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163話 少年と蛍火と謎の錬金術師


「錬金術っていうのは、究極的な目標を言えば……『不完全なものを、完全なものにすること』だと思う」


「じゃあ、物質を黄金へ変成させるっていうのも、その目標のうちの一つってこと?」


 ジュンヤ君に錬金術とは何なのかと問われ、今までの自分の経験を踏まえ、俺なりの答えを彼に返していく。



「うん、その通りだ。きっと黄金錬成っていうのは、不完全な物質(・・)を完全な物質(・・)である(きん)に変えるって事。俺の師匠は不完全な肉体を完全なる肉体にしようと試み、あまつさえ命の法則すらも自分の手中に(おさ)めようとしてた」


「し、師匠がいるんだ!? 完全なる肉体って言うと……死なないとか?」


「それだよ。まさに不老不死の肉体を、少なくとも師匠は不老の方は完成させてたよ」


「す、すごいね」


「フフフ……つまり、錬金術というのは……人間を、神に近しい存在へと昇華させる可能性を持っている」


 リッチー師匠は、まさに神々の領域に一歩踏み込んでいた。

 (おか)してはならない禁忌に触れていたのだ。


「とまぁー、恰好つけて解説したけど。今の俺じゃ、出来る事なんて少ないんだ」


 そうおどけて見せると、ジュンヤ君もニコっと人懐っこい笑みを浮かべてくれる。


「ボクだって、もっと効率良く採取ができたらなーって思うよ。ねね、何か錬金術を見せてもらってもいいかな?」


「ん、別にいいけど……ここで錬金キットを広げるのも、危ないような気がするな」


 

 よし、と意気込み、俺は『魔導錬金』をお披露目することにした。

 魔導錬金であれば、敵に襲われてもすぐに錬金術を中断することができるし、一旦素材同士を混ぜこんでしまえばキューブを完成させるまで、素材を失う事もない。『合成釜』だと火加減や時間経過によって素材を失ってしまう。もちろん、しっかりと錬金キットを用いて『合成』をした方が、その過程をつぶさに観察ができ、素材同士の相性などを見極めるのに適しているが、今は慣れた行程をするだけだから問題ないと判断する。


「じゃあ、リクエストにお答えしましょう」


 少し雰囲気を作るために、盛大なお辞儀をする。

 するとジュンヤ君もノッてくれたようで、パチパチと拍手をしてくれた。


「では、こちらにある写真をご覧ください」

「はい! 錬金術師さん」


 俺はジュンヤ君と遭遇するまで『古びたカメラ』で撮っていた、七色蛍の写真を見せた。



「『飽くなき探求』」


 アビリティが発動すると、写真は瞬く間に液化した。


 まずは撮った写真を液化させるための手順、ビーカーを用いて『七色蛍』の写真を『合成』用の追加素材として試験瓶(ビーカー)へと流し込む。

 紙が一瞬にしてちゅぽんっと音を鳴らした所で、ジュンヤ君の顔には驚きの色が広がった。



「『魔導錬金』……『叡智の集結ルービック・アーキテクト』、タイプ四角形(キューブ)……」


 MPを消費して『七色蛍』の写真と『インク』を選択し、『合成』していく。

 二つの素材は、キューブへと合わさり……あとはカシャカシャと色の違う面を揃え終えるまで、試行錯誤するだけだ。



「えええ、錬金術師さん! 不思議な立方体だね!?」


 驚くジュンヤ君の様子を見て、ニヤニヤが止まらない。しかし、ここはクールに決めるのが錬金術士たる者。『見識者の髑髏(どくろ)覆面(バイザー)』が顔を隠してくれる事も手助けとなって、俺は最高にかっこ良い態度で『叡智の集結ルービック・アーキテクト』を披露できているだろう。


 これもやり慣れると案外簡単なもので、十秒弱でキューブ全面を揃え終える。



「できたよ。塗料の『小さな虹火色(リル・セプティモ)』だ」


 キューブ状態解除を念じると、コルクの栓がフタとして詰めてある細いビーカー瓶が出現。

 その中には薄い赤色の液体がたゆたっていた。よく見ると、黄緑色や青紫色の粒子みたいのが、液体内をふよふよと移動している。




小さな虹火色(リル・セプティモ)』【インク塗料】

【武器に塗ると2分間、青・黄・緑・赤・紫・黒・白の各属性を伴うアビリティダメージを2%増幅させる。また各種属性の状態異常蓄積率を5%上昇させる】


【防具に塗ると2分間、青・黄・緑・赤・紫・黒・白の各属性を伴うダメージを2%軽減する。また各種属性の状態異常への耐性を8%上昇させる】


【内包された虹は、石の女王(フローレス)と融和すればよりその美しさを増す】




「タロ君。これって……アビリティ『付与術』……じゃないんだ?」


「うん、装備に追加効果を付けるものだから」


「それでもタロ君、これはすごいよ!」


「確かに便利だけどね、色々と問題もあるんだ。『付与術』と違って、お金がかかるし……インク代なんか100エソと高めだよ。それに『()ろ筆』って装備でペイントするんだけど、直塗りと飛び塗りで効果の増幅加減にバラつきもあって……飛び塗りについては、ターゲットポイントから外したりすると、効果も付かない、インクもぱーになるんだ」


「いやいや、でもさ! 七属性の威力や耐性を一気に底上げするってかなりの効果じゃないか!」


「うん、そこは俺も嬉しい結果になったかなって思ってる。それに……」



『見識者の髑髏(どくろ)覆面(バイザー)』による第二段階詳細を読んで気付いたのだが、『石の女王(フローレス)』? という文がどうもひっかかった。『蛍石』の説明で、『白宝の鍛冶師旅団』が『蛍石(フローレス)』と呼んでいた事から、このインク塗料と『蛍石』を『合成』すれば、もしかして……。



