表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/360

207話 玉座



「何があったの?」


 即座にクラン・クランにインした俺は晃夜に戦況を確認した。

 見た所、この砦が敵の猛攻を受けているといった様子はない。いたって平穏な空気が流れているので、イグニトール勢が負けるなんてラインを送ってまでログインを促してきた親友たちの真意を聞く。


「話はこのNPCから聞いてくれ」


 そう言って肩をすくめた親友たちの後ろには、武骨さの中にも優美さを兼ね備えた細かい装飾が施されている甲冑に身を包んだNPCがいた。

 彼は厳めしい顔つきで、いかにもお偉いさんからの使者です、と言わんばかりの畏まった態度できびきびと何が起こったのか報告してくれた。



「崇高なるイグニトール姫殿下が率いる軍勢は、反逆者のグランゼ軍に惜しくもモルドー平野での戦いで敗れました。現在は王都まで撤退し、軍勢の立て直しを計っておられます。有力諸侯にお声掛けをし、再び戦力の集結に尽力されております」


 やはり、というべきか。

 NPC主流による軍勢での開戦といっても、『小隊長(コマンド)』として参加してない傭兵(プレイヤー)、もしくは『小隊長(コマンド)』だったけどキルされた傭兵(プレイヤー)は『兵卒(ソルジャー)』として、NPCがメインで編成された軍属になる。

 グランゼ勢はどうしても傭兵(プレイヤー)の数が多い、つまりはNPC軍の衝突でもグランゼ侯爵軍は有利なのだ。その戦力的な彼我の差が出てしまったのだろう。



 現状は、イグニトール勢の重要拠点が一つ奪われ、一つは俺達の手によって死守。となるとイグニトール姫の率いるNPC軍が完全な敗北を喫すれば、敵勢の2勝奪取によってこちらの負けは決定となる。




「早い話、NPC主流の軍隊同士のぶつかり合いで、イグニトール姫が率いる軍が劣勢らしい。敵軍は王都に迫り、降伏勧告するのも時間の問題と言ったところか」



 騎士NPCの説明を晃夜がわかりやすくまとめたところで、俺は本題を言い渡された。



「イグニトール姫殿下より『指揮官(オフィセル)』の位を賜られたタロ殿においては、至急『雷炎を仰ぐ都イグニストラ』までお戻りくださいとのご命令が出ております」


 王都への帰還命令か。

 最終防衛戦を前に主力、というより猫の手も借りたい状況なのだろうな。

 クエストとして依頼発生のログが流れていないところを見るに、行くか行かないかの自由を選べるイベントっぽい。



 俺は返事を保留して、すぐにみんなに相談した。

 結果としてはここを離れるわけにもいかないという意見もあったけど、イグニトール姫が敗北してしまってはクエスト達成も実現できない。

 というわけで砦には7割の主力を残し、あとの3割で王都へと向かう事になった。


 リリィ、ミナ、晃夜、夕輝、銀の軍人が数名、予想外な事に一匹狼の傭兵(プレイヤー)も何人かついてくる事になって、合計500人からなる傭兵(プレイヤー)と民兵の部隊を率い、俺は王都へと帰還した。





「盟友タロよ。よくぞ私の窮地に駆けつけてくれた。その忠義に深い慈しみを覚える」


 真っ赤に燃ゆる髪をさらりとかきわける仕草はとても優美で、彼女が苦境に立たされているのを全く感じさせない力強さがあった。

 王としての、臣下を率いる主としての堂々とした振舞いを見せる彼女に、恭しく(こうべ)を垂れる。



「そのようなお言葉をかけてくださり誠に光栄です。えっと、さっそくですが陛下と怨敵の戦況を詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 豪華絢爛、とまではいかないにしても確かな高級感と重厚な雰囲気を醸し出す謁見の間で、俺はイグニトール姫殿下に(かしず)いていた。



