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165話 すれ違いリミックス

ジュンヤ君視点です


 今日も今日とて、ソロで採取活動をしていると……妙な傭兵(プレイヤー)を発見したので、ボクはすぐに背の高い茂みに隠れた。



「ふはははははっ! 見える、視えるぞ!」


 台詞は妖しい響きをはらんでいるのに、何故か声自体は深く()んでいる、そんな不可思議な傭兵(プレイヤー)とボクが遭遇したのは、『七色蛍の樹刑地』での事だった。


「……説明欄には記されていたな……」


 背恰好はけっこう小さく、15歳以下の傭兵(プレイヤー)なんだろうなぁ。

 あの年頃の子供が一人でこんな場所にいるのは、ちょっと驚き。こっちからはフードを目深に被ってるから顔は良く見えないし、ボクの位置的に後ろ姿をこっそりと観察してる感じになってしまってるから、どんな子なのかいまいちわからない。



「うぅん、視界が制限……」


 (はた)から見てちょっと挙動不審なその傭兵(プレイヤー)は、ぶつぶつと独り言を口にしながらアンティークなカメラを取り出した。



「ほほう?」


 それからカメラで何かを撮って、七色蛍を叩き落とした傭兵(プレイヤー)は……すごく嬉しそうに、大仰(おおぎょう)な動きで夜空へと何かの祈りを捧げ始めた。

 うわぁ……ちょっと頭の変な子供なのかもしれないなぁ……なんて、内心でヒキつつ、その場をそーっと離れようとしたボク。だけども、聞き捨てならない台詞を聞いてしまった。



「くはははっ! この調子でどんどん採取(・・)祭りだ!」



 採取だって!?

 

 あの傭兵(プレイヤー)は採取をして、あんなに興奮して、それにあのカメラが何か採取と関係してるの!?


 さっきまで、あの傭兵(プレイヤー)に抱いてた失礼な気持ちはすぐに吹き飛んで、代わりにどうにか採取について話し合える仲になれないかと、ボクは喜びに満ちていた。


 きっとあの人は、ボクと同じ採取を愛する人間に違いない。

 その思いがボクを駆り立て、その場を離れようとしていた足はいつの間にか、その傭兵(プレイヤー)の方へと歩き出していた。



「あ、あのぉ」


 そうして、緊張しつつも思い切って話しかけて行く。


「あ、あなたも採取が好きなのですか? 実はボ、ボクも、ですね」


 すると、その傭兵(プレイヤー)が振り返り……フードの奥から覗くのは漆黒の骸骨(がいこつ)、そして不気味に光る眼孔がこちらを見つめてきた。



「ひぃぃぃぃいいい! し、死神ぃ!?」


 邪神の使いですか!? 内心で叫びながら、ボクは怖くなって尻持ちをついてしまった。





 タロと名乗ってくれたその傭兵(プレイヤー)は、ちょっと変わった傭兵(プレイヤー)なんだなぁと思った。

『採取』なんて不人気なスキルに本命を置いてるボクなんかに、思われたくないだろうけど、彼は使えないと揶揄されている『錬金術』スキルを使ってるらしい。



 それでも彼とは意気投合し、採取を楽しんでいる仲間がいるとわかって、ボクはとてもとても嬉しかった。だから『蛍石』の採取方法を教えて、少しでも鉱石の魅力が伝わるといいなと思って、手に入れたばかりの『蛍石』をあげた時に……やりすぎたかなと気付いた時には、タロ君はすごく喜んでくれた。


 少しお節介だったかなと心配したボクの不安は、彼の明るい態度が消し去ってくれた。



「も、もちろん、採取は好きだよ。でも、全ては『錬金術』スキルのために(はげ)んでいた事なんだ」



 声変わりもまだまだしてない女の子のような高い声で、そう言い切るタロ君の姿勢は男前だった。

 ボクもこんな風に、自分の選んだスキルに自信を持っていくべきなんだと思わされた。中学一年のボクよりも年下の子が、こんな風に言い切ってるのだから、年上のボクがしっかりしないと。


 それに……錬金術なんて聞いたら、つい先日ボクが所属する傭兵団(クラン)に取引きを持ちこんできた『白銀の天使』さんの事を思い出してしまう。

 最近は、小学生の傭兵(プレイヤー)の間で錬金術でも流行っているのかな?

