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184話 夢見の恋

 雪国ポーンセントの教会から逃れた俺達は、いったん『白青(はくせい)の雪姫ブルーホワイト』攻略準備のために一度『先駆都市ミケランジェロ』へと引き返した。


「あの状態のブルーホワイトちゃんでぇん……従来の『凍傷』予防アイテムがどれだけ効果があるか不安だわねぇん……」



 ジョージ(いわ)く、俺達が持ちだした『冬の落とし子』スキルで強化される前の『剥製の雪姫ブルーホワイト』は、状態異常『凍傷』に備えた消費アイテムがあれば今の俺達でも十分討伐は可能だということ。例えばマモルくんがくれた『暖炉トローチ』など、だ。


「でも、町ごとダンジョン化させる程強くなってますよね?」


 ミナが言う通りボスキャラの強化が、どの辺までされているか定かではない。街をまるごと変化させるほどなのだから、その強化規模はかなり大きいのかもしれない。なので俺は晃夜(こうや)夕輝(ゆうき)、ゆらちーやシズクちゃんなどにフレンドチャットを送って突如変貌を遂げた町の評判を聞き出しているところだ。

 情報集めは攻略に必須だろう。



「ボクの方でも傭兵団(クラン)『武()ち人』のみんなに聞いてるけど……あのダンジョン化した町の攻略に息巻いて、氷に強い属性付き武器や防具の注文が殺到しているそうです」



贖罪(しょくざい)の氷都ブルーホワイト』は今や、中堅傭兵(プレイヤー)たちの間で大きな話題となっているようで、町がダンジョン化されてから間もないのに、けっこうな情報量が飛び交っていた。


 町内の徘徊している氷人なるモンスターは、そこまで強くないそうだ。中堅傭兵(プレイヤー)たちにとっては防御に集中していれば無視して、町の奥まで進めるレベルらしい。元は町のNPCという事で極力倒すことは避けているようだ。クラン・クランは傭兵(プレイヤー)たちの行動が、後々どのように響き変化するかわからないゲームという特徴があるため、そのへんは慎重になっているみたいだ。

 モンスター化した町の人をキルしないという事は、町の復興の目処があるのかもしれない。



「ブルーホワイトちゃん、かなぁり強いらしいわよぉん」



 ダンジョンの深部、氷都と化した原因にして根源である教会内部にボスモンスターである『白青の雪姫ブルーホワイト』は待ち構えている。

 教会に一度に入れる人数は8人までと決まっているらしく、それ以上の傭兵(プレイヤー)が入ろうとすると神殿の扉は頑として開かなくなるようだ。


「なんでもぉん、ブルーホワイトちゃんの周りには20体以上の人形少女(ドール)たちが(はべ)っていて、同時に襲いかかってくるらしいのぉん」


 ヒィッ。あの祭壇まで左右に続く人形地獄を俺は思いだす。

 この町にあった人形屋に置かれていた物もそうだけれど、どれも造りが精巧すぎてちょっと不気味なのだ。そんなのがブルーホワイトと共に攻撃を仕掛けてくるとは……。



「あの可愛いお人形さんたちがですか!?」

「ちょっと素敵ね、ミナちゃん?」


 ミナとトワさんがきゃっきゃしている……正気か!?



「はい! お洒落なお人形さんばかりだったので! わたしも一つぐらいは欲しいなって思っちゃいます」

「ブルーホワイトちゃんも凄い綺麗だったよね」

「ですねぇ……できれば壊したくないです」



 ボスキャラのブルーホワイトだけでなく、魔物人形が20体以上って無理ゲーじゃないですかね。


「氷属性に有効な武器の発注が多発してるって事は、ボス攻略は難航しているみたいですね」

「そのようねぇん。でも人形の攻撃は軽いらしいわよぉん? やっぱりブルーホワイトちゃん単体の力が強力すぎるらしいのよねぇん」


「上位の傭兵(プレイヤー)たちが攻略に乗り込むのも時間の問題か」


「元々、けっこう人気の高いボスキャラですしね」



 ブルーホワイトは相対した傭兵(プレイヤー)に対し『欲しいのは貴方(あなた)の心』と言うのがデフォルトらしいのだが、一部傭兵(プレイヤー)の間ではその狂おしい程、愛に飢えた様子が非常にいいとか。



「……」


 おそらくブルーホワイトが欲する『貴方の心』とは……生前に将来を誓い合った恋人の愛だろう。必死になって悪魔を倒し、人形となってまで再会を果たした彼女へ、恋人は『化け物』と言ったのだ。最愛の人に(おのの)かれた過去を持つ彼女が何より求めるのは、恋人の愛なのだろうな……。


