173話 魔法少女(仮)の驚愕
「止まる訳にはいかないって感じ。追手が来てるし」
「あんなの構わないんだけども! そのまま突っ走れ!」
「りょうかい!」
あらぁー、私の登場を無視して銀髪女子と大盾が筆頭になって、こっちに向かってひた走って来るねぇ。
ふぅん、綺麗な子。
やっぱり、あのあどけない銀髪の美少女に視線を注いでしまう。
遠目から見ても……うーん、近付くにつれてあの子の輝きの勢いは増してくる。
でも『輝く大道化師』より輝いてもらっちゃ困るなぁ。
この雪原が清く白く輝いているのなら、あの子が白銀に輝いているのなら、私の魔法で真っ赤に染めて、汚してあげないとねぇ。
そのついでに団長である私が、あの子たちの動きを止めるってわけだね。
うーん、久しぶりに楽しいPvPになりそう。
「止まらない悪い子たちにー! おしおきの『ぴかぴかの星屑』♪」
アビリティを発動すると手に握るステッキから、星々のシャワーが白い雪原の上空へと噴出されていく。明滅する何色もの煌びやかなその光達は、相手の頭上にも放出されて、それはそれは綺麗なお星様って演出だねぇ。
「うわっ何だあれ!」
「き、綺麗!」
「みんな気を付けろって感じ!」
当然、全員があの光に目を奪われるよねぇ。
でもね、あれってなーんにも意味のない、ただの演出アビリティなのよね。
さーって、何人キルできるかなぁ。
私は私のストップ警告を無視して進み続ける、馬車、騎馬、傭兵、彼らの位置を、足元をつぶさに観察しておく。
そして、起動。
「『起爆』♪」
私の起動音と共に、私が仕掛けた地雷が爆発する。ちょうど敵の大盾が踏み抜いた地点で、地面から爆炎が噴出したねぇ。
「ぐぉぉ」
「マモルくん!?」
炎に巻き上げられ、もんどりうつ大盾の姿にご満悦。
上空の星達に気を取られて、地面を注視するなんてことできなかったよね。
「上ばかり見てて、足元すくわれないかなぁ? 『起爆』、『起爆』……『起爆』」
立て続けに、爆破を地面から発生させていこうねぇ。
うんうん、速度が緩んでるねぇ。でも、そこそこしか傭兵に当たらないねぇ、馬車にばかりヒットしちゃうか。
うぅーん、地雷を仕掛けた箇所を踏んでくれないねぇ、あの銀髪ちゃん。
……馬車にはすごいダメージが入ってるし、この調子なら馬車が壊れるのも時間の問題で。そうなると暗殺対象の令嬢は移動の足を失うわけで、放っておいても9陣と10陣に控えてるNPC検問兵が捕まえてくれるでしょう。
「言う事聞かない悪い子たちには、マジックショー『星と花火の狂宴』をおみまいだよー♪」
私が所持しているスキルは二つだけ。
一つ目はスキル『魔砲少女』。ステッキから砲弾のように演出エフェクトを放出していくだけのアビリティばかりで、完全に見た目だけのスキル。綺麗なエモートアクションに始まり、自分を可愛らしく見せる効果音や光などを発生させたり、中には魔法少女的なビーム光線なんかもあるけど、被弾しても何の効果もないお遊びスキルなんだよねぇ。
その虚構に混じえて、実像があるのが『爆弾魔』というスキル。
こっちは見ての通り、爆発に特化したトラップアビリティの多いスキル。
事前に馬車が通るルートに、大量の『潜伏する噴火』を雪の下に仕掛けておいたんだよねぇ、要するに少年少女達が走ってるのは地雷原ってところかねぇ?