 


「ジュンヤ君、ちょっと試したい事があるんだけどいいかな?」



 タロ君は先程の『蛍石』を使って何かするようだ。掌から宙に浮かんだ色彩豊かなキューブをジッと見つめ……何かを念じるように、手を触れることすらなくカシャカシャと色を揃えていく。


「ほう。火というだけに、赤色の面が多いのか」


 そんなタロ君の様子はどこか神秘的だった。怪しげな髑髏(どくろ)顔と黒ずくめのフード付きローブ装備が、より一層、禁忌への探求をしているのだという雰囲気を深めている。



 さらに彼の手の上には、一個の美しく燃え上がる宝石が鎮座していた。


「タタタッタッタロくん!? これは何だい!?」


 

 そうしてボクの動揺と感動を分かち合い、タロ君はその貴重な宝石をボクに譲ってくれた。

 今まで、ずっと一人だった。

 傭兵団の方々はいい人達だし、リア友だってたまに一緒に遊んだりしてくれる。だけど、心の底から素材採取に関して喜びを共有し合える仲間なんていなかった。


 だから、思わず感極まって抱き付いちゃったけど……男同士だし、失礼じゃなかった、よね?


 と、とにかくボクは彼に感謝しながら、心の中でこの恩は絶対に忘れないと堅く誓った。もっと鉱石や植物の素材に詳しくなって、タロ君の役に立てるようになりたいと強く願った。


 

 それにタロ君を通じてわかった事が一つあった。

 もしかして、錬金術ってみんなが言うような、役立たずなスキルなんかじゃないんじゃ……。

 




 そんな錬金術に対する予感のようなモノは、確信へと変わった。


「おっ、今日も天使(・・)さん来てるじゃん」


 同じ傭兵団(クラン)員のフレンドが、工房の奥で高位徒弟達と談義を交わしている『白銀の天使』さんを目にして、熱に浮かれたような声音で呟いた。

 

「何でも、またすごい事をやらかしたらしいぜ」


 何気なく放った彼の一言で、さらに数人のフレンドや徒弟仲間が、ボクらの周りに集まって来る。



「ほら、ジュンヤが前に持ってきたナントカって石素材? 使い物にならなかったろ?」

「『蛍石』って聞いたぞ」


 まさか……あの使い物にならなかった『蛍石』の、有用な使い道を発見しただって?



「そう、それそれ。その『蛍石』をちょちょいっていじって、ソレをな、金属の精錬時に使うと、武器の基礎性能が凄い上昇する素材に変えちまったらしいぞ……」


「団員以外には、あの素材の事を部外秘にするお達しが来たから、ガンテツさん達は『天使』さんを、とうとうお(かか)えにするつもりらしい」



『お抱え』とは、専属で取引する代わりに『()打ち人』も協力体勢を敷くといった特殊な傭兵(プレイヤー)に対する呼称……武器鍛冶に関して天下の『武打ち人』にそう言わしめるなんて……もうこれで、錬金術が不遇スキルだなんて思えなくなった。

 きっと錬金術スキルはタロ君が見せてくれた通り、根気良く粘って極めていけば、素晴らしいスキルに違いない。



「うちの傭兵団(クラン)は、天使さんの活動を全面的に協力するってマサムネさんが決定したらしいぞ」


「それってPvP方面も?」


「状況に応じて、可能な限りって話らしいけどな」


「うわ、俺にも天使さんを守れる機会があるって事か!?」


「それを機に、低位の俺達でもちょっとは仲良くなれたりしてな」



 いつの間にか、本当にいつの間にか『白銀の天使』さんはこの工房でアイドルみたいな存在になっていた。みんな直接、口には出さないけれど……なんとなく彼女が来ると、工房内の温度が上昇したように感じるんだ。温かみが増すというか、そわそわするというか、そんな感じの(たぐい)


