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172話 暗殺サイド

お待たせしました!

感想、ありがとうございます。



「あいつら、しつこいんだけんども」


 息を切らしながらも、後方から飛来してくる弓矢を大盾でいなすマモル君。

 何陣目かになるNPC検問兵の壁を突破し終えた俺達は、満身創痍に近い状態だった。


「タロ、ちゃん! さっきの青い火の粉みたいの、ばらまけたりすると助かるって感じ!」


 ケイ君に請われ、俺は『狐火(きつねび)燈宙花走(とうちゅうかそう)』を設置していく。自律的に動いて指定のポイントで火の粉をまき散らし続けるこの植物アイテムは、追手のNPC検問兵達に持続的なダメージを与え、速度を鈍らせるのにかなり適したアイテムだと言える。けれど、それも限りがあって残り二つと心許ない状況に陥っている。集団戦に役に立った『溶ける水(ウォタラード)』も『狙い撃ち花火(小)』も同様に、ストック数がわずかだ。



「ワハハハ! 『輝く大道化師シルク・ドゥ・リュミエール』の奴ら、俺らにビビって逃げたんだなぁ!」


 ダイスケ君は上機嫌で突き進んでいるけど、彼の言う通りなはずがない。それはPTメンバーの誰もが認識しているようで、彼の妄言を肯定する文言は誰からも返ってこなかった。

 確かに暗殺クエストを受けたであろう傭兵団(クラン)は、ハット紳士がキルされて以来、攻撃を仕掛けてくる事はなかった。だけど必ず、必ず、どこかのポイントでまた襲撃を繰り出してくるはずだ。


 (たび)(かさ)なるNPC検問兵との戦いでこちらが、じわりじわりと消耗していくのを待っているのは歴然で、その目に見えないプレッシャーがPTメンバーを精神的に追い詰めていってるのも、また確かなのだ。



 何度も何度も追手の様子を見るために振り返り、前方で待ち構えているであろう次の検問兵に備えて戦意をたぎらすのは、けっこう疲れる。

 そんな折、追手の様子をチラッと見た瞬間、敵の放った一本の矢が俺の前を走るジュンヤ君の背中に直撃するのではないか、と見事な弧を描いて飛翔してきた。

 


 あっ、大丈夫かな……あっ、ん? ま、まずい!


「危ない! ジュンヤ君!」



 当たる、と判断した俺は咄嗟(とっさ)にジュンヤ君に覆いかぶさるように抱きつき、タックルにも似た勢いでダイブをかます。

 その甲斐あって、矢は雪面にストンと突き刺さり、辛くも難を逃れた。


 倒れたジュンヤ君の上に乗っかる形になってしまったとはいえ、ノ―ダメージで彼を救えた事は嬉しい。お互い雪まみれになってしまったけど、俺はジュンヤ君にニコッと笑いかける。そして早く起き上がらないと、って意味で手を差し出す。



「ジュンヤくん、大丈夫だった?」


「えっと、うん……ありがと、ございます……天使さん」


 ジュンヤ君は俺が出した右手を取る事はなく、視線を逸らしながら1人で立ち上がった。そして、後方の追手から逃げるために再び走り始める。


 まるで俺から距離を取るような、逃げるような彼の仕草に……胸の奥がチクリと痛んだ。






 大盾と短槍を扱うタンク、両手剣を背負うアタッカー、小盾と片手剣を構える前後のフォロワー、杖を持つ高火力キャスター、そしてイグニトール令嬢の護衛クエストを受ける条件、レベル制限による弊害で配置されたであろう戦力外が2人。


 合計6人の傭兵(プレイヤー)、今回もちょろいカモが来たね。


 特殊クエスト『貴人の護送』と相反する『後継者の暗殺』クエストで連日儲けている私達、『輝く大道化師シルク・ドゥ・リュミエール』の一同は、敵を観察した団員の報告を聞いて、そう確信したはずだったのにねぇ。


「団長、こちらの被害はハットマン以外ゼロです。相手側の最大火力と思えるキャスターもキルできましたし、ショーは順調と言えます」



 被害はハットマン以外ゼロ?

 そんなのは当たり前でしょーに。


 私は団員の戦況報告を耳にして、内心で嘆息をつく。

 あちらの護衛さん方は、クエスト受注条件でLv10以上の傭兵(プレイヤー)は4人しか受けれず、PT最大人数も6人という制限下でしょうに。かくゆう暗殺側のこちらはレベル制限はなく、平均Lv12の傭兵(プレイヤー)8人で強襲しているっていうのに。しかもNPC検問兵という、加勢のおまけ付きなんだよねぇ。


「ハットマンがキルされたのは想定外ね」


 戦力差がある相手に、貴重な転移スキル持ちを失った事実を指摘してみるけど、私の言葉を受けた団員は肩をすくめるだけね。



「しかし、やつは目立ちがりの道化師(ピエロ)演者(えんじゃ)ですので。転移アビリティを発動してしまったのなら、用済みですし。『輝く大道化師シルク・ドゥ・リュミエール』の屋台骨は常にショーの全体を見渡し支える位置にある我々、つまりは裏方の我らだという事を敵は気付いていないでしょう」


 

 そりゃあね、ハットマンは癖のある演者だったけども、私はあれであいつの演出がちょっと気に入ってたりもするんだよねぇ。

 他の団員と連携を取るには性格に難もあったから、ハットマンのスキルを()かしたショーに私達が合わせて敵を仕留めるって方針をしばらくは取っていたわけだけど。案外、初手でハットマンの転移スキルを披露すると、大概の相手は転移を警戒して身動きがうまく取れなくなって、簡単に崩れていってたのも事実だし?


