16話 傭兵VS傭兵
一度、降り注いだ矢はパッと止んだ。
晃夜の言う通り、矢が飛んできた方向からおおよその位置は把握できたが、このままでは狙い撃ちにされる。
俺は腰まで浸かっている水面を見て、つぶやく。
「水中にもぐった方がいいのか?」
身を隠せるのではないだろうか。
「ダメだよ」
俺の安易な対策に、即座にダメ出しをするのは夕輝。
「水中でも、相手はこちらの位置をすでに把握しているっぽいし。矢の威力は軽減するけど、命中すればダメージは蓄積されちゃうからね。それに晃夜以外のみんなは水に接していると満足な動きが取れないかな。あとは、ずっとは潜っていられないよ」
「わざわざ水辺の多い『湖面に沈む草原』で仕掛けてきたってことは、私と同じ青魔法スキルの持ち主がいるかもしれない。最悪、『氷結魔法スキル』持ちがいたら……水ごと凍らせられて、本当に身動きが取れなくなっちゃう」
「矢で水辺に誘導させて、一気に止めをさす。よくある戦術だね」
氷結魔法スキル……。
確か、ジョージのお店で40000エソで販売してた高級品。
今、俺達に戦闘をしかけているのは、それほどまでの上位プレイヤーがいるかもしれないということか。
「ぶはっ、早い話が水中防衛は限界もあるし、危険だ」
晃夜が立ち上がったのを機に、全員が例の大木のある陸地へと急いで移動する。
その際に弓矢が再び、乱発され一本が夕輝に命中した。
だが、晃夜のようにノックバックすることはなく、そのまま移動を続けている。防御力が高いのだろうか。
「みんな、この大木を背に一つにまとまって、ボクの後ろへ」
盾を前面に構える夕輝に隠れるように、みんなで身を寄せる。
「巨人の盾」
夕輝がアビリティを発動すると、持っていた盾が3倍以上に肥大した。
重さが増したのか、夕輝はその盾を持っていることができず、地面に突き刺して支えるように構えた。
それにならって、全員がしゃがむ。
これで背後は大木、盾によって前方広範囲を弓矢から身を防ぐことができる。
「巨人の盾の効果は、最大2分もつ。だが重すぎて動けないのが難点だよ。とにかく、その間にどうするか決めないと」
「あいつら、弓矢アビリティで麻痺属性おりこんでるぞ……俺は起き上がるのに時間がかかった」
キィンっと巨人の盾が矢を弾く音がする。
「ボクは大丈夫だったみたいだけど……ランダム発生?」
「耐性によって発生する確率がかわってくるのかもな」
トスっとすぐそばの地面に矢が突き刺さる。
「2回の射撃で確認できたことは、同時に放たれた弓矢は全部で四本だね。つまり最低でも射手は四人いる」
「1回目と2回目で、矢が飛んでくる位置がずれている。移動しながら、狙撃位置を特定されないように射ってきているのは間違いない」
あの短い防御で、夕輝と晃夜はしっかりと状況を把握していた。
「間違いなく、傭兵vs傭兵に慣れているな」
「問題は相手の射程からは私達が丸見えで、こちらからは見る事ができないってこと」
「弓使い以外のメンバーもいるのだろうが、優位が崩れない限り、遠距離攻撃でちまちまと致命傷を狙ってくるだろうな……」
「つまり……敵の位置を割り出さないと、まずい?」
「そうだね……シズクの索敵魔法で居場所が特定できないってなると、一定距離があると視認できない『隠密スキル』か『隠蔽スキル』持ちだろうしね」
みんなの分析を聞いていて、俺はあることに気付く。
「なぁ……」
「んん、どうした?」
「俺は15歳以下の傭兵に見えるんだろ?」
俺の今の見た目は10歳そこらの少女だ。
「あぁ、だけどそれがどうしたんだ?」
「つまり、俺は攻撃されないから、堂々と出ていって相手の位置をみんなにPTチャットで伝えることができるんじゃないか?」
「「!」」
「確かに……だが、15歳以下の傭兵が組んでいるPTメンバーが、つまり俺たちが攻撃行動を開始した場合、15歳以下の傭兵も攻撃可能対象になるぞ」
「つまり、コウたちが仕掛けるまでは、無敵の偵察ができるってわけだね?」
「だけど、タロ……」
「迷っている暇はないんじゃないの? ユウのアビリティもそろそろ切れるころだし」
