170話 ショータイム
若干の動揺が走る俺達に、敵は待ってはくれなかった。
「何を驚いているのです? 驚くのはショーをご覧になってからにしてください」
ステッキの先端を華麗にこちらへと向け、ショーの始まりを告げる紳士服のハット傭兵。その顔は笑っていながらも、内心では一切の感情を抱いてないような、冷たい雰囲気を纏っている。
「光のショータイム♪ レッツスタート♪」
彼の音頭と同時に火のつぶてが、俺達の左右から突如として舞い上がった。山なりに飛来する炎たちは空中を覆い尽くさんばかりの数で、まるで赤い弾幕が迫って来ているようだった。
「第一のマジックは『雪原に降る炎の雨』です♪」
クルクルとステッキを回し、ハットを弄ぶ紳士服は誇らしげにマジック名をこちらに告げてきた。
右と左から広がる弾幕マジックを目の当たりにし、こちら側の反応は……。
「やばいんだけども!」
「やっぱり、他の傭兵も潜んでたって感じ」
「うおおおお! 挟み撃ちか!」
「あ、あ、たくさん、火がくる」
完璧に浮き足立ってしまっているし、俺は俺でジュンヤ君の様子が気になって仕方ない。
「タロくんがタロちゃんで、白銀の天使さんで、タロくん……」
「ジュンヤ君! 素顔を見せるのが遅くなってゴメン!」
「おおい! ジュンヤとタロ、ちゃんを囲んで守るんだけども! マホと二人はこっちに隠れろ!」
「今は戦いに集中って感じで!」
マモル君が硬直してしまったジュンヤ君を引っ張り、俺はケイ君の呼びかけに応じて、ダイスケ君三人に守られるように中央で身を小さくした。
ぐう……ジュンヤ君へのフォローはひとまず後回しにするしかないか……。
「MP消費が激しいんだけども……仕方ない、守護の塔・円陣!」
厳しい顔でマモル君はそう言い、アビリティを発動した。すると、彼の大長盾が横にススッとずれていく。いや、分身しているかのように、次々と大盾が生成されていき、それらが俺達を囲むようにして守りの陣を築いてくれた。
これにより大半の火つぶては防げたものの、手数がやたら多く、みんなへの被弾数は少なくない。
「おぉ! 光り輝く炎の雨が、光り輝く雪原へと降り注ぐ♪ なんっと神秘的かつ不思議な光景だろうか! さぁ、みなさまも存分に楽しんでください!」
連続して盾に衝突し、盾の合間をすり抜け、上から降って来る火球の嵐。紳士ハットは、派手な身ぶりでショーの説明を声高に叫んでいるが、きっと声音程の感情を内心に留めていないのだろう。
その証拠に、防戦一方の俺達を観察する奴の顔には、不気味な微笑みが浮かんでいる。
「マホ、回復魔法だけんども、頼めるか?」
「マモル君、ここは俺に任せて!」
マホマホ君が詠唱態勢に入ろうとするのを俺は遮り、インベントリから『結晶ポーション』を取り出す。キュポンっとフタを外せば、瓶に詰められたビーズのように輝く結晶たちが外へと踊り出た。それらの煌めきがみんなにかかるようにふりかけていくと、全員がHPを全快させていく。
「はい?」
「なに、それ……? って感じ」
「おおおおおう! PT全員が全回復、これで無敵だああ!」
「ここここんなの、じょ、上級の回復魔法、ア、アビリティでもなきゃ、できっこないのに」
「そもそも全員を回復なんてアビリティは、まだ発見されて、ないよね……」
「とにかくだけんども、タロ……ちゃん、助かった」
『結晶ポーション』の効能に驚きつつも、マモル君は大長盾を展開維持しながら、すぐに周囲の状況分析に取りかかってくれる。
「攻撃の間隔が長いんだけども……まだ火を乱発か」
「NPC検問兵の突撃がこっちに届くまで繋げる気って感じ?」
「それもありえるんだけども……」
「MP極振りの傭兵が少なくとも二人はいるって事か!」
「こちらのHP消耗目的なら、一撃一撃の火力が低過ぎる……」
相手の狙いは何だ? ダメージソースの低い攻撃を乱射し続けるメリット……それはおそらく、一手目でこちらの動揺を誘う、もしくは……陽動?
「次の一撃が本命かも?」
「そうだな、タロちゃん。次の攻撃で、確実にこちらの戦力を削ってくるんだろうけども」
この中で一番守られたら厄介になりそうな傭兵、それはマホマホ君だろう。唯一、高火力を叩き出せる魔法使いなのだから。
「マホマホを重点的に守るんだけども、まずいな……」
後ろを振り返ったマモル君は苦い顔をする。
その理由はすぐに把握できた。護衛対象であるレディ・イグニトールご本人が、何故か馬車の上に立って魔法を使い、炎槍をNPC検問兵に撃ちこんでいたのだ。
というか、あの女性は結構強いのではなかろうか?