「うむ。だがその前に貴殿に見せたい物がある。みなのもの、控えよ」


 何やら姫は俺に見せたいものがあるそうで、謁見の間にいる臣下やついて来てくれた晃夜たちを下がらせた。人払い、というやつだ。



「私の盟友タロ。貴殿の活躍は耳にしている。砦を見事、守り抜いてくれたそうだな」


「はい。みんなのおかげです」


「ふむ。貴殿も含め、そなたらの働きには感謝している。それに……私の命を一度、ハーディから救ってくれたその恩義から貴殿を信ずるが故に、王家の家宝を見て欲しい」


 イグニトール姫は玉座から立ち上がり、玉座の後ろ、巨大な壁に手をかざし始めた。



「炎宿せしイグニスが稚児の末裔、第16代イグニトール王が命ずる。かけそき大空の覇者たる資格を我にもたらせ」


 彼女の文言が謁見の間に響き渡ると同時に壁全体にうっすらとした魔法陣が浮かびあがる。淡い粒子を抱いた幾筋もの紋様によって壁がブロック型にもぞもぞと動き出し、玉座の間に隠された部屋を出現させた。

 それは部屋というよりも、広間……いや、そこは巨大な船舶上だった。

 幾本もの鎖に繋がれた巨大な灰色の塊……隠された広間には鉄の船が鎮座していた。



「これは……」


 船首部には、いかついオジサンのマッチョな上半身の銅像? が設置されているのが少しだけ気になった。腕を組んで、水平線を見つめるような渋い表情をしているけど、重厚な船にはちょっと不釣り合いなデザインだなぁと内心でつぶやく。



「『鋼鉄の玉座』だ。我がイグニトール王家に代々伝わる家宝にして最大の戦力を誇る、空飛ぶ戦船なのだ。イグニトールの戦史にとって、この船は難攻不落にして最強の矛となった」



 そういえば初めて王都に訪れた時、舟を漕いでもらった老いた平民のNPCが言ってたな。

 これが『鋼鉄の玉座』なのか。

 確か、先代の王と兵士たちが『鋼鉄の玉座』に乗り、空から一方的に敵軍へと雷や炎の魔法を放ち、完勝していたと。先代の王は『鋼鉄の玉座』を動かせたけど、姫は動かせないとも。



「おそらくグランゼ侯爵の狙いはこの『鋼鉄の玉座』だろうな……」


 イグニトール姫は沈痛な面持ちで、物言わぬ黒い鉄塊の巨大な船を見上げながら語り出した。



「父様は……『鋼鉄の玉座』を誰よりも理解し、駆使してこのイグニスの地を守った。その反面、この強大な武力を恐れてもいた。民を導く者としてこの兵器を無用に、容易に扱わぬよう……王家だけの一存で破壊を振り撒く兵器の(かせ)として……死の間際に最も信頼する臣下に『鋼鉄の玉座』の動力となる核を譲渡したのだ。真にイグニトールにとってこの兵器が必要となった時にのみ、次代の王へ核を返上せよ、と……」


 なるほど、その核を渡した相手がグランゼ侯爵だったと。



「しばらくすれば、王都は敵軍に包囲されるだろう。味方となって駆けつける貴族達の兵力は正直、期待できない……。それにもう間に合わぬだろう。こんな状況下でありながら、核を持たぬ私は歴代の王のようにこの玉座に座す事ができない」


 臣下の前では決して見せない表情が彼女には浮かんでいた。

 先程の玉座で見せた涼しい微笑は、覚悟を決めたうすら笑いへと変わり……余裕と威厳が溶け合った王族の風格は烈火の如き怒りに燃えているようだった。


 綺麗なイグニトール姫の横顔が悔しげに歪んでいる事から、戦況は絶望的だと悟った。




「この船に……触れてみてもいいですか?」


 敵にはグランゼ侯爵の他に『天滅の十氏』が一人、強力なNPC『冥覇(めいは)アレス』なる人物もいるかもしれない。そいつが黒幕である事を伝えるかどうか迷ってしまい、思わず船へと話題を集中させてしまう。

