216話 天使階級
書籍化作業ががががが、、、、、来週は更新ができないかもです。
申し訳ありません。
不思議だ。壇上に立つ前はこれだけ多くの人前で朗読するのを緊張していたのに、今はそこまでのプレッシャーを感じていない。
というのも、これから自分が行うデモンストレーションが果たして成功するのかどうか、ある種の実験に対する思考を巡らしているようなもので、実験結果はどうなるのか、その考察と予測をたてる事で気分は向上していた。
つまりは、わくわくだ。
「暇を持て余した灰の王様が、国中の猛者を集めて力比べをさせる御触れをお出しになりました。力自慢の傭兵達は剣を構え、真っ向から挑みますが――」
ちなみに俺が朗読に選んだのは『灰王と舞踏会』だ。かなり宗教色の薄い内容だったので、これにしたけど……やっぱり内容はクラン・クランでのイベント、『妖精の舞踏会』で対峙した灰塵王カグヤ・モーフィアスの演出に酷似している箇所はある。
「王の前では全てが灰塵と化したのです。灰王が一度、剛剣を振るえば挑戦者たちはことごとく一刀両断され、塵となって消え失せる運命を辿ったのです」
朗々と物語を口から吐き出しつつ、俺は周囲を確認する。
ステンドグラスは太陽の光を教会内に降り注がせ、すぐ横には清められた水の入った給水瓶。そして講堂の壁は石作りではないけれど、教壇の一部は間違いなく石で作られているのを確認。
「灰王は民の弱さを嘆き、他に強い者はおらぬかと叫ぶ。すると今度は年端もいかない子供が手を上げました。これまた無謀だなと王は笑うと、子供も一緒に笑いました」
あ、そうか……アレを作ると危ないな。となると……俺の目はブルーホワイトたんが入っているケースにかけられていた真っ黒な布を捉えた。今は床に放られただけの代物だが、あの黒布があれば大丈夫か?
「子供は突如、きれいな声で歌を歌うと、王は戦うのを忘れてそれに聞き惚れてしまいました。もう少し近くで聴いてみたくなった王は子供に近付きましたが――子供の服の袖からネズミが飛びだし、王の鼻頭をかじってしまったのです。こうして不意打ちをくらった王はそのまま退散しましたとさ」
灰王の弱点は歌でしたとさ、ってお話だ。
あれ? もしこの教典がクラン・クランの攻略本じみた内容を示唆していると仮定するなら……未だに先駆都市ミケランジェロの支配権を巡って、灰王に挑み続けている傭兵や、上位組の誰か、そう例えば姉とかにこの情報を渡してみたら上手く活用できるかもしれない?
「歌は心の色を彩るための大切な存在です」
この教典の内容を姉に伝えておこうと思いながら、今回の教えで締めくくる。
さてさて、教典をパタンと閉じてこれで朗読は終わりって空気を出すと……案の定、視聴者からは特に感動したような反応は見られない。
だけど、これからが本番だ。
俺は気合いを入れて、視聴者へと語りかける。
「女神さまの教えはどれも崇高で慈しみ深く、私達を豊かな道へと導いてくれます」
粛々と語る姿は修道女として及第点だろう。だが、ここからは違う。ここからは俺自身の言葉で語らなければならない。なぜなら俺は女神さまなる人物をこれっぽちも信じていないから。
「ですが、本当に女神さまの教えを盲目的に信じるのが良い行いですか?」
その無神論者にも近い言葉に反応して、一気に疑問や不穏な空気が広がる場を無視し、俺はニタリと笑みを張り付けながら視聴者に背を向ける。そしてすぐに『永劫にひしめく霜石玉髄』の入った金杯を手に持ち、彼らにこれみよがしに見せつける。
「例えば、この金杯は果たして……本当に宝石を安置するためだけに使うのが正しいと?」
俺の不遜な物言いに沈黙を守っていた視聴者たちの間で、ひそひそと非難の声が上がってくる。