 俺は彼女の慟哭(どうこく)、歌声を思いだす。



『壊れた時計は時を刻めない』


『壊れた人形も』

『壊した命も』

『彼の命も』


『この手で、全てを殺してしまった』



 おそらく壊れた人形は彼女自身をさし、彼の命は恋人のモノだろう。

 自らの手で憎悪に任せ、町人も含め恋人を殺めたのだろうと容易に予想が付く。それに対し悔恨も抱いてはいるのだろうな。


『小さな雪国見下ろす』

『約束の場所』

『枯れ果ての小岩』



 多分……恋人と約束を交わした場所なのだろう。

 ポーンセントを見下ろせる、小岩か。



『欲しいのは貴方の心』


 そして二度と味わえぬ恋人のぬくもりを求め続けているのだろうか。

 想いを裏切られた時点で、決して手に入りはしないだろう。殺した時点で再度、触れることも思い出す事も(はばか)られる。

 激情に駆られて恋人を壊した自分には、願う資格もない。

 けれども欲せずにはいられない。


『私を消して』


 憎しみと悲しみの狭間で出した彼女の答えは、氷雪の都市。

 彼女の心は凍りついてしまったのだろうか。



「状態異常『凍傷』への対策アイテムはもちろん用意してからブルーホワイトに挑むけど、その前に探したい場所がある」


 俺はみんなにそう言って、約束の場所とやらを探索しに行く事を決定した。

 哀れな彼女の無念が、なんとなく気になってしまったのだ。





「ここが約束の場所っぽいな」


 ブルーホワイトが歌っていた場所は、大した苦労もなく見つける事ができた。

『雪国ポーンセント』を見下ろせる小高い丘、そこは真っ白な雪が積もっていて、その雪からはみ出すようにして、ぽっこりと顔を出す小岩が一つ。


「雪に埋もれてませんね」


 ミナの指摘に俺も(うなず)く。


「この小岩だけ雪に隠れてないって事は、何かありそうだな」


 

 さしあたって周囲を調べた限り、何か特別に目に付く箇所はなかった。小岩に熱があって上に降った雪を溶かしているのかとも考えたけど、特に温度を持っている訳でもなくヒンヤリとしている。


「タロ先輩、ボクなりにこの小岩を調べてみましたけど……特別な鉱石というわけでもない、です。ただのフィールドオブジェクト。周りに採取できる鉱物類も見当たらないです」


 鉱物マニアのジュンヤくんですら何かを発見することは叶わなかった。

 

「うーん……となれば、とりあえずは情報収集だけでもしておかないと、かな」


 俺は錬金キット『古びたカメラ』をインベントリから取りだし、雪国ポーンセントを背景に件の小岩をパシャリと撮ってみる。

 モンスターを撮れば写真に色を宿す装備だけど、風景を撮るだけも写真として情報が記されるので、ここで使わない手はない。



「うん?」


 普段ならば、カメラの下部からニュニューっと撮った写真が出てくるのだけど……どうしたのだろうか、写真を撮った瞬間からカメラが虹色に輝き始めた。


:『古びたカメラ』で『光彩に瞬く(ホログラム)写真』が撮れました:

:特定の条件下、NPCのフラグを回収してある地点で、写真を撮ると特別な写真が撮れる事があります:



 ほう……特殊な写真か。

 さっそく説明文から目を通していく。


『夢見の小岩』【写真】

【生贄の少女と臆病な少年が愛を交わした約束の場所。少年は語り合った夢を忘れられず、町の人々に生贄とされた少女を想い続けた。彼女を守るための行動すらできず、死んでしまった彼女との再会を夢見るだけの矮小な存在だと理解していても、少年はひたすら通い続けた。そして待ち焦がれた再会は、悪魔の返り血に濡れ壮絶なまでに変わり果てた少女の姿を目にする事だった。少年は驚き慄き、彼の口から咄嗟(とっさ)に出た残酷な言葉が少女を壊し、互いの夢は死して(つい)えた】


 ……。

 写真を陽の光にすかすように掲げて見上げれば、ちらりちらりと風景が変わっていく。



「『光彩に瞬く(ホログラム)写真』、か……」


 見る角度からその風景が変わって見える仕様に感心しつつも、俺は写真『夢見の小岩』をじっと眺める。



 雪降る寒空の下、一人の少年がぽつんと、ポーンセントを見渡せる小岩の上で座っている。曇天うずまく雨の日も、青空()き通る風の日も、夕暮れ沈む静かな日も、彼はひたすら孤独に彼女を待ち続けていた。

