177話 純粋な夜には月が輝いて
「キミを信じてる」
空よりも澄んだ蒼の瞳で見つめ、月よりも美麗な白銀髪を揺らし、彼女は力強くボクを『信頼してる』と言ってくれる。
巨人の手から見下ろす景色の壮大さも、四方八方を敵に囲まれ緊迫した危機感も、彼女の前では全てが霞んでしまう。
「えと、それで爆発物に繋がる鉱物なんかはない?」
彼女はただただ、この苦境を乗り越えるために尽力しているというのに、ボクは舞いあがって、天にも昇る気分だった。事実、喜びの半面、自分の小さな器量を恥じ、どこか遠くへ飛んで行ってしまいたい。
こんなボクが、採取しか取り柄のないボクが……白銀の天使さんに認められているとか、頼られているとか、彼女が綺麗だとか、とにかく嬉しさいっぱいで。頭では冷静になれと、何度も理性が警鐘を鳴らしている。彼女は今でも攻略の糸口を全力で模索しているのだと、鉱物マニアとして浮かれている場合じゃないと理解はできても心は追いつかなくて。
それでも、どうにか彼女の輝きに心が染まりきらないうちに、頭の隅にあった鉱物に関する知識を言葉にのせて引っ張りだす。
「た、たしか火にまつわる鉱石なら、コレを持ってるよ」
気もそぞろに手渡したのは、『放浪の引火鉄』と『炎魔鉱』の二種。発火に関連しそうで、なおかつボクが手持ちで所持している中では、最高品質の鉱物だ。
「う、ん?」
即座に鉱石の鑑定に入るのが、タロ君らしい。
『放浪の引火鉄』の見た目は何の変哲もない、ちょっぴり灰色が混じった赤めの石って感じ。だけど、その名の通り放浪癖のある鉱物らしいんだ。詳しい事はわからないけれど、実際に武器作成時に素材として使用した傭兵団員が言うには『こいつは熱と放浪しちまうから、なかなか温度を安定させる事ができない』との事。精鉄や精錬、武器防具作成の素材にする際は、安定性にとても欠けているとの事で、みんなに扱い辛い鉱石だと言われているけど、ボク個人としては好きな鉱物のうちの一つだ。
『炎魔鉱』の方はといえば、赤黒くちょっと透明度の高い鉱物だ。揺らめく炎のような性質をもっているらしく武器製作時に急に熱を発し、打っている鉄の温度を急上昇させる特徴と、合わせた他の素材を溶かしてしまう現象を起こしてしまうそうだ。これまた使い道の少ない鉱物だというのが『武打ち人』の見識だ。
「ボクの予想だけど、『放浪する引火鉄』と合う素材は、好き勝手な性質を縛る……統制する硬さが必要なのだと思う。それか、その奔放さを上手く活かす自由を象徴するような素材?」
自分で言っててアレだけど、ひどく感覚的な考察だと思う。けれど今は思いつく限りの事を、天使さんに伝えるしかないんだ。あの天使さんが、せっかく他の誰でもないボクを頼ってくれているのだから。
「『炎魔鉱』も、その熱に耐えうるだけの堅固さが必要だと思う。相反する、例えば水や氷にまつわる素材と混ぜこんでも、お互いの性質が反発し合って相殺しちゃったら元も子もないだろうし。この素材を使った鍛冶職人の傭兵が、柔らかい素材との相性はてんでダメだって言ってたんだ」
「なるほど。どちらにしろ、強固な素材が必要で……インパクトのある何かが必要なわけか……」
まじまじと鉱物達を観察し、目を金色に光らせる天使さん。
なにか鑑定系のアビリティを使ったに違いない。
彼女の探求を極めんとする錬金術師然たる振舞いに引っ張られるように、ボクも鉱物マニアの端くれらしく、更に鉱物に関する知識が他にないか脳内検索をかける。
「そういえば、巨人からとても硬度の高い鉱物が採取できるって、何かの素材説明欄に書いてあったような……」
現在進行形でその巨人の死骸に乗っているのだから、自然と思いついた事を口にしてしまう。
「巨人から? ん、ん……」