「うぅーん……」


 対象と自身の位置を交換できる、『逆転(ぎゃくてん)移星(いせい)』というハットマンのアビリティは12時間に1度だけしか使用できない切り札。

 それを活かしたショーによる先制攻撃は、思いのほかイグニトール令嬢の護衛狩りに役立っていたのにねぇ。



「目立ちたがりの演者かぁ……」

「もちろん、団長が演者をする時は目立ちたがりなどと、団員一同一瞬たりとも思ってなどいません! 団長が披露する演者には、我々を魅了する力があるのです! そう、まるでプックリ熟れて今にも咲きだしそうな花の蕾のような、甘く、可憐で、とても黒い! 裏方の我々としてもやる気が出るのです!」


 私が団で唯一の女子だからって事で、お世辞を言われてるのかもしれないねぇ。けれど、ここでやる気を失う訳にもいかないし、適当な笑顔で返事をしておく。



「ありがとね。じゃあ精一杯、次は私が演者として頑張ろうかねぇ」

僭越(せんえつ)ながら、合法ロ……こほん、団長を必ずお守りしますとも!」


 戦場で驚きをもたらすのが私達の矜持(きょうじ)なわけで。道化師を演じるも、敗北して敵の笑い者になるような道化師(ピエロ)になる私達ではない。最後に笑うのは常にショーの仕掛け人であるピエロなのだから。



 その点、ハットマンがキルされたのは、少しだけ納得がいかない。ありていに言えば、団員がやられて悔しいねぇ。なのに私の隣にいる団員はご満悦そうで、今は身内で争っている場合じゃないのに、と溜息をつきそうになる。


「ハットマンが油断し過ぎって事かねぇー」

「はい、団長。その線が濃厚かと。その分、自分が鉄壁の守りで、合法ロ……こほん、団長を守ってみせます。必ずや久方ぶりの団長の演者姿を! 追手として駆けている団員の目に見せるべく、守り通してみせますとも!」

 

 うん、まあこの人は守りに関して言えばかなり強いから、頼りになるって言えばすごく頼りになるけどねぇ。



「って、もうこの地点まで来てるね。あれが、ハットマンをキルした傭兵(プレイヤー)たちよね」


 NPC検問兵が配置されている地点は全部で10あって、このクエストでは、イグニトール令嬢を乗せた馬車はご丁寧にも、検問兵が配置された場所全てを通過してくれるんだよねぇ。


「そうですね。この辺で我らも本腰を入れて足止め(・・・)をしましょうか」


 今、私達がいるのは8つ目の通過地点。第6地点から団員達がNPC検問兵の影に紛れ、奇襲をかけて潰すのが定石なんだけどね。それらの襲撃を護衛側に突破された場合、暗殺側の傭兵(プレイヤー)たちは逃げるイグニトール嬢を追撃する検問兵と一緒に追いすがるわけなんだけどねぇ。どのみち、ここからは大量のNPC検問兵を敵さんは相手取らなくちゃいけなくなるから、その間でも十分に追手は護衛側に追いつける……けれど、万が一って事もあるから私達二人が待機って作戦なんだよねぇ。


 そもそもこの暗殺クエストってこっちが邪魔するだけで、あとは自然に護衛側が大量のNPC検問兵に押しつぶされていくパターンが大半だから、団員が言った通り、足止めするだけでいいんだよねぇ。


でもでも、この辺まで食い込まれたのは久しぶりで、ちょっとだけ私もわくわくしていたりする。クエスト報酬が美味しいからやっているけど、護衛狩りが退屈なルーチンワークになりつつあった、今日び、ちょっとした刺激が欲しかったんだぁ。



「いつも通り、馬車の移動スピードを活かした突進、逃走と言うべきですかね。それに護衛側の傭兵(プレイヤー)に付けられたバフも移動のブーストですか」

「そうね」


いつもの事ながら、ちょっと面倒なNPCだと毒づく。

 第6陣の検問兵を突破すると令嬢の馬車の両脇で騎乗している二人のNPCが、移動スピードを上昇するバフを護衛側の傭兵(プレイヤー)たちにかけるらしい。それにより、追撃部隊のNPC検問兵から逃走を計るって寸法なのでしょうね。

 戦闘中はスピードバフが失効するとはいえ、追う側としては面倒な事をしてくれるなって感じね。


「ふぅん……バランスの取れたPT構成ね」


 第8陣のNPC検問兵とぶつかりあった、護衛側の戦う様子をちょっと遠目で観察。


 相手の戦力はそこそこ経験豊富そうな傭兵(プレイヤー)が4人、戦力にならなそうなのが1人ってとこだねぇ……って、あれ?



