229話 完璧メイドの正体
クラン・クランというゲームは移動がものすごく不便だ。
なにせ都市間を一瞬でワープできる手段が実装されていない。馬車などの移動スピードを速めるツールやサービスは存在するけれど、エソがかかる。
その辺は『戦争』というシステムが搭載されているから、一瞬で移動できるシステムが導入されると戦術が破綻する、なんて意見もある。戦争において兵力の移動手段や機動力は確かに勝敗を分かつ要素の一つで、移動速度を加味した戦略を組むのも醍醐味、という見解なんだろうけど……。
一介の傭兵としては、この辺の仕様は不便極まりない。一度移動してしまえば、他の街に戻るのに時間を要する。なので一つの都市を拠点として活動する事が多く、わざわざ初期街に戻ろうとする傭兵は少ない。
そのおかげで各街の傭兵人口はバランスがいいのかもしれないけれど……俺もそろそろ『先駆都市ミケランジェロ』を拠点とするのは卒業かもしれない。
そんな仕様だから、フレンドと顔を偶然合わせるなんて少ない。
移動が不便だからこそ、フレンドと関わる一時が一際大切な時間だと感じられるのかもしれない。
そんな風に考えながら、俺は今から『雷炎を仰ぐ都イグニストラ』に集まってくれるフレンド達を思う。
今回、『歯車の古巣』に赴くにあたって、俺とトワさんだけでは非常に心細い。なにせ『鋼鉄の玉座』などの発祥地であり、あんな巨大な兵器を生み出せる都市なのだ……さすがはミソラさんの学び舎なだけはあるけれど、その危険度はおそらく高い。
フレンドリストから声をかけ集まってくれると快諾してくれたメンバーは、ジョージ、弓使いのリリィさん、魔術師役のミナ、そして晃夜のリアル弟であるジュンヤ君だ。
俺とトワさんを足せば、合計6人PTになる。
「『盤上で踊る戦場遊戯』か……」
そんなわけで、みんながイグニストラに集合するまでの時間、イグニトール女王よりもらったスキルを色々と試そうとしているのだが……。
「タロくん、すごいVIP待遇だね」
「う、うん……」
俺とトワさんは女王との謁見を終えて別室に通された。てっきり来賓室にでも行くのかと思いきや、フタを開けてみればバカでかい一室が用意されていた。豪奢な調度品の数々が鎮座していて、壁などには数点の絵画や価値のありそうな武器なども立てかけられている。おまけにお姫様が使ってそうな、天蓋付きのベッドまで備わっている。
「他のメンバーがイグニストラに到着したら、NPC兵士がここまで案内してくれるって……タロ君、本当にお姫様扱いだね」
「そ、そうだね」
「爵位と領地がもらえるかもって、なんだかワクワクだね?」
「うん。その辺のシステムってまだ公開されてないから、今から楽しみだよ。でもその前に無事にクリアできるかだよなぁ……」
今回のクエストクリア報酬の爵位授与まで、暫定的に俺専用の広い個室をもらえたのは嬉しい。嬉しいのだけど、扉の前に立つ二人のメイド型NPCがジーッと俺に視線を向けているのが気になるのだ。
妙なプレッシャーとも言うべきか、女王からもらったスキルの検証がし辛い。
たかがNPCなれど、緊張感をはらんだ二人に若干の居心地の悪さを覚えてしまう。
「タロ様、何かご不便な点はございませんか? 何なりとお申しつけください」
「さしでがましいようですが、紅茶のおかわりはいかがでしょうか?」
このように俺の様子を慮って気を利かしてくれるのはありがたいけれど、なんだか非常にやり辛い。
「だ、今は大丈夫です」
俺を本当のお嬢様のように扱い、至れり尽くせりなのである。室内でトワさんと一息つこうとしたら、窓際の優しい陽光が射す空間に音もたてずにテーブルと椅子をすみやかに運んでくれたり。そんな物を用意されれば腰を落ちつけてしまう。そしたらタイミングを見計らったかのように、良い香りの紅茶と美味しいお菓子を持ってきてくれた。
そうしてトワさんと紅茶を楽しみながらの談笑が始まると、主張しすぎないハープの音色に包まれるではないか。和やかな旋律を奏でるのは、片方のメイドさんだ。もう片方は即時、俺の要望に応えられるように万全の待機状態。
さりげない雰囲気作りから始まり、彼女たちの見事な姿勢の維持や上品さを醸し出す言動の数々。たった数分でありながら、完璧なるメイドが何たるかを見せつけられたような気分だ。
普段、こんなVIP待遇をされてない庶民からすると、こういう対応にはついつい戸惑ってしまう。
「ゲームの中でティータイムって不思議な感じだね? それにしても、この紅茶は美味しいね」
「クラン・クランは、味覚まで脳に直接味わわせる事ができるから凄いよね。空腹は満たされないけれど」
「企業とのコラボ? 宣伝も兼ねて色んなメーカーさんがクラン・クランに商品を再現したがってるんだって!」
「そしたら無料で味わい放題じゃないか!」
「うーん、現実よりかはどうしても劣化しちゃうらしいから、『もっと美味しくいただきたい』とか『満腹感と充足感が足りない!』 っていうところ私は狙ってると見た!」
「なるほど……現実での商品販売促進に繋がるわけか。広告の一部を担うと……」
「でもでも、宣伝どうのって考えるより! この紅茶と焼き菓子は最高ね!」
もふもふとメイドが用意した物を満面の笑みで頬張るトワさん。
トワさんがご機嫌なので、全て良いという事にしよう。
ん、この焼き菓子うまーっっ!
