212話 攻略本
「読み聞かせ……朗読会かぁ」
姉から聞いた話を反芻しながら、シスター・レアンから届いた郵便物の確認をする。
内容物は聖イリス学園に入るために必要なIDカードが1枚と本が5冊。届いた書物のほとんどが教典らしき毛色を帯びているものだった。この中で好きな物を一冊選び、当日は読み聞かせしなさい、というシスター・レアンの簡単な指示書もついていた。
「ん? こっちは教典っぽくない」
気になったのは『名も無き傭兵達の童話集』と題名が押された厚手の本だ。どうやら作者不詳の作品ばかりを一冊に集めた、オムニバス形式のものであるようだ。なんとなく宗教色が薄そうな気がして、手に取って目次欄を開く。
すると目次には次のタイトルが表記されていた。
●水蛇退治 5ページ
●酔狂な灰王の舞踏会 15ページ
●巨人王国と奴隷様 35ページ
●炎王と雷王の統治 65ページ
●夢が詰まった闘技場 105ページ
●宵闇と境界線を貪る暁 165ページ
●星々の如き魔法少女たち 205ページ
●鬼退治の十五夜 240ページ
●宿無し天使ミカエル 270ページ
「うーん……?」
これって、クラン・クランで似たようなクエストがあったな。水蛇退治は晃夜や夕輝、シズクちゃんと行ったウォーターヘビィ戦で……酔狂な灰王の舞踏会は、イベント『妖精の舞踏会』と関連してる!?
巨人王国の奴隷様は、幽霊少年ルクセルの話だ!
炎王と雷王の統治は……ちょっとゲーム内とは違うけどイグニトール王家の成り立ち? っぽい内容だし。
妖精やエルフの武志に関する表記はなかったけれど……この教典、クラン・クランの原作だったりする?
もしくは、攻略本に匹敵する何か!?
思わぬ発見をし、俺は急いで姉に報告した。
◇
『虹色の女神』教会が、クラン・クランと何らかの関連性を持っているのは確定的となった。ゲーム内のイベントに酷似した内容が教典に混じっているとか、童話集といえど普通の宗教ではありえない。本に記載されている項目には、将来のゲーム内イベントが関係しているかもしれないと判断した姉は、情報を得るためには何としても聖イリス教会との繋がりは保つべきだと判断を下した。
そうと決まればしっかり読師としての仕事をこなし、なおかつ怪しまれないように情報収集に励んで来いと姉はのたまった。
「というわけで、二人ともよろしく」
「おう」
「はいはい」
朗読会の当日。
付添い人として、集まってくれた晃夜と夕輝にぺこりと頭を下げる。
姉が最初にこの二人を付き添い人として指定したとき、俺はあまり乗り気ではなかった。親友達を怪しげな教会の総本山に連れて行くとか、こいつらにとって罰ゲームにしかならない。俺が今まで通りの高校に通いたいってワガママが発端で、聖イリス学園の姉妹校に籍を置く流れになったわけだし。宗教活動の一環に親友達を巻き込むのは、やっぱり気が引けた。
だが、既に姉が二人に連絡を入れてたようで、親友達が付いてくる事は決定事項になっていた。一応、晃夜と夕輝には別に一緒に来なくても大丈夫だよと伝えたけれど、『必ず付き添いとして一緒に行かせてくれ』『ちょっとね。心配だから』と言って、頑として聖イリス学園に赴くと主張し続けてきた。
俺としては二人の方が心配になった。
「二人とも……その怪我はどうしたんだよ」
なぜなら、うちに集まってもらった晃夜の右腕には、包帯が巻かれており肩から吊った状態だったのだ。驚くべき事に、夕輝の左腕も同じ状態だった。
「いやー最近、変な人によく絡まれてさ」
「早い話、チンピラを殴り飛ばしただけだ」
と軽く笑う二人。
「少し、ゲームが浸食していた事に感謝かな。以前より頑丈になったし?」
「おい、そもそもゲームが浸食してなきゃ…………あー、確かにそうだな。俺の拳の切れも、前よりキレッキレッになったわけだしな」
ゲームステータスが微弱ながら現実に反映されている。その事を二人は自慢げに話すけれど、長い付き合いだから強がっているのが見え見えだ。
俺は何があったのか、二人に更なる言及をしようとする。
「それより訊太郎。なかなか様になってるじゃないか」
「馬子にも衣装とはこの事だね」
しかし、晃夜と夕輝が俺の服装を吟味し始めたので、そんな疑問も引っ込んでしまう。
「訊太郎がシスター服とか、うけるんだが」
「こんなにじっくり見れる機会は滅多にないからね。この際だから、たっぷり拝んでおこうね」
くっ。
俺を辱しめようとする魂胆が丸見えなその所業。からかいが含まれているのは百も承知なはずなのに……わかっていても抵抗できない言葉に俺はたじろぐ。改めて指摘され、凝視されれば恥ずかしさが込み上げてくるというもの。
「か、からかうなよ……それと、じ、ジロジロ見るな」
「敬虔なる女神の僕よ。俺達を聖イリス学園まで導きたまへ」
「そして哀れな子羊たる我々に施しを。今日一日の労働に対する正当な報酬を。具体的にはラーメン一杯で手をうつよ」
しれっとラーメン一杯を奢れと要求してくる親友たちに、顔をしかめてしまう。辱しめというジャブを放ち、メンタルに隙が生じた瞬間、取り引きをするりとねじ込んでくるところがさすがは腹黒イケメンだ。
けれど、やっぱり一人で聖イリス学園に乗り込むのは不安が大きいし、わざわざ付いて来てくれる親友たちには感謝しているので……男、訊太郎。ここは黙って頷くのみだ。
「朗読会……絶対に成功させる」
初めて行く場所で、初めて会う人達に向かって朗読をするって思うとかなり緊張する。なんとなく俺は、厚みの増した鞄をなでてしまう。中に入れておいた『名もなき傭兵達の童話集』と、水分補給用のペットボトルの存在を確認し、二人へ目をむける。
「じゃあ出発するよ」
親友たちの護衛に、必須アイテムとHP回復アイテムの所持。
準備は万端だ。
純白のシスター服をはためかせ、俺は出陣の掛け声とともに親友達と家を出た。
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