「キャスターはキルしたんじゃないの?」

「そのはずですが……」



 おかしいな。

 20人以上の検問兵を相手に、目が覚めるような銀髪を翻す美少女が、次々と花火のような爆炎魔法? を放ち、黄色い液体をかけては範囲攻撃でひるませていくのだ。なにアレ、強酸魔法? とか聞いた事ないねぇ……その美しい少女が作った隙を突く形で、護衛側の傭兵(プレイヤー)達の猛攻とイグニトール令嬢の炎槍が刺さり、見事に突破口をひらいて行く。


「ねぇ、あれって、噂の妖精使い?」

「自分にはわかりかねますが……もしかすると……」



 銀髪の少女の傍らに、6枚の羽根で羽ばたく……小人にしてはちょっと大きめのサイズの妖精っぽい存在が宙を舞ってるし。あの子は一体、何なのだろうねぇ。

 刀っぽいものも振り回してると思えば、青い火の粉を振りまきながら移動する……植物? みたいな物を配置していくし。既に馬車に置いて行かれる形で、後続を追いかける検問兵達に燃え移っているのを見るあたり、あの燐光に触れるとダメージ受けたりするんだろうねぇ。



「あの銀髪の女の子……幼いわね」

「団長ほどではありません」


 しれっと私のキャラクリの容姿を指摘する団員に、形式上のツッコミは入れておきましょうね。


「いや。私、中身はれっきとした21歳なんだけどねぇ」


「されど、あれは真に幼くはありません」


「それ、どういう意味よ」


「いえ、何でもありません」


「…………」



 どっちにしろ、破竹の勢いを誇る相手さんも私達の足止めには、速度を緩めるしか……先に進むという選択肢を放棄せざるを得なくなるでしょうねぇ。

 一定の動きしか取れないNPCに追従して自滅するなんて、できないでしょうし。


「検問兵たちが突破されましたね。未だに追撃をかけてはいますが」

「護衛陣は、ふぅん。馬車の後続に2人、先方に3人って別れたのねぇ。あ、銀髪ちゃんは先方なんだ」



 さてと、私も久しぶりに演者になりましょーかねぇ。

 じゃあ行きましょうか。



「そこのひたすら進む少年少女たちー! ちょーっとストップだよ~!」


 甘い声で、凛と響くように、全ての観客が私に注目するように。

 フリフリでキラキラの衣装をまとって、雪原に立つ。



「どうして、止まらないといけないかってー?」


 突然の闖入者に、NPC兵士に追われる護衛陣はちょっと困惑気味だねぇ。

 そりゃぁそうなるよねぇ。戦場に似つかわしくない、身長145cmのちっちゃな女子が、マジカルステッキなんか振り回して、華麗に綺麗に参上したんだものねぇ。


「止まる理由? そ、れ、わぁ、ねぇー!」


 特に箇所を定めていないポイントに、ステッキの先端を適当にちょんちょんちょんっと、それらしい振舞いで振っていく。

 からの、決めポーズねぇ。



「マジかるマジりん、マジ子ちゃんのマジックショーの時間だからだよー♪」


 うん、自分でも痛いってのはわかってるんだけどねぇ。

 ゲーム内でちょっとぐらい、非現実的な私を演じてもいいよねぇ。

 アイドルもののアニメとかに憧れた事のある女子ならわかると思うけど、こういうのって割と楽しいんだよねぇ。





 八度目になる検問兵の壁を突破した矢先。


 ピンクの髪をサラサラと流し、コッテコテのキラキラ衣装に身を包んだ傭兵(プレイヤー)、まるで女児アニメに出てきそうなその人の登場を目の当たりにした俺達は……後ろから追いすがってくる検問兵の猛攻を、一瞬忘れてしまう程にポカンとしてしまった。



「ようよう……変なのが出てきたんだけども……」

「あれは、やばいって感じだねー……魔法少女コス?」


 マモル君とケイ君の素直な感想に、俺も自然と頷いてしまう。


「ガハハハ! 大丈夫だ! あっちが魔法少女なら、こっちには天使のタロちゃんがいるんだぜ!」


「…………」


 ダイスケ君、俺を天使呼ばわりするのはやめて欲しい。

 そしてジュンヤ君は、第六陣を突破したあたりからほとんど無言だ。つまりは俺が顔を見せた瞬間からで……やっぱりジュンヤ君の様子はおかしい……。多分、きっと俺のせいだとは思う。けれど、彼が何をどう思ってるのかはわからない。


 本当はゆっくり話をしたい、だけど今はそんな暇がなくて……。

 それなら、急いでこの窮地を乗り切ってクエストクリアをすればいいだけなんだ。


「むむ……」


 俺は目の前に現れた魔法少女っぽい傭兵(プレイヤー)を、一刻も早く倒そうと思った。




読者のみなさまのおかげで、更新し続けられています。

ありがとうね。

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