193話 ちょろいんです
「もうイグニトール継承戦争って始まってたんだね」
「早い話、小競り合いってとこだな」
王城から出た俺達は街の外へ向かっている。
夕輝たち『旗手』の指揮下に入るNPC民兵は、街の外に出ると兵舎からもらえるからだ。
既に傭兵が率いる小隊規模の戦いは、いくつか起こっているそうだ。
ほとんどが傭兵の小隊VSイグニトール姫王家のNPC兵士、という図式で傭兵VS傭兵はあまりないようだ。つまり、それだけイグニトール姫王家側についた傭兵が少ないというわけだ。
NPCによる大軍同士でのぶつかり合いは行われていないけれど、姫曰くもうすぐ戦端が開かれるとの事。そして大戦の日が迫るなか、傭兵達が率いる小隊の働きにじわりじわりと姫王家側の勢力が削られているそうだ。
「継承戦争のルールは意外と単純でしたわね」
「双方の代表者NPCのキル、もしくは重大な拠点を3つ落とした方の勝利でありんすね」
反乱軍の代表者はハーディ伯爵とグランゼ公爵、こちらはイグニトール姫。
敵方が二人に対し、王家側は一人。一見、不利に見えるこのバランスには理由があり、イグニトール姫は敵の代表二人よりも強いらしい。
「天士さま! どんどん拠点を奪っていきましょう!」
「おー! ミナちゃんやる気だね!」
「お姉さんたちも頑張るからね?」
「はいっ! よろしくです!」
敵の重要な拠点となる場所がいくつかあり、そこを奪い取れば良い。逆にこちらの拠点を三つ奪われたら負け。最初は要人をキルした方が早いと踏んでいたけど……姫からもらった地図を見れば、グランゼ伯爵が居を構える城に行きつくまでには、膨大な敵と施設を相手にしなければならないとわかり、拠点を落とすという方針に決定したのだ。
「総員、天使大将閣下に敬礼!」
いざ街の外へ出陣しようとしていたら、道の両脇を固める一団から号令が飛んだ。
何事かと両サイドを見れば、軍服もどきの装備で統一された傭兵30人あまりが、整列しながらこちらに敬礼をかましていた。
「天使大将閣下、このRF4you! 友軍を率いて参上したであります! タロ閣下におかれましては、ご壮健でなによりであります」
見事な訓練が施されているのか、誰も微動だにしない。
そんな中、ただ一人の小柄な少年が俺の前まで歩み寄り、胸に手を当てながら頭を垂れた。
「お、おう……ユ、RF4youも元気そうで良かった……」
リア友にしてクラスメイトのユウジだった。
そういえば合流する算段だったのを忘れていた。
「おお、そのようなお言葉をかけて頂き、恐悦至極であります。タロ閣下、あつかましい願いではありますが……もしよろしければ、ここに集った勇壮たる銀の軍人のみなにも一言くださると、より一層に士気が上がるであります!」
おおう……ビシッと直立不動で立ち並ぶ彼らの姿は壮観で、ちょっと内心で気圧されてしまう。
みんな厳しい表情だったけど、瞳だけはギラギラ輝いていて明らかに何かを期待している。そんな様子を見せつけられれば、何か言わないといけない気がする。
「みなさん、よく集まってくれました。苦しい戦いになるかもしれませんが、一緒にがんばりましょう」
不利な形勢だと知っていながら、ユウジを含めこれだけの人が集まってくれたのだ。愛想笑いの一つでも浮かべよう。
「「「サァーイェッサー!」」」
俺の一言に、地を揺るがしかねない凄まじい返答が響く。
一目で彼らの士気が極限まで跳ね上がったのを肌で感じる。
「ゆ、RF4you……なんだか凄い人達を集めて来てくれたんだね……ありがとう」
「タロ閣下の招集命令であらば、喜んで馳せ参じるであります!」
そう言ってユウジはねっとりと俺を見つめ、次にミナやゆらちー、シズクちゃん、アンノウンさんやリリィさんに視線を運ばせた。
「それにこのような美少女達と戦線で肩を並べられるなど、スクショ班の任務もはかどるであります!」
いや、それは辞めようぜ。と、俺が言いかける前に尖った声がユウジに刺し向けられた。
「ほう? それは一体誰の事を盗撮すると言っているんだ?」
俺とユウジの間に忽然と姿を現した姉に、その場の誰もが驚く。漆黒の渦が姉の足元から吐き出され、それは空中で霧散していくエフェクトをまき散らす。
何かのアビリティなのだろうか。
「万が一にも私の太郎を無断で撮ろうとしたなら、命はないぞ」
これにはさすがのユウジも肝が冷えただろうと思ってみたら、あいつの顔はなぜか嬉しそうに恍惚としていた。
「邪魔だ。失せろ」
ひどく冷たい視線でユウジを見下ろす姉。
しかし、ユウジはハッとなって俺と姉を交互に見返し、なぜか俺を背に隠すような立ち位置で、姉に対峙し始めた。まるで俺を庇おうとしているかのような動きだ。
「消されたいのか? 少年」
酷く不愉快だと言わんばかりに、綺麗な姉の顔に青筋が走る。
「我らが天使閣下の御身を、不用意に危険にさらすわけにはいかないのであります」
そんなユウジの一言に、敬礼をしていた傭兵たちが一気に動きだす。
俺達を取り囲むべく、わずか数瞬で円陣を組み上げた。そして内側の傭兵は武器こそ構えてないが油断なく姉を睨み据え、外側にいる何人かの傭兵が周辺に警戒の目を走らせている。
