジョージを見て心を鎮める作業をするも、自分がとんでもなく疲弊してゆくのがわかる。


 繰り返されるアメとムチの応酬。

 さすがは夜の女王トワさん、すごい……じゃないッ! 何を俺は馬鹿な考えに及んでいるんだ! 

 くぅぅぅ……連続して、トワさんの幸せ口撃とジョージのクネクネポイズンダンスの複合技で精神が崩壊しかけている。


「し、嫉妬だなんてはずはありません! やめてくださいトワさん!」

「ふふふ、お姉さんにはお見通しですよー。タロ君はかっこいいもんね?」


 うにゃあああ……ここにきてまたかっこうぃー!

 ストップ、俺。だらしないニヤけ面をなんかしたら、これまでのトワさんの評価が一気にダウンだ。ジョージのもにゅもにゅした唇を見て気分を下がらせ……ぐあぁあぁ……もう限界が……。



「だから、そのっ。もうこのお話は終わりです」


 ナイスだミナ。

 俺の心が決壊する手前でどうやらこの話題は終了となったので助かった。

 


「天士さま、ちょっとトワさんは入れない話題をいいですか」


 そんなある意味救世主なミナが、やけにトワさんは入れない、という部分を強調して断りを入れてくる。俺は冷静沈着な顔面作りを意識し、『なに?』とだけ問う。


「やっぱりゲームでイグニトール王女の弟君を助けたのには、今の天皇陛下の弟君である皇宮警察局長イグノア……さま、への影響力を天士さまがお持ちになるためなのですよね?」


 ここで何故か、あの不倶戴天の高慢な現炎皇陛下の実弟、イグノアの話になったので疑問に思う。

 ちなみにミナには、彼女がリアルモジュール組であることから、聖イリス学園で晃夜(こうや)夕輝(ゆうき)が危険な目にあった経緯は連絡してある。


 この辺の話は現実改変を認識できない、リアルモジュールでないトワさんやジョージなどは会話の細かい把握はできないかもしれない。後で説明しておかないとだな。



「んん、イグノア……?」


「はい。ご恩を売って立場を良くする狙いがあったのですね? 定かではありませんが、高圧的な姿勢から何か変化があるかもしれませんね」

 


 なんと! ミナの言う通り、確かにいい流れができたかもしれない。

 これは早々に【歯車の古巣(ハロルド・ギア)】探索を一旦中止し、すぐにイグニトール女王に謁見してログアウトした方がいいかもしれない。


 現実の方で事実確認をし、いい方向に改変されているか確認だ!



誤字脱字のご報告と、感想、素敵なレビュー、ありがとうございます。

執筆、更新の励みにとてもなっております。


ブックマーク、評価よろしくお願いします。

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