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210話 侵略?

書籍化に関するお祝いの感想コメントやリプライの数々、誠にありがとうございます。

ウェブ版の方も書き続けますので何卒よろしくお願い致します。




 無理がありすぎる。

 イグニトール王家が日本の皇族になっているなんて……しかし群衆がイグニトール天皇家に向ける眼差しは熱く、その喝采は確かに日本国民がイグニトール皇家を支持していると如実に物語っていた。

 

 まるで足音も立てずに忍びよる暗殺者のように、知らぬうちに日本が侵略を受けたような印象を受けた。



「……」


 そんなショックが内心を席巻するけど、周囲の反応は俺達の動揺なんてお構いなしに盛り上がりを見せている。

 皇太子殿下の電撃プロポーズという一大イベントが(とき)を一瞬止め、人々の喜びに溢れた歓声が荒波の如く波及する。

 


「私としたことが……突然このような事を申し出されても困惑してしまいますよね。ですが胸の内が、身体が、貴女を目にした瞬間から止める事ができなかったのです」


 日本の象徴がイグニトール天皇家としてすり替わっていた混乱と恐怖、その内情を皇太子殿下は急なプロポーズに対し大きく動揺したのだと勘違いしたようで、困ったような笑みを浮かべた。



「は、はぁ……」


 どう答えていいのかわからず、ただポカンとするしかない。

 助けを求めて晃夜(こうや)夕輝(ゆうき)、姉に視線を回すけれど……みんなもこの突拍子もない事態に頭が追いついていないようで、何とも言えない顔で(うめ)いていた。


「失礼を承知でお伺いしたい。貴女のお名前を教えては頂けないだろうか」



 こちらの反応に対し、待ったなしで皇太子殿下は先を促そうとする。

 結婚とか……彼は人生を左右する案件を進めている自覚はあるのだろうか?


 というか、これってナンパですよね!?

 恥じらいとかないのだろうか。


 騒然と祝福モードで見守る人々の存在、無数の視線を気にせず堂々とした態度を一貫する彼を見て、権力者にふさわしい佇まいだと感じてしまう。


 俺が呆気にとられていると、肩をコツンと叩かれる。

 隣にいた姉が何か答えなさい、といった意味で急かしたようだ。



「あ、えと……(ふつ)訊太郎(じんたろう)です……」


「フツ、ジンタロウ……()の子のような凛々しい名前、素敵です」



 お、おう……。

 何やら褒められたけど、あまり嬉しくないのは何故だろうか。

 それは殿下が男だからだろう。

 これが茜ちゃんだったら嬉しいのだけど。

 しかし、俺と違って観衆からは黄色い声が上がっている。主に女性陣からであり、男性アイドルを慕うような嬌声で叫んでいる。


 そんな騒がしい民衆へ皇太子殿下は、絶対的権力者であるかのようにサッと右手を振るう。すると、そんなさりげない仕草で女性陣のざわめきは静まり返った。



「私はイグナル・トールン・フィア・イグニスと言います。ジンタロウさんの漢字はどのような字なのですか?」


 天皇家なのに思いっきり外人さんみたいな名前だなと内心でツッコミを入れつつ、俺は皇太子殿下に自身のフルネームを説明してゆく。

 全て聞き終わった殿下は感心したような顔で何度も頷き始めた。


(ふつ)訊太郎(じんたろう)さんか。なんと奥ゆかしくも、日本の歴史を感じさせる……仏、神々を指す? 神々を(たず)ね歩く男児の如く強き子、敬虔で高貴であれ、か。親御さんは素晴らしい意味を込められたようですね」


「あの、皇太子殿下……仏が神々に付随した漢字だとご存知で?」


「うん? 貴女は……?」


「訊太郎の姉である、(ふつ)真世(まよ)と申します」


「訊太郎さんの姉君でありますか。これは失礼を……浅学ながら、仏が神と関連している字だというのは最近知った事でして。タイの周辺で仏教なる新興宗教集団が活動を始めたと聞き、異郷の信仰だとは認知しています。もしや、訊太郎さんのご親族、ご家族は新興宗教を信奉する方々ですか?」


