199話 家庭訪問?
200話突破、祝福のお言葉ありがとうございます。
読者のみなさまの存在が何よりも、私の原動力となっています。
戦闘も一区切りついたところで、『小隊長』と『旗手』、『外様旗手』に召集をかけ、とある村で作戦会議を開いた。
姉は現存する兵力の確認と、それぞれの顔合わせをした方がスムーズに連携が取れるとの事で、この会議の主催を買って出てくれた。
「新たな情報が入ったわ!」
膨れ上がった兵力は村の中だけはおさまらず、姉はぐるりと周囲を見回して叫ぶ。
小隊長が22人、旗手が13人、元からの勢力が民兵を合わせ280人とちょっと。そしてジョージ率いるサディ☆スティックの面々が小隊長13人の民兵が100とちょっと。外様旗手は45人で、民兵と合わせればだいたい360人ほどだそうだ。
先の戦いでの損耗は激しかったけど、740人を超える大所帯となった。
「イグニトール側の重要拠点が一つ、グランゼ侯爵勢に奪われたわ」
姉の報告を聞き、新しく仲間に加わった外様旗手の間に不穏な空気が流れる。
「重要拠点の奪い合いは、傭兵が直接関与できるのは二つのみ。あとの一つはNPC主導で行われる大規模な戦争だとの情報も入ったわよ」
イグニトール姫が率いる軍とグランゼ侯爵、ハーディ伯爵の連合軍の衝突。傭兵も参加できるものの自分の部下である民兵はおらず、軍隊であるNPCのステータスは民兵の比じゃない程に強い。傭兵にできる事は少ないだろう。
「ってことはよ、NPCのお偉いさん同士で戦って、その勝敗が決したら俺らの敗北が確定するじゃねぇか」
先に二つの拠点を占領した方が勝ちなので、ベンテンスの言う通りだ。
「そうね。NPCに戦争の勝敗を全部委ねない救済措置で、傭兵が直接関われる拠点を二つにしたってのは運営の配慮だろうけど……」
NPCが負けても傭兵の努力次第で、二つの拠点を落とせば逆転勝利ができるといった仕様か。
「拠点の一つを奪われた時点でこちらはかなり不利ね……」
「ヴォルフの野郎だな。占拠したってのは」
ベンテンスさんの発言を皮切りに、俺達はお互いに持っている情報を積極的に交換していく。
まず、傭兵団『一匹狼』の団長ヴォルフも俺と同じく『指揮官』になっているそうだ。何やら特別な功績を収めて地位が向上したらしい。他の傭兵団もいくつかヴォルフの『旗手』として傘下に入っているそうで、その練度はかなり高いようだ。さらにグランゼ侯爵側の、ある程度大きな部隊を持つ傭兵たちを仕切っているそうで、その規模は2500を超えるそうだ。
だが士気はそこまで良好ではなく、ヴォルフに不満はあるもののクエストクリアのために協力している、と言った具合らしい。
「2500ってこちらの3倍以上の兵力ね」
「あぁ。そうなると支配された拠点に攻め込んで取り返すっていう選択肢はねぇな」
「そうねぇん。攻め手の方が、兵数が少ないなんてぇん城壁でもあったら一気に全滅だわん」
「拠点は砦になってるはずだ」
通常、防衛側の方が有利なのだ。高い壁の防御力はもちろんの事、上から石を落とせたり、弓矢を放ち放題だから。そのため攻め手となる側は、大きな兵力差で以って城や砦を陥落させる。
「それなら、残った砦へ早めに向かうしかないわね。守りの一手になるのは性分じゃないけれど、負け筋が見える戦い方はやめましょう」
姉の下した結論に俺達一同は賛同し、移動を開始した。
◇
重要拠点となっている砦にはNPC民兵400人が詰めていた。
こんな兵力では、民兵1200人以上を率いる傭兵にすぐ落とされてしまう。
早めに来てよかった。
「配置を決めたいと思う、みんな集合してくれ」
砦につけば、すぐにまた作戦会議が始まった。
誰がどの箇所を守り、兵種の強みを最大限に活かせる場所はどこかなどの話し合いがしばらく続く。
「私を天士さまの傍から離してください」
ミナが唐突にそんな要望を口にした。
「私が天士さまの近くにいると、天士さまに危険が及びます。ベンテンスさんとの戦いでもそうでした。天士さまの周囲にはなるべく強い傭兵さんを、お願いします」