 

 ただ、ただ、一人きりで。

 

 その寂しい後ろ姿に彼がどれほどの後悔に苦しみ、ブルーホワイトを想い続ける気持ちが強かったか、ひしひしと伝わってくる。変わり果てた彼女に怯えたのも事実だが、彼女を本気で愛していたのもまた事実だったのだろう。


 結ばれなかった二人に、チクリと胸が(うず)く。

 


「天士さま? その写真、どうかされたのですか?」

「ううん」


 俺は写真をぐっと胸に抱き、ちいさく笑う。

 白青の雪姫ブルーホワイトが何を求めていたのか、なんとなくわかった。


「タロちゃん、なんだか悲しそう」

「先輩、大丈夫ですか?」


 どうやら上手く笑えていなかったみたいだ。

 トワさんやジュンヤ君が心配そうに俺の顔を覗いてきた。


「俺は全然大丈夫だから。それより、ブルーホワイトの所にいこっか」


「そうねぇん! 今度こそぉん、あちきたちの子供を、輝剣(アーツ)『冬の落とし子』を回収しましょうねぇん♪」


 こうして俺達は中堅傭兵(プレイヤー)たちの攻略場所として賑わう『贖罪(しょくざい)の氷都ブルーホワイト』へと足を向けた。




 青い雪の降る町。

 触れた者を凍らし、氷人という化け物に変化させる。


 白き薄氷(はくひょう)(おお)われた町。

 その冷たさの根源は、絶望に冷え切った彼女の心になるのだろう。


贖罪(しょくざい)の氷都ブルーホワイト』の中心地、教会の周囲は多数の傭兵(プレイヤー)に囲まれていた。それらに襲いかかる氷人は、反撃をされる事無く押し退けられている


「あらぁん……もしかしてボス戦待ちのPTがいくつかあるみたいねぇん♪」


 ジョージの言う通り教会前にいる傭兵(プレイヤー)達は『白青の雪姫ブルーホワイト』への挑戦待ちのようだ。



「おーい! あんたらもブルーホワイト戦待ちか?」

「なら順番は4番目だぞー!」

「順番が来るまで、協力してこの氷人共の攻撃を(しの)いでくれ!」



 俺達が近づいてくるのを確認した傭兵(プレイヤー)たちは口々にそう叫び、ボス戦までの順番を言い渡す。

 なるほど、今は3PTが協力して周辺の氷人に対して牽制し続けているのか。俺たちもすぐさまその輪に入り、氷人の攻撃を受け止める。とはいえ、俺やミナ、ジュンヤ君はひょこひょこと逃げ回るだけで役に立っていない。ジョージはアフロで攻撃を受け止めバインッと弾いていた。ジョージのマリモ万能説。トワさんといえば、氷人を操ってませんか? あっちに歩けーこっちに歩けーと近づいてくる氷人を誘導している。恐るべし『モンスター調停士(テイム)』スキル。

