180話 レガシークエストの恐怖
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「ほう……うちの太郎と共に、クエストをクリアしたというのか少年」
コクコクと顔面蒼白になりながらも、純くんは必死に頷いている。
尋問でもしているかの如く険しい目付きで、姉がきりきりと質問を浴びせていった結果。純くんと俺が雪国ポーンセントまでの道中、イグニトール令嬢の護衛クエストを一緒に乗り越えていたという事実がみんなに伝わる。
そして俺は羞恥心に身もだえしている。
おそらく、ゲーム内でのジュンヤ君……純君に対する言動が、晃夜や夕輝に露見してしまえば、いじられ尽くされるのは確定だし……恥ずかし過ぎる行動ばかり取ってしまった相手が、まさか親友の弟だったとは……。
「だがな、それだけの説明では太郎のこの様子は説明できていない。一体、うちの太郎に何をしたのか、少年」
「ひっ」
まずい。まずいぞ、非常にまずい。
姉の研ぎ澄まされた殺気を浴びてしまえば、俺がしでかしてしまった事を簡単に暴露してしまう。あんな迫力に耐えられるわけがない。
「きっと……少しばかり、恥ずかしい会話をしたの、かもしれません……」
のぉぉぉおお。
それ以上はダメだよ、純くん!
ただ純くんと話がしたいだけとか、避けないで欲しいとか、友達のままでいて欲しいとかの爆弾発言を含め、その他諸々の恥ずかしい行動は秘密にしてください! 二人だけの秘密に!
「それはッッ、二人だけの秘密にしてくれ!」
あ……っ。
咄嗟に口から思ってる事が飛び出てしまった……。
「えっ?」
「うん?」
「は?」
純くん、夕輝、晃夜がポカンとする様を見て、自分でも『やらかした』と自覚する。
「た、た、太郎? どういうことだ? あ、あ、あ、姉にも言えないような事をしたのか? こ、この少年と?」
姉に至っては激怒しているのか、絶望しているのか、複雑怪奇な表情をして俺を見つめてくる。
なんてこったい。
焦って、自分で自分の首を絞めてしまうなんて。
二人だけの秘密なんて言ってしまったら、余計に変な勘ぐりをされてしまう。
それに、ゲーム内で言った言葉がジュンヤ君にとっては、確信的なモノになりうる可能性だってある。
つまりは、俺がジュンヤ君を好きって事は『二人だけの秘密』にして、と。
「えっと、そんな秘密にするような事ではないと思います、タロちゃ……仏くん」
どうしてこのタイミングでそんな事が言えるんだ、純くん!
まさか君は俺の数々の羞恥な言動をここで暴露するつもりか!? 姉の恐怖に屈服して!? なんて薄情な後輩なんだ!
俺が、俺が、君のお兄さんや夕輝にいじり倒されてもいいというのか!?
内心で怨嗟の絶叫をほどばしらせながらも、俺はもう気が気でなかった。
しかし、純くんはそんな俺の内心に気付く事無く、つらつらと語り始める。
「ボクが……採集スキルに、自分に自信を持てなくて……でも仏くんが……タロ先輩がッ!」
おん?
まっすぐに姉の目を見つめる純くんの胆力に驚かされるけど、一体キミは何を言おうとしてるんだ……?
「鉱石を採取するのが好きな、でも自信のないボクを励ましてくれて…………錬金術と鉱物は切っても切れない関係性があるから、その……素晴らしいって! タロ先輩はそう言ってくれたんです!」
確かに、そんなような事は言ったけど、あれ?
「こんなボクでも信じてるって、言ってくれたんです!」
チラリと純君は俺の方を見て、照れてしまったのかすぐに顔を逸らす。俺もなんだかソレに釣られて視線を彼から外してしまう。
これは、もしかして庇ってくれた?