天使さんは何か考え込むように、巨人さんの顔を凝視し、アッと何かに気付いたかのようにスッキリ顔になった。
「そうだ、地下都市ヨールンで発見した素材があったじゃないか……」
そう言いながら、彼女が見せて来たのは黒光りするゴツゴツした大きめの鉱物だった。
「ナハクさん! ちょっと顔をこっちに近づけて!」
「御意ニ……」
そうして大きすぎる巨人のゾンビ顔が急接近してきて、彼女は何をするかと思えば――
「えっ、天使さん、そんな汚いっ」
巨人の鼻の穴に手をつっこんだ。
しかも、かなりの勢いでまさぐっている。
女神と言われてもおかしくない彼女の姿からは、想像もできないような所業に驚いてしまうけれど、天使さんはそんなボクに構わず堂々と言い放つ。
「何言ってるのジュンヤ君! これも立派な鉱石、素材なんだぜ!」
ニヤッと笑い、巨人の鼻から採取した黒光りする石を披露してくる天使さんは……タロちゃんは、出会った時のままで。多数の敵に囲まれ、絶体絶命なのに、ただ、ただ、楽しそうに笑っている。
そんな彼女の様子がおかしく感じてしまい、ボクもつい口元が緩んでしまう。
「あははっ、タロちゃんって面白い」
「ジュンヤ君、そこは君呼びをお願いできないかな」
なぜか急に素の顔になって、そんな事を言ってくる彼女に。
タロちゃんの不可思議な反応がおもしろくって、天使という遠くに感じていた彼女の存在が、ようやく身近に思えるようになったんだ。
◇
「そういえば、巨人からとても硬度の高い鉱物が採取できるって、何かの素材説明欄に書いてあったような……」
ジュンヤ君のくれた呟きで、俺はとある素材に関する記憶を呼び覚ます。
「巨人から? ん、ん……」
そうだ、アレは確か初めて地下都市ヨールンをリリィさん達と探索した時に偶然発見した鉱物。
『黒の奇石』
【高貴な巨人の鼻孔で、長年の月日をかけて固まっていった鼻クソ。黒光りする鉱石類に酷似しており、同等以上の硬さを誇る。それゆえ加工を施すのが難しく、当時の奴隷人たちは『さすが高貴な鼻クソ様だ。鼻クソまで折れず曲がらずの、崇高な特質を持っておられる』などと、褒め言葉半分、呆れ半分と鍛冶中の笑い話にしていたようだ】
手に入れてから何の素材になるか全く見当もつかなかったので放置していたけど、もしかしたら尋常じゃない硬さを期待できるかもしれない。
所持数はあれっきりの一個だけで、ジュンヤ君がくれた『放浪する引火鉄』と『炎魔鉱』それぞれと合成を試すには、あと一つ足りない。
ん、待てよ? 高貴な巨人から取れるって事は……すぐ傍にいるじゃないか、高貴な巨人が!
俺はナハクさんにお願いし、『黒の奇石』を急いで採取する。
そうして、ジュンヤ君から譲り受けた二つの素材と『合成』を試みる。
「『魔導錬金』……『叡智の集結』タイプキューブ……」
まずはその場で『合成』を可能とするアビリティを発動。
「その身に眠る力を呼び覚ませ……『双造神の祝福』」
さらに俺は事前にスキルポイントを『魔導錬金』にLv5になるまで消費しておいたのだが、Lv5で習得したアビリティも追加で発動する。
このアビリティ『双造神の祝福』の効果を端的に言うと、同時に2個の『合成』を行えるというだけのモノだ。追加で、『双造神の祝福』を使用して作ったアイテムの効果を1.1倍に上昇する祝福を与えるという内容もあるのだが、一番の強みは迅速に複数のアイテムを戦闘中に作らなければいけない時に重宝できる点だろう。
「う……難しい」
しかし、両の手に浮かぶ立方体は当然各面がバラバラの色彩で、二色だけとはいえ、それらの色柄を同時に揃えていくのはかなり難しい作業だった。
これって逆に試行錯誤するのに時間を取られ、『合成』を実現するまでに時間がかからないか?
