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194話 常勝無敗の秘訣と代償


「忠誠を誓おう」

「忠誠を誓うであります!」


 姉とユウジの二人が俺の『旗手(ロイヤル)』になった事で、他にも『首狩る酔狂共』から三人、銀の軍人(シルバーレイ)から三人、各四人ずつが『旗手(ロイヤル)』となった。

 これにより、俺の指揮下に入ったのは総勢15人からなる150人の民兵部隊だ。

 俺が『旗手(ロイヤル)』に任命できるのは全員で20人まで。残り5枠の忠誠権は、ジョージと合流した時のために取っておいた方が良いと夕輝に言われたので、この場で全員を俺の指揮下に入れるのは止めておいた。



「戦場でめぼしいのがいたら、傘下に入れてしまえばいいわ」


 姉も夕輝の意見には賛成らしく納得している。



「それで姉、これからどうするの?」


 先程見せた対人戦への熟知度的にも、歴戦の猛者達を引き連れている姉には、その場の全員が意見を聞きたそうにしているけど、聞けない。ちょっと怖がっている、といった雰囲気を感じ取った俺は姉に気さくに質問をする。

 

「簡単だ」


 姉は敵対しなければ怖くない。そうみんなにわかってもらいたかったので、俺は意識的に軽くした口調で再度問い掛ける。


「ふぅん。どんな風に?」


「序盤は多勢に無勢で蹂躙(じゅうりん)すればいい」


 それから俺達は街を出て、兵舎から民兵を譲り受けながら姉の考えに耳を傾けてく。



「大規模な傭兵団(クラン)などは徒党を組んで、多くの民兵を率いているわね。だけど、個人規模、もしくは数人の傭兵(プレイヤー)で部隊を結成している少数がいるはずだわ。そこをふくろだたきにしていく」


「へぇ……」


 単純に圧倒的な物量で押しつぶすという、作戦とも呼べない作戦だった。



「太郎がやられてしまっては全NPCのステータスが下がるから、太郎は後方で堂々と私たちの戦果を眺めていればいい」


「そうはいかないよ。俺にだって、出来る事はある」


「なにができる?」


索敵(さくてき)ができるよ」



 姉の質問に、敵の居場所を把握できそうなギミックを持っている人形二人を出す。

 もちろん、『陽光のルチル』と『月影のルナリー』の双子だ。


「太郎、いい者をもっているな」


 姉は双子に相好を崩し、愛おしそうにじっくりと見分し始める。


「姉もね」

 

 俺からしたら、心強い団員を傍に引き連れている姉の方こそ凄いと思う。

 自然と互いにフフフと、笑い合う俺達。



「仲良しっすねーほんと」

「いい姉妹っすねーほんと」


 トムとシェリーさんの感想に、俺達は素早く反応してしまう。


「姉弟だな」

「姉弟です」


 

 仲良く姉と俺の声がハモってしまった。






 狩り。

 それは獲物を(ほふ)り、糧とする。

 それは強者が弱者をしとめる行為と同義。


 まさに今、その姿をまざまざと見せつけられていた。


 俺の指揮下にいる『旗手(ロイヤル)』と民兵が150人以上。それに加え、『旗手(ロイヤル)』になっていない『首狩る酔狂共』と『銀の軍人(シルバーレイ)』の人達が持つ民兵が350人。


 総勢500人以上の戦力を持って、ただただ蹂躙していく様は圧巻だった。

 森で、丘で、あらゆる戦場で敵の傭兵(プレイヤー)たちが率いる、30人から60人規模の民兵を傭兵(プレイヤー)共々一気に叩き潰してゆく。


 こうも簡単に連勝を積み上げていくと、薄ら寒いものがあった。

 常に最前線で猛威をふるう姉の姿は、清々しい程までに殺戮者の名を欲しいままにしている。


「これまでの戦い、楽勝すぎるな……」



 俺達は数で勝るだけでなく、俺の『指揮官(オフィセル)』によるバフで民兵の質でも勝っている。さらに、それだけではない。こちらは先手も必ず(・・)取れるようにしているのだ。



