表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/360

161話 石と植物だけが友達です


「声をかけたのはボクの方なのに、驚いたりしてごめんなさい」


 大きなリュックを背に抱えた少年は、礼儀正しく非礼を詫びてくれた。


「い、いや……こちらこそ、なんだか驚かせてしまって申し訳ないです」



 お互いにぺこりと頭を下げ、わずかな沈黙が両者に流れた。(ほたる)が漂い、うごめく樹人(トレント)が乱立するフィールドで、髑髏(どくろ)仮面な俺と登山家少年は見つめ合った。

 しばらくすると、少年は自己紹介をしてくれた。


「えと、ボクはジュンヤと言います」


「俺はタロです」



 何故かよろしく、と嬉しそうに握手を求められたので、おずおずと俺はそれに応じた。

 どうやらジュンヤ君は、『採取』という行為に目がないらしく、同じく採取に夢中になっていた俺を見かけて、ぜひ情報交換をしたいと思い声をかけてくれたらしい。

 


「情報交換も重要だけど、何より採取を愛する(・・・)傭兵(プレイヤー)と仲良くなりたかったってのもあるんだ」


「あ、愛?」


「うんうん! だってキミは、あんなにも感極まった様子で採取をしていたじゃないか。素材の考察とかについて呟いたり、喜びに打ち震え天を仰ぎみたり、不思議なカメラ? で素材を撮って資料として保存してるのかな? とにかく、これって『採取』に対する愛がないとできないでしょ?」



 うぁ……見られていたのか。

 なんだか、他人から錬金術に夢中になっていた自分の姿を、まざまざと説明されると恥ずかしいモノがある。

 そしてジュンヤくん、キミは早口だな。



「ボクだって、集めます!」


 彼は目をキラキラと輝かせ、興奮した様子で言い放つ。

 まるで同好の士を発見した喜びを全身で表現するかのように、大袈裟な身ぶり手ぶりで、マシンガントークを続けてきたジュンヤ君。


「『採取』スキルに本腰を入れてる傭兵(プレイヤー)って本当に少ないからね。キミも同じ口なんでしょ? だったら、ぜひ親交を持ちたいなと思って。だってさ、『七色蛍の樹形地』ってレべリングでそこそこ有名な場所なのに、あえて『採取』活動に勤しむタロ()は! 強さよりも未知素材の発見を求めるその行動! ボクと同じ『採取』好きで間違いないなって!」



 タロくん(・・)……。

 いい響きだ。


「やっぱり採取はいいよね! ボクは特に鉱石や植物に興味があるんだ。いずれは現実(あっち)みたいに昆虫採集とかできたらいいな、なんて思っていたりする!」


 俺も錬金術に本腰を入れる傭兵(プレイヤー)に会えたら、嬉しくなってこうなってしまうんだろうな。というか採取をしてたのは、マイナーで人気のない錬金術スキルのためです、なんて言い辛くなってしまった。


「ボクは戦闘面に関してはからっきしでさ……ほら、『採取』スキルのポイントをけっこう振っちゃってて。タロ君も同じ口だったり?」


「ええと、まぁ戦闘は得意な方ではないかな」


「やっぱそうなるよね。ボク、いつもは同じ傭兵団(クラン)傭兵(プレイヤー)や学校の同級生なんかにくっついて、お世話になってる感じなんだけどね。こんなプレイスタイルだと、ダンジョン攻略とか敬遠されがちなんだ」



「その感じ、わかる」


 クラン・クランを始めたばかりの頃、『百騎夜行』のゆらちーに、メインスキルが錬金術だと知られ、お荷物だから一緒にプレイするのを断わられた事を思い出す。今となっては錬金術の真価を認めてくれ、頼り頼られる仲間(フレンド)となってはいるけど、傭兵団(クラン)()打ち(びと)』の時(しか)り、錬金術に対する一般からの目は痛いものだ。

 


「それでもきっと頑張っていれば、価値あるモノだと認めてくれる傭兵(プレイヤー)はいるはずだ」


 そうジュンヤ君に向かって言ったものの、わずかにあった自分の劣等感に対して慰めと希望の言葉を吐く。


「そうだね。うちの副団長なんかは、こんなボクを評価してくれてたりもして嬉しいんだ。自分が極めようとしてるスキルを悪く言うのもアレだけど……『採取』スキルを評価してくれる傭兵(プレイヤー)なんて、滅多にいないから、つい嬉しくって」


「その気持ちもわかる」


「うんうん! うわぁ、やっぱり嬉しいな! 採取仲間なんて今までいなかったから、こうやって話ができるだけでも楽しいよ!」


「あははは」


 喜ぶ彼の姿を見て……。

 どうしよう、ますます錬金術スキルですって言えない空気に……。

 乾いた笑い声を俺が響かせると、ジュンヤ君はズイッと近寄ってきて何故かジッと見つめられた。


「その仮面でそんな笑い方されると、インパクトがあって怖いね! 最初はビックリしたけど、今はとても素敵な装備に見えるよ。こう、世界に散らばる宝を探し求める、死神さんって感じで最高にクールだ!」


 おっと、ジュンヤ君もリッチー師匠が残してくれたこの覆面(バイザー)の良さに気付いてしまったか!