さっきの戦いでの事を気にしているのか、ミナの顔色は良くなかった。
「天士さまの足手まといになりたくないです……」
ミナの悲しそうな笑みからは……迷惑をかけたくない。でも本当に私は必要なのですか? と聞かれているように見えて、俺はどう答えていいのか詰まってしまう。
『足でまといなんて事はない!』と言いたかったけど、さっきの戦いでは庇うので精一杯だった。もっと、俺に全てを守り抜けるだけの力があれば……。
「おめぇらはやけに本気なところが俺と同じで好感が持てるんだがよ。ゲームなんだから、多少はたのしみゃあいいってところもあるんじゃねえか? 俺はヴォルフと戦えりゃあいいからよ」
ベンテンスさんの軽い言葉に俺達は誰も同意できなかった。
この戦で負けたら、現実にスキル持ちの人間が溢れる事になるんだ。
万が一にもミナを庇って俺がキルでもされたら、こっちの戦力はかなり下がる。そんなリスクは背負えないと、姉達は無言でありながらそう言っているに等しい空気が流れる。
「……ミナヅキさんは強力な魔法スキルがある。それは相手と接敵する瞬間、最初の一撃や二撃は大きな効果を生むだろうが、いざ衝突して乱戦になってしまったら味方兵にも被害がでるため、魔法の行使は時と場所を選ぶわね」
「砦っていうのも考慮して、最前線への配置か」
「一番敵の攻撃が集まりやすい門上が妥当だよね」
姉の考察に晃夜と夕輝が結論を手早く出していく。
そうして俺の護衛は近距離特化の晃夜と夕輝、それに中距離と近距離戦にも対応できるリリィさんとベンテンスさんの4人が任命され、ミナとの配置距離が開いてしまった。
「ミナ、その……」
「大丈夫です、天士さま」
ニコリと気丈に笑ってみせるものの、ミナはその幼い瞳をわずかに潤ませていた。
クラン・クランを始めた当初。
俺は自分が役立たずで、親友達の足をひっぱりたくないと悩んだ。
ミナもきっと同じ葛藤と戦っているはずだ。
そんなミナに、俺は気の利いた言葉をとっさにかける事ができなかった。
◇
「太郎、そろそろログインする時間ね」
姉と俺は一旦、クラン・クランからログアウトして軽食を取っていた。俺達がログアウトしている間は夕輝と晃夜が砦を見張ってくれていて、何かあればすぐに連絡を入れる算段になってる。他の傭兵たちも交代でログアウトするようにし、各々が休憩に入っている。
ミナも今はクラン・クランからログアウトしているはずだ。
「そうだね……もうすぐログインしないとか」
「ミナヅキさんの事を気にしてるのか?」
そんなに顔に出やすいかな。
「私が太郎の姉だからわかるってだけよ」
「はは……」
「世界の命運よりも友達の気持ちを心配するか。太郎らしいな」
「スキルが現実にどんどん出てきちゃったら、大変な事になるのはわかってるよ……この戦いが重要って事も……」
次にミナとクラン・クランで顔を合わせた時、どんな風に話しかければ良いのか悩んでしまう。
ゲームが現実に浸食しているという事を認知できる、貴重なメンバーの一人であるから、安易な言葉を投げかけたくはなかった。
これから俺達はきっと長い付き合いになるはずだし……。
『ピンポーン』
そんな風に友達への対応を熟考していると、唐突に来訪を告げるインターフォンのピンポンが鳴り響いた。
「あら? 郵便物でも届いたのかしら」
「姉、何か頼んだの?」
「私はなにも。太郎でしょ?」
「いや、俺は何も」
「それじゃあ、お客様?」
インターフォンのモニターを覗いてみる。
するとそこには、どこかで見覚えのある黒服のオジさんが一人立っていた。
そしてその横には……くすんだ金髪の……小学校中学年程度の少女がそわそわしながら辺りをキョロキョロ見回している。
緊張した様子でこちらの反応を待っているのは可愛らしいのだが……。
「あら。ミナヅキさんね」
「そ、そうだね……」
「どうして現実でうちの場所を知ってるのよ」
「わからない……」
ミナにリアルの情報を一切渡した覚えはないのだ。
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