221話 魔女からお茶会の誘い
権力の横暴に抗うにはゲームで現実を変えるしかない、という結論に行きついた俺達はさっそくクラン・クランへログインしている。
「よし! 俺達は必ず極上の酒を探しだす!」
「ボク達に必要なのは最高の美酒だよね! じゃあ、訊太郎の方も頑張って!」
え、ちょ、待って。なぜにお酒!?
晃夜と夕輝は凄い気合いを帯びた形相で、先駆都市ミケランジェロから飛び出して行った。お前達はいつから酒乱になったのかと突っ込む暇もない程にスピーディだった。
隣に立つ姉と親友たちの走り去る後ろ姿を見送る他なく、俺はポカーンとしてしまう。
「太郎、私はゲームを利用して現実を改変していくなど……」
姉に聖イリス学園での詳細を話してから、姉はずっと難しい表情をしたままだった。けれど親友たちが去れば相好をトロンと溶かし、俺に微笑みかけてくる。
「……この件に関しては大賛成だわ。私の太郎を全寮制の学校にやるなど言語道断ね。必ずやイグニトール王家の弱みを握ってみせるわ!」
鬼気迫る気概、姉は研ぎ澄まされた刃のような笑みを虚空へと浮かべ、明後日の方向を眺めている。
おそらく皇太子殿下を幻視しているに違いない。
「『水門回廊アクアリウム街』、昨日に見つかった新しい都市よ。私はそこに行くわ」
姉の狙いはイグニトール王家への対抗手段と、弱点の模索だ。イグニトール王家と言えば、雷と火。火の弱点といえば水だ。それに加えて、純粋なる水は電気を通さない、つまり雷を無効化できる手段を見つけると息巻いているようだ。
新しく発見された『水門回廊アクアリウム街』は、青属性、特に水魔法が盛んな街らしく、そこに炎皇家のスキルを打開する手段が隠されているかもしれないと姉は踏んでいるようだ。
「炎と雷を扱う傭兵への対策研究と言えば、『首狩る酔狂共』のあいつらも納得してくれるわ」
姉は団長という立場を活用し、すっかり傭兵団を私物化している模様。
まぁ、俺としては助かるから何も言わないけれど。
「じゃあ、太郎の方も頑張るのよ」
そうして俺は一人になってしまった。
まぁこれも予定調和である。なにせ話し合いの結果、俺が受け持つ担当? は『イグニトール王家の起こり、その起源の究明』だ。
イグニトール王家の根源が何かをつかめれば、ゲーム内でのイグニトール王家を揺さぶれる可能性があるのでは? という推測からこのような流れになった。
起源なんてものを探るには絶対にイグニトール王家と接触する必要がある。ゲーム内でのイグニトール女王と親しい俺が一番の適任者ってわけだ。
「でもイグニトール女王陛下にお目通りする前に、他の独自ルートからも探れるなら……やっておくべきだよな」
そうして周囲に誰もいなくなったか確認した俺は『青き賢者の恩寵』という指輪を取り出し、自分の細っこい中指にはめる。これで空猛き賢人との名高いNPC、ミソラさんと会話ができるはず。
『もしもし、ミソラさん?』
『あるれ? あれれ、タロちゃんだ。さっそく私があげた指輪を使ってくれたんだ、使ったのね』
感度良好。
『あの、少しお聞きしたい事があるのですが』
『何かな? 何だろう』
ミソラさんは長寿種であるエルフの血も入っている身。であるならば長く生きている分、歴史には詳しいかもしれない。彼女の記憶と知識を頼りにするのは得策だろう。
『イグニトール王家について詳しく知ってたりします?』
『んん、んん? あー、魔導機甲都市『歯車の古巣』にいた人間の末裔が作った王家だよ、だね』
なんとも気になるワードが飛び出てますな。
『魔導機甲都市、ですか』
『俗に空中都市なんて呼ばれてたりもしたね。何を隠そう、私もあそこの学院出身だったりしてね?』
賢者ミソラの学び舎がある都市だって!?
『あの詳しく教えてもらってもいいですか?』
『いいとも、いいよ。それじゃあ対価としてタロちゃん助手にはちょこっと働いてもらおっかなー?』
そういえば俺って、『青き賢者の恩寵』をもらった際にミソラさんの助手って事になってるんだった。
『もちろんです。何をすればいいですか?』
『じゃあ、まずは――午後のお茶会にタロちゃんをご招待しちゃおうかな。たまには先生と助手で、スキンシップも大事でしょう?』
『お茶会?』
『結晶咲く秘め園、宝石を生む森のお茶会に招待するよ、するね』
『えと、それってどこでやるのですか?』
『もちろん私の工房、空中庭園さ♪』
ミソラさんの弾む声。
賢者のうきうきとした気分が通話越しでも伝わって来た。
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