「訊太郎。おまえ、純夜にそんな事を言ったのか!」
「笑えるね~訊太郎らしいって言えば訊太郎らしいけど」
晃夜がクスクス笑い出し、夕輝もにやけている。
そして何故か変な裏声と変な口調で喋り出す晃夜。
「錬金術と鉱物わぁ! 切っても切れない縁があるんだ! だから素晴らしい! 俺と共に世の摂理に変革を施そう、キミならできると確信しているぅ! とか、ガチトーンで中二ちっくな発言してそうだよな」
おい、今のは俺の真似なのか? おい?
ちょっとイラッときたものの、真相を知られていたらこれだけじゃ済まなかっただろうな。そう考えると、俺はフォローを入れてくれたジュンヤに感謝の念しか浮かばなかった。
「なんだ、そんな事か……わたしはてっきり太郎に色目を使ったのかと」
姉は姉で妙に納得した後、何を思ってそんな色目なんて単語を口に出したのかは見当もつかなかったけど、今回に限り俺はちょっとだけビクついてしまう。どちらかと言えば、俺がジュンヤ君に色々な発言をしてしまったのだから。
だけどなぜだか、晃夜に夕輝、純君までもがピクっとしたので、俺は首を傾げてしまった。
◇
あれからクラン・クランの話を純君ふくめ、4人で色々と喋り、盛り上がった。もちろん純くんがいる手前、現実にゲームが浸食している、という点は避けての談笑だったけど。
「太郎、そろそろ家に帰ろう」
宴もたけなわ、と言った様子で俺の後ろでずっと無言待機していた姉が帰りを促す。晃夜たちの部屋にある壁掛け時計を見れば、既に夕方の6時半を回っていた。
「うん、姉。わかったよ」
俺はみんなに別れの挨拶を交わし、部屋から出ようとする。
「ん?」
すると不意に姉が唸った。
どうしたのかと、姉に視線を移せば、手もとのスマホ画面を何やらいじって神妙な顔つきになっている。
「姉? どうした?」
しばし無言のまま姉はスマホを凝視していたが、俺の問い掛けにゆっくりと答え出す。
「……トムとシェリーから……連絡があった」
トムとシェリーさん。確かクラン・クランでは姉と同じ傭兵団の団員で、ナイスミドルなオジ様キャラでプレイしている二人組だ。たしか現実の方では、姉と同じ大学に通うカレッジメイトなはず。うちの姉を、姐御のように慕っては、ちょこっとからかっている節もあったかな。
そんな仲良しの二人と、ゲームが現実に浸食しているという認識を共有できない事に姉は悩んでいたはずだ。
「もしかしてクラン・クランで何かあったの?」
「えぇ……二人から報告があったわ。昨夜に新しい街、国が発見されたそうよ。それにその国からレガシークエストというモノも発足されたらしいわ」
「レガシークエスト?」
「まず、その国の情報なのだけど……名はグラントール王国というらしいわ。そしてレガシークエスト名は『グラントール継承戦争』」
グラントール……何か、ひっかかりを覚える。
「既に高レベル傭兵達はグラントール王国へ我先にと、続々と集結しているそうね。その王国なのだけど、王家の家名がイグニトールだそうよ」
俺達が護衛したNPC、イグニトール令嬢は……グラントール王国の王家だったらしい。
「おいおい、まじかよ」
「何か繋がってそうだね……」
晃夜と夕輝が驚くのも無理はない。
俺達は一足先に、話題の王家の一員と会っていたのだから。
「それで、そのグラントール王国は臣下に反乱を起こされているそうよ」
「それってまさか……」
「そうね。タロ達を襲ってきたハーディ伯爵、ハーディ家が謀反を企てたそうで、正面衝突は避けられないって状況らしいわ」
そりゃそうだろう。
仮にも君主である王族に、臣下であるハーディ家が手を出してしまったのだから、国内といえど粛清対象として武力行使に出るほかないだろうに。
「そもそも、この反乱の発端はな……」