「採取は装備によって採取量が変化したりと奥が深いよね」


「それ、わかる」


 ほうほう、採取家なだけあってその手の口にも詳しそうだ。

 先程、探求者シリーズ装備や覆面(バイザー)の効果に感心していた俺にはタイムリーの話題だった。

 


「ボクもいい装備をそろえるために日々、奔走してるんだ。ボクの推測によると、タロ君が付けている、その(こだわ)り抜かれた意匠と迫力を兼ね備えた仮面は……ずばり、採取に役立つ効果付きの素晴らしい装備でしょ!」


 ほほほう、まさかこの仮面の貴重性だけでなく、効果まで言い当てるとは。

 ジュンヤ君はなかなかの慧眼の持ち主だ。


「実はこの覆面(バイザー)、モンスターや素材の詳しい情報がわかる装備だったりする。これは大切な装備で、俺にとっては思い入れのある一品なんだ」


「思い入れ……それ、ボクもわかるよ! 見て、ボクのこの鉱山師セットの装備を! 鉱物系の採取量を20%の確率で増やしてくれるって効果付きなんだけど、このセットをそろえるのに、すっごく苦労したんだ。でもさ、その分手に入れた時の嬉しさはおっきいし、愛着も湧くよね!」


 あぁ、わかるぞ。

 俺だってこの『見識者の髑髏(どくろ)覆面(バイザー)』を手に入れるには時間もかかったし、たくさんのイベントを乗り越えた果てに、棚ぼた的な感じで手に入れたとはいえ、とても嬉しかったものだ。


「すごくわかるよ、ジュンヤ君!」

「わかるよ、タロ君!」


 うん、いつのまにか互いの両手を握って、歓喜に打ち震えていた。

 なんだろうね、この感じは。嬉し恥ずかしなので、俺は慌てて離す。



「というか、すごいよその装備は! クラン・クランは戦闘面で弱いと風当たり厳しいゲームだけど、やっぱり情報はすっごく大事だと思うんだよね。ボクも素材に関するデータや、モンスターの生態系にはすごく興味があって、それらを観察、考察、調べるのに手間は惜しまない主義なんだ。結果的に採取の効率を上げる事に繋がるし!」


 うんうん、わかる。

 錬金術は素材が命と言っても過言ではないわけで、その元となる素材やフィールド背景の成り立ちなど、あらゆる角度から情報収集するのはとても大事な要素だ。未知なるものを追い求める上で、必須事項と言っていい。


「それをクダらないと、一蹴する傭兵(プレイヤー)たちの気持ちが知れないよなぁ」


「うん、それね! すごくわかるよ!」

「やっぱりわかる!?」


「もちろんだよ! タロ君!」

「嬉しいよ、ジュンヤ君!」


 ふへへ。

 なんだか使うスキルは違えど、ここまで共感してくれる傭兵(プレイヤー)との出会いはなかったので、嬉しみが深い。


 またもや俺はジュンヤ君と両手を繋ぎ合っていた。

 それに気付き、今度は彼の方がコホンと咳払いをして手を離した。



「この『七色蛍の樹形地』周辺の歴史、NPC達が噂する内容、素材やモンスターから取れる情報をまとめると、もっと貴重な鉱物(・・・・・)が発見できるとボクは推測しています」


「ふむふむ。って、待って欲しい。さらなる貴重な鉱物と言う事は、(すで)にこの辺で何かの鉱石を発見したの?」


「実はそうなんだ」


「それは非常に興味深い……」


「もちろん、タロ君には教えるよ!」



 ニコッと人懐っこい笑みを浮かべ、快く無償で貴重な情報を提供してくれるジュンヤ君に、俺も感謝の笑みを返す。

 おっと、今は覆面(バイザー)越しだから俺の表情すら見えないと気付き、ちゃんと言葉にしておかないと。


「ありがとう、ジュンヤ君!」


「別にお礼なんていいのに。ボクは……石と植物だけが本当の友達みたいな、(イン)キャだから。こういう話に興味を持ってくれただけで嬉しいんだ、タロ君」



 それを言ったら……俺も晃夜(こうや)夕輝(ゆうき)がいなかったら……ぼっちに近い学校生活になってただろう。

 親友二人がいても、性転化した時点で引き籠りまっしぐらだったし。

 それに、ゲーム内で錬金術スキルを活用している傭兵(プレイヤー)にも、未だに会った事はないわけで。



「俺だって、クラン・クランでは趣味の合う奴とかいないし。ジュンヤ君みたいな傭兵(プレイヤー)と話せて嬉しいのは、こっちの台詞だ」



 そう伝えると、ジュンヤ君の暖かな笑みは一層深まった。





評価、ブックマークよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