「いえ、無信教です」


「それは良かった」


 ほっと胸をなでおろす皇太子殿下に姉が首を傾げる。



「よかった?」


「ええ。我が国、日本は正式に『虹色の女神(アルコ・イリス)』教会に全面的な協力姿勢を示していますので……私の妻となるお方が世間をお騒がせしている新興宗教派だとなれば、かなり強引な手段を取る事になりますので」



 何やら、話の流れが穏やかではない。

 その空気を過敏に姉や親友たちが察知し、自然と皇太子殿下と俺を遠ざけようと前に出てくれる。


 俺達が発する険呑な空気は、周囲の人間にも伝わったようで『なんだ? あの態度』『皇太子殿下に対して無礼じゃないか?』なんてヒソヒソと耳打ちし、決して好意的ではない視線が集中し始める。

 俺は身の危険、というよりみんなの被害を危惧し、不穏な気配を霧散させるべく咄嗟(とっさ)に名乗りあげる。



「『虹色の女神(アルコ・イリス)』教会でしたら、俺は一応所属してます。階級はえっと、『読師』ですが、場合によっては『助祭(ディーコン)』だった気がします」


 シスター・レアンにもらった地位を開示し、とりあえずは話を逸らす、というか微妙な空気をうやむやにできただろうか?



「それは運命を感じずにはいられません。日本皇家と世界屈指の影響力と教徒を持つ聖イリス教の融和こそが、日本に富と名声をもたらします」


 皇太子殿下は素晴らしいと歓喜し、周囲の人々へ両手を広げ、その喜びをみなで分かち合おうと大仰な仕草をする。それに反応し、観衆は喜色満面に豹変する。



「では再度、お願い申し上げます。どうか、私の婚約者になって欲しい」


 燃え立つ赤髪をサラリとなびかせた皇太子殿下が、俺を熱心に見つめ……その場で(ひざまず)き、再びのプロポーズをかます。

 イグニトール姫が多くの臣下の前でお礼を言ってくれた時のように、ゲーム内に似たシチュエーションがここに再現された。

 


 周囲の期待に満ちた息を呑む音、そして本人から伝わってくる断る事は許さないという気迫がぶつかってくる。その本気さに、皇家の誇りや体面を賭けて、勝負をしに来てるのは理解できた。


 まがりなりにも俺だって茜ちゃんに告白しようとした身。あの緊張感と精神にかかる重圧は、半端ない覚悟がなければ、本心から相手を欲していないとできない事だとも理解はしている。

 けれど、全てが唐突すぎるし……俺に男を、皇太子殿下が好きという気持ちはない。



 だから誠心誠意。

 俺は及び腰ながらも返事をする。




「ごめんなさい!」




 あれから何とか家に辿り着き、精神的疲れや諸々のもやもやした気持ちを一気に洗い流すため、すぐに湯船へ浸かった。けれども、やっぱり気持ちは落ち着かず早々と風呂から出てしまった……。



『皇太子殿下が、一般人子女へ唐突のプロポーズをしたとの事で世間は大賑わいになっています』


 リビングでぐでーっとソファへよりかかりながら、テレビのニュースを眺める。

 自分には何も関係ないと自己暗示を簡単にかけられたらどんなにいいだろうか。テレビの画面にはでかでかと、俺が皇太子殿下にプロポーズされているシーンが流されていた。



「太郎。髪の毛をしっかり乾かして。あと、ちゃんと服を着なさい」


 不憫な子を憐れむような目で姉が俺を見てくる。


「……あーい……」



 はぁ。

 髪の毛って乾かすのにすごく時間がかかって面倒くさい。


 はぁ。

 あっついから服を全部着るのが億劫だ。


 はぁ。

 なんでイグニトール皇家なんてのがあって、しかも皇太子殿下に告白されなきゃならないんだ。


 はぁ。

 断ったらすごい剣幕で人々が騒ぎだすし、帰るのに一苦労だったし、もう疲れた。


 はぁ。

 きっぱりと返事したのに、皇太子殿下の反応といえば『今回は残念なお答えをいただきましたが、私はまだ諦めきれません。またお会いしましょう』なんて意味深な捨て台詞を残していったし。