「タロちゃん……単独行動はすごく危険だよ。あいつら相手じゃ、攻撃可能対象になった瞬間に即キルされかねないよ……」
シズクちゃんの心配はありがたいが、現時点で思いつく限りの有効手段はこれしかないと思う。
「俺がさっき作った『ケムリ玉』で煙幕をつくり、そのまま突っ込むから、ユウたちはその隙に別の木々の陰に隠れて。射手に近づけば視認できるというなら、一点突破狙いで、俺が特定した相手に集中砲火して各個撃破するしかないんじゃないかな」
「タロの言う通りだ。今はこれしかないな」
晃夜が俺の意見に賛同し、夕輝もゆっくりと頷いた。
シズクちゃんはそんな二人の態度を諦め、心配そうにおどおどとしている。
三人の様子を見て思う。
いいな。PT戦。
窮地を共にし、それぞれが協力して役割を担う感覚。
なにより、晃夜と夕輝、それにシズクさんの役に立てるかもしれないと思うと嬉しい。
「ユウ、いざとなったらこれを使って」
俺はそう言って、夕輝に『結晶ポーション』を渡しておく。
「こ、これは……」
夕輝が『結晶ポーション』の説明欄を読んで驚愕している。
「じゃあ、いってくる」
ピンク色の球を握りしめ、俺は夕輝の庇護から飛び出る。
ストンっと足元に矢が刺さるが、ビビらずに『ケムリ玉』を思いっきり地面に叩きつける。
ボフウウンっと盛大に煙が辺りに四散し、周囲は瞬く間に煙幕によって視界を遮られた。
あとは弓矢の飛んできた方向へとダッシュ。
なるべく陸地を伝っていこうとするが、ところどころにある水辺のせいで進みは遅い。
弓矢は目くらましが晴れるのを待っているのか、飛んでくる気配はない。
とにかく、どんどん進んでいくと、弓矢を構えた集団が左前方に見えた。
夕輝の予想通り、弓使いは4人とそいつらに囲まれるような位置、中心に魔法使い風の少年が一人佇んでいた。
あちらも俺にはとっくに気付いているようだが、無視して夕輝たちの行方を追っているようだ。
煙はだいぶ薄まってたが、依然、なかなかの量が残っていた。
さすが『ケムリ玉+3』だけなことはある。
「っち、よく見えない」
悪態をつく敵を見つつ、夕輝たちにPTチャットで知らせる。
『左前方の木がある場所に、四人ともいる』
その知らせを受けた晃夜たちはさっそく行動を開始した。
前衛である夕輝を先頭に弓矢使いの方へ前進してきた。
「あれぇ、おかしいな。こっちに向かってきてる」
敵の魔法使いがそうぼやき、俺を見る。
「あーそういうこと。あの子があいつらにボクたちの居場所を知らせて……ってあの子、すごいね」
なにやら敵さんの魔法使いは俺を凝視するや否や、二人の射手を引き連れてこちらに向かってきている、もう二人を晃夜たちの左右、挟み込むように展開させたみたいだ。
すぐに『やや右に二人の射手と魔法使いが一人移動、左右に一人ずつの射手が散開、挟み打ち』と伝えておく。
「はじめまして、お嬢さん。ボクの名前はユキオ」
魔法使いの少年が挨拶をしてきた。
交戦中だからなのか、相手の名前とレベルが見える。
ユキオLv11。
ぼびろんちょLv7。
ムキムキ兄Lv9。
うはぁ。
晃夜たちの両サイドへと潜みに行った、二人の射手の名前とLvは窺えない。こっちの弓使いの傭兵さんは名前がとても個性的だな。
「は、はじめまして。タロです」
やはり、俺のことを15歳以下の傭兵と思い込んでいるようで、攻撃を仕掛けてくる様子はない。
「キミは察するに、うちの団長が言っていた銀髪天使さんで間違いないかい?」
「団長?」
「あぁ、申し遅れたね。傭兵団『百鬼夜行』の副団長をさせてもらっているユキオだ」
「あ、えっと、眠らずの魔導師さん?」
「そうそう、グレン団長だねぇ」
俺が今のところは攻撃不可対象と思ってか、普通に話しかけてくるユキオさん。
何気なく会話をしているが、その間に弓矢は晃夜たちに放たれている。
「心配しても無駄だよぉ。正面からの弓を防ぐのに手いっぱいで、横からの射撃は被弾していくから、こちらに辿り着く頃にHPも半分以下になっているだろうし、あとはボクの魔法でカチンだ」
勝ち誇った笑みを浮かべるユキオさん。
「キミ、どうやら『百騎夜行』には所属していないようだね?」