『無断で聖遺物を持ってるぞ』
『背信者の行いに等しいのでは?』
「私は、この金杯はこう使うべきだと考えます」
視聴者からふつふつとわき上がる敵愾心をやりすごし、俺は金杯を教壇へ乱暴に叩きつけた。すると教壇の一部が崩れ、石の欠片が俺の足元に散らばる。金杯は予想よりも頑丈だったのか、小さな傷と歪みができただけだ。
「貴重な聖遺物をそのように! ぞんざいに扱うなど許されません!」
さすがにこの行いに紀伊子ちゃんも我慢ができなかったようで、咎めるようにして叫んだ。もちろん講堂内にはどよめきがどんどん広がってゆく。だが、俺はそれらを制するように声を張り上げる。
「先の朗読者たちは素晴らしい教えを私達に示してくれました!」
『聖童女の系譜』では、自己犠牲による博愛と平和の維持。
『白銀の天使と野獣たち』では、悪しき心を良き色に染める行い。
『銀氷姫に送る救済』では、報復と正義。
「全て善なる者のお言葉でありましたが……」
そうして俺は金杯を教壇へと置き、『才能持ち』として錬金術を発動。もちろん用いるは『魔導錬金』、叡智の集結タイプ四角形だ。
合成に選ぶ素材は、ステンドグラスからさんさんと降り注ぐ日光。特に黄石がはめ込まれた下を通る光源を慎重に対象として指定する。次に、足元に散らばった石の欠片。
ゲーム内でいうところの『太陽になびく黄色』と『硬石』だ。錬金術を現実で習得した時期から、物を視ると本能的に合成できうる素材かどうか判断できるようになってしまったが、それを今は活用させてもらう。
それが貴方たちが言うところの奇跡なのだろう?
講堂内へと溢れ落ちる光が、散らばる石粒が、自然に俺の掲げた右手へと集束していく。
「全て善なる者のお言葉でありましたが……私には、こう聞こえました」
煌びやかに輝く粒子たちが強い輝きを放ちながら一つの物体へと変貌してゆく。それはいくつもの光柱が俺の手に集い、力を手にするかのような演出になってしまう。
正直、ここまで派手な事態になるとは思っていなかったけれど、キューブの色を即座に揃えるために必死で頭を回転させてる身としてはそこまで気を配る事はできない。
「人間には光の部分があり――」
『彼女も奇跡を起こせるのか……』とか『金杯への蛮行は、祝福を生むための聖業だったとは……』など、『女神さまより賜りし色を……混ぜ合せた……?』や『まるで光の芸術だ』だとか驚愕に目を向く信者たちにおかまいなく、出来上がった『閃光石』を頭上高くに掲げる。
そしてすぐさま、ブルーホワイトたんを隠すために放られた漆黒の布を拾い持ち、閃光石と同様にバサリと上へ持ちあげる。
「闇もあると」
光と闇……対象的な色合いを持つ物を掲げ、何が言いたいのか、何がしたいのか? 聴衆は奇跡を起こした俺の動きを凝視しつつ、そんな無言の問いを視線に込めて来た。なので、俺はこれからしようとする事を仄めかす。
「さて、さっき作った『閃光石』を――――今、この場で使いましょうか」
予想通り、俺の右手にある『閃光石』が如何なる物かを知ってる人間達は声を荒げて主張し出す。
「そんな暴挙は許されません!」
「何を考えているのか!」
「あの子は狂人か!?」
「やめさせろ! あの少女の朗読会を即刻やめさせろ!」
「どれだけの信徒が犠牲になると思ってるんだ!?」
そう、現実での『閃光石』は使用すれば人間の目に後遺症を残す程に有害な強い光を放つ、失明を招くもの。それを俺に教えてくれ、過去に護身用として与えてくれたレアン司教様はどんな表情をしているかと言えば……笑みを絶やさずに俺を見守っていた。
ここまでして動揺しないとは、彼女の思考はやはり読み切れない。
さて、聴衆達が俺の手に持つ物が危険なのだと理解したのを感じ取ったタイミングで言い放つ。
