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202話 覇道にして王道


「石コロじゃ少し見づらいけど問題ないね」


「夜間であの光量なら十分だな」


 夕輝と晃夜の感想通り、ルナリーのアビリティはかなり役に立ってくれた。



 魔導人形『月影のルナリー』は双子の兄ルチルと比べて全ステータスが低く、能力的に使いこなすのは困難だった。

 だけど、天侯が月夜の場合は違う。

 全ステータスが3倍に上昇し、月夜に限り使用できる有用なアビリティを持っている。



アビリティ『月夜の道しるべ』。


【月光を浴びて輝く石が、脅威的な存在への道しるべとなって導いてくれる。その軌跡は敵の居場所や方角を知れ、追跡にも役立つだろう】


【発動条件】 天侯:月夜  オブジェクト:石ころ



 このアビリティは普段、モンスターをターゲットに設定すると自分にとって脅威的な存在がいるであろう場所まで石コロが光り、その道筋を辿るのに使う類のものだ。それを今回はターゲットを傭兵(プレイヤー)と設定してみると、砦の周囲に転がっている石コロがいくつか光り出し、どの方角にヴォルフの尖兵がいるのか窺い知れた。

 


 これによって敵が砦のどの箇所に兵力を重点的に置いて攻めてくるか、容易く看破できた。俺達は守りを固め、敵は意表を突く事ができずに真っ向から俺達の防衛ラインとぶつかる事になった。



「今のところ、戦況は上々だね」


「敵は攻めあぐねてるな」


 親友たちが冷静に戦局を見極めようとしている。

 砦側の俺達は高い壁をよじ登ろうとする敵を有利な高所から叩き落とし、攻撃を加え、弓矢を浴びせ、中には岩なんかも投げ落としてる兵士もちらほらと見える。

 時々、敵の魔法攻撃が炸裂してこちらの被害も多々見受けられるけど、まだまだ高みの見物ができる程に、こちらの兵士達は磐石だ。



「ミナ……」


 唯一気がかりなのが、門上に陣取ったミナだ。

 ミナの傍には姉も配置されているから、そこまで不安になる事はないけれどあそこは一番の激戦区だった。敵は閉ざされた門を突破しようとやっきになって突撃をかまし、それをさせまいと門上の兵士達が奮闘している。


 

「シンさんがついてるでしょ」


「ミナヅキさんは大丈夫だろ」


「……うん」


 正直、戦闘で心配というより、さっきの会話が途中になってしまった事が気がかりなのだけど……今は集中する他ない。


 圧倒的に防衛側が有利に戦闘を運んでいるといえ、油断は絶対にできない戦なのだ。


 

 ジョージの仕入れた情報だと、イグニトール側の砦をあと一つ落とせば勝ちという情勢をヴォルフは積極的に拡散しているらしい。

 それを耳にして勝ち馬に乗ろうとする傭兵(プレイヤー)が爆増し、決着をつけるべくどんどん敵の援軍として集結しているそうだ。

 つまり防御の一手を貫いても、いずれは数の暴力に押され敗北は決定している。ならば早期で敵の気勢を挫き、相手に明確な敗北を植え付ける必要がある。


 唯一の逆転方法は、俺の『指揮官(オフィセル)』で敵を味方に取りこむという手段のみ。いかにこの特性を活用できるかが勝負の要となっている。


外様旗手(エクエス)』の受け入れ限度は200人。『旗手(ロイヤル)』の10倍相当にあるが、『指揮官(オフィセル)』である俺から受けられる恩恵は薄い。『旗手』が全民兵のステータス1.3倍に対し1.1倍にしかならない。

 それでもベンテンスは手を取ってくれたし、他の敵だって戦況によっては軍門に下る可能性だってあるはずだ。



 そこで姉たちの作戦は、頃合いを見て相手の本丸を一気に叩く。


 つまりどこかのタイミングで討って出なくてはいけない。

 それを見極めるのが、戦況を最も高い場所で観察できる俺達の役目なのだ。



「相手の本隊がどれだかわからねぇな」


 ベンテンスのぼやきに親友二人が応じる。



「今は三方向から攻められてるけど、どれも数的には同じだね。門前と右、それに背後」


「気になるのは『一匹狼』に所属してそうな子供傭兵(プレイヤー)が見当たらないってとこだな。主力はまだ投入してないってわけか」


「たんに自分の団員の損耗を避けてるだけじゃねぇか? 他の傭兵団(クラン)には被害のでけぇ先陣を任せ、自分の傭兵団(クラン)員は後からのうのうとやってきて美味しいどこ取り。ヴォルフらしいやり口だぜ」