「馬車に攻撃が当たると、レディ・イグニトール嬢自身が戦いに参加するというフェーズになってしまうんだけども」
「この火つぶて乱射が、馬車に当たったって感じ?」
「早めにここを切り抜けないと、護衛対象があぶねえな!」
しかし、イグニトール嬢のおかげで検問兵達の進撃を鈍らせているのも間違いない。ならば検問兵たちとぶつかり合う前に、これからどう動くか、手早く決めておいた方がいい。
「あの傭兵たちだけんども、多分この護衛クエストを稼ぎ頭にしてる傭兵団『輝く大道化師』って奴らだ」
「じゃあ、ここでは襲い慣れてるって感じ?」
「その分、奴らへの対処手段も研究されてるんだけども……奴らはたびたびその趣向を変更してくるらしい……注意を怠ったつもりはなかったんだけども」
俺をチラッと見直すマモルくん。
彼の僅かに見せた所作で、こちらが出鼻を挫かれたのは、俺のせいかもしれないと感じてしまった。ならば、俺はここで人一倍頑張らないといけない。
「炎の乱射が終わったら、ケイは左に潜んでる魔法使いを狙ってくれ。右辺は護衛のNPCに任せるんだけども、俺とダイスケは中央からの突破、壁役を受け持ち、タロちゃんの回復を繋ぎにしてマホが魔法を撃ってくれ」
単純な作戦立案から数秒後、炎の雨が止んだ。それに伴い、俺達は一糸の乱れなく前方へと突き進む姿勢を取る。
しかし、踏み出そうとした一歩は先頭にいるマモル君を筆頭に止まってしまった。
「第二のマジックは『串刺しおやつの不思議箱』♪」
距離にして7メートル前後。俺達の進行方向には棺桶と同程度の大きさの箱が、ハット傭兵の横にいつの間にか設置されていた。そんな謎の箱に、ハット紳士自ら入ってフタを閉じてしまったのだ。
この戦いの最中、敵を前にして何をしているのか理解不能であり、それがまさに俺達の足を一瞬と言えど止めるに至った演出でもあった。
「おやおや、みなさん。何をそんなに、不思議そうにあの箱を見ているのです?」
ゾクリ、と形容しがたい悪寒が背筋を走る。その理由は明らかで、ハット紳士の声が真後ろから聞こえたからだ。慌てて背後を振り返ると、そこにはさっきまで確かにマホマホ君がいたはずなのに、敵であるハット紳士が立っていたのだ。
「どうやってって感じ」
「くらえええ!」
俺達の懐に突如として飛び込んできたハット紳士に、ケイ君とダイスケ君が問答無用で剣を振るう。僅かの動揺もなく対応できるのはさすがだったけど、大振りなダイスケ君の両手剣は身を翻して避けられ、ケイ君の剣撃はステッキで受け止められた。しかし、奴は勢いを殺せなかったのか、どうにか太ももを切り裂くに至ったようだ。
「あれ、浅いって感じ?」
首を捻って攻撃の成果がいまいちだと判断したケイ君が、すかさず追撃を放とうとするのに対し、ハット紳士はステッキをある方向に指し示しながら、何とも冷静に嗤った。
「みなさん、私などに構っている暇などおありでしょうか? どうか、あの箱をご覧ください」
彼が注目を集めようとしたのは、先程ハット紳士が中に入ったはずである大きな箱だ。
チラッと俺はそちらに目を向けて、その変化を垣間見る。
箱には多数の剣がどこからともなく飛来していき、次々と突き刺さっていったのだ。
数瞬後、ボロボロになった箱の扉がキィーッと開き……そこからマホマホ君がよろりと倒れ出て来たのだ。雪の上に突っ伏したと同時に、彼は緑色のポリゴンエフェクトを爆散させ、塵となって消え失せた。
「ッッ!」
戦闘の序盤で俺達は最大火力要員をキルされたのだ。
「投擲スキル持ちの傭兵が三人はいるぞ!」
「もれなく、擬態か隠蔽か隠密スキル持ちもって感じ?」
「うおおお! せめて、このハット野郎だけでも仕留める!」
ダイスケ君がハット紳士に向けて体当たりを敢行するも、奴は忽然と姿を消した。
「おやおや、鈍く光る刃に貫かれ、見るも無残な姿に成り果てた小豚はっ!」
すこぶる強い語気で声を発した奴は、マホマホ君が倒れ消えた場所にいつの間にか立っていた。
「――我々にとっての幸福、見事に至福のおやつになってくれましたね。どうやら、みなさんもこのマジックショーを楽しんでいただけているご様子ですね?」
両手を広げ、ステッキをクルンクルン回す紳士ハットは挑発的な演説をかましてはくるが、やはり表情に感情は乗っていない。あくまで、冷淡な印象を崩さないのは、油断なく追い詰めてくる強者の証だ。
「厄介だけんども……あれはレアスキル『転移』のアビリティだろうな……」
そんな奴に対し、マモル君は大盾を全面に構え苦渋の表情で顔を歪めていた。
なるほど。転移スキルがどんなモノのなのか詳しく知らなくとも、一連の攻撃を受けた側としては何が起きたのか理解できた。