「ご主人さま、北東、距離400メートルの林に隠れてる。20人ぐらい」


 執事服の少年人形、陽光のルチルがとぼとぼと歩いて来て俺に報告してくれる。実はルチルが敵の居場所を報告してくれるのだ。


「ありがとう、ルチル」

「大した事ない。他も探す」



 ルチルの持つ機導式ギミック『幼き警戒』は、ルチル自身を透明化できる能力だ。無害で無垢な幼き子供だからこそ、相手は警戒すべき対象だと認識できない。『幼き警戒』の発動中は他のギミックを使用できず、俺の片腕もルチルを動かすための『導き糸』でふさがってしまう。今は右手の五本の指に『導き糸』が張り付いており、そこからルチルを操っている。


 多少の不便さはあれど、これは遠くにいる敵を発見したり、索敵能力に特化したギミックで重宝できる。



「本当に上手くいってるな……」


 実はギミックを使用するための『導き糸』は、『雷炎を仰ぐ都イグニストラ』のNPCが経営する人形屋に販売していた。少し割高だったけど兵舎に寄る前にいくつか購入しておいたのだ。

 どれも雷や炎にまつわる糸で、月や光と相性のいい双子人形には微妙なラインであったけど、光と炎が近いと判断し、今は『炎結(えんむす)びし糸』を使用して、ルチルの機動式ギミックを発動している。


 もっと相性の良い糸であればギミックの能力を最大限に引き出す事ができ、ルチルと視界の共有などもできるのだそうだ。透明化によるルチルを遠方にいる場所に忍ばせ、一方的にこちらが敵の様子を窺う事だって可能になる。



「しかし、これ……難しいんだよなぁ」


 姉達が他の傭兵部隊を粉々に打ち砕いて行く様を、ちょっと離れた所で眺めながらぼやく。

 この『導き糸』によって人形を動かすという行為は、ピアノの鍵盤を指で叩く、と似たような感じなのだが……例えば人形を移動させるためのコマンドは、まず最初に中指を折り曲げる。その次に右に移動なら薬指を、左なら人指し指を、後ろなら小指を、前進なら親指を、しゃがむならの全部の指を折り曲げる。そしてジャンプは逆に、全ての指を目一杯広げるなど……走るは薬指と小指を同時に、ゆったり歩調は親指を二回などと、覚えるのにかなり苦労しそうだ。



「今はマニュアルメニューを可視化して開きながら見ているけど……戦闘中に使うとなったら、いちいち確認しながら戦えるわけがない」


 だったら下手に『導き糸』を使用せずに、心を持っている人形だから自律式運動で任せてしまえばいいのだけど、『導き糸』を使っていなければ人形が持つ各ギミックを発動できないのだ。


 100%人形たちの力を発揮させるためにも、この辺は極めていかないといけない。



「ご主人様、鳥たちが戻って来た」

「よくやったルチル。結果を報告して」


「南南東、1、5キロの川辺に80人規模。南1キロの森に30人規模が二つ、交戦中。南800メートルの洞窟に、40人規模」


「ありがとう」



 さらにルチルの機動式ギミック『パンくずの道しるべ』も活用。これは自分たちの通った場所にパンくずを置いていき、後々にルチルが放った青白い鳥に回収させるのだ。

 するとそのパンくずの置いた地点、その周囲に起きている状況を魔鳥が収集してくるというシステムである。


 これももっと相性の良い『導き糸』を活用すれば、鳥が目にしたイメージ図を写真のように視認できるようだ。



 俺達はこうして敵の居場所を大まかにだけど事前に把握し、大人数で仕掛けていくという常勝無敗の戦略を駆使し、この地帯にはびこる敵勢力を順調に駆逐していっている。



「もうすぐ夜がくるな……」


 敵戦力を討滅した俺の『旗手(ロイヤル)』たちが、笑顔で戦果を讃え合う。彼らの後ろでは士気の高い民兵達が勝鬨を上げている。



「どうした、タロ。何か不安な事でもあるのか?」

「んん、次の敵と戦う時はボクらが護衛役を交代しちゃうから不安なのかな?」


 俺の護衛役として残ってくれた晃夜と夕輝、そして民兵部隊。

 彼らの顔も一様に自信に満ちあふれており、ここまで何の苦労もなく敵を屠って来た様子が如実に表れている。

 それが何となくだが、俺の心をざわつかせた。

 


「ご主人さま、南西800メートルに700人。こちらにまっすぐ来てる。あと馬に乗ってるのもいる」


 ルチルの淡々とした警告が響く。


 予想より遥かに全てが順調すぎた手前、ここにきて大戦力がこちらに向かってきたか。

 明るい表情で戻って来る『旗手(ロイヤル)』たちを眺め、やはり不安は拭い去れなかった。




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