「ぐ……失敗だ」
『黒の奇石』と『放浪する引火石』の合成は失敗してしまった。というか、キューブの色は六面全て揃える事ができたのにアイテムが作成出来なかった。つまりは素材の相性自体がまずかったようだ。やはり錬金キット『合成釜』でじっくり素材同士の相性や経過観察を見ながら合成できないのは、『魔導錬金』の弱みと言える。
「こっちは……あとちょっとで……で、できた!」
:『黒の奇石』+『炎魔鉱』:
:→『炎魔封ずる巨石』が作成されました:
:レシピに記録されました:
:『双造神の祝福』により、作成されたアイテム効果が1.1倍に増幅されました:
ログを流し読みし、完成した新アイテムの説明欄を凝視する。
『炎魔封ずる巨石』
【猛る魔の炎が内包された巨大な石】
【ステータス・力・400以上でないと、設置点からの移動ができない】
【衝撃を与えると大爆発する】
【赤属性 被爆距離により200~1300ダメージを発生させる】
威力が凄まじい……。
これ、すぐ近くで爆発に巻き込まれたら、現時点のどんな傭兵でも即キルできる代物じゃないだろうか?
爆発した瞬間、被爆した距離によってダメージが異なるようだけど……範囲内の一番外側でも200ダメージって、かなり強力じゃないか?
んん、でも衝撃を与えないとダメなわけか。
そもそも、このアイテムってインベントリから使用した瞬間にその場に設置されるタイプのモノっぽいけど……自分が爆発に呑まれちゃマズイし、起動するのにどのみち遠距離攻撃が必要なわけか。PvPで実用するには、弓使いのリリィさんや、魔法攻撃を得意とするミナとの入念な打ち合わせが必要だな。
でも、今はそれらの心配も必要ない。
概ね俺が欲しかったアイテムを作成できたのだ。
あとはひたすら俺が狙う現象を引き起こすために、行動あるのみ。
「ジュンヤくん、『炎魔鉱』ってあと何個ある?」
「えっと、あと2個しかないかな」
そう言ってジュンヤ君は何も言わずに『炎魔鉱』を俺に渡してくれる。
「ありがとう」
見返りも報酬もなしに、俺に譲ってくれる彼の姿勢にきっちりとお礼を述べ、続いて巨人のナハクさんへと呼びかける。
「ナハクさん! この石を、すぐそこの山に思いっきり投げて!」
「御意ニ」
そうして俺は完成したばかりの『炎魔封ずる巨石』を、ナハクさんの掌へとインベントリから取りだす。
その大きさはまさに石を超えて岩。横幅2メートル、高さ1メートル以上の赤黒い巨石をナハクさんはもう片方の手で持ち、俺が指定した付近へと投げつけた。
「一度目で起きてくれ……」
ナハクさんが投げつけた巨石は、見事な弧を描き、雪の積もった山腹に命中。
同時に激しい爆発音が辺り一帯を震撼させ、『炎魔封ずる巨石』の落下地点には激しい爆炎の連鎖が蔓延した。
「す、すごい……」
隣でその威力を目の当たりにするジュンヤ君同様に、俺もちょっとだけあの威力にはビビるものがあった。
:エクストラアビリティ『巨人の小隕石』を習得しました:
とんでもなく物騒なログが流れたところで、自分のしでかした事に驚くのもほどほどにしておかないと。俺には山を観察するという義務がある。
「一個目じゃ、起こらないか。じゃあ、次の『炎魔封ずる巨石』を作らないと……」
足元で執拗に攻撃を加えてくる、大量の検問兵を相手に奮戦するナハクさんには悪いけど、もう一度鼻孔をくすぐらせてもらおう。
『黒の奇石』を手に入れるべく、顔を近づけて欲しいと巨人さんにお願いしようとしたその時。
ゆっくりとした重低音が、確かに鳴り始めた。
「やった……狙い通りだ」
最初は小さく、しかしだんだんと大きくなっていく。
しばらくすれば、それは怒涛の勢いで近付いてくる、圧倒的な規模での旋律。
それに伴い、この場に居合わす誰もが不安に駆られるような揺れが生じてくる。
震度は音が増す度に大きくなっていき、ついには気付いただろう。
巨人の掌の上から、哀れなNPC検問兵たちを見下ろす。どよめきとざわめき、辺りを見回して何事かと浮足立つ彼らは……そうして音の、揺れの、正体に気付く。
それが何なのか把握した頃には、全てが決していた。
「雪崩だ……」
ポツリとジュンヤ君は呟いた。絶大な質量を伴って迫って来る純白の大波を、唖然と見つめながら。
俺も雪に呑まれゆく敵兵士たちを眺めていたい気持ちはあったけど、その前にやるべきことがある。
