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213話 聖イリス学園の生徒たち


「うっわ……おっきい」


 聖イリス学園。

虹色の女神(アルコ・イリス)』教会の教理を校則に取り入れた学園は、一言で表現するならば立派な学校だった。

 瀟洒(しょうしゃ)なデザインの正門があり、その門の両端には中世ヨーロッパ風の赤レンガが積み上げられた小神殿のような、しかし均等に真四角に設計された建物が脇を固めている。その中から出て来た警備員さんに、シスター・レアンからもらったIDカードを見せればすんなりと校内へと続く門を開けてくれた。


「綺麗な校舎だね」


 夕輝(ゆうき)の抱いた感想に頷きつつも、俺達は聖イリス学園の敷地へと歩を進めていく。


 権威の強さと信仰の高さを如実に体現した校舎の壁は、清潔感が漂う白。清廉潔白さを醸し出すその雰囲気は、何者も寄せ付けないような精強さと、何者にも染まる順応性を感じられた。


 なぜかと問われれば校舎自体にはとても統一感があり綺麗だけれど、中にいる生徒達が雑多な様相を呈していたからだ。端的に言えば、それぞれが個性豊かな私服に身を包んでいる。通常、日本での学校生活は中学から制服の着用を義務付けられる学校が多い。けれど、ここは服装の自由が校則らしい。

 夏休みでありながら、学園内にけっこうな生徒数が来ている事に驚きつつ、俺達は違った面でも珍しさを実感していた。



 何色の人間でも寛容に受け入れ、その才能を伸ばし、勉学と見識を広めるといった学校の(うた)い文句は一見して真実かもしれない。



「というか俺達、浮いてるな?」


「確かにね。訊太郎(じんたろう)が目立ってるって線もあるけど、僕らみたいな制服を着た人間が校内にいるのが珍しいのかもね」


 親友達の言う通り、門をくぐってからチラホラと物珍しげな視線を向けてくる生徒達が後を絶たなかった。



「校舎がこのでかさだと、全校生徒は何人ぐらいになるんだ?」


 集中する視線から気を紛らわすように晃夜(こうや)が問い掛けてきたので、俺は事前に知っていた情報を述べる。



「小中高の一貫校だから、けっこうな生徒数がいると思うよ?」


 親友たちは『なるほど』と納得し、感慨深げに再び『聖イリス学園』を見渡す。俺達が通っている学校とは比べようもない程に設備が充実していて、お金がかかっているのだろうなぁと、三人共通の感想を抱いているに違いない。



「あれ。訊太郎(じんたろう)と同じで、修道女っぽい服装の子たちもいるね」


 夕輝(ゆうき)が指差す方角には、3人の少女たちが集まって歩いている。年齢は小学校中学年から高学年といったところか。

 みんな背筋がまっすぐ伸びていて、歩き方もどことなく優雅さを帯びている。育ちの良さが遠目からでもわかった。



「お、ほんとだ。あれを見ると宗教色の濃い学校って実感がわくな。なんちゃってシスターの訊太郎が朗読会なんてのに出て、本当に大丈夫かよ」


「うーん……それを言われると不安だけど一応は練習してきたし」


「とりあえず朗読会が行われる講堂に向かおっか?」



 夕輝に促され、校内図を広げながら講堂の場所を確認する。

 そして俺は気付いてしまった。ちょうどシスター服を身に(まと)う彼女達の進行方向に、講堂があるのだ。



「もしかして、あの子たちも朗読会に参加するかも」


「鞄を持ってるしな。朗読会用の聖書なんかが入ってるんじゃないのか?」


「ありえるね」


 そこで親友達はなぜか俺を見て、『んっ』と(あご)で彼女たちを指す。

 夕輝たちの意図が読めず、なんだ? と首を傾げていると、晃夜が小さな溜息をついて口を開く。



「朗読会の前に少しでも情報収集。学校の事でも、彼女たちの学園生活でも、何でもいいだろ。異文化交流だと思って話しかけて来いよ。朗読会についても聞ければ、ちょっとは緊張もほぐせるだろうしな」


「え?」


「僕と晃夜は訊太郎の付き添いだけど、この学校じゃ部外者みたいなものだし」


 二人は肩をすくめて、自分達の制服を見下ろしている。



「彼女たちに声をかけるのはハードルが高いよ。でも訊太郎は一応、ここに学籍を置いてるわけだし。彼女たちと交友を深める、というのは言い過ぎだけど、お喋りをしてみたらどうかな?」


 

 なるほど、親友達の意見は(もっと)もだ。

 だけど、それは俺だって同じぐらいハードルが高い。小学生の女子と現実(リアル)で、喋る事なんて滅多にないわけで。


 そんな風に逡巡(しゅんじゅん)していると、シスター女児達のうちの一人がこちらに気付いたようだ。彼女は晃夜や夕輝に視線を移動させ、最後に俺へと至る。

 同じシスター服を着ていたからだろうか、周囲の女の子たちに何かを話したように見えた。予想通り、次いで他の少女たちも俺達の方へと目を向ける。



 お互いが立ち止まり、見つめ合うというよくわからない状態に陥ってしまう。

 なんだか微妙な空気が生まれる。

 

 ……うう、気まずい。


 このまま誰かが動かなければ永遠にこの状態が続くような気がして、俺は晃夜たちに言われた事を意識する。

 この状況を打破するためにも、俺が行かなければと自らを奮起させる。



 微妙に目を丸くしながら、こちらをじっと見つめる彼女たちにニコリと微笑みかける。

 すると彼女たちは驚いたのか、手で軽く口を抑えた。

 

 どんな子達なのだろう。

 反応からして、敬虔で粛々とした信徒然たる品行方正な少女たち?

 それとも、ごくごく普通の小学生女児?


 ゴクリと唾と緊張を飲み込み、覚悟を決めて彼女達に話しかけようと一歩を踏み出した。





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