168話 ハーディ伯爵の検問兵
ハーディ伯爵とやらの配下との交戦は、圧倒的だった。
「巨塔の突撃!」
迫りくる歩兵達を、大盾一つで次々と吹き飛ばしていくマモル君。
接敵の寸前でマモル君へと青い光をケイ君が飛ばしていたので、何か防御系統を強化するエンチャントを施したのだろうか。一騎当千と見まがう程の勢いで、マモル君は先頭切って相手の出鼻をくじいていた。これにより、敵の扇状に広がっていた包囲網は即座に崩れた。
だが、攻防一体の突撃は数人の敵兵をなぎ倒した所で、その進撃もさすがに衰え始める。敵の後続が数人で踏ん張り、マモル君を食い止めたのだ。
また一度は転倒した兵士達も起き上がり、マモル君に襲いかかろうとする。しかし、それを許さないのが、両手剣をブン回して敵兵たちの頭をカチ割るダイスケ君の存在だ。
「おらおら! 手応えないな!」
まずはマモル君の突進で敵の態勢を崩し、その隙を突いて決定打と言える火力を持つダイスケ君で致命的なダメージを与えていく。さらに二人の奮闘を交互にフォローして立ち回るのが、小盾と剣を閃かせるケイ君の存在だ。彼はダメージ数を稼ぐより、相手の膝を軽く斬りつけたり、小盾で攻撃を受け流すなど敵の攻勢を狂わす事に主軸を置いた戦い方だった。
「ちょっと、ダイスケ。前に出過ぎって感じ! マホとジュンヤ達も守るの忘れるなって感じ!」
「まだまだ行けるんだけども! マホ! タイミングは任せたぞ!」
マモル君からマホマホ君へと与えられた指示内容から、この後は敵への大打撃を狙う魔法アビリティが放たれるのだろう。
このPTは一対多数を相手に、敵の後続を凌いでいるマモル君の存在が鍵だとすぐに悟った。というか、マモル君の強さが半端ない。鈍重な大盾を最低限の動きで扱い、敵の大技を上手に防ぎながら、短槍の柄や穂先を器用に駆使して華麗に反撃をかましてる。その槍捌きは流れるように兵士たちを翻弄し、身を捻りながら殴打と突きを連続で繰り出す姿はかっこよかった。
というか傭兵3人が9人の歩兵相手に目覚ましい善戦を繰り広げているのに、護衛NPCのエレンとアレンは何をしているかと思えば……エレンは鞘から剣を抜いてはいるものの、馬車から離れていない。おそらく万が一に備えて、レディ・イグニトール嬢から離れるのは危険と判断しているのだろう。アレンの方はマモル君たちと同じく突撃したものの、相手の指揮官らしき兵士と騎乗でチャンバラを始めていた。ぐるぐると馬を回しながら、何度も何度も剣を打ちつけ合っているあたり、大して強い護衛NPCじゃないんだなぁと判断できる。
「というか、俺達も何かした方がいいんじゃ?」
「だ、だ、だいじょうぶ、い、今から、決着つ、つけるから」
俺の参戦の申し出をマホマホ君がやんわりと断り、彼は『ぶふぅーっ』と大きく息を吸い込んだ。
「其は、暗き天空の彼方より飛来せし竜の子」
先端に輝く宝珠をあしらった両手杖を上へと掲げ、マホマホくんが淀みない詠唱を戦場に駆け巡らす。
さっきまでの吃りがちな喋り方はどこへいったのか、マホマホくんは非常に自信に満ちた表情で敵を見据えていた。彼の詠唱は終わり、魔法を発動するための問題を解く時間がおよそ5秒と流れた。
「響け! 天網雷虎」
叫んだと同時にマホマホ君は何もない空間を、杖で思いっきり叩き始めた。その仕草に連動するかのように、ドドンッと雷鳴の如き重低音が鳴り響き、なんと杖の先端から光の虎が敵兵めがけて飛びかかった。
獲物と定められた最初の兵士は、襲いかかる光の虎へ盾を構え、どうにかその攻撃を防ごうと試みたようだ。しかし、衝突と共に虎は弾け飛び、辺りに激しく散乱した。それはまるで電撃が網を張るように周囲へと広がり、数人の敵兵をも巻き込んだのだ。拡散する電気の発光に呑まれる歩兵達は一様に身体を激しく痙攣させて、次々と倒れていく。