「……はい」
「ボクたちはね、キミみたいなLv3の初心者さんをいじめるつもりは毛頭ないんだ。どうかなぁ、この戦闘の後にでもウチの傭兵団に入団してみては?」
まさかの戦闘中に勧誘。
「うちに入団すれば、レべリングとか手伝うし、すぐに強くなれるよぉ?」
「…………」
美味しいお誘いだが、晃夜や夕輝と敵対している傭兵団に入るつもりは毛頭ない。
「まぁ悩むことも美徳だねぇ。ボクらの強さを見て参考にするといいよっと、そろそろかなぁ?」
余裕綽々で構えるユキオくんを前に、弓攻撃によって満身創痍な晃夜と夕輝、シズクさんがようやくたどり着いた。
「それにしても団長の言う通り、キミは美しいね。まるでほら、この『氷雪を育む杖』と同じぐらい、いやそれ以上に美しい」
そう言って、ユキオさんは装備している自分の杖を見せてくる。
真っ白な杖の先端には、氷で生成された花の造形が施されており、確かに美しい。
「キミの大事なモノはなんだい?」
PTメンバーのHPバーをチラリと確認する。
夕輝 HP216/410。
晃夜 HP88/230。
シズク HP15/140。
「仲間、ですかね……」
「あはぁ、それじゃあ大事なモノを奪っちゃうことになるねぇ」
下卑た表情で、俺を舐めまわすように眺めてくるユキオさん。
「でも、その前にキミの仲間がボクらを攻撃してきた瞬間、ボクがキミ自身の命を奪っちゃうのかもなぁ」
「いいですよ、俺は死んで」
俺はにっこりとユキオに笑みを飛ばす。
死を覚悟した俺を見たユキオさんは、嗜虐の笑みを浮かべ、晃夜たちへと振り向き詠唱態勢に入った。
「凍結せし連結の楔を「そんな、わけないです」
サクッと詠唱中のユキオさんを背後から小太刀で突き刺す。
ブラフ。死んでいいわけがない。
【諌めの宵】の刀身は、ユキオの薄い胸板を貫通し、夕輝たちにその刃先を覗かせているだろう。
「んなっ」
ビックリしたユキオさんは詠唱を中断してしまった。
Lv3という低火力が、自らの安全マージンを放棄して攻撃を仕掛けるという選択肢を選ぶとは予想外だったようだ。
PvPに慣れきってるがゆえの油断。思い込み。
「ごめんなさい、仲間のためなんです。それとユウ! 使って!」
ユキオさんが動揺した隙に夕輝に結晶ポーションの使用を促す。彼が『結晶ポーション』を砕くと、近くにいる晃夜、シズクちゃん、夕輝のHPとMPがグッと回復する。
「全員が同時に回復だと!? この一瞬で!?」
狼狽を見逃さなかった晃夜は『飛翔脚』を発動し、一気にユキオさんとの距離を詰める。
接近戦へと持ちこもうとする晃夜を仕留めるために、お付きの弓使い二名は矢を放つ。
「くっ」
二本の矢を受けた晃夜は、空中でバランスを崩し、着地に失敗しつつも横転しながらユキオさんの真正面についた。
矢が命中する前に結晶ポーションをつかっておいたおかげで、晃夜のHP全損はなんとか免れたようだ。
「や、刃となりてっ」
慌てて詠唱しようとするユキオさんに向かって、晃夜はアビリティを発動する。
「吹雪け、「『二連桜華』!」
二対の拳がユキオさんの片頬とお腹を激しく打ち付けた。
またもや詠唱途中でつぶされたユキオさんは、舞い落ちる桜のように、よろよろとへたりこむ。
矢を放ち終わった二人の射手には、シズクさんが発動したであろう、水の拳が被弾していた。
夕輝は左右から放たれる弓矢からシズクさんを守っている。
「『六花の道』」
更に六連撃の拳をおみまいされたユキオさん。
「くうっ」
晃夜の『二連桜華』と『六花の道』を受けて、HPがまだわずかに残っているユキオさんは、ゆっくりと後ろへ倒れゆく。
そう、小太刀を構える俺の足元に。
「えいっ」
額にプスっと、地面に突き刺てるように俺はトドメをさした。
:ユキオLv11のキルを確認:
:ユキオより『氷雪を育む杖』がドロップしました:
あ。
さっき自慢してた装備が手に入った。
「大事なモノ、奪っちゃいました」
キャラが消えゆくユキオさんに、申し訳なさげに微笑んでおく。
「ぐっユキオさん! ちきしょう、調子に乗るなよ、騎士気取りめ!」
シズクさんのウォータースプラッシュを受けて倒れていた弓使いの一人が、即座に晃夜を狙い打つ。