まずは威力の低い火球の連射で、こちらを防戦一方に追い込むか、動揺させる。次に、奴がマホマホ君と寸分違わぬ位置で姿を現したところから、特定の傭兵に対し、自分と相手の位置を交換できるアビリティを持っているのだろう。
そこで箱の中にマホマホ君を入れて、自分は敵陣の懐へ一瞬で入り込む。そのタイミングで雪化粧でも纏って姿をくらましている、ハット紳士の仲間が剣を箱に向けて投げまくったのか。投擲する側としては、タイミングさえ示し合わせていれば、目標もあらかじめわかりきっている箱だけなので、容易に集中砲火を命中させる事が可能って寸法か。
箱の中に突如としてワープさせられたマホマホ君からしたら、訳も分からず対処する間もなく即キルされたわけだ。そうしてハット紳士は、マホマホ君が消失した場所へと転移交換し、位置を戻すってタネか。ダイスケ君の攻撃を避け、ケイ君の剣撃を受けてもそこまでダメージを負ってなかったのは……大方、位置交換をする前に、防御アップや素早さアップのバフを仲間にかけてもらっていたんだろう。その状態なら、少しの間は俺達に囲まれても持ちこたえられる自信があったのだろうな。
「さぁ、次のマジックもみなさまに楽しんでもらいましょうか?」
マジックというのはタネがわからないから、驚嘆に値する神秘の世界であり、畏怖すべき演出なのだ。
しかし奴らのトリックは……至極単純なモノと成り下がっている。それは護衛クエストを受け、ここで襲われ負けてきた幾人もの傭兵達が蓄積していった情報のおかげに他ならない。
ならば存外、奴らはマジックの根幹を理解してないように思える。
そして神秘性ならば、錬金術士の端くれとして負けるわけにもいかない。
この後に来るであろう猛攻を防ぐためにも、相手の鼻頭を折っておく必要がある。この勢いでNPC検問兵と敵傭兵組による、数の力でゴリ押しされればこちらが潰されるのは目に見えているのだから。
そう判断した俺はターゲットをハット紳士に定め、『見習い探求者のローブ』の長い裾で隠れた『燈幻刀・鏡花』の柄を握りしめた。
称号を『老練たる魔女』から『先陣を切る反逆者』へと切り替え、初撃のクリティカルヒット率を上昇させておく事も忘れない。
そして――
「零戦」
瞬時にしてハット紳士の目の前へと移動した俺は、頭部を狙って切り裂いた。
あまりにも突然の事すぎたのか、奴は驚愕の眼差しでこちらを見ることしかできなかった。
次の瞬間には、奴よりも数メートル離れた場所で姿を現す。
「なっ、なにが今、起こったのです……?」
『零戦』は威力が低いので大したダメージは与えられていない。しかし、顔を右手で抑え、よろめくハット紳士は俺とその周囲をチラチラと見ながら、何が起きたのか理解できてないようだった。相手のペースを崩すという、とりあえずの目標は達成出来たと言える。
「おい、こっちのマジックのタネは理解できたか?」
なんとなく、手になじむ刀を下へと振り、挑発じみた質問をハット紳士に投げかける。
すると奴は俺をまじまじと観察し、次に薄い金色の光を帯びた刀身で視線を止めた。その控えめな輝きから目が離せないのかジッと、俺の手にある刀を見つめてくる。
「転移、スキル? いや、あんなアビリティは……ないはずです。それに、その武器は……刀ですか?」
ハット紳士はこの戦闘で初めて、表情通りの感情を表に出したように思えた。
それは驚きの顔。
「その様子じゃ、楽しんでくれたようだな」
ハット紳士は俺の問い掛けに、無言で返す。
そんな奴に、俺は告げる。
「次はこっちのショータイムだ」
迫りくる多数の検問兵を前に、俺は『風乙女』から『風呼び姫』へと昇華したフゥへと語りかけた。
「風よ、麗しの姫よ、友の呼びかけに応じ、我が手に宿れ!」
レベルアップと、温存しておいたスキルポイント消費の成果を――
見せる時がきた。
◇
傭兵 タロLv7→Lv8のステータス変化
HP90→101
MP80→90 (装備による補正+100)
力 1→10
魔力 14
防御 2
魔防 8
素早さ 210→240
知力 305→345
称号『老練たる魔女』【スキルポイント取得3倍】
『先陣を切る反逆者』【初撃のクリティカル50%・Lvが自分より高い者へのダメージ総数20%増加】
スキル
『錬金術』Lv33→Lv33
『魔導錬金』Lv1→Lv5
『名声』Lv2
『風妖精の友訊』Lv16→Lv30
『刀術』Lv1→Lv15
残りスキルポイント 33
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