 俺は三人の考察を聞きながらも『望遠鏡』を持ち、砦の外で必死に特攻をかけてくる敵兵たちをつぶさに観察する。たしかに大人の傭兵(プレイヤー)ばかりだけど、注意深く彼らの足元を見れば、大人達の合間を縫うようにチラチラと小さな傭兵(プレイヤー)たちが走り回っている。



「いや、いる。子供傭兵(プレイヤー)たちは大人の影に隠れて何かしてる」


 あれは……地面に手をつけたと思えば、他の大人傭兵(プレイヤー)にぶつかってしまい転んでしまっていた。

 しかし、すぐに立ち上がってまた他の地点で両手をつけて数秒ジッとしたかと思えば、また大人の傭兵(プレイヤー)にぶつかってしまい転倒していた。



「連携が取れていないのかな」


 少数だが確実に子供傭兵(プレイヤー)は戦列に加わっているが、決して最前線へと顔は出していない。というかあの勢いでは出せないのだろうか。敵の民兵にも衝突されてしまっているようで、てんで戦力になりそうもない。


「でも気になる……『望遠鏡』で発見できた範囲の子供たち全員が、同じような行動を繰り返してる。ヴォルフが率いている軍なのに、その団員である子供傭兵(プレイヤー)たちがあんな無碍な扱いを受ける?」


「大方、ヴォルフの野郎が嫌われもんだから、その団員にだってアタリは厳しくなるってもんだろうよ」



 ベンテンスの考えも一理ある。けれど俺はどうしても子供傭兵(プレイヤー)たちの行いが気になっていた。あの団員思いのヴォルフが、子供達があんな扱いを受けて黙っているはずもない。


 そんな俺の小さな疑念を嘲笑うかのように、戦局を大きく揺るがしかねない転機が訪れた。



「門前と右側の敵が崩れたね」

「背後は相変わらず攻め続けてはいるが、突破は難しいだろうな」


 二人の言う通り、重い反撃を壁上から受けた敵兵が分散し、後退し始めている。攻めきれないと判断した敵傭兵たちが一旦退いて、どこかで集結しつつある援軍と合流して大勢を立て直そうとしているのは明白だった。



「ヴォルフの野郎は見つからねえが……おう、指揮官さんよ。どうすんだ? ここで一気に叩くか?」


「チャンスだと思うよ、タロ」

「早い話、攻め時だぜ」

「突撃の号令拡声機は準備万端であります!」

 

 この場の全員が攻勢に転ずるのに乗り気な意見を次々と出してくるので、俺もその気になって『門から討って出よう!』と号令を発する。


 こうして門からは姉が率いる『首狩る酔狂共』を先頭に、俺達の精鋭部隊が撤退を図る敵兵たちの首を破竹の勢いで刈り取っていく。

 そんな無双を体現した戦いを目にした、別の味方傭兵たちも次々と我先に武功を上げるべく、門から出て突撃をかましていった。



「ありゃぁ、俺らの出る幕もねぇな。敵の奴らは崩壊じゃねぇか」


 ベンテンスが溜息を吐くが、俺や夕輝、晃夜は喜び合った。

 こうして戦況は万々歳に見えたその時。



 事態は急変した。



 先頭で残党狩りに興じていた『首狩る酔狂共』と、彼らが率いる民兵たち80人程の後ろ、つまりは続々と味方兵が突撃に参戦しようとして走っていた地点に大きな沼が唐突に出現した。


 深く黒い茶色、夜だから正確な色みは判別つけづらいが、とにかくそれが突撃部隊の後続の足を絡め取ったのだ。かなりの深さまであるようで、腰から胸まで沈みこんでいる傭兵や民兵も多く、突然の事態に軽いパニック状態になっている。