「第八席のニケに聞いたんだけど、天使さんと情報交換した時にお礼の品をもらったらしいぞ」


「あ、それ俺も聞いた。確か、天使さんお手製のポーションだっけ?」


「いいな、天使さん自らの手作りポーション」


「錬金術スキルでポーションを作るのって『水』が1000個も必要なんだろ? 相当な手間がかかる品を情報提供のお礼にくれるなんて、いいよな」


「それだけ俺達の情報を高く買ってくれてるって事だろ。あの見てくれで、鍛冶に興味があるとか、いい……」



「いっその事、うちの傭兵団(クラン)に入ってくれねェかな」


「そのポーション、どうやら普通のポーションじゃないらしい。一瞬でHPを220回復させる『翡翠(エメラルド)の涙』って名前のアイテムでな。しかも出来栄えが良くて+2表記のアイテムだったらしいぞ」


「一瞬だって!?」

「ますますやべえな!」


 

 ボクは『白銀の天使』さんに関する仲間たちの会話を黙って聞いていた。

 正直に言うと……ボクは『先を超された』という悔しい気持ちで、胸がいっぱいだった。ずっと前に『蛍石』の存在を発見していながら、ボクはその活用法を見出す事はできなかった。けれど『白銀の天使』さんはいとも簡単にその方法を見つけたんだ。この工房で、みんなの人気者になった時と同じように、あっという間に……。


『蛍石』の扱いについて……鉱石コレクターとしての意地が多少なりともあるから、どうしても負けた、という認識が芽生えてしまう。



 ボクは右手で握った紅い宝玉を見つめる。


 タロ君からもらった『虹玉の崩炎石(ファイア・オパール)』を、傭兵団(クラン)のみんなに自慢するなんて気はすっかり失せていた。

 この宝石はタロ君の努力の結果であって、ボクが我が物顔で自慢していい物じゃない。


「俺らとは別格だよなぁ……」


 仲間の一人が遠い世界の人物を話すかのように、ゲンクロウさん達とやり取りをしている『白銀の天使』さんを見つめながら、ホッと一息ついている。

 その顔は憧憬(しょうけい)の色を帯びていた。


 傭兵団のみんなに見せようとしていた『虹玉の崩炎石(ファイア・オパール)』を、そっとアイテムインベントリにしまう。



「ボクだって……集めます」


 思わず、そう口にしてしまう。けれども、ボクなんかの言葉を誰かが気に留める事もなかった。そう、ボクだけなら『白銀の天使』さんには、届かないかもしれない。けれど『白銀の天使』さんと同じ錬金術を頑張っているタロ君と、採取の極みを目指すボクの二人なら、いずれは『白銀の天使』さんが編み出した『蛍石』の活用法に辿りつけるかもしれない。



『ようよう、ジュンヤ。今だけんども、大丈夫かー?』


 分不相応かもしれない思いを抱いていると、唐突にフレンドメッセージの通知が届いた。

 中学でのクラスメイト、マモルからだった。



『うん? 大丈夫だよ。どうしたの、マモル』


 マモルはボクとは別の小規模傭兵団(クラン)に属していながら、リア友の中でもけっこうなスピードで攻略を進めている。ボクと違ってばりばりの戦闘好きな傭兵(プレイヤー)スタイルで、このクラン・クランを楽しんでいるうちの一人だ。


『いやさ、ちょっとしたクエストを受けに行くんだけども。ジュンヤも一緒にどうかって』


『え、ボクも付いて行っていいの?』


『あぁ、俺らは護衛クエストを受けるんだけども。目的地が〈呪いの雪国ポーンセント〉なんだ。ジュンヤ、あそこに行きたがってたろ?』


『うんうん! 行きたかった!』


〈呪いの雪国ポーンセント〉は最先端に近い領域で、ボクの戦闘力では容易に進む事はできない。なので今まで足を運ぶ事はなかったけれど、これはチャンスだ。



『俺らも未踏破のエリアだから、不慣れだけんども。ケイとかも呼んで、人数しっかり集めるから、久しぶりに学校のメンバーで遊ばないかって』


『ケイ達も来るの? 楽しみだなぁ』


『ようよう、楽しみなのは嬉しいんだけども。観光気分で来るなよ、しっかり働いてもらうからな』


『もちろん採取スポットを探して、みんなに教えていくよ』


『助かる。こっちは四人集まってるし下調べもばっちりで、護衛クエストに関しては万全だと思うんだけども。ジュンヤの方でも誘える傭兵(プレイヤー)がいたら、声かけてくれると嬉しいんだけども』