戦慣れしているのか彼らの動きはあまりにも迅速で、これから友軍として継承戦争に参加してくれるのがとても頼もしく思えた。けれど、ちょっと姉に対して何か誤解しているようだ。
「私の太郎が、私と話すのに何の問題がある?」
この物言いにユウジがピクリと眉を動かす。
「貴女からは危険な匂いがするであります。判断基準は、戦場で培った感とでも言えばわかるでありますか?」
「面白い事を言う。自らこそ最も危険な存在だと、どうして自覚できない? お前らのような陳腐な集団が、太郎を取り囲んでいる方が危険だと私は思うのだけど。醜悪にして醜聞ね、私の太郎の品格そのものを貶めているのよ」
「我らはタロ閣下の招集に応じて集った者であります。我らの品格を問うならば、我らにお声がけしてくださった、天使閣下の品格そのものを問う行為でありますな。如何にタロ閣下と親密な間柄であろうとも、尊きタロ閣下の所有権を豪語するなど、危険極まりない存在であります」
「ふふふ……私の事を脅威と認識するなら、なぜ自分から危険に飛び込もうとしている。お前は馬鹿なのか? 迅速な戦闘態勢への移行には感心するが、そんな判断しか下せないお前は、太郎の傍にいる資格など微塵もない」
「これ以上の侮辱は控えるであります。我らは天使閣下にふさわしい部隊であるために、血の滲むような鍛錬と訓練を重ねてきたであります! これ以上の流言蜚語は敵対行為とみなすであります」
「おもしれぇ、やってみろよ。なぁ姐さん?」
「つっても、お前ら既に死んでんぜ。なぁ姐さん」
突然の闖入者は二人のナイスミドルなおじさま……姉と同じ傭兵団の仲間である、トムとシェリーさんだ。
「おめぇら、身体うごく?」
そう問われ、俺自身も体が一歩も動けなくなった事に気付く。
これは……もしかして、さっき姉が放出していた黒い渦が関係しているのか?
「おめぇら、集中砲火あびるか?」
街の建物、高所から10人程の傭兵がサッと姿を現し、魔法の詠唱を終えた仕草でこちらに杖やら弓やらを向けていた。
「たった3秒動けなくなるだけの、時限式行動阻害アビリティ」
「発動してから時間差で範囲内にいる傭兵へ効力が発動するから、全然使えないアビリティなんだけどなぁ」
説明が始まる頃には俺達の金縛りが解ける。
だが、誰もがその場を動こうとはしない。いや、できない。
下手な動きを見せれば、ユウジ達を狙っている傭兵がいつ攻撃を放ってくるかわからない状況だからだ。いともたやすく生殺与奪を握って来る、対人戦で名の通った傭兵団……これが『首狩る酔狂共』の実力か……。
「ま、戦闘中じゃこのたった3秒も致命的だわな。事前にタイミング合わせて、高火力アビリティをぶちあてりゃぁ、即全滅っつぅな」
「おまえらさー、対人戦においてよぉ、こんな初歩中の初歩アビリティを知らないとか、何の冗談よ。黒い渦……『黒死病の渦風』が撒かれりゃぁ、半径3メートル圏内から10秒経つ前に離れる。これ常識な?」
「ったく。俺らがほんとに攻撃してたらよぉ、姐御が天使ちゃんかっさらうのを指くわえて眺めるだけのカカシだぜ、おめえら全員よ」
その辺にしておけと姉が二人を諌める。
しかし、依然ユウジを見つめる姉の視線は険しい。
「太郎にふさわしいと言うならば、その太郎が私を大好きであり、誰よりも大事に扱っているという事に気付くべきね」
頼りないとか生意気とか、そんな感じで罵るかと思ったら、明後日の発言をする姉に俺は思わず溜息をついてしまう。
「いや姉よ、そこまでじゃないけどね? まぁ二人とも、喧嘩はやめてね」
こうして銀の軍人と『首狩る酔狂共』の面々は俺達と合流を果たしたのだった。
「おい少年。タロの写真はあるのか? あるならば撮ったもの全て、私が押収する。いや渡してくれないか、お願いだ」
「あります。ですがその前に一つ、提案であります。これからも、より良い品質をお求めになるのでしたら、今後とも……神々しくまでに輝くタロ閣下の御身と偉業を、歴史に残すという崇高なる任務の許可を頂きたいであります。もちろん完成度の高い写真は全てその都度、姉君にお譲りするであります」
「わかった。それで手打ちにしてやろう、契約成立だな」
「了解であります」
「ただし、本人が不快に思うのであったら……ただちに辞めるのだぞ。でないとお前に明日はない」
「お言葉ですが……貴女も共犯では?」
「何を言っている。私は家族だぞ? 姉弟のアルバムを作成して何が悪い。他人であるお前が太郎の写真を、無断で保持するのとは訳が違う。無駄口を叩くなら許可は出さないわよ」
「サァーイェッサー」
姉がぼそぼそと何かをユウジに耳打ちし、ユウジがコクリと頷いているのが妙に気になる。晃夜や夕輝を恫喝したような事態もあったので、変な事になっていなければいいのだけど……あとで姉に確認しておこう。
せっかく戦友たちが集結してきたのだ。どうせなら、仲良くやっていきたい。
みんなが一致団結できるのか……すこし不安も感じるけど、そこをうまく調整し、みんなをいい方向に導くのも『指揮官』である俺の役目だと肝に銘じておく。
ブックマーク、評価よろしくおねがいします。




