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223話 魔宝植物の天動説



「私が今、夢中になっている『天動の薬草学(ウラノス・グラシエ)』というのはね、見ての通り特殊な植物を観察し、育て、その活用法を研究するのさ、するの」


 その施設がこの空飛ぶガラスの宮殿。植物を繁殖させ、管理し、愛でるが故にミソラさんはここを『空中庭園』と呼んでいるとの事。


「『天動の薬草学(ウラノス・グラシエ)』は私のオリジナルなの。妖精たちの力で生まれた宝石を生む森(クリス・テアリー)の木々や植物に、私の『空魔法』を合わせた研究よ、大研究なのさ。『空魔法』で空調・天侯・気温変化・大気魔素増減の管理を徹底的にして、日光を十分に吸い込むこの宮殿で育てるの、育てるんだ」


 部屋ごとに条件を変えて植物たちを育成しているそうだ。



「この部屋は特に風の力を強めるための『天動の空水晶(ウラノス・クォーツ)』が配置されているの。いるんだよ」


 だからこの部屋は、このフィールドは風系統の魔法を行使すればすこぶる規模が大きくなるのだとか。

 そう語るミソラさんは、宙に浮かぶひし形のクリスタルを愛おしそうに眺めている。



「火・水・風・雷の四種の部屋は上手くできあがったの、完成したのさ」


 四属性の強化フィールドを創り上げた、なんてサラッと言っちゃうミソラさんがすごい。

 しかもそれらの植物を媒体にした薬も完成しているようだ。例えばこの部屋の植物、風属性クリスタルの管理下で育った植物を元に薬草を作る。その薬物を摂取した者は一時的に大幅な風属性強化が付与される、もしくは抗体を施されるようだ。



妖精女王候補(ティタルニア)も気分がいいでしょう? いいんじゃないかな?」


 ミソラさんがフゥへと質問すれば、フゥは『風がすごく踊りたがって元気なのー♪』と笑顔で答える。


「四属性は制覇できたわ、できたの。となると、あとは『明け』と『夜』に強まる植物を作りたくなるよね、なるんだよ」


 ここまでご機嫌に自分の研究成果を語るミソラさんだったけれど、わずかにその表情が曇る。


「明けは太陽、夜は月……大空は太陽と月に最も近い魔法であるだけに、これも簡単だなって思っていたのに、いたんだ……」


 美しい賢者が神妙な顔となった理由は、彼女の狙いが成就しないという事。



「どうにもうまくいかないの、いかなくてね……」


 だから、ここで優秀な助手の出番なの、と俺にさりげなくプレッシャーをかける賢者ミソラさん。


「ここには結晶植物に必要な日光も養分も、土も水もそろってるの。となると考えられる原因は『明け』と『夜』を繋ぐ中和剤が必要って事なんだ、なのね」


 それで星というわけか。星は夜にしか輝かないけれど、実際は昼間にも星の存在は確かにあって、ただ俺達人間の肉眼では視認できないってだけだった気がする。



「そこで、タロちゃん助手には星々の研究を……星達の光を凝縮して放射する装置を見つけて来て欲しいの、欲しいんだ」


 そんな装置があるのか。



星遺物(アストラ)の研究と言っても、取って来て欲しい物があるだけなの。それだけなんだよ」



 すごく簡単そうにミソラさんはあっさりと言うけれど……そんな物がどこにあるかなんてこれっぽっちも知り得ない俺にとっては難題だ。


「あるれ、あれれ。安心してよ、無問題だよ。装置の場所はわかってるの、わかってるよ。場所はね、魔導機甲(オーケン)都市『歯車の古巣(ハロルド・ギア)』にあるはずなの、そうなのさ」


 ん!?

 それって俺が知りたかった、イグニトール王家関連の街だよな?