「溜息が多いわね。おいで、太郎。わたしが髪の毛を乾かしてあげるわ」

「うぁー……ありがとー」


 ここは素直に甘えるが吉。

 ぶぅぅーん、とドライヤーの音と熱風が髪の毛をなでる。後ろから温風の流れに沿って、姉の優しい手が流れる。

 あぁ、心地よい。

 疲れた身体と心に染みわたる、姉の慈愛に満ちた計らいにしばらくは身を委ねてしまおう。



「太郎がお風呂に入ってる間、天皇家についてすこし調べたのだけれど」


 弛緩した気持ちが一瞬で吹き飛んでしまう。

 姉は俺の髪の毛を乾かしつつ、決して明るくない声音で語り始めた。



「イグニトール天皇家の起こりは遥か太古からって事になってるわ。日本史の転換期には必ずと言っていいほど、イグニトール天皇家の名が出てきては大活躍よ」


「ほぇー……妖精の次は天皇家ね……」


「どうして天皇家が絶大な人気を誇っているかと言えば、それは日本国民に絶対的な安全と平和を保障しているからだそうよ」


「どういうこと?」


「そうね。さっきも言ったけど、イグニトール天皇家は事あるごとに日本を守るために、イグニトールの系譜が宿す代々の力を行使しているそうよ」


「具体的に?」


「武力よ。例えば……約800年前に、モンゴル帝国の(げん)という国が日本に大軍を以って攻め立てた時があったけれど……船の上陸を阻止した荒波、神風と呼ばれる海の暴走で(げん)の軍船は水面の底に沈み、遠征は失敗したって史実があったわね」


「う、うん」


「膨大な熱量、爆炎を発生させて気流を乱し、急激な気圧変化によって嵐を起こした。そして雷を落とし、(げん)の船団を壊滅に追いやったのは、神の血筋を引くイグニトール天皇家である。日本を救ったという事になっていたわ」


「まじですか……」


「ここ百年の最も偉大な功績は……第二次世界大戦。あれってアメリカに核爆弾を落とされたのは日本だったはずなのに……イグニトール天皇家の力で生成した『超級炎熱弾頭』を米軍の全軍事基地に落として大勝利を収めたそうよ。その威力は小型の核ミサイル並みだったそうね」



 なんだよ、それ。

 確かに、ゲーム内のイグニトール王家は雷と炎を司る血筋だった。


 けれど、そんな核弾頭みたいな次元を超越した武力を個人が、一家系が保持していいものなのか?

 そんなのが存在するなんて、もうめちゃくちゃじゃないか。スキル保持者の大量発生は防げたものの、そんな化け物じみた武力を持つ存在が現実へと浸食してしまうなんて、どうすればいいのか見当もつかない。


 皇太子殿下……あんな幼い少年が、即座に都市一つを壊滅に追いやる力を行使できるかもしれない、という事実にうすら寒いものを感じる。



「……日本って敗戦国じゃなくて、戦勝国になってるの?」


「そうね」



 最初は宗教、思想への干渉。

 キリスト教や他宗教の消失、神々に対する信仰への浸食。

 

 次は歴史の改竄(かいざん)

 妖精との国交や、妖精がいたという事実の植え付け。続いて、戦勝国として存在する日本。

 

 そして実行力の獲得。

 政治、経済、法、軍事に関わる重役のすり替え。



「とても順序よく。ごく平和的に、日本が……人類が侵略されているように思えるわね」



 ドライヤーの音が鳴りやむと、やけに室内が静かになったと感じてしまった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 父上さんは日本人顔に赤毛なのかな……。 というか、男です!って言っちゃえばいいです。 (法的に女になってるんだっけか……?) [一言] 謎の奇病なのでだめです!でもいいな。 狂信的…
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