晃夜のHPは先ほどの二射を受けて、121へと減少していた。
さらに一撃を腕に受け、62へと削れる。
すぐさま、『翡翠の涙』を晃夜に使用。
ぐっと彼のHPはまんたんに全快する。
「なっ、どこに回復役の魔法使いがいるんだっ」
「さっきから、詠唱にしたって早すぎるだろ!?」
晃夜が回復するのを、驚愕の視線で見送る残された弓使いたち。
回復がポーションによってもたらされたという解答がでてこないのが不満だったので、俺はわざと『翡翠の涙』を新たに取り出し、ぷらぷらとビンごと揺らしてみせる。
「なっ、あんな高級品をぽんぽんと使っていたのか!?」
「おい、よそ見してるヒマがあるのか?」
素早い動きでパンチをかましていく晃夜。弓使いは接近戦ということで、サーベルを引き抜いて応戦し始めるが、晃夜はするりと剣撃をかわしては確実に一撃一撃を相手の懐に放り込んでいる。
「ふっ、終わりだ」
無駄にかっこつけるメガネ。
中学時代からリアルの方も喧嘩が強いと感心してはいたが、ここでもその動きは寸分違わず活かされていた。
二対一の状況にも拘わらず、晃夜は一人を仕留めキル。
:ぼびろんちょLv7のキルを確認:
残るはムキムキ兄Lv9と、絶え間なく夕輝やシズクさんを遠方から狙撃してくる二名のみ。
「ぐっ、この、うおおっ筋肉こそが力! 筋肉こそが神!」
ムキムキ兄Lv9は晃夜と交戦している隙に、シズクさんが完成させた火球の魔法によって撃破された。
:ムキムキ兄Lv9のキルを確認:
「タロっ」
「タロちゃんっ」
「タロ、お前やるなぁ!」
近くの敵を全滅させると、三人はそろって俺の傍に寄ってくる。
俺を守るかのように囲んで、百騎夜行のメンバーはそれぞれの武器を構える。
「みんなこそ、さすが」
PvPという初めての体験による、緊張と興奮。
上気した頬をゆるめる。
どことなく、みんなも好戦的な笑みを浮かべていそうな雰囲気を感じる。
一心同体ってやつだ。
「……これ、楽しいね」
正直な感想を述べる。
「だろ?」
「くせになるかな?」
「みんなと協力、いいよね」
俺の感想に、それぞれが背を向けながら返す。
「それにしても、タロのポーション、すごいな」
「ありがとう、タロ」
「タロちゃんの作るアイテムがあれば、もしかして無敵だったり?」
「ふふふ。これぐらい錬金術士として普通さ」
「あ、普通人?」
う……つい、昔の口癖が。
「まぁまぁ、今回はタロのおかげでここまでの戦況にもっていけたし、いじるのは後でにしようか?」
「……結局、いじるんですか」
すねる俺に、三人は肩を揺らす。
「残るは二人だね! どうする、まだ戦闘を続行して、戦果ポイントを獲得させてくれるのかな!?」
そして、夕輝が相手を挑発するように大声で、敵に呼びかける。
「くそっ」
「今回は見逃してやる」
あきらかに負け犬の遠吠えのような台詞を、身をひそめながら吐きだす敵さん。
「おいおい、それはこっちの台詞だぜ?」
晃夜が余裕たっぷりに皮肉を言う。
「調子にのっていられるのも今のうちだな。何もお前らだけが襲撃を受けたわけじゃないんだ」
そう不吉な言葉を寄越してきた。
「どういうことだ?」
晃夜の質問には、しばらく待っても返答はこなかった。
どうやら、敵さんは撤収したようだ。
「今、うちの傭兵団でログインしてるメンバーといえば……」
「ゆらちーしかいないな……」
俺とPTを組むのは嫌だと言って、一人でレベルを上げに行った、ゆらちさんか……。
「コウ、ボクは戦果ポイントを確認してみる」
「と、とにかくフレンドメッセージで連絡とってみるね」
シズクちゃんは慌てながらゆらちさんへと通信を計る。
しばらくコクコク頷きながら、口パクで何かを喋っている仕草を見せるシズクちゃん。
フレンドメッセージって外部から観察するとこんな感じなんだ。
「戦果ポイントはこちらが+6。あちらが+1」
「ってことは、ゆらちーの奴、キルされたな」
夕輝と晃夜のやり取りを聞いて、俺は質問をしてみる。
「戦果ポイントってなに?」
「あぁ、タロにはまだ『戦争』に関する説明をしてなかったね」