 たしかミソラさんが言うには魔導機甲(オーケン)都市『歯車の古巣(ハロルド・ギア)』にいた人間の末裔がイグニトール王家を起こしたって話だったはず。


 つまりはイグニトール王家のご先祖様が関わっている都市って事だ。




「ふふふ、これで理解したかな? したよね?」


 なるほど。ミソラさんは自分の研究を手伝えば、自然とイグニトール王家の起源を知る事ができると言っているのか。



「かつては『空中都市』なんて呼ばれていた『歯車の古巣(ハロルド・ギア)』。そこに私の求める物があり、私の助手が求める物もあるの。あるんだよ?」


 ほほう。空に最も近い都市なればこそ、いくつもの現存する『星遺物(アストラ)』なる装置とか物体? を保管しているはずだと。



「わかりました、先生」


「ふむ、ほむ。タロちゃんはやっぱりいい子だね、いい子だよ」


『むふふ、先生って呼ばれちゃったよ。呼ばれちゃったね』と小さな声でモニュモニュと口元を(ゆる)めるミソラさん。そこに、灰王との戦いの最中で見せた圧倒的な火力で以ってその場を制圧した偉大なる賢者の面影はなく、ただの可憐な少女の振舞いだった。



「せ、先生」

「なにかな、なにさ? タロちゃん助手よ」


 ひどくご機嫌が良い先生に、俺は重大な質問を投げかけておく。


「あの、『歯車の古巣(ハロルド・ギア)』? ってどこにあるのですか? どうやって行けばいいですか?」


「あるれ、あれれ。気が早いよ、タロちゃん助手。その前に先生として助手には研究に必要な『材料』と『教材』を与えておくものでしょう? ものだろう?」


 そう言って、賢者ミソラより渡されたのは『天穹の魔導書ウラノス・グリモワール』【魔宝植物の天動説】というアイテムだった。





天穹の魔導書ウラノス・グリモワール』【魔宝植物の天動説】。



「これって魔導書……? でも俺の魔法適性は低いですよ?」


 立派な装丁が施された分厚い魔導書。表紙にはいくつもの紋様が刻まれ、所々に貴金属で補強されたソレは、一目で高価な物だと判断できる。


 俺のステータスの魔力は14だ。

 正直、これを使って空魔法とやらを習得しても使いこなせる自信もなければ、使いたいとも思わない。だからこんな貴重そうなスキル習得アイテムを渡されても困るというものだ。



「ふむ、ほむ。タロちゃん助手の心配は杞憂とだけ言っておくよ、言っておくの。それは魔導書(グリモワール)であって魔導書(グリモワール)ではないの」


 そうまでして言われたのなら、魔導書を一応『鑑定眼』で分析してみる。




天穹の魔導書ウラノス・グリモワール』【魔宝植物の天動説】


【空猛き賢人が、自身の愛助手のために一から綴った魔導書物(グリモラ)。天動の力を宿すスキルを習得できる。ただし、読解者の経験、適性、思想によって習得できるスキルは変容する】



 読解者によって習得するスキルが変わる……こんなすごい物をミソラさんが俺のために作ってくれたとは。

 これは是が非でも使用しないわけにはいかない。

 なにせ、もしかしたら錬金術関連のスキルを習得できるかもしれないのだ。


「さっそく使ってみます!」



 俺は意気揚々と『天穹の魔導書ウラノス・グリモワール』【魔宝植物の天動説】を使用した。

 すると次々とアシストログが流れ込んでくる。



傭兵(プレイヤー)タロのステータスを魔導書(グリモワール)が読み取りました:


:傭兵タロの適性を読み取りました:

:傭兵タロのこれまでの人生(イベント)を読み取りました:



:ステータス知力と素早さ・優。最適性アビリティ、錬金術:


人生(イベント)補正、灰王への一刺し、巨人王の救世主、再生と不滅の錬金術師の弟子、炎雷王室の盟友、空猛き賢人の助手、妖精女王候補(ティタルニア)の親友を検知:


:色・光・風・鉄・闇・空・6属性の開放を確認:



:『天穹の魔導書ウラノス・グリモワール』【魔宝植物の天動説】は『錬金術の古書(アルケミ・クラシカ)』【光明を見出す天動説】へと変質しました:



錬金術の古書(アルケミ・クラシカ)』【光明を見出す天動説】!?


 これは、まさか……。





:エクストラスキル、『光明を見出す天動説・悠久なる植物学者ハーバリウム・サヴァン』を習得:



 なんという事だ。

 とっても素敵そうなスキルを習得してしまったではないか!