 それはあらかじめ計算されていた計画のようで、ここが好機とばかりに敵の後方部隊が弓なりに矢を上手に飛ばし、沼に足を取られた兵たちを射殺していく。


 そしてやはりと言うべきか。撤退していた敵はくるりと向きを変え、一丸となって『首狩る酔狂共』を包囲しながら殲滅しようと動き出した。これはあらかじめ予定されていた疑似撤退だったというわけで。まんまと敵の誘いに釣られてしまった『首狩る酔狂共』は背後が沼で逃げる場所もなく、数的にも圧倒的に不利。80人前後の部隊に対し、敵は600から700弱はいる。

 


「おいおい、ありゃぁ連携地変魔法アビリティだぞ。時限式魔法の一種だが、トラップ系統に属するやつだぁな。しかし、あんな大規模なもんをタイミング良く成功させる奴らがいるだと?」


 ベンテンス自身、時限式の魔法スキルを多用するためか、俺達では見た事もないあの現象を知っているようだった。


「ベンテンス、一体どういうこと?」



「あの大沼召喚は、ごく最近に発見されたアビリティでよぉ。複数人がバラバラに沼化させたい箇所に両手をついて数秒待機する。それで時限式の沼化は設置完了なんだが、これは一人最大3カ所ぐらいまで設置可能って聞いてんぜ。んでもって、複数人が仕掛けた沼化の魔法を一挙に発動させる奴があらかじめ決められててな、そいつが沼化の魔法を仕掛けると他の沼化地点もカウントダウン開始っていう複合魔法だわな」


 両手で地面を……?

 敵の子供たちは大人達の影に隠れて、時限式魔法を仕掛けていたのか。

 しかも子供達を発見される可能性を考慮して、俺達が子供傭兵は酷い扱いを受けている、と錯覚させる芝居までうっていたわけだ。



「だがこいつは難易度が半端ねえ。既に沼化を仕掛けた他の奴らは、本命の沼化が発動するまでの間、30秒毎に魔法使用じゃお馴染みの提示問題を正解し続けねぇといけねぇんだ」


 クラン・クランは魔法を発動するのに、使用者だけが見える問題が提示される。それに正解しなければ魔法は発動しないという鬼畜仕様だ。

 


「それって……」


「あぁ。かなりの練度が必要だな。まぁ詠唱問題を勉強し尽くした奴らじゃないと、こんな綺麗に決まらねぇ。どこかしらでもっと早く沼化しちまったりする箇所が出てたはずだ……完全に攻略し尽くしてるぞ」


 もしタイミングを失敗していたら、味方を沼に落としてしまう。そんなリスクを平然と背負って、しかも見事に作戦を完遂させた子供傭兵(プレイヤー)の練度に驚かされる。



「ガキどもは覚えが早い。クラン・クランっちゅうのは年齢別に問題の難易度が変わってるようだが、いくらガキ共の問題が簡単だとしても……ちぃ、何度もやっちまえば問題の出題傾向はある程度絞られてくるってわけか。俺もゲームをしながら、まるで知識を蓄えるテスト勉強をやった気分に何度もさせられたぜ」



 まずい。

 攻撃の(かなめ)である『首狩る酔狂共』、特に姉を失うのは手痛すぎる。


 ミナの率いる民兵隊も沼にとらわれ、ミナ自身も沼に沈んでいるのが見える。なんとか魔法で反撃をしているけど、弓兵には届かないし、矢を蹴散らすために魔法行使をしている。あのままではすぐにMPは枯渇するだろうし、俺が渡しておいた『森のおクスリ』も尽きてしまうだろう。



「やべえな……あの状況を(くつがえ)せるだけの手段はねぇぜ。撤退を命令して、『首狩る酔狂共』は見捨てるしかねぇな」



「いや、それはありえない」


「はぁ? 嬢ちゃん、何言ってやがる」


「攻撃の主力を見捨てたら、防戦一方になってしまう。それはいずれくる援軍に押されて負けを意味するよ。それと俺達が敵の本陣、指揮官を狙っているように、あっちだってこっちの指揮官を狙ってる可能性がある」