『潜伏する噴火』を一つ設置するのにそんなにMPは消費しないけれど、数が数だからねぇ。相当なMPを使うんだなぁ。
そのおかげでレベルポイントはMP特化、防御は紙装甲で、HPも貧弱、他ステータスなんてショーのためならいくらだって犠牲にできるんだよ。それに守ってくれる団員がいれば問題ないし。
だから、この地雷原を抜け切れるなんて思わない事だねぇ。
手間もかかれば時間もかかる作業アビリティだけど、敵が通る場所がわかっていれば仕掛け放題っていう、条件が整えば最強のショーになるんだよね。
「もったいないと思うよねー? 星と花火ってさ、どっちも綺麗なのに一緒に見えないもんねぇ」
爆炎が吹き荒れる地で踊らされる、慌てふためく敵傭兵たちに優しく語りかけようか。
「でも、私が起こすマジックショーなら、こうやって吹上げ花火と、ほらぁキラキラ光るお星さまの共演が可能なんだよー♪ 『起爆』!」
難点と言えば、私が仕掛けた一個一個をターゲッティングして『起爆』というワードを出さないと爆発しない点かねぇ。あとは派手な爆破エフェクトな割に威力がちょっと低めってとこ、それにちょっとヒットさせ辛い所か。それは仕掛けた『潜伏する噴火』を三つ同時に爆破できるアビリティ、『鬼爆』で解消できるけどねぇ。
「おっとっとー♪ やるねぇキミ達、『起爆』、『起爆』、えーい、めんどうだぁ! 『鬼爆』!」
ふぅーん、さすがに銀髪っ子も爆発にちょっと巻き込まれたね。
うんうん、敵傭兵たちの足が止まった止まった。そして止まる事を知らないNPCが管理する馬車は、単独で突き進んで来るねぇ。
あれは放っておいてもいいけど、ほどよい感じにダメージを蓄積させておかないと。
「『起爆』、『起爆』、ボマーッ!」
さてさて、相手はどうするのか。後方から迫る追手、前は進む事のできない地雷原。勝手に進んでいく護衛対象。
どうにもできないだろうねぇ。
起爆装置でもある私を遠距離攻撃でキルしない限り、あの爆破地獄は続くんだよねぇ。
もちろん魔法防御、物理防御の両属性に秀でた団員が、潜伏スキルの『透明化』で傍に待機しているんだよねぇ。ほんとこの団員って根暗な所あるけど、私との相性ばっちりなんだよねぇ。
さてさて、この透明化アビリティは半径7メートル以内に入られると視認できるんだけどねぇ、果たしてここまで辿り着けるのかなぁ。
「あれあれー? いい子に足を止めてるねぇ♪」
攻撃にも防御にも特化した、一方的に相手をなじれるショー。それが『星と花火の狂宴』で、完全無敵のマジックショー。
手の出しようがないよねぇ。
私達のいる場所まで雪原を渡り切る頃には、全滅は免れない……地雷原を迂回するにも、そんな簡単に迂回出来る程の狭い範囲に埋め込んでるわけもなく、横切りつつ、『潜伏する噴火』を探り当てながら進む時間なんて追手のNPC検問兵と剣を交え始めたあたり、あるわけないしねぇ。
直進ルートを駆け抜けないと。
超えられない壁、越えられない距離、可哀そうにねぇ。
そう諦観の念を持って、銀髪っ子に勝利の笑みを送る。
あれ?
あの子、どうして装備を変えてるの?
唐突に彼女は空色のドレスに着替え、その眩しいぐらいに細く白い、プニっと柔らかそうな肩や二の腕を惜しげもなく白原の上にさらけ出してるねぇ……。
なにあれ。
「あれー……あれ、はい?」
ちょっと戸惑っている私を置いてけぼりに……彼女は一気に空を飛んだ?
えっと、えっ、地雷原をピューンと飛び越えて――
「へ、ちょっと」
一瞬にして、二十メートル以上はある地帯をひとっ飛びなんて……ねぇ……。
まずい、まずいねぇ、ぐんぐんこっちに近付いてきてるよねぇ、一回の跳躍であれは反則だよねぇ。
もちろん銀髪ッ子が右手で握る刀の切っ先は、私に定まっていて、魔法少女みたいな跳躍力を披露して、その勢いのまま空中からの刺突狙いって、ねぇ。
それに左手に持ってるアレは――
なに、ランタン?
クラン・クランの常識を壊した彼女の動きに、寒気と身の危険を感じた私だけど。同時に隣からバカバカしい雄叫びが上がった。
「我々が崇める合法ロリを侵す者など、何人たりとも通さん! 触れ得ぬロリなど所詮は真のロリにあらず!」
こっ恥ずかしい台詞を地でのたまっちゃう輩は、傍で透明化を解いたうちの団員だねぇ。
……合法ロリって言うのはやめて欲しいよねぇ。
「『愚者折れぬ四つの障壁』!」
あら、弾丸のように飛来してくる銀髪っ子に備えて根暗団員が発動させたのは、一番物理防御力の高い魔法障壁?
私と銀髪っ子を阻むシールドが四枚、空中に重なって出現する様を眺めながら、一応ステッキを構えておく。
団員の防御魔法に対して銀髪っ子は……。
空中を飛翔しながら――
「ホムンクルス月精たち、お願いっ」
左手に持ったランタンから、彼女と同じ銀光を纏う輝玉を二つ出した。
あぁ、まぶしいねぇ。
これが本当の幼さって事なのかねぇ。
私よりよっぽど魔法らしい魔法的な行動を取ってくる彼女に、驚愕だねぇ。
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