「その通り。光であれ、強過ぎれば人々の毒になる! しかし、こうやって闇を用いれば奇跡となりましょう!」
すぐに『閃光石』を闇色の布で何度も何度もグルグル巻きにし、教壇に力強くぶつける。
「光あれ! 闇よ、あれ!」
教会の神父様みたいに講堂で『光りあれー!』 なんてオーソドックスな台詞を叫ぶ経験が自分にやってくるなんて滑稽だなぁ、なんて思いながらもやる事はきちんと演じきる。
こうして闇の衣をまとった強い光量を放つ石は、やんわりと漆黒の中で灯る光となった。これなら目に強い刺激をもたらさない、安全な光だ。その様相は、宇宙に星雲がほどばしるような美しい光で、まるで一つの宝玉のようにも思えた。
「光あれば闇もまたあり。ふたつが合わされば、前の見えない暗い夜道も、閉ざされた洞窟でも、弱き私達を照らしだす灯となりましょう!」
ここまでくると視聴者たちは黙って、固唾を飲んで俺の話に耳を傾けてくれている。
「光か闇などは関係ありません。誰がどのように扱うか、何を以って行動するか。それが大事なのです。ただ盲目的に神を信じ、誰かの言いなりになってしまえばそれは責任転嫁という罪に値します」
どうにか峠は乗り越えられたか。そう感じると、やっぱり安心して親友達の方へと目を向けてしまう。
「自分の信ずる場所に、女神さまはいます」
晃夜と夕輝を見て笑顔を送る。
あとはフィナーレだ。
「それを感じられれば、きっと奇跡は起こせるでしょう」
俺は『永劫にひしめく霜石玉髄』を金杯から取りだす。冷気を発生させる薄青色の鉱石は冷たく、手に張り付くように霜を侍らす。正直、このまま手で直接持ち続けたら凍傷になりかねないと判断した俺は、早急にスキル錬金術の派生アビリティ『人形の支配師』から『魔技手』を発動。
手早く『永劫にひしめく霜石玉髄』を研磨して、聖遺物となってしまったブルーホワイトたんに見合う『魔導石』を生成したい。しかしここでミスっては、ざわめく聴衆と教会の関係者に示しがつかない。
どうやら俺の暴挙を阻止しようと、朗読会を管理する信徒の何人かが必死の形相で壇上に駆け昇ろうとするのをレアン司教様が押しとどめているようだ。
焦る気持ちを抑え、『永劫にひしめく霜石玉髄』を着実に削ってゆく。手から放たれる淡いオーラは抜け殻になってしまったブルーホワイトたんの意志が目覚めるよう、魂の繋ぎめを手繰り寄せるような不思議な光がこもっている。そんな光を頼りに、ひたすら集中して溶かす。
クラン・クランで作ったときは少々削り過ぎてしまい、サイズ的に小さくなってしまった経験を活かし、今回は完成形をやや大きめにしようと意識するのを忘れない。やがて『永劫にひしめく霜石玉髄』を撫で終えた俺は、ガラスケースへと歩み寄り正面のガラスを横にずらす。
ガラス越しで見るブルーホワイトたんも可愛かったけど、やっぱり直接目にする彼女はこの世の物とは思えない程に美しかった。
こんな数の聴衆の前で彼女の胸元を開けるのは気が進まないけれど、ここでもたついているわけにもいかず、俺は罪悪感にまみれながらも彼女の上着を広げる。案の定、ブルーホワイトたんの胸の上部には『魔導石』をはめこむための窪みが存在していた。
「みなさん! お静かに!」
レアン司教様の制止を振り切った信徒がすぐ近くまで迫って来ていたので、俺は凛とした態度で牽制する。信徒たちが俺に気圧されたのか、何やら眩しいものを視るように、くらりと足元がおぼつかない様子で後退する。
その隙をつき、俺は『魔導石』をブルーホワイトたんの胸にはめこんだ。
それから数秒、講堂内はやけに静かに感じられた。
時間が止まってしまったかのように、周囲は唖然としつつも俺とブルーホワイトたんに注目している。
