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224話 TS男子のプライド



「すごい綺麗……インテリアには丁度いいかも?」


『光明を見出す天動説』【悠久なる植物学者ハーバリウム・サヴァン】、そのスキルを使って完成させた植物標本はとてもオシャレだった。


 さっそくアビリティを駆使し、瓶の中に閉じ込められた花々を眺めれば、ついついその美しさに見惚れてうっとりとしてしまう。



「あはは、うふふ……さっそく与えた力をモノにできちゃうタロちゃん助手って……賢人なんて呼ばれている私ですら驚きを隠せないよ、隠せないね」


「お世辞でも嬉しいです。でもミソラさんが『血液』をくれたからじゃないですか」


「お世辞ではないんだけどね、ないんだよ」



 なんてミソラさんは褒めてくれるけれど、結局のところスキル『悠久なる植物学者ハーバリウム・サヴァン』を上手に活用できたのは、ミソラさんとブルーホワイトたんのおかげだ。

 


 まずは【血濡れた永久瓶(ブラッド・グラス)】に入れるための血液だけれど、今からモンスターを倒しに行ってその死体から血液を抜くっていうのも面倒だとミソラさんが言い出し、手元に何種類か血液じみた物を持っているとの事でそれを俺にわけてくれたのだ。



 それがこの三種。


『空狼の血』

【風の力を自在に操り、空を舞う狼の血】


 ちなみに色は透明度の高い青。



妖精の蜂蜜(ハニービー)

【妖精たちは自分の死期を悟ると、自分の最も好きな木に寄り添う傾向がある。その結果、妖精の死体は結晶の木々から流れ出る樹液に取り込まれる事が多々ある。おかげで特殊な蜂蜜が生成され、味はとっても甘い】


 こちらは透き通った黄色。




月怪樹(げっけいじゅ)の光液』

【月の光力に宿る魔力を吸収して、魔木化した月桂樹の樹液。魔物のようにうごめく姿は異様だが、その木から滴る樹液は透明で目を惹く美しさがある】


 そしてこっちは無色透明。



 内心、『空狼の血』以外は血液っぽくないなぁと思いつつも、それら三種の血液を三本の【血濡れた永久瓶(ブラッド・グラス)】に保管。


 次にこれら血液に混入する植物、つまり花や草はどうするかって事で、これもミソラさんが『空中庭園』の植物を分けようとした。けれど丁寧に遠慮させてもらった。


 スキルに素材、何から何までお世話になってしまってはそれは自分の錬金術で生み出した物ではなくなってしまう。



 じゃあどうしようか、と思い悩んだ末に出した答えがブルーホワイトたんだ。彼女は活動時間を温存・充電するためにスリープ状態に入ると、『核』となってアイテムインベントリに収納される。

 そんな彼女を呼び覚まし、何を頼んだかと言えば……彼女は『氷花』というアビリティを持っている。もしかして、そのアビリティ『氷花』を素材に転用できないか、と思いついたのだ。



(あるじ)サマ、残念ながら私の生み出す花はすぐに散ってしまいまス……」



 そう言うブルーホワイトたんは、魔導人形らしく自らの表情筋を一切動かさなかったけれど、ちょっと寂しそうだった。

 そもそも敵の動きを阻害し、ダメージを与えるというアビリティなのだから永続的に『氷花』が素材化するとはこちらも期待はしていない。


 俺が期待していたのは【血濡れた永久瓶(ブラッド・グラス)】が持つ効能だ。瓶に入れた血液は、半永久的に鮮度を保つという効果が付与される、という説明文があるのだ。


 つまり、血液の中に植物らしきものを入れれば――

 俺の目論見どおり、ブルーホワイトたんが生み出した一輪の冷たく儚い『氷花』は【血塗れた永久瓶(ブラッド・グラス)】の中でしおれる事なく、その美しさを保っている。



「主さマ……私ノ花を……ありがとウ」


「こちらこそ、素敵な献花に感謝を。さてさて、あとはこの三本の瓶のうち、どの瓶で菌が繁殖できるか、だな」


 と言ってみたものの、俺に出来る事はない。

 このまま放置して菌が育つのを待つだけだ。



 永遠に植物の美しい姿を保存できる。しかしそれは細菌を手元で増殖させるに等しい、危険な行為。保存期間が長ければ長い程、生み出されるウィルスは強力なものになっていくらしいので、ニヤニヤが止まらない。



