233話 錬金姫の蹂躙劇
「ここの【化石】はダメだニャ。取ったりしたら、警備ゴーレム達が殺到するニャ」
レディによる当然の返答は、俺とジュンヤ君の高揚した気持ちをしぼませた。
冷静に考えれば、わざわざ展示されるほどの貴重品。無断で取ってはダメだろう。しかし、【化石】というワードが俺の心を掴んで離さないのだ。しかも鬼神竜バハムートとか、壮大な匂いがぷんぷんするではないか。
後ろ髪を引かれる気分でガラスケースを見つめる俺。そんな内心を悟ったのか、レディは『でも』と言葉を続けてくれる。
「坑道地区や山頂にそんなのはたくさん見つかるから、後でいくといいニャ」
今すぐに行きたい。
そんな欲求に駆られそうになるが……今はみんなが集まってくれた手前、そうコロコロと目的を変えるべきではない。【歯車の古巣】の探索も終わってないのに、無駄なリスクを背負う行動は避けるべきなのだ。
隣で目を輝かせ、期待の眼差しで俺を見つめるジュンヤくんもそこはわかっているのか『今すぐ行きましょう』なんて口には出してこない。
けれど俺が頷けば、彼もコクリと顔を縦に沈める。
言葉はなくとも、必ず後で一緒に行こうと示し合わす。
「天士さま。その時は私もご一緒します」
「うふんッ♪ あちきも化石は興味あるわぁん。骨や牙のアクセサリーなんかもバリっぽくて素敵じゃないんッ♪」
なぜか俺達の本心はミナとジョージに筒抜けだった。
◇
「いたニャ。ネコ・フェア・ダンディだニャ」
どうするニャ? 驚かすニャ? 飛びかかるニャ? なんて次々に質問を浴びせてくるネコ・フェア・レディ。彼女は小さな身体をさらに小さくし、背をまるめて飛びかかりたそうにウズウズしていた。
「ちょっと待って」
俺達は【創石神話 研究所】を通りすぎた後、いくつもの小さな島が宙に浮かびあがっている地点に来ていた。建築群とすぐ傍を浮遊する島々、その幻想的な光景に目を奪われるも悠長な時間はすぐに消えた。
それはレディが指摘する通り、目的の一つでもあるノトロ子爵一派を発見したからだ。
俺達がいる浮遊島から四メートルほど下に浮いている島、そこに20名前後の人間が集っていたのだ。
「うニャ……ダンディは【浮遊島地区】にいるニャんて、【飛甲船】でも見せる気なのかニャ」
レディの考察に俺達は合点がいった。ノトロ子爵一派はイグニトール王家が持つ飛行戦艦【鋼鉄の玉座】に匹敵する兵器を求めて、ここに来たと聞いている。つまりは目的の兵器を手に入れるべく【歯車の古巣】にいるなら、ここにいても何ら不思議はない。
俺は仲間たちと頷き合い、敵の様子を窺う。
保護対象であるイグニトール王女の弟君は、まだ一歳の赤子だったはず。それらしき人物を探し、集団をつぶさに観察すると……いた。立派な口髭を生やした中年男性の横、乳母らしき人物が胸にかき抱いて不安そうに辺りを見回している。おそらく彼女に抱かれた赤ちゃんが弟君だろう。
乳母の傍には世話係の補佐なのか、メイドが一人侍っている。それ以外には、かなり立派なローブを着た魔法使いらしき人物が二人と、ノトロ子爵直属の騎士らしき人達が五人。残りは平兵士っぽいのが十数人という編成に、口髭の人物がノトロ子爵だろう。
平兵士や騎士たちの装用は薄汚れていて、装備も所々に傷みが目立つ。
きっとここまで来るのに苦労したのだろう。対してノトロ子爵や乳母、魔法使いの二人は身綺麗なもので、疲労は期待できそうにない。
「人数が多いわねぇん……」
ジョージの呟きに俺も同意する。
こちらは六人であっちは二十人以上。普通に仕掛けたら敗北は必至で、個々の技量差が上回っていたとしても被害は甚大だと予想できる。
「わたくしの弓とミナヅキさんの魔法、それとタロさんの花火……でしたかしら? 遠距離攻撃はこの三つで間違いありませんわね?」
リリィさんの問いにトワさんが素早く答える。
「私もモンスター調停士で仲間にした『闇夜の眷族』を飛ばして、牽制とかできちゃうよ?」
「ぼ、ボクも……と、投擲スキルをちょこっと上げました。だから、鉱石を投げ飛ばすぐらいならできます」
意外なことにジュンヤ君も戦闘スキルを磨いてたようだ。それぞれの出来ることを確認していくなか、ジョージだけは『何でもバッチ恋よん♪ 受けて起つわぁん☆』と万能を示す。
話し合いの結果、四メートルの高所から遠距離攻撃を放ち、地の利を活かすのは全員が賛成。その後は落下ダメージ覚悟でジョージと俺が飛び降り、近接戦での奇襲攻撃をジョージのみが敢行する。素早さが最も高い俺は、戦闘は回避しつつ弟君を奪取するという流れになった。
「それでも遠距離攻撃だけじゃ、相手を殲滅するのは無理そうです」
ミナの結論にみんなが深く頷く。ここは覚悟を決めねばならないと、仲間たちの表情が緊張で強張っていく。
敵の人数に対する火力不足の不安と、ジョージに大きな負担をかける作戦。
もっと確実な戦法はないか、そう思案して俺は一つ試したいことを口にする。
「遠距離攻撃の前に試したいアビリティがあるんだ。最近、習得した俺のスキルを加えれば、けっこうな打撃を与えられるかもしれない」
俺がスキルの内容と作戦を述べると、みんなは半信半疑な様子で手に持つ『盤上で踊る戦場遊戯』を見つめて来た。
「それって敵の場所がわかる便利な地図、の代用品かと思っていましたわ」
リリィさんが腕を組み、首を傾げる。
「でも、タロさんの錬金術にはこれまで何度も驚かせられましたから。今回もその恩恵に頼ってみようかしら」
みんなの気持ちを代弁するように、リリィさんは溜息混じりに呟いてくれる。
これで作戦は決まり。
あまり発動を長引かせると俺の経験値が減少し、レベルダウンの危険がある。
なるべく早めにチェックメイトといこうじゃないか。
「『兵士』の駒が8つ、『騎士』の駒が2つ、こことここに置いてっと……」
俺は盤上に【命の輝き】を込めた駒を丁寧に配置していく。
よしよし、準備万端。
「『盤上で踊る戦場遊戯』、決闘!」
スキルを発動すれば、ボードがやんわりと煌めく。
そして盤上の駒たちはちょこちょこと動き出した。
次いで四メートル眼下の浮き島には、配置した通りの地点に兵士や騎士たちが出現し始める。
驚いた事に、【兵士】たちの身長は2メートルに届くかどうかの大男達ばかりで、一目で屈強な兵士達だとわかる。さらに全身甲冑と長大な両手剣を手に持つ【騎士】は、全高3メートル超えのちょっとした巨人じみた規模だ。
忽然と姿を現した精強なる部隊に、どよめきの声を上げたのは敵だけではなかった。
「これって伝説の召喚魔法スキルとかじゃないのん?」
ジョージの疑問が風になびき、戦場へと流れていく。
そちらに目を向ければ蹂躙劇が幕を開けたようだ。
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