王が崩御した事から始まり、その後継者を誰にするかでもめてたようだ。王位継承権第一位であるイグニトール令嬢……イグニトール姫が王位を継ぐのに反発する勢力がいるというわけだ。君主が女性になる事も問題視されているが、それに加えて王位継承権第二位にあたる王子は、現在1歳になるかどうかという赤子である点も原因の一端となっている。
王位は王子に継がせるべきだと主張するのがハーディ伯爵一派で、政治を行えない王子に代わって摂政に自ら就く事を強く望んでいるのは周知の事実らしい。というのも、王子の母がハーディ家に名を連ねる夫人だからだ。ちなみに姫の母は違う家柄出身である。王には二人の妻がいたというわけで、そのため現在は王家が二分されているような緊迫した状態であり、ハーディ伯爵側につく臣下も少なくないようだ。今回の姫暗殺未遂というハーディ伯爵の反逆が明らかになった以上、武力制裁は免れないとのこと。ちなみにハーディ陣営と対立しているのが、イグニトール姫を中心とした近衛騎士団と王家直轄領の者たち、それに付き従う貴族達だそうだ。
「ハーディ伯爵の討伐を拝命されたのが、イグニトール王家に次いで国内屈指の勢力を誇るグランゼ家、グランゼ公爵だそうよ。領地もハーディ伯爵とは隣接している事もあって、王家に関わり深いグランゼ家に重大な軍務を任せたようね」
元々、グラントール王国とは王国樹立の際にグランゼ家とイグニトール家の超大な両家の協力あって建国されたそうだ。その時にイグニトール家は、王家はイグニトールとなったものの、グランゼ家の協力に感謝の意を込めて、国名に自らの家名より前にグランゼの名を刻んだそうだ。故にグラントール王国。
「そして、そのグランゼ家率いるハーディ伯爵討伐軍に、傭兵たちが参加できるそうね。これがレガシークエストだそうよ」
「大規模なクエストだな。貴族に雇われる傭兵団か」
「っていうか、これって戦争だよね」
「このレガシークエストは個人で受けるもよし、傭兵団としてグランゼ家の指揮下に入るもよし、どちらにせよ報酬や条件に差異はないそうよ。ただ――」
ただ、と前置きをおいた姉の目が鋭く細められる。
「このレガシークエスト……王家であるイグニトール家からも受注できるの。そしてグランゼ家とイグニトール家から受けるのでは、報酬内容が違うのよね」
「おう? 所属する部隊が変わるから報酬も変わるとか、ですかね」
「その線が濃厚かな? 部隊が変われば戦場も変わるだろうし、危険度や難易度も変わる。王家側が激しい戦地に出向くなんて可能性は低いだろうし、イグニトール家から受注した傭兵たちは後方支援が主な任で、報酬が少ないとかですか?」
姉の報告に晃夜と夕輝がそれぞれ納得のいく考察を述べていくが、姉は首を縦に振りはしなかった。
「そもそも、この国は……太郎が護衛クエストをクリアしていなければ、どうなっていたの?」
姉の疑問が胸にストンと落ちる。確かにそうだ。
イグニトール令嬢がハーディ伯爵の軍によって命を奪われていたら、どうなっていた? 旗頭を失った王家直轄領と近衛騎士団勢力は、各臣下を束ねるのに難航したのでないか? なにせ王族という忠誠を誓う相手がいなくなっては、集まるモノも集まれない。対してハーディ伯爵はイグニトール王家の血を引く、正当なる王位継承者である王子の擁立者なのだから、表立って反抗すればそれこそ王家に対する反逆罪になりかねない。
「なるほど。クラン・クランって改めてすげえなって感心したぜ。分岐反響進行型のゲームなんだな」
「訊太郎たちがイグニトール令嬢の護衛クエストをクリアできなかった状態で、グラントール王国が発見されていた場合、令嬢は暗殺された環境でクエストが発生し、その国の状況は変わっていたのかもしれないね」
なるほど……。
傭兵たちの行動次第で、あのゲーム世界は変貌すると。
そして変化するのは、ゲーム内だけにとどまらない事を俺達は知っている。
「姉、それで報酬の差ってどんな感じなの?」