「ふふふ……どんな菌が育つか楽しみ楽しみ……」



 なにせ菌を生成できれば、スキル『悠久なる植物学者ハーバリウム・サヴァン』Lv10で習得しておいた新アビリティが試せるのだから。


その名は【彩菌に飢える天動球】。


 黒い笑みが止まらない。





 ミソラさんへのお礼もそこそこに、俺はさっそく助手として行動に出るため『宝石を生む森(クリス・テアリー)』を後にした。


 目指すは空中都市と呼ばれた、魔導機甲(オーケン)都市『歯車の古巣(ハロルド・ギア)』。

 そこにミソラさんが欲する星々の光を集めて放射する機具と、俺の求めるイグニトール王家の起源がある。


歯車の古巣(ハロルド・ギア)』への行き方は、どうやら一度イグニトール王家に向かう必要があるそうだ。王家には代々、極秘に伝わる魔導装置があるそうで、それは『歯車の古巣(ハロルド・ギア)』に転移できる代物らしい。どうしてミソラさんがそんな事を知っているのかは謎だけれど、とにかく俺はイグニトール女王に謁見する他ない。



 ちなみにミソラさんも自分の足で魔導機甲(オーケン)都市に行けたらいいと言ってたのだけど、何やら自分が守護する『宝石を生む森(クリステアリー)』から、一定距離までしか離れられない契約を結んでいるだとか何とか。

 先駆都市ミケランジェロまでなら有効範囲内だけど、遥か遠方にある『歯車の古巣(ハロルド・ギア)』には自分で赴く事はできないそうだ。



「よし、出発だ」


『銀狐の耳』で、物理攻撃の察知力を底上げ。さらにその上から『探求者見習いのローブ』に付いているフードを被せ、後方の視界が悪くなるも素材探知力のアップ。

 それに加えて、『見識者の髑髏(どくろ)覆面(バイザー)』で『鑑定眼』の上位互換、『知識眼』を常時発動。30分は外せない呪い付きだけれど、イグニトール王国までの道中、素材採集をしないなんて錬金術士としてもっての他だ。

 

 さらにローブの下には『銀狐の一尾』をふさふさと、『燈幻刀(とうげんとう)』【鏡花(きょうか)】を忍ばせておく。


 ちなみにフゥはまだ呼んでいないし、ブルーホワイトたんも仮眠状態でインベントリの中だ。



「完全武装、完了っと!」



 意気揚々と先駆都市ミケランジェロを出ようとした直後、俺は見知った顔を目撃する。



(あかね)ちゃん……あ、ここではトワさんか……」



 最近は色々あって遊べてなかったな……一抹の寂しさが胸中を駆けるが、今は彼女と一緒に遊んでいる場合ではない。

 そう自分に言い聞かせながらも、ついつい彼女を目で追ってしまう。だって、茜ちゃんは俺の好きな人だから……。


 彼女は複数の男性傭兵(プレイヤー)に囲まれながら、笑顔で歩いている。どうやら、他の傭兵(プレイヤー)たちと遊んでいるようだった。


 

