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204話 美幼女のはったり作戦


「ヴォルフ、お前さえキルしちゃえばこの戦いは俺達の勝利だぞ」


 まずは強気に言い放つ。

 こちらが既に全力を使い果たし、なす術がないという様子は一切見せずに力を誇示するんだ。

 だけれど、俺の言葉に微塵の動揺を見せる事なくヴォルフは鼻で笑った。



「グランゼ側は、俺がキルされても構わない。代わりの指揮官(オフィセル)はいないが、代わりの傭兵(プレイヤー)たちはたくさんいるからな。そもそも、ここでお前を仕留めなくてもこちらの勝利は確実だ」


 ヴォルフの言葉に真実は含まれているけど、全部ではないように思える。なぜなら、もし俺がヴォルフの立場だった場合、後続の援軍を待って確実に物量で押し切っていく安全策を取る。

 ここぞという時のみ、指揮官(オフィセル)の能力によって1.4倍のステータス値を誇る精鋭部隊を送り込むのが上策なはずだ。


 そのカードを今、ヴォルフは切っている。

 

 俺を仕留めなくても勝利は確実、なんてヴォルフは言ったけど額面通りに受け取る事はできない。なぜ絶対に前線に出て来ない方がいい人物が、こんな所にまで出てきているのか。

 それは俺と同じで、出なくてはいけない理由があるはずだからだ。


 そこをゆすれ。



「ヴォルフ達には余裕がないように見えるけど? 兵力もそっちが上なのだから、指揮官(オフィセル)様は優雅に後方で戦況を眺めていればいいじゃないか」


「余裕がないのはそちらだろう。指揮官(オフィセル)自ら、前線で奮闘せざるを得ない戦況が続き、そして全力を出し尽くした。見え透いた強がりはよせ」


「いやいや。俺はこんな雑兵たち相手じゃ、余裕すぎるから前線に出て来たんだけど?」



 このまま戦えば必ずヴォルフにも危険が及ぶし、この場での戦いは俺達が勝利する可能性があると匂わせるしかない。

 ぶっちゃけ、隙をついて攻撃とか通用するはずがないし、ここでの俺の勝利条件は生き残ること。それのみで、避けられる戦いは避けるの一択に尽きる。

 使えるブラフは何でも使え。敵の弱みを突くような発言を何でもしろ。




「ヴォルフって人望が少ないらしいな。ベンテンスから聞いたよ」



 俺が持ち得てる情報はベンテンスから聞いた事のみしかない。ここから話をどうにか広げよう。

 暗にそちらは一枚岩ではない、と主張し、それが原因となって勝利を早急に決めなくてはいけない状況なのか、とゆさぶる。

 例えば……そうだな。敵陣営に、ヴォルフと対立しそうな大勢力がイグニトール側に寝返る事が決まって、そうなる前に焦って勝利をもぎ取りにきたとか。



 待てよ。寝返りを可能にするのは、傭兵(プレイヤー)を『外様旗手(エクエス)』なんて者に変貌させる事のできる『指揮官(オフィセル)』たる俺のみじゃないか。


 ここで俺を始末しないと相手の勝利は確実じゃない?

 となると、やはり俺は絶対にキルされてはならないな。でも、もし俺の予測が当たっていたとしたら、どうして奴は問答無用で仕掛けてこなかった? ヴォルフの狙いがハッキリ見えない。



「……『黄昏時の酒喰らい』め……余計な事を……」


 図星かどうかはわからないが、確実にヴォルフの表情は曇った。だが、同時に俺は一つの疑問点が浮かぶ。仮にヴォルフへの反抗勢力が生まれていたとして、そこまで人望のないヴォルフの下に援軍が続々と集結しつつあるのはおかしい事態だ。



「援軍とやらは期待できるのか? 俺達が砦に引き籠って戦いを長引かせれば、こっちが有利になるだろう?」



 ここで肯定と取れる態度を示すのであれば、ヴォルフの懸念は援軍そのものにあると確信できる。

 つまり援軍側と、ヴォルフが今率いている軍の関係性は良好ではない、と。それが原因で戦局が大きく左右する不安があるから、援軍到着前に勝負に出て来たと予想できる。そうとわかれば、何としてもこの場を脱する必要が出てくるな。




「…………お前は、どこまで知っている?」


 ヴォルフが口に出したのは疑問だった。なんとも考察に困る返答だ。

 ここで、ああ知っている。と力強く答えて、何をだ? と聞かれたら一巻の終わりだし、だからといって曖昧な発言は相手の情勢を把握せずに、こけおどしで今の会話が成り立っていると察し兼ねない。

 

 思考が切羽詰まってくるけど、ここで諦めるのはまだ早い。

 頭を目まぐるしく回転させ、導き出すんだ……。

 立場、状況、情勢、その全てを加味しながら……ヴォルフの顔を、涼しい表情で眺めていますよ、と余裕ある姿勢を崩すな。


 そして、笑え。



「俺だって、お前と同じ指揮官(オフィセル)だよ。同じな?」


 