「早い話が、戦果ポイントが高い方が『戦争』に勝利するんだ」
「ふぅん?」
「コウは要約しすぎだね」
「そうか?」
「『戦争』は宣戦布告された傭兵団が、ルールを選択することができるんだ。ルールは『敗残兵』と『殲滅戦』の二つあって、今回は『殲滅戦』をボクたちは選択しているんだよね」
うお、なんか名称的に徹底抗戦の空気がするな。
「『殲滅戦』での勝利条件は、先に戦果ポイントを100獲得した傭兵団が勝利するってルールなんだよね」
「ふむふむ。その戦果ポイントの取得条件って?」
「早い話が敵をキルしてポイントゲットだな」
「この『殲滅戦』の特徴は、戦闘時に傭兵数が少ない側が、一人あたりをキルした場合のポイントが高く、数の多い陣営はキルしても取得ポイントが少ないのが肝なんだ」
「早い話が、数のごり押しが非効率的になるってことだな」
「人数が力ってことには変わりないけど、『敗残兵』ルールより数の暴力で猛攻を受け、押し切られるといったことを防ぐことができるんだよね」
「だから、今回、こちらは4対5人と不利な状況下で戦闘をして、3人キルしたから、一人あたり2ポイント取得できたのかな」
とは言っても、人数差は一人と最小だったな。
レベル差も加味されるのだろうか?
「相手もあまりに多勢に無勢で戦闘を仕掛けてきても、キルした時のポイントが美味しくないからな」
「『殲滅戦』ルールの良いところは他にもあって、キル時の装備品ドロップ率が1%に下がるから、キルされてもそんなに損害を受けにくいんだ。だから、いくらでも戦闘、つまりPvP戦の経験を気軽に積みやすい仕様になっているってわけだね」
なるほど。
キルしたり、キルされる回数、戦闘の機会が多そうだから殲滅戦ってわけか。
「こちらのルールは長期戦になりがちだけどね」
「で、今はどっちが勝っているんだ?」
「我らが『百騎夜行』が28ポイント。あちらの『百鬼夜行』が52ポイントかな」
「おおう……」
「十人以上に囲まれて、集中砲火されたときもあったな……」
「うは」
人数の優位性が多少は制限されてるとはいえ、えげつない。
「あのときは3人がキルされたけど、相手の取得ポイントは1だったよなぁ」
ポイントは少ないが、それを繰り返していけば確実にあちらは勝利するだろう。数が優位に繋がるのは変わりないようだ。
「今回も相手は1ポイント取得している。だが、1キルで1ポイントってことは、1対1の戦闘だったのかもしれないな」
「ちなみに『戦争』で勝ったり、負けたりするとどうなるの?」
「みんな……ゆらちーが大変なことになってるっぽい」
フレンドメッセージを終えたシズクちゃんが会話に入ってくる。
「キルされたんだろ?」
「メイン武器がドロップしちゃったらしく、その武器を返してほしければ『百鬼夜行』に入団しろって迫られてるらしいの……」
マジか。
けっこう強引な勧誘もしてるんだな。
「おいおい……1%の確率を相手さんは引き当てちゃったのかよ」
「ゆらちーのメイン武器って言ったら、両手剣でも屈指のレア武器『大輪火斬』だったよね」
「うはぁーご愁傷様だな」
これっぽっちも相手の傭兵団に加入する心配をしていない二人。
「ゆらちさんが『百鬼夜行』に入隊するって可能性は?」
「ないね」
即答だった。
「早い話が、ゆらちーは兄貴のグレンが大っ嫌いなんだよな」
あぁ、ゆらちさんと『百鬼夜行』の団長グレンさんはリアルで兄妹なんだっけ。
「しっかし、武器を返してほしければ入団を条件ねぇ」
「また一悶着ありそうだなぁ」
「ゆらちは『大輪火斬』を大事にしてたもんね……」
ゆらちさんは感じが悪かったとはいえ、夕輝や晃夜の大事な傭兵団メンバーっぽいし、何とかしてあげられるのなら、してあげたいけど。
「ゆらちの『大輪火斬』への愛着、半端なかったもんなぁ」
武器に対する愛着か。
たしかに敵方の副団長ユキオくんも武器への愛着心とか強そうだったな。
あ。
「これ、交渉材料に使えたりする?」
俺はおもむろに、ユキオくんからドロップした『氷雪を育む杖』を取りだした。
「「「なんでそんなレア武器もってるの!?!?!? 」」」
『百騎夜行』三人の大声が森に響いた。