「ナハクさん! マモルくんとイグニトール令嬢を乗せて!」
そう、雪崩は身長15メートル超えのナハクさんに掴まっていればやり過ごせる規模だと思う、多分。なので、近場の地上で交戦している二人も保護しなければ。
こうして雪原を爆破し、音と勢いで雪山からの雪崩を引き起こす事に成功した俺達は、ナハクさんの掌の上で、白が全てを押し流していく壮大な景色を眺めていく。
それから邪魔者は一片の残りもなく消え、辺りが静寂に包まれた頃、俺は隣に佇むジュンヤ君の方をゆっくりと見る。彼も察したのか、こちらへと少し畏まった様子で顔を向けて来た。
「ジュンヤ君。ようやく、落ち着いて話ができるね」
やっと、彼が何を不快に思い、どうして俺を避け始めたのかが、聞ける。
できたら今までと同じ態度で、採取や素材の事で語り合える友達のままでいて欲しいと伝えるんだ。
「え、う、うん」
だけれど、彼が見せた不思議な反応に引っ掛かりを感じ、気持ちを伝えるのは保留せざるを得なくなった。
またもや頬を朱に染めるジュンヤ君の顔を直視して、既視感を覚える。
「えっと、タロちゃん……ボクに話って?」
ううん?
ボーっと頬を赤らめ、おずおずと俺を見つめるジュンヤ君の表情は……そう、これは確か……俺が茜ちゃんに告白しようとした手前、彼女が見せた様子と酷似している。
あれ、まてまてまて。
待ってください。
茜ちゃんに告白するとき、俺はどうしたっけ? 彼女に話があると呼び寄せ、そして告白を敢行しようとした。そう、愛の告白だ。
えっと、先程までの俺がしてきた行動を思い返すと…………急に顔が熱くなり始めてしまう。
話がしたい、なんて今の俺の姿で言ったりしたら……。
そう姿形は女子である俺が、ジュンヤ君にとって異性である俺が、あんな蛮行の数々を取ったら、それはそれはとても明後日の方角に勘違いしてしまう可能性がある、というか既に彼の表情を見るに、そういう思考に至っているのでは!?
うわああああああ。
まずい、まずいよ。俺はジュンヤ君にそんな恋愛感情なんて抱いてないけれど、友達でいて欲しくて……でもここで、何も伝えないのは、ここまで頑張って来た意味がないと言いますか、男らしくないと言いますか、本末転倒で……。
形にならない言葉と気持ちが脳内でぐるぐるとかき混ぜられ、どうしていいのかわからなくなってしまう。それでも、無理矢理に何か言わないと!
にょわぁぁぁぁああああ。
もうこれ以上の沈黙はマズイ、まずいよ!
ちょっと痛い空気が降りているなか、俺は本音を必死に絞り出す。
「鉱石はその、錬金術にとって、切っても切れない縁というか、関係性があってですね……」
だから、何だと言うんだ! 俺は何を言いたいんだ!?
これでは俺とジュンヤ君には、切っても切れない縁があるんだと言ってるようなものじゃないか! 照れに負け、遠回しに伝えようとしたのに、かえって酷い台詞になってしまってる……でもだからって、友達でいて欲しいなんて真っ正直に言ったら、思春期こじらせた子供が告白してるみたいじゃないか!
「だから、その、俺を避けないで欲しい……」
あぁ、恥ずかしいです。はい。
「う、うん。タロちゃん、ごめんね」
俺の顔はきっと、ジュンヤ君よりも真っ赤であることを確信する。
彼の笑顔はとても柔らかく、眩しかった。
◇
静かな夜だなぁ。
騒がしい胸の内を収めるために、あえて辺りの様子に感想を漏らす。
「はぁ……」
上で兄さんが寝ているであろう、二段ベッドの天井へと溜息をこぼす。
これで何度めになるか、そんなのとっくにわからなくなってしまった。
「はぁ……」
寝返りを打っても、気持ちのざわめきは落ち着いてくれない。
ふと、カーテンの隙間からこぼれる白光が目に入り、ボクは二段ベッドから静かに出て、窓の外を眺める。
夜空には星々が瞬いている。
そう、ボクらがあの星のような存在だったとしたら、彼女はそれらを照らし輝く、あの月のようで。
見ないようにするなんて、とうてい無理な話だ。
なんてバカな事を考えてしまう程に、彼女の事が頭から離れない。
ゲームからログアウトしても、ご飯を食べていても、宿題をしていても……どうしても、脳裏に焼き付いた彼女の表情、声、仕草がフラッシュバックしてしまう。
ボクは……タロちゃんが、好きなの?