「ジュンヤ君、ちょっと試したい事があるんだけどいいかな?」


「うん! どんどんタロ君の錬金術を見せて欲しい! 思った以上に面白そうなんだもん!」



 むふふ。

 こんなに錬金術に対して興味を持ってくれるとは。

 口元がまたもやニヤニヤしそうになるのを(こら)えて、仮面越しだから見られる事もないと気付き、唇を緩める。



「失敗するかもしれないけど、さっきジュンヤ君からもらった『蛍石』で試したい事がある」


 もらったばかりの貴重な石を失うかもしれないと、前もって断りを入れておき、俺は『叡智の集結ルービック・アーキテクト・タイプキューブ』を発動させた。


 もちろん素材に選んだのは、『蛍石』と『小さな虹火色(リル・セプティモ)』だ。



「うわ、なんだこれ……」


 なんと……今まで二色でしか面を揃える必要がなかったキューブだけど、今回は青、黄、緑、赤の4色もあった。


「この面の色を揃えるのには、時間がかかりそうだ」

「何だかわからないけど、タロ君ファイト!」


 ジュンヤ君の応援の元、しばらくは掌で浮かぶカラフルなルービックキューブとの苦闘が続き、30秒を過ぎる頃にようやく各面の色を統一する事ができた。


 完成した立方体は、赤面が3カ所。青面が1カ所、黄面が1カ所、緑面が1カ所という配色で、やはり『小さな虹火色(リル・セプティモ)』の影響力が多いのだろうか。


「ほう。火というだけに、赤色の面が多いのか」


 そう呟きながら、キューブ化を解除する。

 すると、今までに見た事のない程の美しい鉱石が手にポトリと落ちた。



「タタタッタッタロくん!? これは何だい!?」


 ジュンヤ君はすごい勢いで俺の手にある鉱石……いや、もはやこれは宝石の類と言っていいと思える程の原石を見つめてくる。


 夕日の如く、紅く透き通った結晶。中心部に行くにつれて赤からオレンジ色へとその濃さを深め、さらに各種の色が所々に混ざり込んで踊るように輝いている。そう、まるで炎の中で渦巻く虹のようだ。



「ジュンヤ君、いい感じの鉱石がつくれちゃった」


「す、すごいよ! まるで宝石じゃないか! 錬金術って素晴らしいね!」


 ジュンヤ君に多大に称賛され、肩を激しく揺らされながら、(くだん)の鉱石を見る。




虹玉の崩炎石(ファイア・オパール)

【万人を魅了してやまない、虹色宝石(オパール)の一種。過去世(カルマ)の石として有名でもあり、因果応報を教える。七色蛍の呪いから、栄華と発展、そして崩壊の兆しを予兆する特殊な宝石】


【内なる火を目覚めさせ、能力の向上、危険察知に敏感になる力を宿す。希望の象徴であり、悲嘆の感情が異なる世から生じたのであったとしても解放する。ただし、その力は爆発的なものとなる危険もはらんでいる】



 うーん……正直、何に使えるのかは不明だけど宝石の類って事でレアリティはそれなりに高そうだ。


 そして、さっきからジュンヤ君の興奮度が半端ない。彼は、『虹玉の崩炎石(ファイア・オパール)』を触りたそうにウズウズしていた。しゃがんだり、背伸びしたり、あらゆる角度からこの宝石の輝きを観察している。



 そんな彼の様子を見て、俺はこの宝石をあげるべきか、否か悩んだ。

 元々はジュンヤ君にもらった『蛍石』がなければ、この『虹玉の崩炎石(ファイア・オパール)』は完成しなかったし。

 いや、正直に言うと鉱石に詳しいジュンヤ君とは、今後も懇意な取引を続けたい。となれば、投資という形でこの宝玉を無償であげるべきでは?



「あのジュンヤくん。この宝石は『蛍石』から錬成できたような物だし、これはジュンヤ君がもらってくれないかな?」


「そんな! こんな価値の高そうな宝石を、タダで受け取れないよ! ボクだって知らない鉱石なんだよ!?」


「んー、タダではないかも? 今後、ジュンヤ君が良かったらなんだけど『蛍石』を分けて欲しいし、ジュンヤ君の鉱石に関する知識はアテにするつもりなんだ」



 そう言って、『虹玉の崩炎石(ファイア・オパール)』を彼に差しだす。

 すると、ジュンヤ君は鼻の穴を膨らまし、熱い視線で俺を見つめて来た。


「つまり、ボクを鉱物鑑定者として認めてくれたってこと?」


「鉱石鑑定者が何かはわからないけど、今後の友好の印として受け取って欲しいんだ。もちろん、俺も錬金術でできる事なら、ジュンヤ君の力になるつもりだし」


「そ、そんなの願ってもない事だよ! ありがとう、タロくんッ!」


「わっ」


 ジュンヤ君は嬉しさのあまり、俺に抱きついてきた。

 体格はあちらの方が大きいけれど、こういった仕草はやはり年下の少年なんだなと、内心で微笑んでしまう。



「うぅ~! なんて綺麗なんだろう! 傭兵団(クラン)のみんなに自慢しちゃおっと!」



 彼は目をキラキラさせて、『虹玉の崩炎石(ファイア・オパール)』をつまみ満面の笑みだ。彼がもし、小犬だったら、間違いなく尻尾をフリフリしていたに違いない。



2色でも4色でも、ルービックキューブを10秒前後、30前後で揃えるタロは……

かなり凄い事をしています。


知力ステータスの影響です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 5x5x5キューブ ”プロフェッショナル”というのもありました。
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