「トワさん以外、全員男か……そういえばクラン・クランの男女比率って8対2とかだっけ」


 晃夜が、だいたいのネトゲは女子率が圧倒的に少ないって言ってたけど、意識してそういった点を見ると確かにそうだと気付く。

 数々の戦場でもイベントでも全体的に見て、男性傭兵(プレイヤー)の数の方が多かった。


「……はぁ」



 男がトワさんに話しかけ、それにトワさんが答えれば……他の男性傭兵(プレイヤー)たちに笑顔が広がる。それに釣られてトワさんの顔に笑みが咲く。


 そんな様子を少し離れた所でポツンと眺めている事しかできない自分が、ひどく惨めに思えた。

 皇太子殿下に迫られ、親友達の立場も脅され……通う学校すらも強要されようとしている。


「茜ちゃん……」


 どうせ届かない。

 届く距離でもないし、彼女の目に俺は映っていない。

 それでも、ポソリと無様に呟いてしまった。



「……あれ?」


 そんな俺の情けない呟きに答えるかのように、彼女の視線が俺へと移った。

 あまりに予想外な事で動揺しちゃうけど、でも心の中では歓喜の渦がのたうちまわる。


 じーっとこっちを見ながら、虚空をいじる仕草をしながら俺の方へと足早に近付いてくるトワさん。

 きっとあの動きはフレンドリストを確認してるはず。

 今の俺は『見識者の髑髏(どくろ)覆面(バイザー)』を被っているから顔は見えない、けれどフレンドなら俺の居場所がリストに表示される。



「もしかして……じん、……こほん。タロくん?」


 彼女の和やかな声が俺の耳から心に届く。


「うん、トワさん。俺だよ」


「やっぱりー! タロ君が着てたとの同じ、金の刺繍が入った真っ黒なローブが目に入って! もしかしたら~って思って声かけちゃった」



 トワさんの弾む声が、俺の心を弾ませてくれる。



「なんだ~? 誰ですか、このガキンチョは」

「うわ、なんかヤバそうな恰好してるキッズだ……」


「トワさん、こんなのと関わっちゃいけませんって」

「こんな少年は放っておいて、さっさと行こ行こ」


「そうですよ。これから俺達、イグニトール王国の首都イグニストラに向かうって盛り上がってたじゃないですか」



 トワさんと俺が会話をし出すと、3人の男傭兵(プレイヤー)たちが難癖を付けるような口調で俺を取り囲み始めた。


「みんな! タロくんは私の大切なフレンドなんだから、そんな言い方はしないで。ごめんね、タロくん……その、みんなも悪い人たちではなくってね?」


「トワさんがそう言うなら……」

「なんだよ、このちびっこ」


「大方、トワさん目当てのマセガキだろ」

「トワさん目当てはおまえだろ」



 なん、だと!?

 男性傭兵(プレイヤー)の一人が聞き捨てならない台詞を吐いた。



「ま、お前が惹かれる気持ちもわかるけどな!」

「トワさんは他の女子傭兵(プレイヤー)とは違うしなー」


(みつ)がれる事を嫌い、姫プレイをしない」


「他の女子傭兵(プレイヤー)とも仲良くしてるしなぁ!」

「大抵の女性傭兵(プレイヤー)って、女同士で仲良くないパターン多い」

「裏表がない!」



 次々にトワさんを褒めたたえる彼らに、俺はいてもたってもいられなくなった。俺だって、トワさんのいい所はたくさん知ってるぞ。



「ちょっと! みんな、やめてよ……」


 顔を赤くして動揺するトワさん、可愛いです。


「せっかくしてるゲームなんだから、自分の力でクリアしたいって思うでしょ? わたし、けっこう負けず嫌いなだけなんだから。それにゲーム内でまで気を使いたくないだけ! 自分に正直に! つくろう必要のないクラン・クランが最高って事!」


 トワさんの返答に男性陣の熱がますます上がっていくのがわかる。だって俺も男子だから。


 クゥゥ……なんだか無性に悔しい。トワさんと一緒に遊んでいられる彼らがすごく羨ましい。

 いや、待てよ。確か男の一人が『イグニストラに行く』とか言ってたよな。



「あの、トワさん……もしかして今から『雷炎を仰ぐ都イグニストラ』に行くの?」


「うん、そうだよ! タロ君、あそこで大活躍したんだってね。本当は私もイグニトール継承戦争イベントに参加したかったんだけど……その、ね? 当時はレベルが心もとなくて……」



 でも今はレベル7に上がりました! と自慢げに言い放つ彼女に自然と顔がほころんでしまう。

 だけど、きっとこの人達とレベル上げを頑張ったんだろうなぁと思えば、チクリと胸がうずく。



「タロくんは何してるの?」


「俺は…………俺も今からイグニストラに行くところだったんだ」


「え!? じゃあ、私達と一緒に行かない!?」

 


 やった! 計画通り、と喜ぶのも束の間。


 トワさんの発言に、男性陣が『あいつ、トワさんと遊びたいからって』とか『デマカセ言ってるし』などなど、不満そうな小声がこぼれている。



「ちょっと、みんな! 聞こえてますよー。タロくんはね、そんな嘘をつくような人じゃありません! みんなが嫌なら、わたしはタロ君と二人で行くからね」


 そうトワさんが宣言すれば、男性陣はしぶしぶと一緒に行く事を認めてくれた。中には『お気に入りかよ』と、俺にだけ聞こえるように嫉妬が含まれた毒を吐く傭兵(プレイヤー)もいたけど、そんな些細な事は気にしない。

 だって茜ちゃんとゲームができる喜びで、胸がいっぱいだから。



 男、訊太郎(じんたろう)。気合いを入れろ!


 ここは好きな人にいい所を見せるチャンスだ。


 イグニストラまでの道中、トワさんを全力で守ると固く誓った。




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