「だから嬢ちゃんは一番守りの堅い、ここにいるんだろうが。俺達の大事な指揮官さまだ」



「……ベンテンスらしくないな。こんな所で臆病者にみたいに、大人しくしてるのが性に合ってるのか?」


「あぁん?」



 俺の挑発にすごんでくるベンテンス。だが、それを軽くいなして涼しく笑う。




「ルチル、ルナリー……こっちにおいで」


 胸元へ双子の魔導人形ルチルとルナリーを抱きしめ、護衛の仲間達を見渡す。



「俺が出ればあちらの指揮官(オフィセル)、ヴォルフも出てくるかもしれないだろう?」


「ダメだよ、タロ」

「あぁ、ダメだぞ」


 そんな親友たちの制止が出る直前、俺は砦の高所を駆けて飛び出した。

 双子人形と共に、身体を暗き夜空へと任せるようにジャンプしたのだ。



「なんてことしやがる! 正気か!」



 ベンテンスの怒鳴り声は後ろへ置いていく。


 クラン・クランは高所からの落下ダメージの判定が厳しく、この高度から落ちたら確実にキルダメージを負う。だが、俺にそんな心配は無用。

 風呼び姫(ガルーダ)のフゥを呼ぶ事もできれば、ミソラさんからもらったドレス、『空踊る円舞曲(ロンド)』を装備する手段がある。



「ブルーホワイトたん」


 だけども、今回は彼女の名を呼ぶ。


「何でしょうカ、(あるじ)様」


 予想通り、信頼通り、ブルーホワイトたんも即座に俺に追従して空中ダイブを敢行してくれていたようだ。すぐ背後から聞こえた軽やかな彼女の声が、それを如実に証明している。



()っこで」


「かしこまりましタ、あるじ様の着地はワタシが安全ニ」


 

 双子人形を抱えた俺を、後ろからお姫様だっこするブルーホワイトたん。

 彼女の氷のように冷たい表情を見つめながら、俺は『導き糸』を操作し『氷花』を発動させる。広範囲に渡って氷の花を生成させるこのアビリティだが、今回は空中使用からの氷の造花が下に向けてクルクルと伸びていく。



「まるで氷の螺旋(らせん)階段?」



 口にして、そこまで優雅なものではないと知る。実際はブルーホワイトたんの両足が、ガリガリと氷花を削って滑り下りているわけだ。


 唐突に出来上がった青と透明の歪な形の塔は、そのまま沼へと着水して地面の底へと突き刺さる。

 ブルーホワイトたんは優雅に沼に入る手前の氷上でストップし、俺を降ろしてくれた。



 沼に足をとらていた味方の傭兵(プレイヤー)たちは、呆気に取られたような顔で俺を見てくる。その気持ちは痛いほどに理解できた。

 どうして指揮官が単独でこんな前線に来てしまってるのか。

 無能にも程がありすぎると。


 それでも俺は言ってのけるしかない。



「助けに来た。さぁ、やり返そう」


 強気で大胆不敵、自信たっぷりにそう言い放ち、味方を鼓舞するのが俺の役目。

 混乱し、身体と共に気持ちまで沈みきっていた味方達は、俺の言葉に雄叫びを()って応えてくれた。


 この状況をどうにか覆す。そして姉もミナも助け出す。そして戦争も勝利し、現実に『才能持ち(ホルダー)』なる者の爆増を防ぐ。

 この戦いに望む結果の全てを手に入れる気概で歩みだす。


 これが唯一の勝ち筋が見える方法なのだと。


 


「さぁルチルとルナリー、お遊びの時間だ」


「ご主人さま、楽しむ」

「ご主人さま、なにするの?」


 キョトンと俺の腕の中で首を傾げる、『月影のルナリー』は可愛らしい。

 だけども、所持している能力はどれもえげつない。

 双子の共鳴時に発動できるものは特に、だ。



「ルナリー、『罠への報復』をお願い」


「ご主人さま、おもいっきり?」



 無垢な赤ちゃんのように質問をしてくるルナリーに。

 俺は左手に装着した『導き糸』を動かしながら頷く。



「あぁ、思いっきりだ」



 思わず笑んでしまった俺に、そばで見ていた味方傭兵(プレイヤー)が『ヒゥッ』と喉を鳴らしていた。





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