174話 魔法少女の適性
白い雪原を赤と茶色で穢す爆発。
地面から噴火するそれらは、俺達の行く手を阻み、確実なダメージを発生させる。
……地雷原とは厄介だ。
俺はマモル君が、地面から飛び出た紅煙に呑みこまれたのを悔しく思いながらも、突如現れた少女を注視する。
「爆発のキーワード? みたいなのを呟いてるあたり、自動で爆破が起きるアビリティではない、か」
彼女が『起爆』と言うと、必ず爆発が起こる。
つまりは、あの少女さえどうにかすれば、この地雷が埋められた雪原もタダの雪原になるって事だ。
「あッ」
って、分析に気を取られすぎて、ちょっと爆炎に被弾してしまう。
赤いエフェクトが触れた左足が少し熱い。
「ぐっ、ここは一旦、静止する! 訳にもいかないんだけども」
「っていうか、馬車が突っ走ってるって感じ! それに検問兵にも追いつかれるって感じ」
状況は一言で表すなら最悪。
でも、打てる手立てがないわけじゃない。
「マモル君たち! あの子は俺がどうにかするから! ほんの少しだけ持ちこたえて欲しい!」
「そんな! タ、タロちゃっ! 天使さん、危ないよ!」
俺の決断に一早く反応してくれたのはジュンヤ君で、なんとなく避けられていたと思ったのに、真っ先に俺の心配をしてくれた。
正直に言えば勝算なんてこれっぽっちもない。敵の強さは未知数だし、俺は素早さ以外取り柄のない貧弱ステータスだ。よっぽどあの少女が近接戦に不慣れな相手でなければ、勝利をもぎ取ってくる事なんてできないだろう。けれど、敵の、あの少女に一撃を加えられるのは……魔法攻撃を可能とするマホマホ君がキルされたこのPT内では、俺だけしかいない。
『狙い撃ち花火(小)』のストックが尽きてなければ、もうちょっと確実な戦法が取れたんだけどなぁ。
「ジュンヤの言う通りだけんども、今は少しでもこの状況を突破するために、お願いする!」
「ごめんねって感じ、タロちゃん任せた! 俺っち達はなんとか踏ん張ってみせる!」
「おうおう、任せたぜ! タロちゃんよう!」
「そ、そんな。それじゃあ、タロちゃ、天使さんが危険すぎるよ……」
不安そうに俺を見つめるジュンヤ君。
天使と呼ぶジュンヤ君に、あぁ距離ができちゃったなと思わなくもない。だけど、俺を避け始めてる彼がこうして心配してくれるだけでも嬉しいと感じてしまう。
「大丈夫、ジュンヤくん!」
俺はサクッと装備をミソラさんから譲ってもらった水色のサマードレス、『空踊る円舞曲』へと着替える。
爆炎の火柱が上がる中で、急に服を着替えだした俺にPTメンバーは驚いてしまったのか、一瞬みんな固まっていたけど気にしてる場合じゃない。
もう目の前まで検問兵たちは迫っているし、護衛対象の馬車とは距離がどんどん開いてしまっている。
「フゥ、全力であそこまで俺を飛ばして!」
「あいあいー♪」
『空踊る円舞曲』の、装備者にかかる重力を6分の1にするという特性と、『風呼び姫』になったフゥの風力が合わされば、きっとあれぐらいの距離――――届くはずだ。
思いっきり跳躍をかまし、背中でフゥの風を感じながら空へと飛翔する。
「あはっ、きもちい」
地面から足が離れる感覚はちょこっと怖いけれど、毎度ながら風に乗って宙を舞う感覚は爽快の一言に尽きる。戦闘中なのに高揚せざるを得ない内心を抑え、みるみる近づいてくる敵の少女へと視線を集中させる。
「あの子って多分、魔法アビリティ持ち。なら、ここであまり出したくはなかったけど――――って、あれ? もう一人、敵がいる!?」
潜伏系のスキルで姿を隠していたのだろうか、忽然と少女の横に出現した傭兵は何かを叫びながら防護系? のアビリティを俺の進行方向、着地点付近に展開した。その目的は、やっぱり起爆剤となってる彼女を守るためなんだろうな。
なかなか防御性能が高そうで、半透明のシールドは四重に発生した。けれど、この程度なら問題ない。
滑空してる間にアイテムストレージから、『月精を宿す種火入れ』を取り出し、中でニッコリと微笑む『月に焦がれる偽魂』に語りかける。
「ホムンクルス……月精たち、お願い」
ランタンよりいずるは、球体状態の『月に焦がれる偽魂』が二匹。俺は彼らに、周囲に軽い衝撃波と【属性 白】による極僅かなダメージを発生させる、アビリティ『ふるえる魔力』を、魔法防護を放った傭兵に向けて放つよう思考を送っておく。
ついでに宙に展開されたシールドの上に乗り、ワンツーステップの手順で風の手助けのもと、テンポよく降り立つ。正直、動かない盾なんて、俺とフゥの連携の前ではあってないような幻影だ。無論、空中で自由に軌道修正できる月精にとってもだ。
「なっ、空中で姿勢制御がいともたやすく行える真正ロリだと!?」
驚く傭兵に対して、『月に焦がれる偽魂』はすいすいと移動していき、『ふるえる魔力』によって衝撃波をみまっていく。
俺は俺で、着地と同時に攻撃をヒットさせる事は叶わなかったけれど、右手に持った燈幻刀を振るうべく、敵の魔法少女へとダッシュする。
「可愛い子ちゃんめ! わたしのハートをお見舞いしちゃうよ!」
う、うん?