 そんなちぐはぐな俺達の行動が珍しかったのか、他の傭兵(プレイヤー)たちは目を丸くしていた。



「次は、白銀の天――嬢ちゃん達の番か」


 そうこうしている内に俺達の順番が回って来た。

 一緒に氷人を相手にしていた他PTの傭兵(プレイヤー)が話しかけてくる。


「はい。やっぱり教会に入った傭兵(プレイヤー)たちが外に出てこないって事は……」


「全員全滅だ。未だに討伐者は現れてないって事だな」


「それにしても嬢ちゃんたち、フルPTで挑まないとか相手になるのか?」



 他のPT傭兵(プレイヤー)は心配そうに聞いてくる。

 教会内は1PT、最大8人までしか入れない。みんな8人でPTを組み、フルパーティー状態だが俺達は違う。

 ジョージ、ミナ、トワさん、ジュンヤくん、そして俺の5人PTなのだ。


「ここまで来ちゃったので、やれるだけの事はやります」


「おおう、それでいいならいいんだけどな。戦法が俺達に丸見えになっちまうのはいいのか?」


 教会の扉は8人で入らなければ閉まらない。つまり、5人で入る俺達は『白青の雪姫ブルーホワイト』と戦っている姿を教会周辺にいる傭兵(プレイヤー)達に見られてしまう。

 ダメで元々な雰囲気もあるので、俺は別に構わないと軽く手を振り、教会内へと侵入していく。


「そんじゃあ、遠慮なく俺達の攻略に役立つよう観戦させてもらうぜ! おっと、あぶねえな氷人どもがっ!」


「もしかしたら……戦わずにこの町を元に戻せるかもしれないし……」


 氷人と戦う傭兵(プレイヤー)たちを背に置いてゆき、誰にも聞こえない声音でそう呟く。

 そのまま扉の奥へと入れば、そこは氷雪の礼拝堂だった。

 氷の柱が幾本も天井まで伸びている。花を模した氷の彫刻が至るところにはびこり、天窓から覗く陽光にキラキラと反射して美しい。



「綺麗だな……」


 俺達が教会内部へ足を踏み入れた瞬間、数十体にもおよぶ可憐な人形たちが一斉に首だけをギョロっと動かして視線を集中させてきた。

 左右の壇上に置かれた人形達は宙を浮き始め、カキッコキッと音を鳴らしながら身体を動かし始める。


「いよいよねぇん♪」

「人形さんたち、可愛いのです」

「あれって一人ぐらい私のスキルで仲間にできないかなぁー」

「ボクだって、がんばります!」


 いよいよ戦闘開始って空気だ。

 人形たちの中心には、純粋な白と儚い青のドレスを纏った『白青の雪姫ブルーホワイト』の姿があった。

 

 煌めく白い雪、艶めく青の雪、二色の雪を自在に散らしながら彼女はゆっくりと歩み、他の人形たちと同じように宙へと浮かびあがった。

 そして色のない瞳で彼女は言った。

 


『欲しいのは貴方(あなた)の心――』

 

 その慟哭(どうこく)にも似た声は、悲しみにあふれた残響。

 話に聞いた通り、戦闘前に必ず言う台詞を口にした彼女。


 俺はそんなブルーホワイトに無言で歩み寄っていく。



「ちょっとぉん、天使ちゅわん!?」

「危ないですよ!?」

「タロちゃん、待って!」

「先輩!?」


 ダメかもしれないけれど、コレじゃないかもしれないけど、試してみる価値はあるはずだ。俺は背後のみんなへ大丈夫と片手で抑え、ブルーホワイトへと向き直る。


「持って来たよ。キミの欲しい心を」


 一瞬、ブルーホワイトの動きが止まる。


『そんなモノ、ありはしなイ、イ。あるはずガ、なイ……』


「これを受け取って欲しい」


 俺はそう言って、ゆっくりと写真『夢見の小岩』を手渡していく。

 そこにはブルーホワイトの恋人が写っている。

 彼女をひたすら待ち続けた日々が写っている。


 彼の後ろ姿には、確かにブルーホワイトを想い募った事が残されている。


 ブルーホワイトは人間のように震える手で写真を持ち、きっと人間と同じく心を震わせているのだろう。じっと写真を見つめ、彼女の瞳が揺れる。



『ありがとウ、ウ……ウッ……ウゥ……』


 はらりと、雪が落ちる。

 それは彼女の作り物の目にこぼれ。

 流れるはずのない、涙がツーっと頬を伝って軌跡を描く。


 そして彼女は満面の笑みを咲かせ、胸から暖かな光る物を取り出した。



『わたしの心、貴女(あなた)にあげル』


:等価交換が成立しました:

:『白青の雪姫ブルーホワイト』の心を入手しました:



 手渡されたぬくもり。


 それは長い長い冬の――憎悪と後悔に閉ざされた世界の。

 雪解けだった。




:入手条件が達成されました:

:『錬金術の古書(アルケミ・クラシカ)』〈人形の支配師(ドミネーター)〉を入手しました:


「うぇっ!? ってブルーホワイトさん!? 大丈夫!?」



白青(はくせい)の雪姫ブルーホワイト』は俺にのしかかるように項垂れ、微動だにしなくなった。同時に街の氷化も溶け始め、NPC達にふりかかった呪いも解除されていく。


「おいおいおい! どうやって攻略したんだ!?」

「街が、NPCがもどっていくぞ! 一体何をしたんだ!?」


 どうやら驚いたのは俺だけじゃなかったようだ。

 教会へ次々となだれ込む傭兵(プレイヤー)たちを前に、俺はとりあえずブルーホワイトの望んだモノを渡せた事に満足して笑顔で応えた。



きたるグラントール継承戦争にむけて、タロの戦力が強化されていきま、、、、



ブクマ、評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
(;_;)画面の文字が滲んで読めないです...
[一言] 彼が待っている事を伝えられれば良いわけだから、死霊術で魂を連れて行く、彼の遺品や日記を探し届ける、過去の思い出の品なんかを持ち、攻撃をしなければ割と通りそう。
[良い点] ふぅ……。 [気になる点] 錬金術でなければダメなのか、何か分析とか歌謡い的な非戦闘育成でも行けたのか。 [一言] 聖職者もあやしいな……。
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