さらに、マホマホ君は何度も杖を振り続け、ドドンッドンッと雷虎を連続で召喚していった。
「お、おいらは、魔法でなら! 現実のおいらより、断然に強いのです!」
マホマホ君がもたらした雷虎の蹂躙劇は、みるみる間に敵歩兵の数を減らしていき、ついには全滅へと追いやった。ついでに護衛NPCのアレンと交戦していた敵指揮官も、マモル君の槍で突かれて落馬し、そこをダイスケ君が一刀のもとに斬り伏せていた。
戦闘が始まって、たった40秒。
こちらが圧倒的勝利を収めたのだった。
俺とジュンヤ君は突っ立てただけなのだが……。
「ようよう、これぐらいじゃ余裕だけんども。まだまだ敵さんは出現する予定だから、油断するなよ」
マモル君は勝利に沸く事も無く、まるで常勝無敗の将軍さながらの貫録を纏いながら、PTメンバーに注意喚起を促していた。
「次の襲撃ポイントまで、あと二分前後って感じ?」
「おらおらぁ! まだまだ暴れ足りないぜ! ワハハハッ!」
ケイ君が冷静に、ダイスケ君は元気良く、リーダーのマモル君に付き従っていく。
静かに頷いたのは、派手な魔法攻撃を行ったマホマホ君だけだ。少し心配になり、MP残量は大丈夫なの? と確認すれば、次の襲撃地点まで時間があるから、それまでには全快する程度にしか消費してませんよ、と頼もしい返答が返って来た。
マモル君たち……百騎夜行の夕輝たちより確実に強い。というか、ジュンヤ君ってこんな集団と一緒に行動しようなんて誘いがくるとか、一体何者。
「あぁー、俺達はリア友なんだけども」
というわけで、どんな風にしてジュンヤ君はマモル君達と知り合いになったのか尋ねてみると、マモル君から単純明快な答えが返ってきた。
「リア友だけのよしみで、ジュンヤを誘ってるわけじゃないぜ! ワハハッ!」
「ジュンヤはねー戦闘はからっきしって感じ? でも、生産とか採取とかにすっごい力を入れてるって感じで、俺っち達も金策とかで助かってるわけ」
「そ、それに、じゅ、ジュンヤ君は、け、けっこう、すすごい傭兵団に所属してます」
なんだと。
同じぼっち勢かと思いきや、ジュンヤ君は傭兵団に所属しているだって!? しかも、マホマホ君の言いようだとけっこうな強豪とか有名所の傭兵団なのでは!?
「みんなは、あぁ言ってるけどボクなんて大したことないからね?」
「いや、蛍石とかもすごいし! 俺なんか、まだまだだ……頑張らないと……」
なにせ、ジュンヤ君からもらった蛍石で大儲けできたのだから。
「蛍石……」
なぜかジュンヤ君が蛍石というワードで落ち込んだので、俺はちょっと気になった。
「ジュンヤ君? 蛍石がどうかしたの?」
「い、いや。何でもないんだ! そう、ボク達は白銀の天使さんに負けないように頑張らないとなんだ! そのためにも、このクエストでレベルアップして、ボクだって集めます! ね、タロ君も一緒に頑張ろうね!」
「う、うん?」
どこかで聞いたようなワードがジュンヤ君の口から飛び出した気がしたけど、早口でまくしたてた彼は俺に同意を求めるように右手を掲げてきた。
おうおう、その右手君はアレだよな。
俺はその男だけがわかる、分かち合いの仕草に素早く応じた。
「もちろん、俺だって頑張るぞ!」
『おー!』と、採取組の二人で気合いを入れ直しハイタッチを交わしていたら、何故かマモル君たちにクスクスと笑われた。
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