232話 創石神話 研究所
「このネコちゃん、ロボット!? すごいっ!」
「あらやだぁん、か・わ・い・い~んッ!」
ネコ・フェア・レディを見たトワさんとジョージは絶賛して、ネコ型機械に寄り添いあれやこれやと質問を繰り返してゆく。
「おミャーらの前にイグニトールの転移室からもう一組きたニャ。お仕事はネコ・フェア・ダンディに取られちゃったのニャ」
今度はミーが案内する番だニャッと短い片手を上げて、元気良く挨拶してくれた。
もう一組来たというのはやはりイグニトール女王の弟をさらったノトロ子爵一派の残党だろう。【案内機甲獣】であるレディやダンディ達は、それが誰であろうとこの転移室より来た場合、【歯車の古巣】を案内する設定を施されているようだ。
「正直、ここをうろつくのはお勧めしニャーニャ。都市内で正常に機能している箇所はおおよそ20%未満ニャんだから」
80%は暴走、自律、今は亡き主の命を忠実に守り作動しているとの事で、普通の人間が立ち入ったら危険だそうだ。
「それは十分に理解しているよ。この都市の案内をよろしくお願いします」
「ふっふーん♪ 任せてなのニャ」
「ところで、女王の弟君を案内しているダンディの居場所ってわかったりするの?」
まずはターゲットの確認をしておこう。
「ダンディの居場所ニャらわかるニャ。通信も可能ニャ」
「通信はやめて欲しいかな。できればあっちに悟られないように接近したい。できる?」
「うニャ? ニャーるほど、鬼ごっこかニャ。ミーたちもよくやるニャ。後ろからそろーり忍び足にニャって飛びかかるのニャ。ミーに任せるニャ!」
どうやら上手くいきそうだ。
あともう一つの目的を達成するために質問を続ける。
「星々の光を凝縮して集める装置がありそうな場所も案内してもらえる?」
俺の勘では、ミソラさんから与えられた課題の方が難題だと思っている。
「うーニャ。【星空製造所】にありそうだニャ。でもあそこは……むーニャ。ちょこっと通り道が騒がしいのニャ」
星空を製造……作るだって?
何をどうやって!?
むくむくと起き上る好奇心を抑えつつ、気になった点をつついてみる。
「道中が騒がしいって具体的に言うと?」
「んんーまずは【創石神話 研究所】を通るニャ。そこは【巨石機甲人】の番人さえ刺激しなければ、大人しい奴らばっかりだから心配ニャいニャ。問題はその次だニャ」
そう言って、レディはここから一望できる【歯車の古巣】のある一点を指差す。
そこは天へと延びるオブジェクト、尖塔が立ち並ぶ箇所を示している。五つの建築物は円を描くように配置され、その中心には一際高くそびえる真っ黒な巨塔が鎮座している。
「【五亡星の尖塔】のまんニャか、あそこが【星空製造所】だニャー」
【五亡星の尖塔】と呼ばれた塔の頂上からは、橋のような物がそれぞれ中央にある【星空製造所】へと伸ばされていた。そしてその橋の周囲には、ここからでも視認できる程の大きさを誇る空飛ぶトカゲみたいなのが何匹も舞っていた。
おそらく体長5メートル以上はあるはずだ。
「あそこに入るにはニャー、【機甲星竜】の群れが飛んでる『星空に駆ける橋』のどれかを渡らないといけないんだニャー」
あんなのが飛び交う中を無事に渡り切れるか、かなり不安になった。
みんなで話し合った結果、まずはイグニトール王女の弟君救出を優先しようという結論に至り、俺達はさっそくレディに案内を頼む事にした。
◇
都市内はやはり歯車を基盤として動いている施設や機械が多く散見できた。しかし、故障している物もあれば、完全に停止している物まであり、ここが滅んでしまった都市だと改めて実感できる。
超文明を誇った都市には、苔やツタが根を張り、木々や植物たちが緑を散りばめる。その景観を目にすれば、儚く静寂の美を感じるだろう。そして誰もが盛者必衰の感慨にふけってしまう。
「タロ先輩! この機械の部材、すごいですよ!? レディさん、これもジャンクなら採取しちゃっていいですよね!?」