「そうね、それが1番の問題よ」
そう言って、姉は自らのスマホ画面を俺達に見せてくれる。
そこにはトムとシェリーさんのテンション高めなやり取りが、ぽんぽんと飛び交っていた。
トム
『今回の報酬、断然グランゼ家から受注すべきっすね姐さん!』
シェリー
『なんせイグニトール王家からじゃ、換金アイテムが報酬らしいっすからね。それに比べて、グランゼ家からは『スキル祝福の腕章』って言う、スキルポイントが5も増える消費アイテムですぜ!』
トム
『目先の金なんかより、この先ずっと自己強化に響くスキルポイントの取得は重要ですぜい!』
シェリー
『こりゃあグランゼ家一択にちげえねえ。他の奴らも、ほぼほぼグランゼ家から受注してるしよぉ』
トム
『さぁ、姐さん! 俺らも激しい戦地に赴きましょうぜ!』
このやり取りを見て、純君以外の全員が固まった。
「スキル祝福の腕章……?」
その名は不吉すぎた。
「訊太郎……確かお前に現実で変化が出たのも『スキル祝福の油揚げ』だっけか? それをニ尾の空狐からもらって、使用してからだよな……?」
『スキル祝福の油揚げ』。ゲーム内効果は、使用するとスキルポイントを3ポイント得るという優れモノ。だけどその実態は……ゲーム内でつかった翌日から、現実でもゲーム内でのスキルが使用できるという驚愕のアイテムだったのだ。魔導錬金を実現できた俺を、みんなは見ている。そして、それは『スキル祝福の油揚げ』を使ったトワさん……茜ちゃんも自覚症状なしでスキルを現実で発動していた。
おそらく、一緒にあのアイテムを使用したミナにだって変化が起きているだろうし……。
もし仮に……傭兵たち全員がグランゼ家からレガシークエストを受注し、クリア報酬として『スキル祝福の腕章』を手に入れてしまったなら、その翌日から大量にスキルを現実で行使できる人間が現れてしまうという事態を引き起こすかもしれない。
そんな事になったら……今はまだ現実でスキルを持っている人間は少ないというのが、常識らしいのだけど。ゲーム内で行使できる強力無比なスキルを発動できる人間が急に増えでもしたら、きっと何か良くない事が多発しそうだ。
「もし訊太郎たちがイグニトール令嬢を護衛できていなかったら、グランゼ家だけからクエスト受注って可能性もあったわけだよな」
「それって、選択肢なしの全員がスキルポイント報酬って事で……現実でのスキル行使付与ってわけで、日本の治安とか大丈夫なわけ?」
レガシークエストに参加した全員が、現実でスキルを使えるようになるかもしれないと同義。
「バカみたいなまでに高難易度な護衛クエストの裏には、こんな理由があったわけね……」
それはつまり、クリアさせたくなかった。
俺達傭兵に選択肢を残す、という可能性を限りなく低めに設定された難易度だったのだろうか。そうして、現実でのスキル習得と行使の力を多くの傭兵に付与したかった?
一体、誰が?
ゲームの運営陣か?
「おいおい、マジかよ」
「これって、けっこうやばいよね?」
「こんなクエストが出るなんて……ね」
…………どうすれば、いいんだ?
「みなさん、どうしたんですか? こんな大規模なクエスト、わくわくしないんですか!?」
晃夜や夕輝、姉と俺が不安を感じる一方で、純君だけはこのレガシークエストを楽しみにしているようだった。
こうやって、誰もが気付かずに現実が変換されていく。
この変化を認識できるのは、俺達リアルモジュールでキャラクリをした傭兵だけだという事を、まざまざと見せつけられた瞬間だった……。
「……」
みんなが口に出す事はなかったけれど、無邪気にクエストを楽しみに待つ純君を見て。その光景に、きっと恐怖していたに違いない。
読者のみなさま。
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