俺も固唾を飲んで、瞳を閉じたままの彼女を見つめ続ける。
「ア――――主、サマ?」
ちいさな、本当にちいさな呟きをもらし、ゆっくりと目を開くブルーホワイトたん。しかし、それは俺が彼女と至近距離でいたから一早く気付けた。周りの信徒数人が、さすがに堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりに俺とブルーホワイトたんを引きはがそうと走り寄って来る。
「――――貴方ガ――主、サマ?」
ぎこちなく、雪よりも透明で純白な声音を吐きだす彼女に、俺は首を横に振る。主とかってよりも、彼女とのゲーム内での関係性は頼りになる相棒だ。
「違うよブルーホワイトたん。俺は友達だ」
信徒の手がブルーホワイトたんから俺を離そうと伸ばされる。それに抵抗するために、俺は彼女へと抱きついた。するとブルーホワイトたんは『やっぱり、主サマでス……』と小声で呟き、抱きついたはずの俺が抱きかかえられてしまった。更に彼女は自分の周囲に氷の渦をバキバキと生成してゆき、それはまるで外敵からの攻撃を阻む壁となった。それだけに終わらず、足場にも氷をメキメキと生やし、数瞬のうちにして講堂内全ての人間を見下ろすだけの高度へと、俺とブルーホワイトたんは立っていた。
勢い余ったのか周囲には氷の結晶が飛び散り、突然の事でありながらその煌びやかさに息を呑んでしまう。
氷の塔、美しき彫刻が講堂の壇上に出現してしまったのだ。
「何人たりとモ、私の主サマに触れる事を許さナイ」
ぽー……。
過剰な防衛行動に、俺の脳内は完全にショート気味だ。
驚きどよめく信徒たちを見て、この事態にどう収拾つければ良いのやら。その鍵ともなる存在に目を向ければ、毅然と眼下を睨むブルーホワイトたんはやっぱり感嘆の息を吐くほどの美しさを誇っていた。
おっと、彼女の容姿に見惚れている場合じゃない。
「えーっと、ブルーホワイトたん。もう大丈夫だからさ? 下におろしてもらえるかな」
「…………主サマがそう仰るのであれバ……」
表情は全く変わらないけれど、俺にはわかった。やや不満そうな顔をしながらも、彼女が右手を軽く下へとかざせば、一段、また一段と青く煌めく階段を創り出してゆく。そして俺をまるでお姫様のように扱う丁寧な仕草で抱っこし、壇上へと降りていく。
そんな様子を唖然と眺めていた信徒達だが、次第にポツリポツリと『奇跡だ』とか『聖少女、神の御業』だとか、その囁きは波紋となって講堂内を揺るがし始める。
「あんな奇跡を易々と……『聖遺物』の『復録庭園』だなんて、ありえないぞ」
「天使級の信徒のみが成せる、神の御業を復活させうる限定的な聖域、神々の小さな庭園とも呼ばれる奇跡、『復録庭園』なんて初めて目にしました……」
「まさしく彼女は『女王の卵』だ」
「『白銀の天使』様か……今季の我が教会は、非常に神力の高い信徒が粒ぞろいですな」
「色持ちでない『水聖にじむ天使』様や『古森の守護天使』様よりも、さらに女神さまに近い存在を……今日、この日にお目にかかれるとは……女神様に感謝を」
「日本は素晴らしい国ですね。これで二人も色持ちの天使様を輩出した事になります」
「もう一人は『誓眼の蒼天使』様か。かの天使様も素晴らしかったなぁ」
「最上位である原初の色、黒と白。……そのうちの一色を担い、しかも銀に変容してるとは、相当な神力の高さですね……」
「『黒約を結ぶ天使』様の奇跡も凄まじいものではありましたが……『白銀の天使』さまの御業は……別格かと……」
ぽー……。
やらかし過ぎてしまったようだ。
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