三つ、四つぐらい年下の女の子に、こんな気持ちを抱くなんて初めてだ。
そりゃボクだって恋をした事ぐらいはあるよ。小学校三年生のときに、クラスで一番美人な女の子にひっそりと片思いをしてた時期だってあったんだ。
でも、なんだろう。
今回はあの時とは全然ちがう。
中学に入ってからは女子と話し辛くなって、一定の距離を置くようになって。ちょっと異性が何を考えているのかわからなくて、苦手になりつつあったけど。
なんだかタロちゃんは違う気がするんだ。
とても話し易くて、素材の事だって熱く語り合えて……それが楽しくて、嬉しくて……。だけど、タロちゃんと目線が合うと、その宝石みたいな蒼い瞳に吸い込まれそうになって…………銀に煌めく長髪が揺れる度に、目が自然とタロちゃんを追いかけてしまって……ドキドキして……。
「はぁ……」
あぁ、ボクはどうしたっていうんだ。
たかがゲームで会った女の子なのに。
そうだ、きっとあの見た目が綺麗すぎるから、落ち着かないだけなんだ。
そもそも、あんな月の女神様みたいな女子が現実にいるわけないじゃないか。
キャラクリで作られたデザインに、どぎまぎするなんてバカみたいだ。
あれ? でも髪色の項目に銀色なんて選択はなかったような……。
って、ボクは何を期待してるんだよ。あんな見た目の子が、リアルモジュールなんてありえる訳ない。
それにそんな事を考えて、頭を悩ましたって、結局何も変わらないし、彼女とどうにかなるわけでもないんだ。
「ん、純夜。まだ起きてたのか?」
名前を呼ばれ振り返ると、二段ベッドの上で寝ていたはずの兄さんが上半身だけ起こしてこちらを見ていた。
起しちゃったのかな? と、悪い気になりつつ、ボクは晃夜兄さんに笑いかける。
「ごめん、晃夜兄さん。ちょっと考え事してて……」
「お? なんだなんだ、まさか恋の悩みとかっていうんじゃないだろうな?」
「そ、そんな事あるわけないじゃないか! クラン・クランの事でちょっと思う事があっただけだから……もう、寝るね!」
「お? おう。あんまゲームに夢中になりすぎるなよ。って俺がいえた義理じゃないか」
もぞもぞとベッドの下段にもぐり、ボクは目をつむる。
「あ、純夜。そういや、明日俺の友達が遊びに来るから」
「え? あぁ、うん。ボクは別に構わないけど」
兄さんがよく絡む友達と言えば……仏くんと朝比奈くんかな?
「遊ぶというよりは、会議みたいなものだけどな」
「ふぅん? 朝比奈くんとか?」
「まぁそんなところだ。あぁ、それと……」
「なに?」
「どんな奴が来ても、なるべく驚かないでやってくれ」
晃夜兄さんにしては、妙に歯切れの悪い言い方だ。
んん、もしかしてクラスの女子とか呼ぶのかな?
兄さんって自覚してるのかはわからないけれど、けっこうモテるからなぁ。
「晃夜兄さんの友達に、ボクが失礼な態度を取るわけないじゃないか」
「あぁ、いや別にそういう意味で言った訳じゃないんだがな」
「兄さん、大丈夫だって」
「お、おう…………」
「じゃあ、おやすみ兄さん」
「おう……」
タロちゃんに対するこの感情との向き合い方を、早く決めないと……なんとなく、そんな気がした夜だった。
ブクマ、評価よろしくお願いします。
『黒の奇石』は80話『給仕服という名のメイド服』に出てきます。
久しぶり過ぎですよね、、、申し訳ありません、、