◇
固有スキル、『盤上で踊る戦場遊戯』。
これは簡単に言うと、小さな盤上を戦場に見立てた戦略兵器だ。
発動した瞬間、自分の前方範囲を疑似的に盤上が表現してくれる。
敵が駒として盤上に置かれるのだ。
つまりは前方範囲の索敵に特化したスキルとなっている。
どこに敵がいて、数はいくつなのか、距離はだいたいどのくらい、などなど盤上から読み取れる情報は非常に多い。
『彩菌に飢える天動球』の方は自分を中心とした全範囲を索敵できるけど、可視化できないため非常に感覚的なものとなっている。正確な人数や場所を把握するのが難しいのだ。
その辺『盤上で踊る戦場遊戯』は前方だけとはいえ、かなり明確に情報収集ができる代物だ。
ただし、こいつを発動する条件がかなり厳しい。1秒毎に経験値が1消費されるのだ。これはかなり痛い。
「自分が蓄積させてきた経験値を犠牲に発動するスキルか……」
使い過ぎたらレベルが下がってしまうデメリットは大きい。そもそも単純に経験値を消費するのが、もうナンセンスな気がする。
俺は現在Lv8だけど、Lv8になってから稼いだ経験値は414だ。つまり7分間ぽっちスキルを発動しただけでレベルダウンしてしまう。そうなると振り分けたステータスポイントが大幅に下がるわけで、使用するにしてもレベルダウンは絶対に避けないといけない。
「盤上で踊るのは敵か自分か、せいぜい踊らせる側にならないとだな」
次に精査するのは【夢見る将校姫の軍駒】というスキルだ。
『夢見る将校姫の軍駒』
・【盤上で踊る戦場遊戯】に付属している駒に【命の輝き】を込めるスキル。
・駒を盤上に配置すれば、自身の配下として活用する事ができる。さらに【命の輝き】を込めれば、駒の大幅な強化に繋がる。
・【駒】に適合する存在を探し、【好感度】や【殲滅】といった多数の条件をクリアすると【命の輝き】を抽出できる。
・【命の輝き】はNPCやモンスターなどに見られる。
「これって……盤上に駒を配置するだけで、自分の配下を召喚できるスキルじゃないか? 駒の強さがどれぐらいなのか定かではないけど……すごい」
もし駒のステータスが低かったとしても強化していけばいい。
「NPCの好感度を高めて、そのNPCから【命の輝き】を入手? もしくはモンスターを殲滅して入手? どっちにしろ輝き集めか」
【盤上で踊る戦場遊戯】に付属していた駒は全部で14個だった。
駒種は【兵隊】が8つ、【戦車】が2つ、【聖者】が2つ、【騎士】が2つだ。
これをチェス盤の駒だと捉えるなら、王と女王の駒だけが存在していない。つまりそれに値するのは自分自身だと推測する。
どちらにせよ駒作りが重要か。
ならばと、さっそくNPCに試してみるのもありかもしれない。
部屋で待機する完全無欠のメイド二人組から【命の輝き】をもらうべく、スキル『空気を詠む』を発動して自分にかかる好感度を調べてみよう。
:NPCでありませんので傭兵タロに関する【好感度】をサーチできません:
ん!?
NPCじゃない!?
流れたログから驚愕の事実がここで浮上した。
「あ、あのお姉さんたちってNPCですか?」
おそるおそる待機しているメイド二人に問い掛けてみると……。
「タロ様。私たちは傭兵でございます」
「しかし傭兵である前に、誰よりもメイドらしく振舞い、メイド道を極めんとする純然たるメイドでございます」
優雅に微笑み、綺麗なお辞儀をする二人。
聞けば『バイト中』だとの事で、イグニトール王家に仕えるメイドとして従事しているのだとか。クエストとはちょっと違った雇用体系で、『10分100エソ』で報酬がもらえるらしい。
もちろん誰でもこの『仕事クエスト』に就けるのではなく、メイドクエストの実績やランクが伴って初めて受注できる仕事だそうだ。
ちなみに二人のメイドランクは【公爵家の一流メイド】だそうだ。
よくわからないけど何だかすごそう。
「今はしがない一人のメイドですので、傭兵ネームは非表示設定にしてあります」
「今はタロ様にも仕える従順なメイドでございます」
な、なるほど……いろんな楽しみ方をしている人がいるんだな……。
ブクマ、評価よろしくお願いします。
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