 対等な立場である事を、ねちっこく主張する。

 これが俺の発言できる最大限の台詞だった。


 ヴォルフが代表であれば、自軍の事情に詳しい。次に重要視し、細かい動向を(うかが)うのは敵勢である俺達の事情だろう。

 それはこっちも同じで、それならば自ずとヴォルフ陣営の情勢にも目を光らせている、と遠回しに伝える。



 この台詞ならば、『お前は一体何を知っている?』と聞きづらいだろう。


 仮に俺に質問をして、俺がヴォルフの不安要素を的中させてしまったら、同じ指揮官という立場でありながら情報戦は俺のほうが一枚上手(うわて)、と周囲の部下たちに知らしめる事になるわけだし。離反を恐れているのであれば、ここでのヴォルフの失態は、部下の前で致命的なモノだと映るはず。頼りない指揮官だと。それに比べ、イグニトール側の指揮官、俺の戦果はブルーホワイトたんのおかげで敵軍に大打撃を与えた。その手前、ヴォルフに無様は許されない。

 その辺のプライドを刺激する要素も含めて、相手に質問させない台詞はこれしかなかった。


 正直、薄過ぎる希望だけど……ヴォルフのプライドが高いという事に一縷の望みを賭けて、こんな返ししか残されていなかったのだ。



「……ふん……お互い、NPC事情には精通してるって事か」



 うん?

 どうしてここでNPCって単語が出てくる?



「フン、だがな。いかにお前がこちらの状況を把握してようと……白銀の天使、ここは大人しく降参してもらうぞ」



 おおう。

 良く分からないけど、降参しろって流れになってしまった。

 問答無用で武力行使されるよりはいい条件だけど、ここで俺個人が降参なんてしてしまったら、今後の味方の士気に非常に関わるだろう。



「それは論外だよ、ヴォルフ」


「そうでもないだろ。この場で、妖精の舞踏会での貸しを返してもらう。俺が、お前を庇った貸しをだ。白銀の天使にはこちらの捕虜となってもらい、すみやかに砦の兵達を解散させろ」



 なるほど。

 やはり、ヴォルフは早急にこの戦いに終止符を打つ必要があると見た。俺とぶつかり合うのを惜しむ程に切羽詰まっている、といわけか。だから、わざわざ俺に降伏勧告をしに危険な前線にまで顔を出してきた。自分は出陣せずに精鋭部隊のみをけしかける、という選択肢があったにも拘わらずヴォルフが出張った理由。それは万が一にも俺が更なる隠し玉を持っていた時に備え、俺が暴れないよう『借り』を交渉材料として話を持ち出し、早急に勝利を確定できるのがヴォルフ本人しかいなかった、と。


 気になるのは敵が敗北を危惧する原因、ここまでして急く理由が何なのか判明すればもっといい交渉ができそうなのだけど……今の俺では交渉材料が少な過ぎる。



こんなので(・・・・・)、俺に対する貸しを返させていいの?」


 だから。

 俺に差し出せるのは俺自身だけで、示せるのも俺自身の力のみ。

 錬金術士として敵を打ち砕き、ブルーホワイトたんという強力な戦力を保持して次々と敵勢を自分の軍門へと下らせていった実績のみがアピールできる箇所。



「どういう事だ?」


「そのままの意味。もっと有用に貸しは活用した方がいいんじゃないか? 例えば、俺達と仲良くして欲しい、とか」



「またそれか。お前は妖精の舞踏会でも『みんな仲良くー』だなんて喚いていたな」


「言っとくけど、俺は根に持つタイプだよ。ここで降伏なんて強制されたら、俺は今後もずっと『一匹狼』の敵に回るよ?」



 いかに自分を大きく見せるのか、これが大事なのだ。

指揮官(オフィセル)』として、代表としてこの場に交渉に臨んでいる以上、ひとたび敵になれば恐ろしい錬金術士であると誇示するんだ。

 そして逆に、俺と仲良くなればそれなりの恩恵があるかもよ、と匂わせろ。

 



「ッ…(みじ)めだな。傭兵団(クラン)『サディ☆スティック』、『首狩る酔狂共』、『黄昏時の酒喰らい』の威光を借りての交渉とは」



 そうか。

 俺としては、もう出たとこ勝負で俺個人としての戦力で以って脅しているつもりだったけど、ヴォルフからしたら違って見えるのか。

 だがそれを俺に気付かせてくれたのは上等、ここは押しの一手だ。



傭兵団(クラン)『一匹狼』の評判はすこぶる悪いよなぁ。敵ばかり作って、幼い団員たちを守りきれるのか?」


「……」


「今、お前の戦列に加わっている傭兵団(クラン)だって、利益が一致しているから徒党を組んでいるだけって聞いたぞ。嫌々と従軍してるってな」


 口からでまかせだけど、ベンテンスの言い分だとあながち間違ってもなさそうだし、ここぞとばかりにまくしたてるぞ。



「この戦争が終わったら、また普段の傭兵団(クラン)同士でのいがみ合いが始まる。どのみち、援軍にくる傭兵団(クラン)とは関係はあまり良くないんだろ? だったら奴らのご機嫌を(うかが)うより、俺達と手を組んで今後も安泰といこうじゃないか」



 左手を差し出す。

 援軍が反乱分子になる前に、お前がこちらについちゃえばいいじゃないか、と。




「ちっぽけな目の前の戦いに執心(しゅうしん)するより、互いにその先を見越そうぜ。同じ指揮官(オフィセル)なんだからさ」


 俺の小さな左手が、ヴォルフの左手によって雑に握られる。



「そこまで言うなら、白銀の天使。お前も『一匹狼』の悪評を背負えよ」



 夜が明けた。

 それが俺達にとって、終戦の合図となった。





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