 敗北を覚悟した王女に、さらなる追い打ちとも言える内容を告げるタイミングを見計らうためにも……。



「良い。盟友タロの手であるならば、この『鋼鉄の玉座』も歓喜に震えよう」



 許可を取った俺は、黒くて分厚い船腹付近をそっとなでる。

 堅い……こんな重量のある物がどうやって空を飛ぶのか、錬金術師として非常に気になる。



『おや、おや……イグ、ニスの血が流れぬ小娘が、が何用かな……?』


 ひんやりとした鋼鉄に触れた手から、直接脳へと響くしわがれた声。まるで枯れ果てた老人のような低い音に一瞬だけビックリしてしまう。



「うわっ。あれ……もしかして『鋼鉄の玉座』がしゃべってる?」


 船を注意深く観察し全体を見回すと、どうやら船首部のマッチョなオジさんが話しているような気がしなくもない。


『いか、にも。我の名は、炎と雷の紡ぎ手、手、手、大空の支配者を乗せる、『鋼鉄の玉座』じゃ……』



 隣にいるイグニトール王女を見ても、彼女には何の声も聞こえていない様子だった。

 これは一体、何が起きているのか……しばらく考えこむまでもなく、すぐにピンと来た。この感覚と体験はごく最近に覚えがある。

 どうやらこれは、魔導人形と会話ができるアビリティ『傀儡話術(ウィスパラー)』が発動していると。



 つまり『鋼鉄の玉座』は一応、魔導人形に分類されるらしい。

 あの船の舳先にある上裸のオジサン銅像が魔導人形だとして……繋がっている船全体も魔導人形扱いになるのか。こんな形態の魔導人形があることに驚きと興奮を隠せない。



「おじさん、もしかして魔導人形?」


『いか、にも』


 おお!

 これなら勝機が見えたんじゃないのか?

 俺がアビリティ『魔技手(ギフティ)』で、このおっさんに合う『魔導石(ドール・コア)』さえ作れれば動かせる!


 この際、『鋼鉄の玉座』の心を手にするのは後回しで、まずは動かせる事を最優先にするべきだ。このおじさんと相性の良い核、『魔導石(ドール・コア)』を作るには何が必要なのか思考を巡らす。


 正直、『鋼鉄の玉座』が俺の手に(はい)れば、説明文とかを詳しく読めるわけで、何と相性がいいのか分析できるものなんだけど……さすがに王女にこれを一旦俺にください、なんて言いだせない。




「『鋼鉄の玉座』さんは何が好き?」


 とりあえずは好みを聞くべきだろう。


『これは異な事を、を……我が好むもの、望みは再び、王と共にあの空へと……』


 好みを聞いて願望が返ってくるとは……。

 うーん、とにかく空、空ね……。

 空に関する事なら、うん。あの人しかいない。



「やっぱりこれ、動かせるかも?」


「なに!? それは誠なのか!?」



 俺はイグニトール王女に一旦断りを入れ、賢者ミソラさんの元へ……『宝石を生む森(クリス・テアリー)』へと『クリステアリーのブローチ』を使ってワープした。


『鋼鉄の玉座』を動かすために、空と由縁のある宝石とかを持っていそうなミソラさんと交渉するために。




 傭兵 タロLv8のステータス

HP101

MP90 (装備による補正+100=190)


力 10

魔力 14

防御 2

魔防 8

素早さ 240

知力 345


称号『老練たる魔女』【スキルポイント取得3倍】

  『先陣を切る反逆者』【初撃のクリティカル50%・Lvが自分より高い者へのダメージ総数20%増加】



スキル

『錬金術』Lv33

『魔導錬金』Lv5


『名声』Lv2


『風妖精の友訊』Lv30

『刀術』Lv15


残りスキルポイント 33



書きたいものを描き切るのに、あと500~700話ぐらいは続くと思います。みなさま、長い旅路とはなりますがお付き合いくださると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
巨人のなんたらかんたらみたいなスキルとってなかったっけ?
[一言] Will you continue to write the next 500-700 episodes? 次の500〜700話も書き続けるつもりですか?
[一言] 長大作大好きです。 体調にはお気をつけて。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