向かい合った彼女は変な台詞と同時に、ステッキの先からピンクの光線を発生させたではないか。
うーん? 服装もそうだけど、こてこての台詞から見ても魔法少女がコンセプトな傭兵なのだろうか?
それにしても予想外に……彼女の放った光線の速度が遅かったので簡単に避けられた。身を屈めながら突進し、容易く距離を縮める事に成功。それから一閃、次に二閃、相手の反撃を警戒して、ころりと雪の上を転がり、半転して様子を見るけど……あれ、攻撃の衝撃でよろめいてる。隙だらけだったので、さらに飛び込みながら切りつける。
「きみ、魔法少女の才能ありっ」
彼女は何故か俺の方を指差しながら、緑のポリゴンエフェクトに包まれていく。
うーん? キルエフェクトが爆散しないとか、これも何かのアビリティだろうか?
まるで少女が儚く消える様な演出が成されている。
「適性のあるキミも魔法少女になって、私の団に入ってみないかねぇ」
しかも、まさかの死に際に魔法少女にならないかと勧誘してきた。
「……却下します、すみません」
そうして彼女はあっけなくキルできてしまった。
彼女はもしかして、とても近接戦闘が苦手な傭兵というか、ステータス振りがかなり極端な傭兵だった?
「うぉぉぉおおお! 我が神聖なる合法ロリ様がっ!?」
もう片方の傭兵さんと言えば、月精を相手にひたすら防護アビリティを発動し続けているだけで、俺に攻撃をしかけようともしない。
ふむ?
見つめる事、数秒。
試しに足元に積もっている雪を丸めて、ぎゅっぎゅっと握る。
固めた雪玉を無言で投げてみると……その攻撃に反応して見事に半透明なシールドを発生させ、衝突とともに雪玉は砕け散った。しかし、やはり防ぐだけで反撃してくる気配が全くない。
もしかして、防御魔法特化の傭兵?
攻撃してこないのなら都合がいい、今は検問兵にもジュンヤ君たちが追われてるわけだし、あの傭兵を相手に時間を取られるのもマズイだろう。
「月精たち……適当に遊び終わったら、帰っておいで」
二つの光が強く明滅したあたり、俺の意志は上手く月精たちに伝わったようだ。
俺は敵傭兵の存在に最低限の注意を払い、後方で追手と戦い始めてるジュンヤ君たちに、もう進んでも大丈夫だと伝えに飛翔することにした。
◇
「おいおい、マジで『輝く大道化師』の仕掛けを無力化するとは、凄いんだけども」
「タロちゃん様様って感じ」
みんなが言う程、大した事をしてない感が否めない……。
ただ近接戦ができない魔法少女さんを切り刻んだだけに過ぎないからだ。
それに、さっきよりもジュンヤ君が俺を避けているような気がしてならない。魔法少女を倒したと報告したとき、彼の眼差しは驚愕の色に染まり、顔には暗い陰りが走ったのを俺は見逃さなかった。
「ワハハハッ! 俺達には天使がついてるってもんだ!」
「…………」
ダイスケ君のハイテンションとは対照的に、ジュンヤ君は無言だ。
彼の態度から胸の内にモヤモヤとするモノはあったけど、今はジュンヤ君の内心を聞き出している暇がない。
俺やマモル君一行は何とか追手を振り切り、護衛対象でもあるイグニトール令嬢が乗る馬車に追いつく事はできた。先程の地雷原を無理に通ったせいか、令嬢を乗せる馬車はボロボロで今にも壊れてしまいそうで、だからかもしれないけど、馬車の速度は確実に遅くなっている……そのおかげで護衛対象と合流が叶ったとはいえ、追手がいる状況下でスピードが落ちた点はまずい。
ちなみに、防御特化の傭兵さんは無視に近い形でスルーさせてもらった。彼とすれ違いざまに月精たちもタイミング良く、ランタンに戻ってきてもらったため、特に何も問題なく通過できた。
彼は悔しそうにこちらを見つめるばかりで、俺達の後を追う事はなかった。
「にしても、キツイなこのクエスト……」
「ほんと、難易度に見合う報酬もないって感じだし」
「前人未到のクエストをクリアするって事に意義があるってもんだぜ!」
「だな! やりがいあるんだけども!」
「タロちゃんもいるし、余裕って感じ?」
「……でもさ、またあれを突破するの?」
マモル君たちがやる気をみなぎらす空気に、水を差すような反応をジュンヤ君が見せる。それもそのはずで、彼が戦々恐々とした面持ちで見据えた前方には。
検問兵が三十人以上、待ち構えていたのだ。
あの数は、けっこう厳しいと思う。けれど……。
「勇ある傭兵たちよ! わたしに続け!」
俺達の護衛対象は……敵に突っ込んでいくのみ。
「やれるのか?」
「やるしかないって感じ」
マモル君とケイ君が冷や汗を浮かべる。
「おうおう、男らしく切り込むしかないな!」
「男らしく、か……」
ダイスケ君の豪快さに、何か得心の言ったように頷いたジュンヤ君は、チラッと俺を見た。
ジュンヤ君の俺に対する態度が、おかしくなってしまったのはわかっている。前よりもよそよそしい。それでも、なぜか彼のそんな仕草だけで、嬉しくなってしまったのは……俺が男だと認められた様な、そんな気がしたから。
「じゃあ、いこっか」
敵に切り込むべく、俺は腰の刀を抜く。
フゥの力を使い過ぎたため、『森のおクスリ』でMP補充をしておくことも忘れない。
あの数を相手に突破できるのか、不安は尽きない。けれど、ここは押して通るしか他がない。
ブクマ、評価よろしくお願いします。