悠久なる植物学者ハーバリウム・サヴァン Lv1:


:アビリティ【屍の花姫(ネクロフィオラ)】を習得:



 なんで(しかばね)!?

 植物学者なのに屍……と疑問を抱かずにはいられないものの、先程のログでリッチー師匠の弟子だとか、闇属性の開放だとか流れていたあたり、俺にふさわしいアビリティなのかもしれない。

 


 アビリティ【屍の花姫(ネクロフィオラ)

【モンスターをキルしても、その『死体』を1分間残すことができる。(つい)えた命に、手向(たむ)けの花を飾る姫にのみ成せる特殊な能力。その力は屍より新たな生命を育む】



 ふむ……。クラン・クランのモンスターはキルすればポリゴンエフェクトに包まれ、すぐに消滅してしまう仕様だったけれど……このアビリティがあれば【死体】を残す事ができる、と……。


 これは気になり過ぎるアビリティだ。まさかとは思うが、死体からモンスターの各部位素材なんかを採取できたりするとしたら、それに繋がる超重要なアビリティじゃないのか!?


 こうしてはいられない。

 俺は『悠久なる植物学者ハーバリウム・サヴァン』にスキルポイントを次々と注ぎこんでいく。



悠久なる植物学者ハーバリウム・サヴァン Lv3:


:アビリティ【血濡れた永久瓶(ブラッド・グラス)】を習得:



アビリティ【血濡れた永久瓶(ブラッド・グラス)

【MPを10消費して『血濡れた永久瓶』を召喚生成し、『死体』から『血液採取』ができる。『血濡れた永久瓶(ブラッド・グラス)』に入れた血液は、半永久的に鮮度を保つという効能が付与される】



 んん~! やっぱりきたぁああ!

 でも、血液採取とか全く植物学者と関係ないって程に闇だな!

 全然いいんだけどね! むしろ禁忌感あふれて俺の素敵度指数が振り切れそうです!

 未知なる素材採取が可能になった事で、俺の興奮は最高潮。



悠久なる植物学者ハーバリウム・サヴァン Lv6:

:アビリティ【錬菌術】を習得:



アビリティ『錬菌術(れんきんじゅつ)

【植物系統の素材、ドロップアイテムを血液混入済みの【血濡れた永久瓶(ブラッド・グラス)】に入れる事で、彩菌(ウィルス)を繁殖する事ができる】



 なん……だと!?


 細菌(さいきん)の培養……いや、彩菌(さいきん)か。とにかくウィルスを増殖させて生み出す事が可能だなんて……。

 素晴らしすぎる。


 モンスターの血液と各種植物を元にウィルスの作成とか、一体どんなウィルスを作れるか、わくわくが止まらない!

 しかも瓶に草花を入れ、液体を浸透させて保存とか! 現実にある観賞用の美しい植物標本、ハーバリウムみたいでスタイリッシュオシャレな素晴らしいスキルだ!




 こんな気持ちにしてくれたのは、もちろんミソラさんで。

 彼女は魔法にあまり興味のない俺の内心や希望を汲んでくれた先生で。


 だから歓喜おさまらず、素敵で強くて賢い先生に思わず飛び付いてしまう。



「ありがとうございます! 最高の先生ですッ!」



「にょはは、にょへへ。それほどでもなの。なのさ」



 照れを隠すようにとんがり帽子のつばで両目を隠す、青髪少女の姿がひどく可愛らしく思えてしまった。







傭兵タロ Lv8 各ステータス


HP101

MP90

【頭】銀狐の耳 MP+40

【尾】銀狐の尻尾MP+50

【指輪】青き賢者の恩寵MP+50



力10 魔力14

防御2 魔防8


素早さ240

知力345


残りスキルポイント 27



称号

『老練たる少女』【スキルポイント取得3倍】


『先陣を切る反逆者』

【初撃を50%でクリティカル・Lvが自分より高い者へのダメージ総数20%増加】


『空(たけ)き賢人の助手』

【ステータスの魔力とMPを1.2倍。魔法素材を用いた製作時の成功率と品質が20%上昇】




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