『ボクのフレンドかぁ……』


『現地のモンスターはちょっと強めだから、いいレべリングになると思うんだけども』



 強くなれるチャンス?

 少しでも『白銀の天使』さんに追いつくためにも、タロ君も誘って一緒にレベルアップするのがいいんじゃないのかな。レベルアップによって取得できるスキルポイントの恩恵は大きいし。


『わかった! ボクの方でも声をかけてみるよ!』



 そうして、ボクはフレンドリストからタロ君を探し……うん? 偶然にもフレンドリストに表記されたタロ君の居場所は、ボクと同じ『鉱山街グレルディ』だった。

 武器や防具の調整でもしにきてるのかな?

 この町はたくさんの傭兵(プレイヤー)が来るから、さして気にする程の偶然でもないか。ボクはさっそく、タロくんにフレンドメッセージを送る。



『タロ君、今へいきかな?』


『こん、にちは、ジュンヤ君。どうしたの?』


 

 タロ君は少しだけ早口だったから、誰かと何かしている最中なのかもしれない。だから、ボクは手短にマモルに言われた内容を伝え、タロ君も一緒にどうだろうかと誘ってみた。



『レベリング!? 行きます! 行きますとも!』


 レベルアップに役立つかもしれないという点に、物凄い勢いで喰いつくタロ君に苦笑してしまう。やっぱり、レベル上げは大切だよね。

 タロ君のやる気に当てられて、ボクも俄然(がぜん)新しい素材を発見してやるぞと息巻く。



『それじゃあタロ君、〈鉱山街グレルディ〉の教会前で』


 30分後に集合する場所を伝え、タロ君とフレンドチャットを切り、ボクはそれまで現実(あっち)でシャワーを浴びておこうと思いログアウトの準備をする。

 


「ボクたちだって、やってやる……」 


 ガンテツさん達と話し込む、美しい『白銀の天使』さんをジーッと見つめ、そんな風にやる気を再度みなぎらす。



 すると、銀にたなびく彼女の髪がさらりと流れた。青い煌めきを(まと)う天使さんが、不意に視線をこちらへと巡らし――


 そして、目が合った気がした。



 すると彼女はハッと驚いたような顔をして、ふわりと可憐に微笑んだ……。

 もし神様がいるとしたら、きっと彼女はその娘か何かだと錯覚させる程に、誰もが息を呑んでしまうぐらいに綺麗だった。



「うわっ! 天使さんがこっち見て微笑んでるぞ!」



 しかもなぜか、こっちに向かって小さく手を振っている。


 かぁーっと(ほほ)が熱くなるのを感じ、すぐにふるふると頭を振って視線を彼女から()らす。

 あの子は、ライバル……なんて思うのはおこがましいけど、超えるべき遥かな高みに存在する壁なんだ。見惚れてる場合じゃないだろ、ボク!



「見たか! いま俺に手を振ってくれたぞ!」

「違うから、俺に向けてだから!」

「いや、あの角度的に俺でしょ」

 

 ふぅ……。

 ボクの周りに、誰か彼女の知り合いでもいたのだろうか。

 自分に向けられた笑みではないとわかっていても、彼女の可愛さの前では自然と照れてしまうもの。鉱石に関して味わった敗北感はまだ真新しいのに、照れるなんて、鉱石マニアとして恥ずかしい失態。



 ボクは早々と気持ちを切り替えるため、そそくさとゲームからログアウトした。



 これからタロ君やマモル達と、レベリングに行くんだ。


「物理的にも心理的にも、スッキリしておかないと……シャワーシャワー……」


 ボクは浴室へと、早歩きで向かった。




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