160話 採取家の集い
『見識者の髑髏覆面』
【とある死人の顔面、髑髏を象った覆面。滅びと再生の錬金術士リッチー・デイモンドが、少年の頃に錬金術で製造した一品。滑らかに黒光りする覆面は、貴重な『呪抗石』で丹念に製造された物。一説によると、面頬の型となったのは、学術寺院ロンディリクの賢僧ムタと言われている。生きたまま、生皮を剥がれ覆面に転写された彼の苦痛が、覆面の記憶となって定着している。これにより、聖人や偉人、英雄と呼ばれる特異な人間個体が死に際に残す、強い感情、特に負のオーラが物体に何らかの効果を付与する事を発見したそうだ】
レア度:7
装備条件:知力170
ステータス:防御+20 魔防+22
特殊効果:常時、素材やモンスターの第二段階詳細を知れる、『知識眼』を発動している。代償として視界がやや暗くなる。
ふぅ、師匠。
これは呪いの装備の類ではないんでしょうかね……。
相変わらず、少年の頃から錬金術を辛辣な方向に利用してたんですね。
さすがです!
まぁ、派手なバッド効果はないわけだし、俺は気にせず不気味な覆面を装着してみる。
すると変な効果音と共に、変なログが流れた。
:『見識者の髑髏覆面』による呪いが発動しました:
「やっぱりかー!」
:30分、『見識者の髑髏覆面』を装備から外す事ができません:
「なるほど、典型的な呪いの装備だ」
それでもリッチー師匠が残してくれた装備だと思えば、自然と愛着も湧き、何気に楽しく思えてしまうから不思議だ。
そして気付く。
「ほう……アビリティ『鑑定眼』より更に高度な詳細を知れる効果が付与されているわけか……常時発動っていうのも非常に魅力的だ」
そう、この便利装備で『七色蛍の樹刑地』を見渡し、何か発見がないか探りたかったのだ。辺りをうごめく『根付く樹人』や七色蛍などに視線を合わせると、細かい生態系の説明が表示されるようになった。
そして、さらにさらに!
俺は装備している和装を解いて、師匠の資料室から拝借した装備一式を羽織る。
胴には『探求者見習いのローブ』、腰は『探求者見習いの腰巻』、腕には『探求者見習いの皮手袋』、足には『探求者見習いのブーツ』。
「ふふふ……今の俺はどこからどう見ても、錬金術士っぽいはず……」
黒い厚手の布で作られたローブは、見習いと表記されている割に上品なデザイン性を誇っていた。金色の刺繍が各縁に施されており、けっこうカッコイイ。更に言えば『巫女服・紅奈憑き』には劣るとも、防御面でも割と強固だったりする。
そしてなんといっても、この装備群の目玉はセット効果だ。
『探求者見習い』シリーズを揃えた状態で装備し、なおかつローブの背中についたフードを被ると……『素材の発見率が高くなる』と言うのだ!
さっそくフードを被り、辺りを見渡せば……。
「ふはははははっ! 見える、視えるぞ!」
素材が採取可能な場所がキラキラと光っているではないか。
そう、実はクラン・クランは仕様がリアル過ぎて、一見してどこで素材採取できて、何が素材に成り得るか分かり辛いのだ。探ってみないとわかりません、手に取って触れてみないとわかりません、という物が大半を占めている。
それをこのローブはいとも簡単に把握してしまうという、万能装備!
「いや……待てよ。確か、レア度7以下の素材の発見率を上げる、と説明欄には記されていたな……」
つまりレア度8以上の素材は、キラキラ表示されないから自力で発見しろと。
しかし、どちらにせよ、これは素材採取において重宝できる。
追記で採取量も増えるとの事だから、通常は一つしか取れない箇所でも、二つ、三つと採取可能になるかもしれない。
「うぅん、ただ視界が制限されるのが少しだけ気になる、か……」
見習い探求者のローブは、この効果を発揮するためにフードを被る必要がある。すると、通常の視界範囲は180度のはずだが、視野が狭められ、体感にして150 度ぐらいまでに縮まった。左右からの不意打ちに弱くなったと言える。
それでも、この装備が素晴らしいモノには変わりない。
俺は茶色のトレントたちが立つ平穏地帯で、『古びたカメラ』を握り、素材採取に勤しむことを決める。
「ほほう?」
『見識者の髑髏覆面』の『知識眼』によるおかげで、宙に飛ぶ蛍がモンスターであることが判明。即座に激写し、地に着く前に素手でピシャリと殴り飛ばす。
『七色蛍』【写真】
【川辺を守護する七色の蛍。『水聖宮の猛き乙女セレス』により、『久遠の守り』という召喚術をかけられた『白宝都市ミスランティア』の人々。何度、生をまっとうしても黄泉から召喚され続ける彼ら彼女らは、川辺近くの土に触れると、うごめく樹人として開花し、人間を川に近づけさせないように襲いかかる】
:写真に『小さな虹火色』が宿りました:
「くはははっ! この調子でどんどん採取祭りだ!」
両手を広げ、この喜びが亡き師匠に伝われと、夜空を見上げる。静かに瞬く星々の輝きが、リッチー師匠の狂気に濡れた優しい双眸の光と重なるような気がした。
師匠、あなたの残してくれた物のおかげで俺は今、最高に充実した錬金術ライフを堪能しています。
「あ、あのぉ」
そんな絶好調な俺に、背後から遠慮がちに声がかかった。
「む?」
かっこいいローブを身に纏った俺を見かね、つい声をかけてしまったのかな? まぁ当然と言えば当然だろう。今の俺は、錬金術士らしい恰好をし、錬金術士に相応しい行動をしていたのだから。しかし、いけないな、視野が狭いとこうも簡単に後ろを取られるとは、と錬金術士たる考察と反省点も脳内で結論付けておくことも忘れない。
「あ、あなたも採取が好きなのですか? 実はボ、ボクも、ですね」
絡んできた傭兵に、振り返り目を向ける。
背は俺よりけっこう高く、スラッとした少年だ。
と言っても、顔つきがちょっとだけ幼いぐらいで、俺とそんなに年齢は変わらなそうだ。せいぜい中学一年生か二年生と言ったところだろう。
山登りが大好きです、と言わんばかりの大きなバックパッカーを背負った彼は、ちょっと挙動不審――――
「ひぃぃぃぃいいい!? し、死神ぃ!?」
振り返った俺を見るや否や、尻持ちをついて盛大にビビっていた。
「いや、傭兵ですけど……」
そっか……そうだよな。
有頂天になって失念してた。
黒塗りの髑髏仮面、全身漆黒のローブにフードを目深に被ってれば……そりゃあ、とても妖しい人物、というかモンスターに間違われても仕方ないか……。
「ふ、不審者かと思いましたっ、あ、すみません……」
「いいえ、違います……」
こうして俺は、採取好きのとある傭兵と出会ったのだった。
新作、始めました!
『どうして俺が推しのお世話をしてるんだ? え、スキル【もふもふ】と【飯テロ】のせい? ~推しと名無しのダンジョン配信~』
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