用途不明の小型機械のバルブを握って、レディさんに採取の有無を問うジュンヤ君。完全に観光気分になってしまっているが、この危機感の低さには理由がある。
問題の【機甲獣】は俺がちょこちょこ【盤上で踊る戦場遊戯】を広げて、進行方向に敵がどこにいるか確認しているのでけっこう安全なのだ。ボード上に敵らしき駒が出現すれば、それを回避するように進む。
そんな便利機能の代償は俺の経験値だけれど、ボードを発動して5秒程で閉じてるのでレベルダウンの心配はまだ大丈夫だろう。
というわけで俺も素材採取に精を出している。
【錆びた運命の歯車】
『かつては名高い空中都市の一部として世界の運命を作り、回り続けていた小さな歯車。朽ちた都で錆びゆくも、未だにその性能は噛み合えさえすれば発揮するだろう』
【絶玉の金剛石】
『地殻の底にいる【甲殻神獣ベヒーモス】の表皮を削り取った物。その固さは鋼鉄を容易く砕き、常識をも壊すだろう。また、宝石類としての価値も高く、加工すると美しい宝飾品となりえる』
今のところ素材となりそうな物はこの二つだけ入手してある。
【絶玉の金剛石】を発見した時のジュンヤ君のはしゃぎっぷりは尋常じゃなかった。『アダマンタイトなんて最硬の鉱石ですよ!? 鋼よりも遥かに固く強く、現行で最強の武器を作れるかもしれないんですよ!?』なんて涎が出そうなトロけた顔でブツブツと解説していた。
ちなみに装飾職人であるジョージも目を輝かせ、『あちきが磨きに磨いてあげるわぁん♪』と頬ずりをしていた。
こうして俺達は大満足な採取を繰り返していけば、とある建物に到着した。
「この【創石神話 研究所】を通った先を右に行けば、ダンディ達がいるニャ」
なんだかんだと【星空製造所】に近付いているのは嬉しい。
レディが意気揚々と建物内に入っていくなか、俺達はちょっと気後れしつつもビクビクと彼女の後ろについていった。
というのも入り口には7メートル以上の巨大ロボっぽい二体のゴーレムが立っていて、その姿はまるで門番じみていたからだ。この二体こそが、レディが言っていた【巨石機甲人】なのかもしれない。
俺達の及び腰に気付いたレディが、これはウッカリだニャ、と前置きを入れて説明してくれる。
「あの子らは正常に作動しているから、【機甲案内獣】がいれば襲ってこないのニャ」
なるほど、レディが安全装置代わりになってくれているのか。
そうと知ればスムーズに中に入る事ができる。
「ここは世界の石の中心地と呼ばれてたニャ」
施設内は鉱物の展覧会、といった雰囲気でガラスケースに様々な鉱物が展示されていた。また部屋の一室すべてが水晶群に満ち、洞窟にいると錯覚してしまう変わった場所もあった。
「ここは【鉱晶竜】の胃袋をまるまる置いたとこだニャ。あいつらは水晶を好んで食べるから胃袋も水晶の部屋みたいになっちゃうのニャ」
この空間全てが胃袋……【鉱晶竜】とやらはけっこうなサイズのモンスターだと把握できる。
「タロ先輩! これを見てください!」
そして予想通り、ジュンヤ君が興奮しっぱなしだ。
あらゆるケースを見ては飛び跳ね、俺にあーでもないこーでもないと語り続けている。その中でも一際、彼の反応が大きい石があったようで、彼は念入りに調べていた。
それはただの鉱物ではない。大きさはボウリング用のボールと同じぐらいで、石の中に石がある、そんな感じの代物だった。
「石晶鑑定の結果、【鬼神竜バハムートの化石】と判明しました!」
化石だと……!?
そうかなるほど……だから石の中に埋まっていたのは石ではなく、骨の残骸だったと。
これはロマンの匂いがプンプンするぞ!
「レディ、これももらっていいの?」
俺は期待を込めてネコ・フェア・レディに問い掛けた。
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